第2話 『お前なんで垣根に突っ込んでんの?』
「どこ行ったんだよあのバカ王太子…」
あの後、変人王太子シリウスに見つかったヴェルガレータは「かわいこちゃん見っけぇえええええ!!!」と抵抗する間もなく担ぎ上げられ庭園を駆け回り、「降ろさんか馬鹿野郎!!!」と、公爵令嬢にあるまじき言葉遣いで怒鳴りつけながら暴れ回るも、犬猫がじゃれついてると言わんばかりに笑い飛ばされ、結局駆け付けた王宮騎士団総出のネズミ取りならぬ、王太子生け捕りに巻き込まれる羽目になった。
ヴェルガレータにとって、大変遺憾な主人公との出会いである。
精神に多大な傷が深く刻まれつつも、大きな怪我も無く、無事に公爵邸に帰りついたヴェルガレータだが、その後にも少女の苦難は続いた。
例の変人王太子と婚約が内定されることになったからである。
ヴェルガレータは卒倒しそうになった。
理由は色々とあるが、一番の理由がシリウスが希望したからだという。
曰く、『あんな可愛い子会ったことない!!思わず抱き締めたらかわいこちゃんもしがみついてきたし、もしかして俺達家族なんじゃない???』とかいう、どう考えても勘違いにも程がある戯れ言を宣ったらしい。
これを聞いて婚約を打診する国王陛下も国王陛下だし、それに答える公爵も公爵だし、肩に担ぎ上げ振り回すことは抱き締めるとは言わないし、ヴェルガレータがしがみついてきたのは振り落とされないための決死の行動だった事を弁明したいが、あの変人に説明するのは骨が折れそうだなとヴェルガレータは諦めた。
可哀想なヴェルガレータである。
公爵令嬢とはいえ、王族の打診を断ることなど出来ず、嫌々ながらヴェルガレータはシリウスの婚約者という地位を手に入れた。
ちなみに婚約内定後の顔合わせの際、「我が妹!俺のことはお兄ちゃんと呼ぶが良い!」と、傾国とまで言われる端正な顔をドヤらせてほざきやがったシリウスに、ヴェルガレータは容赦なく扇子を叩き込んだ。
効果はなかった。
変人王太子、と貴族平民関係なく評される我が婚約者を探しながら、ヴェルガレータは思いを馳せる。
(私なんであいつの婚約者やってんだろ…)
シリウスの婚約者になってから、ヴェルガレータの気の休まった事などない。
例えば、婚約お披露目パーティーでヴェルガレータ用と用意されていたドレスを着ようとしたり。
例えば、建国記念パーティーの会場で鶏、時々合鴨、所によりダチョウを放逐したり。
例えば、宰相閣下に向かって「今日は動機がハゲしいな」「宰相閣下にハゲまされました!」「宰相閣下!室内では帽子は被っちゃダメですよ!」と茶々を入れ、怒り狂った宰相閣下との追いかけっこをしたり。
例えば、悪夢の再来により、お茶会に参加している最中に担ぎ上げられ、せっかく頂いたお菓子のリバースカードをオープンしてしまったり。
例えば、各公爵家に提出するはずだった書類で折り紙、それもフェニックスという大作を作り上げたり。
例えば、宰相閣下に「閣下!これ俺が作った!着けてみて!」とワカメと昆布で作られた帽子(揶揄)を差し入れて、全然関係のないヴェルガレータが何故か巻き込まれ、身代わりとして正座させられたり。
このように一夜では語り尽くせないほどの数々の試練(シリウスの奇行に巻き込まれ)をくぐり抜けてきたヴェルガレータにとっては、今さらシリウスが王宮庭園で迷子になったというだけでは驚かない。慣れって怖い。
ヴェルガレータはある程度の事なら、何があっても動じないのである。
「やあベル!お日柄もよく、いい高跳び日和だな!!」
「お前なんで垣根に突っ込んでんの????」
ヴェルガレータは下半身しか見当たらないシリウスを見て思った。
前言撤回、動じるかもしれない、と。
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