21.迎え②
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こうして半ば拉致されるようにしてパーティーへ行く羽目になったのである。
パーティーは隣村の孫宅で行われるらしい。馬車だと1時間ほどで到着する距離だ。
「それで、なんで僕まで連れてこられたんですか?」
ミハルは恨みがましげに隣に座るクロードを見る。
「店を臨時休業にしたくないんだったら、僕を店番にしてくれれば良かったじゃないですか」
ミハルは居心地悪そうに首元をいじっている。リボンタイなんて普段はしないものを首に着けているせいで息苦しいらしい。
「今日は天気も良いし、絶好の洗濯日和なのに……」
ちぃ探しで洗濯物が大量に出て溜まってるし、と口を尖らせるミハルに、
「そうは言いますがねミハル君」
クロードは足を組み直すと、シオの横に積まれた革のトランクを一瞥した。
「運搬係は必要でしょう」
トランクの中には、守護像の元である奇石が入っている。石の大きさに合わせた仕切り付きの特製トランクで、奇石の買い付けなどで使っているものだ。
今日は工房から、手頃な大きさで、かつ、ジョージ爺が好みそうな色合いの奇石をクロードと共に選別し、詰めてきていた。
女性が1人で運ぶのに少々骨が折れるくらいの重さがある。馬車に積み込むときもミハルを使っていたが、どうやらその後の移動もミハルに頼むということらしい。
「私、肉体労働はしないことにしているので」
涼しい顔で言うクロードに、ミハルは嫌な顔をするどころか、なるほど、と手を叩いた。
「クロードさん、腕細いですもんね!トランク持ったら肩はずれちゃいそうだし!」
(また余計な一言を……)
ミハルの爆弾発言に、シオは異質な物を見るような目をミハルに向けた。
ただでさえジョージ爺のせいで予定が狂い、クロードの機嫌は良くないというのに正気だろうか。
確かに、クロードの指は細くて長いし、そこらの町娘より綺麗な手をしているが、それでも男だ。そんなにやわではないだろう。
チラッとクロードを見やれば、口元に黒い微笑を浮かべていた。
こういうとき、ミハルはとことん鈍くなる。
2人の変化に気がつくことなく、ミハルは不満げな顔から一転、明るい笑顔で、
「そういうことなら僕にお任せを!!」
と、力こぶをつくった腕をペシンと叩いて見せた。
「クロードさんを筋肉痛地獄に落とすわけにはいきませんから!!」
「そこまで軟弱ではありませんが」
クロードは一点の曇りもない輝かしい笑顔でミハルに向ける。
「肉体を酷使する作業は、今後全てミハル君にお願いしますね」
「あれ?僕、何か言わない方が良いこと言っちゃった……?」
冷や汗を掻いているミハルから、シオはそっと視線をそらした。
下手なことを言って矛先が自分に向いても困る。自分の発言は自分でどうにかしてもらおう。
それに、実のところ、今のシオには助け船を出す心の余裕なんてこれっぽっちもなかった。
こっちはこっちで、気合いを入れなければならないのだ。
パーティーに招かれながら、孫への贈り物である守護像を引き渡せないと言わなければいけないのだから。
代わりの守護像を造ることを提案するつもりで奇石を持ってきてはいるが、果たしてあの爺さんが納得してくれるだろうか。
窓の外を眺めれば、丘の上に浮かぶ村がすぐそばまで迫っていた。