表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/53

月夜が教えてくれたこと

「やめろ……やめろ……やめろおおおおお!!!」

「ん」

「ぎゃああああ……!!」

「田上お前許さねえ!」

「ひど過ぎる!!」


 パーティールームの一室、巨大なテレビ前で俺たちは絶叫した。

 俺は知っている、知ってるけどここまでなのか?! つばさはゲームが上手すぎる!!

 モリオカートでバナナを無限に貯めて一度も使う事なく、常にインを守り、アウトから入ってくる奴をブロックして、ゴールの手間でバナナをすべてまき散らした。

 必死に追っていた俺たちは無残に散る。

 つばさは

「はい、腹筋」

 とペタンコ座りをした状態で俺たちに向かってほほ笑んだ。

 酷い、モリオカートの悪魔、腹筋今日だけで150回してる、お腹が痛い。

 横の斎藤や峰内が、ぐほっ……ぐほっ……と腹筋をしながら「次こそは…次こそは……」と死んだような目で言ってるけど、絶対勝てないって!

 つばさはマシュマロ片手にチョコフォンデュに夢中になっている。無敵すぎる……!!

 結局俺は諦めてゲームの会から抜けたけど、その後も挑戦者は絶えず名乗りを上げて、全員つばさに敗れて腹筋していた。つばさダイエット部、発足!


 結局文化祭は俺たちのクラスの圧勝で終わった。

 朝の6時から江崎ガールたちが行列を作り、準備したカレーは午前中で無くなった。追加で作る時間もなくお湯にカレーを溶いて増やし続けた。

「全部戻せばいいだろ?」

 と何も考えずにモリモリ増やしたワカメちゃんが全て消えて俺たちの笑顔も消えた。もう疲れた。並ぶ客が学校から溢れて学校に苦情が入ったころ、80回カレーを食べた江崎ガールがコンプリート達成。

 江崎が祝福の写真を一緒に撮ろうとしたが、そのころ彼女は腹痛で保健室で寝込んでいた。もう江崎を餌にするのはやめよう……。餌として大きくなりすぎたんだ、アイツは……。

来年はチョコレート塗って銅像としてクラス前に飾ろうぜとチョコフォンデュ作りながら話し合った。

 出た利益は今年中に使い切るのがわが校のモットーらしく、江崎がド派手なパーティールームを借りてくれた。ホテルの屋上にあって外にはプール、中には巨大モニターでゲームが出来て、食事はバイキングで置いてある。


「田上が無双してるって?!」

「やる?」


 プールで浮き輪にダイブをして遊んでいた江崎がゲーム機の前に来た。

 つばさは家ではこんな感じなのだろうか。誰も挑戦してこないなら……と延々テトリスを積み上げているが、もう15分以上ミスなしだ。怖い……。

「ふふん、俺、有名なゲーム配信者様だぜ?」

 死屍累々の挑戦者たちを前に江崎は自信満々だ。俺は完全に傍観者。さっきからポテトを食べ続けている。カリカリしてて美味しいわ、これ。さすが高級ホテルのポテトは違う。

 クラスの八割が観戦に集まった所で、レースが始まった。

 でもまあ、勝負が始まって30秒で結末が見えた。

「田上お前、チートだろ?!」

「ん?」

 むしろ画面から目を離しているのに、つばさのドリフトは完全に江崎のルートをシャットアウトしている。そしてお約束のバナナをまき散らして、つばさは完全に勝利した。

「はい、腹筋」

「田上ぃぃぃぃ!!!」

 江崎は光のような速度で腹筋して、つばさに負けて……を繰り返して、結局200回以上腹筋して床で倒れた。江崎は永遠に気が付かないと思うけど、前も俺たちはつばさに瞬殺されてるんだよ別のゲームでね……。


 つばさに勝つことを諦めた江崎は一瞬奥に引っ込んで、突然タキシードで現れた。

 なんなの?! ノリノリじゃん。

 江崎に頼まれてリアルタイム配信を始めた。視聴者数がギュンギュンに上がっていくのがマジですげぇ……。

「今日できた新曲、歌います」

 江崎は部屋に置いてあったピアノで弾きながら歌い始めた。

 それはさっきまで腹筋してふざけていた男とは違って、高音も低音も幅広く使った見事なバラードで……って、これ凛ねえに対する失恋ソングじゃね……?

