表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/53

俺たちだけのカタチで

「うす」

「おお、おはよう」


 始業式の朝、何時の電車の何両目に乗るのかラインが来ていたので答えたら同じ電車につばさが乗ってきた。

 俺は学校まで3駅、つばさは2駅で、つばさは自転車で来る回数のが多いのに。

 つばさは俺が貸したマフラーをしていた。

 当然返して貰えるものだと思って今日俺はマフラーをしてきていない。それをじっと見たら、つばさはツン……とそっぽを向いた。

 え? 返してくれないの? それわりと気に入ってるんだけど。

 俺の表情を見て、さらにつばさはツーンと外を見た。

 俺はつばさの後ろの回ってマフラーの結び目に指を入れる。するとつばさはクルンと回転して俺の方をみて

「ヘンタイ」

 とニヤリと笑った。

 ヘンタイじゃない、返せよ!! 俺はわりと電車混んでいるのを良い事に背中にしがみついてツンツンと攻撃した。

「やっぱり変態じゃん」

 つばさはカバンで俺を遠ざけながら笑った。

 なんでつばさが俺に電車を聞いたのか分かった。一緒に通学したかったんだな。

 俺たちはふざけあいながら改札に向かった。


「あけおめ~!」


 振り向くと江崎が居た。同じ電車だったようだ。つばさは江崎に向かって

「今日暇? 俺たちとラーメン行かない?」

 と声を掛けた。江崎はキョトンとして

「田上から誘ってくれるなんて初めてじゃね? いくいく」

 と嬉しそうに言った。そしてその店が凛ねえ達にあった店だと知ると

「俺今日パンツ新品じゃないけど、大丈夫かな……」

 と真顔で言うので、カバンで殴ったら、つばさも背中を殴っていた。

 ほんと実の姉に対してやめてくれ!!


