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守護像職人  作者: 猫松ぺ子
第1話 守護像職人の少女

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22/89

22.生誕100日目のパーティー①

「……ここまでする?」

 

 馬車が停まったのは、石造りの立派な邸宅の前だった。


 ジョージ爺の娘が嫁いだ家で、旦那はこの村の若き村長なのだとか。


 ジョージ爺の娘の嫁ぎ先なので、ある程度の邸宅だろうと予想はしていたし、そんな家で行われるパーティーだからそこそこの客人は集まるのだろうとは思っていたのだが。


「派手すぎ……」

 

 シオは室内の様子に辟易した。


 大勢の客人が思い思い歓談を楽しんでいる大広間には、「ジョン生誕100日祭」とデカデカと書かれた、生花の飾り付き横断幕が掲げられ、四方の壁は、ジョンとおぼしき乳児の肖像画で埋め尽くされている。


 こんなパーティー見たことがない。


 そもそもパーティーと呼んでよいのだろうか。横断幕には祭と書かれているし、孫崇拝の儀式でも始めるつもりだろうか。

 

 反吐が出そうな思いで部屋の奥に目を向けて、シオはさらに顔をゆがめた。


「これはなかなかですね」

 

 クロードも腕を組み、表情筋が死んだような顔でボソリとつぶやく。


 部屋の正面に置かれたテーブルには、塔のような5段重ねの巨大ケーキが載せられ、テーブルの奥にチラリと見える椅子は、玉座と見まがうゴテゴテの金の装飾が施されていた。隣に並べられているゆりかごは、これ以上ないほどレースがたっぷり使われているのが見て取れる。


 おそらく、玉座にはジョージ爺の娘が、ゆりかごの中には主役のジョンが収まるのだろう。今は席を外しているようだった。

 

 派手派手しさに目眩がしてくる。


 シオは生気が失われつつある目で隣を見ると、ミハルが怯えたように辺りを見回していた。


「うわぁ……夢に出てきそう……」

「やめてくださいミハル君。寝られなくなったらどうしてくれるんですか」

「……こんな夢見るくらいなら、寝ずに仕事してた方がマシかも」

 

 すでに悪夢を見ているような気分でいると、廊下からバタバタとこちらに近づいてくる荒々しい足音が聞こえてきた。


(もしかして)

 

 と思った直後、


「よく来たのう、新米職人!」


 腹の底に響くような声と共に、背後で勢いよく扉が開かれた。


「新米って呼ばないで」

 

 シオはムッとして声の主を振り返る。


 そこには立派な口髭と顎髭がひときわ目立つ、白髪をオールバックにしたジョージ爺が立っていた。


「独り立ちしてまだ1年ほどじゃろ?まだまだ新米じゃわ」

 

 上機嫌でニヤリと笑うジョージ爺は、赤のベストに紺のジャケットとパンツでめかし込んでいる。


 以前、店に来たときにも洒落た格好をしていたが、今回もこだわりがありそうだ。


 髭に半分隠れている蝶ネクタイが、紺地に小さな白いハート柄でアクセントになっている。


「ジョージ様、本日はお招きいただきありがとうございます」

 

 クロードが営業向きの笑顔を顔に貼り付け、ジョージ爺に向かって恭しく頭を垂れた。


 ジョージ爺は、そんなクロードをチラッと見ると、フン、と鼻を鳴らす。


「小姑と金魚の糞はついでじゃ、ついで。そなたらが来んと小娘も来んじゃろうからの」

 

 小姑呼ばわりされたクロードと、金魚の糞呼ばわりされたミハルの顔が同時に引きつる。 


 老紳士に見えてジョージ爺は毒舌だ。うっかりしていると、もらわなくてもよい傷を負うことになる。


「……お心遣い感謝いたします」

 

 一呼吸置いて丁寧に返したクロードはさすがだ。一方のミハルは、


「き、金魚の糞……」

 

 オウム返しにすると、がっくりと肩を落としてしまった。革のトランクを落とさないかとシオはヒヤヒヤする。


「して小娘よ」

 

 ジョージ爺はスッとシオに近づくと、声を潜めてシオに尋ねる。


「頼んでおったものはどこにおる?」


 シオの顔に緊張が走る。


(きた)

 

 シオはバスケットを持つ手にギュッと力を入れ、慎重に言葉を選ぶ。


 周りには招待客も集まっている。極力、ジョージ爺の機嫌を損ねさせずに告げなければ。

「22.生誕100日目のパーティー①」おわり。

生誕100日目のパーティーシリーズはちょっと長めになります!

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