 放課後俺たちはラーメン屋に向かった。

 そしてつばさは二宮第一に転校することを江崎に告げた。ああ、ちゃんと友達には言うんだな……。俺はラーメンの汁を飲みながら思った。やはりこの店のニンニクは凄い。

「ほいサービス!」

 ねじり鉢巻きのおじさんがバニラアイスに黒蜜と黄な粉をかけたものを出してくれた。

 俺はうわ~いと受け取ったが、江崎は「そっか……」と呟いたままボンヤリしている。

 江崎とつばさは小学校の時からの付き合いだと聞いている。やはり長い友達が転校するのはショックに決まってる。

「江崎も事務所入るんだろ。同じように俺もやってみたいこと見つかったから」

「何?」

「料理」

「そっかー……へー……そっかー……うん、了解。先に言ってくれて嬉しかった」

 江崎は立て直してアイスを受け取って口に運んだ。そして続ける。

「俺も高校止めようかなって思ったんだ。ユーチューバーめっちゃ楽しいし、時間が無駄に感じて」

 ユーチューバーは動画を毎日UPするのが基本だし、編集とかロケとか無駄に時間がかかるし、ライブも増えてめっちゃ忙しそうではある。

「でもそれを止めてくれたのは次の事務所の社長なんだ。ダメだった時の保険をかけないで冒険するなって」

 ああ、それは信用できそうだ。俺はスプーンを舐めながら思った。

「田上の保険は、俺と春馬だからな。いつでも遊びに来いよ」

 なあ? と江崎は俺のほうを見た。やっぱりこいつ良いヤツなんじゃ……

「すいません、凛さんってこの店にどれくらいの頻度で来ます? いつもどれ食べます? なんなら凛さん来たらLINEしてくれませんか?」

 これさえ無ければいい奴だ……。俺は真顔で頷いた。

 その奥でつばさは淋しそうに微笑んでいた。

 俺は溶け始めてたアイスに横からスプーンを入れて奪う。

「泥棒」

 つばさは俺を睨む。

 食べないと溶けちゃうもんね~。

 ニンニクマックスのラーメンのあとのアイスは最高に美味しくて俺たちはラーメン汁とアイスを無限にキメた。

 やっぱりこの店はデートで来る店じゃない、男友だちと漫画雑誌読みながら来る店だと思った。

 男の服装をしているつばさと、友達の江崎と来られて良かった。



「一口ドーナツ? 良いわね」

 凛ねえは美桜ちゃんが書いてきた企画イラストを見てほほ笑んだ。

「桜を見ながら歩くことを考えると簡単に食べられるものが良いですよね」

 2月に入り、3月にあるお花見屋台の準備が始まった。毎年コーヒーとクッキー程度だったけど今年は美桜ちゃんが居る。

 美桜ちゃんのアイデアは一口大のドーナツを作ってその中に入れるクリームを色々変える……というものだった。

 イチゴクリームにチョコレート、餡子にジャムまで10種類程度。その場で簡単に詰められるし、小さいドーナツはインスタ映えもする。

「良いと思うわ。じゃあこれで班長さんに出すわね」

「はい!」

 美桜ちゃんは、ほっとした顔をした。そして俺に向かってピースサインをした。学校で一生懸命アイデアを考えてイラストを描いていたのを見ていたので俺も嬉しくなった。

 恐ろしく汚れてしまった制服はその日のうちに凛ねえが押し洗いして個人商店のクリーニングに出してくれたようで、綺麗になって戻ってきた。

「ていうか……NEW玲子さん、可愛いですね」

 美桜ちゃんは俺を見てくすっと笑った。ぐっ……。もう美桜ちゃんにバレたし女装しなくて良くね? と思ったのだが七々夏が大反対した。「春馬がバイトで女装しないなら、日常で女装させる」とか言い出して意味が分からない。なんで俺が普段の生活で女装しなきゃいけないのだ。

「そんなに長い髪の毛のウィッグあるんですね……」

 美桜ちゃんは俺のウィッグに触れた。髪の長さが尋常ではなく腰くらいまであるものだ。

「これめっちゃ重たいよ。良いね、美桜ちゃんはスッキリして……」

 美桜ちゃんは俺たちにバレたことを良いことに、いままで付けていたオカッパのウィッグを取り、素のつばさの髪型でランスに来るようになった。

 今までがオカッパだったので少し髪の毛を切りました……くらいで誰も疑ってない。

 なんで俺だけこんな重たいウィッグをつけて仕事をしなきゃいけないのだ。

 むー……とむくれていたら、美桜ちゃんがツイと俺のほうに寄ってきて

「この前は男の子デートしたじゃないですか。だから今度は美桜と玲子で女の子デートしませんか?」

 スイパラとかフルーツサンドのお店とか! そう言って微笑んだ。

 確かに。男として俺と、女として俺……両方楽しめるって考えたら玲子も悪くない気がしてきた。

「イチゴのフルーツサンド食べたい」

 俺が言うと

「お客さん良い所ありますよ?」

 と美桜ちゃんはポケットからスマホを取り出して大量のブックマークを見せてくれた。どれだけ行きたい場所があるんだよ……俺は苦笑した。




 そして三学期最後の登校日が来た。

 今日はつばさから「転校の手続きがあるから、先に行くね」と言われていた。

 最後の日だから一緒に登校したかったけど仕方ない。俺は1人で電車に乗った。

 最近はずっと一緒に登校してたから、居ないとめっちゃ淋しい。朝の電車は混むからつばさを守るように立っていたけど、一人だとどうでもいいや。

 俺は人ゴミに押されるように流れるように満員電車を泳いだ。前後ろからおっさん達のスーツに圧迫されて真っすぐ立つことも出来ない。

 つばさがいると辛くない所か「密着できる」と若干嬉しかったのに、まさに天と地、酷すぎる。


「田上転校するの?」


 教室につくと、数人のクラスメイトから聞かれた。さすがに噂になっているようだ。

 うちの学校は転入はそれなりにあるけれど、転校は少ない気がするから珍しいのだろう。

「二宮第一だって」

 俺が言うと斎藤はスマホですぐに検索してカッ……と目を開いた。

「共学!! あいつ不愛想だけど顔だけはキレイだから、わりとモテるんじゃね?」

 斎藤たちは笑いながら席に戻っていった。

 俺はため息をついた。

 最近の俺の恐怖はそれだ。

 野乃ちゃんと莉々ちゃんに「他の男子生徒とかどんな感じ?」とこっそりリサーチしたら写真を見せてくれたんだけど、みんなカッコイイんだよなあ~~。

 やっぱり男子校にいると女の子の目がないから気楽すぎて、暑いとすぐに服を脱ぎ捨てるし、美意識的が欠けている。

 私服で集まるとそりゃ恐ろしい集団……Gパンに青シャツ、Gパンに白Tシャツ……地味の塊だ。服なんて全部「母さんが買ってきた」なんて普通にある、というか俺も八割そうだ。

 江崎はオシャレかと思いきや、アイツは撮影もあってギャグTばかり着ている。ウケ狙いとかしてたら共学男子に勝てない!

 俺はからっぽの前の席を見る。

 つばさに見合う、似合う男で居たい。

 スマホを取り出して大学のサイトを開く。俺はなんとなく将来を考え始めていた。

 正直アレでもいいや~これもいいな~とふわふわしていたが、市役所で働く人を目指そうと思った。つまり公務員で試験とか大変なんだけど。

 俺は商店街が何より好きだし、町も好きだ。商店街で何かするときは常に市役所の人が来てくれるし、その中でも話しやすい人とそうじゃない人がいる。

 それにつばさはパティシエという職人の道に進むんだ。俺ががっつり安定してたほうが良くない? しょ、将来のために!!

 市役所で働くために……サイトを色々調べ始めたばかりだけど、近くに公務員に強い大学を見つけた。頑張れば……まあ行けそうだ。

 動機は不純だけど、人生の選択なんてそんなもんだろ!

 俺がスマホを見ていると、ざわ……と廊下の奥からどよめきが聞えている。

「春馬!」

 江崎が走りこんできた。何? 顔を上げた瞬間、紺色の制服、真っ白な襟……ふわりとスカートを揺らしてセーラー服のつばさが教室に入ってきた。


「?!?!」


 俺は素で手からスマホを落とした。

 二宮第一の制服を着たつばさが教室の一番前に立っている。

 驚きすぎて、教室の生徒全員ぽかんとしているし、なんなら廊下に隣のクラスの生徒たちが張り付いている。

 つばさはいつもの髪型なんだけど、二宮第一の制服は紺色のセーラー服に真っ白な襟は長め、そしてなにより膝くらいの長さのスカート、そして黒いストッキングを履いている。

 ぐっあ……予想をはるかに超えてめっちゃ可愛い。すげぇ似合う。俺はつばさから目が離せない。

 先生はえーと……と言いにくそうに口を開いた。

「先生も驚いたんだけど、田上つばさ君……違うか、田上つばささんは性転換病で、女の子……いや女性になって……いや女性だった……? 女性というか女子生徒……?」 

 先生は混乱しすぎて何を言っているのかよく分からない。

「いつなったの?!」

 斎藤が一番に口を開く。

「春くらい?」

 つばさは普通に答えた。おおおお……とクラスがどよめく。

「え? ずっとそのまま学校に居たの?」と質問がくると

「バレなかったでしょ?」

 つばさはほほ笑んだ。おおおおおお女の子だあああ……とクラスメイトは一歩前に出る。待て待て待てお前らつばさにこれ以上近づくなよ? 俺は全員紐で縛り付けたい感情を押さえつける。

 つばさは髪の毛を耳に掛けて顔を上げた。

「今日でこの学校をやめて二宮第一に転校します。理由は性転換病で女の子になったから……だけど、なによりパティシエを目指して料理を勉強したくなったから。自分の声が嫌いでクラスのみんなとそれほど関わってないけど、それでも楽しかった。ありがとうございました!」

 つばさは深々と頭を下げた。ぽかん……とした空気の中、パチパチと一番最初に手を叩いたのは江崎だった。

 俺たちも続いて拍手する。つばさはパッと顔を上げた。

 そして俺の方を見て大きな声を出した。


「春馬」

「?!」


 クラスメイトの視線がすべて俺のほうに向いたのが分かる。

 顔が一気に熱くなって俺はビクンと顔を上げた。


「一緒に帰ろう?」


 つばさは俺に向かって手を伸ばした。

心臓が耳もとにあるように大きな音をたてている。

 俺はトタン……と立ち上がった。

 つばさがほほ笑む。

 その瞬間うおおおおお……!! とクラスメイト全員が俺のほうに飛びついてきた。そして頭とか肩とか体中を殴ってくる。痛いなんなんだ何も見えない!

「お前いつから気が付いてたんだよ」

「まさか仲いいと思ったらイチャイチャしてたのか、学校で! この神聖な男子校で!!!」

「お前らめっちゃ仲良かったよな、ズルいだろ、あんな可愛い子独り占めなんて!! なんで黙ってたなんで黙ってた」

「俺たちが知らないと思ってエンジョイしてたのかよ?!」

 ああああ……こんなにたくさん一気に話しかけられても何も分からないというか、話しかけられてるというより完全に罵られてる。

 


「春馬、来い!」



 つばさの声が聞える。

 俺は机の下をくぐってクラスメイトの山を抜けて前に出る。するとにっこりとほほ笑んだつばさが居た。

 俺はつばさに向かって手を伸ばした。冷たい手、つばさの手。

「あ、くそ待てよ!」

 クラスメイトたちが追ってくる気配……!

 俺とつばさは手を繋いで廊下に飛び出した。

 ひゅ~~!! と廊下のギャラリーたちがはやし立てる。俺たちはめっちゃ笑いながら廊下を駆け抜けて校内を走った。


 いつか俺が一人で寝ていたらつばさと江崎が来た弓道場に裏に俺たちはやってきた。

 二人ともめっちゃ息が上がって、はあはあ言いながら木の下に座り込んだ。

 横に座り込んだつばさはずっと笑っている。

 顔はいつも通りでメイクしてないんだけど、服装が違うだけで緊張してしまう。

 そもそもつばさは美桜ちゃんとして俺の前に居る時はスカート履いてたけど、つばさの時はズボンだけだった。

「なんで突然そんな……」

 俺はなんとか言った。つばさは座り込んだ状態でスカートを軽く持ち上げて

「可愛いだろ?」

 とは自信満々で言った。そうだよ、めっちゃ可愛いけど……

「俺にだけに見せてくれればいいのに!」

 と普通に叫んでしまった。つばさは、ごめんごめんと笑いながら俺の横にズルリと移動してきた。

「学校でキスってのをしてみたいなと思って?」

 そう言って俺の方を見て首を傾げた。えっ……?! と俺が口を開いた瞬間、スカートをひらりと持ち上げてつばさが俺の上にドスンと座った。えっ?!

 俺の太ももの上、スカートが俺のズボンの上で花のように広がって、太ももと膝は、黒いタイツが伸びて薄く肌が見ている。

「ちょっと、つばさ!」

 俺が叫ぶと上から腕を押さえつけてきた。

「したくないの?」

 そう言ってクスリと笑った。 俺はカチンときて、下から体を無理矢理動かしてつばさの唇にキスをした。

「?!?!」

 自分で煽ってきたくせに、一瞬で真っ赤になって俺の上からずり落ちた。てかタイツ履いてるからって油断するな。スカートでそういうことするなって言いたいんだ俺は!

 横に座ったつばさの冷たい手を握る。そして引き寄せて、俺はつばさにもう一度キスをした。

 こっそり、少しだけ目を開けてつばさを見ると、セーラー服を着たつばさが目を閉じて俺のキスに答えている。

 正直めっちゃ興奮して俺はキスをやめてつばさを抱きしめた。

 このままじゃキスじゃ止まらない。

 抱きしめられた状態でつばさはモゾモゾと顔を動かして俺のほうを見た。そして

「性転換病ってさ、セックスすると生理が始まって薬飲む必要がなくなるらしいぜ? 俺はそのほうが楽だけど」

 と言った。

「やめろおおおお……!!」

 俺はつばさから離れて膝を抱えた。

「俺はいいぜ?」

 つばさはニヤニヤしながら俺を覗き込む。そんなこと言ったって、本当にそうなったら真っ赤になって逃げ出す癖に!

 キスだってそうなんだから……俺はつばさのおでこにキスをした。そして

「まずは制服デート……お願いします」

 と言った。つばさはにっこり微笑んで

「仕方ないなあ」

 と立ち上がった。

 つばさが俺に向かって手を伸ばす。俺はその手を取って立ち上がった。

 そして手を繋いで歩き始めた。


 俺たちは俺たちだけのカタチで一緒に歩いて行こう。

 これからもずっと。

 冷たい指先を握って、そう思った。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

感想、評価共にお待ちしております。



また、アフターストーリーを書きました。

タイトルは

『女の子になった彼女が、俺のことを諦めない!』です。

ぐぐって頂けると出てくるかなと思います。


内容は、春馬とつばさが20才になった時の夏。

Hしたいつばさと、つばさの身体をことを思ってHしたくない春馬の攻防戦となっています。

つばさ視点と春馬視点が交互に出てくる話なので、本編では語られなかったつばさの語りがあります。

R18手前、R15程度のちょっとHでラブラブな二人が書けたと思いますので、ぜひ読んでみてください。

某所の読み放題プログラムの方はそのまま読めると思います。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。 良い物語をありがとうございました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