 内容は昔出会って唯一認めてくれた人が今も好きで、運命なんて関係ない的な歌だ。

 あんなに見事にスッキリとフラれたのに、まだ諦めてないんスか……?

 みんな感動して聞いているけど、俺はちょっと納得できない。

 チラリと横にいるつばさを見ると目を細めて口も引っ張って一文字。宇宙猫みたいな表情で俺の方を見ていた。

 やめろ、配信してるのに笑っちゃうじゃないか!



「完全に騒ぎ過ぎた。喉が痛い」

 金も儲けたし楽しもうぜパーティーは二時間で終了。別名つばさのゲーム無双の会だった気もするけど……。

 みんな江崎について「二次会だー!」と言っているが、俺とつばさはすっ……と集団から離れた。ここら辺に固いプリンの上にもったり山盛りの生クリームを乗せてくれる喫茶店を見つけたのだ。

 だから今日はパーティーが終わったら行こうぜとつばさと約束していた。

 俺はそれをめっちゃ楽しみにしていた。

 だって私服だし、帰りにデートっぽくできるじゃん。

 みんなが信号を渡っていくのを見て、そのまま俺たちは裏の細道に行く。

 バレてない……と思ったら

「うおおおおい春馬と田上、どこいくんだ!」

 反対側に渡った江崎が俺たちが離れたことに気が付いて叫ぶ。走って逃げるか?! と思ったけれど、つばさは立ち止った。江崎は次の青信号で戻ってきて

「二次会いかねえの?」

 と聞いた。俺たちはプリン食べて帰ると言ったら江崎は後ろを振り向いて

「二次会なし! 退散!!」

 と後ろに向かって叫んだ。他のクラスメイトは「えー?」と不満を垂れていたが、プリンどこ? と江崎は歩き始めあ。着いてくんのかよー!

 俺は明らかにイヤな顔をしたら「あ、その顔、凛さんにそっくり……」と江崎に言われて、まあ今日は愚痴を聞いてやるか……と思った。

 

 店につくと、すぐに江崎は俺の目の前で頭をさげた。

 見たことがない江崎の頭の一番上が見えるほど、丁寧に。

 ? 何だ?

 江崎はバッと顔を上げた。

「俺、凛さんのこと気になって、めっちゃ調べちゃったんだ。でも、凛さんがいる……お前の実家の喫茶店にはいかないって誓う。気を悪くしたらゴメン」

「あー……なるほど」

 たしかに何で先生のこと知ってたんだ? とは思ったけど、まあ……好きなら調べるよな。俺だって美桜ちゃんのこと気になって江崎に色々聞いたし……そう考えたら、江崎は俺の姉が好きなのに 俺に根掘り葉掘り聞かなくて偉いな。

「最後のチャンスだと思って告白したけど、ダメだったわ。マジあのくそセンコーのどこがいいの?」

 俺はぶはっと噴き出した。まあクソなのは超同意するけど、このまま言ったら悪口大会になる。それはきっと違うんだ。

 江崎は続ける。

「これで諦められると思ったんだけど、歌をあんなに素直に褒められると……諦めるはずが半日で新曲ができる始末。もうダメだ。諦めて弟になってくれ春馬」

「気持ち悪くて涙が出る」

 ちょっとでも見直した俺がバカだった。

 江崎は出てきたプリンを一口食べて

「俺さ、高校卒業したら、もうちょっと大きい事務所に入ること決まったんだ」

 と言った。

「おお、すげぇな。マジで芸能人ルートじゃん」

 俺は素直に祝福した。江崎ならきっと大丈夫だ。それに最近は学校周辺に出回るファンの女の子も増えてきたし、来年一年学校通うのがギリギリだと思う。

「卒業して事務所入ったら、報告に喫茶店に行ってもいいか?」

 江崎はスプーンを横に置いて、真っすぐ俺の方を見て言った。

 友達と姉が付き合うのはきつすぎるけど、その頑張りは応援したいと思う。

「良いけどさあ……俺はその場にいたくないから、来る前にラインくれ」

「おいおい弟よ、今のは感動的な所だぞ?」

「親切心で言ってるんだろ?!」

 俺たちはプリンを食べながら小声で言いあった。

 

 店の前で江崎と別れて、俺たちは駅に向かうことにした。もうかなり夜も遅い。

「こんなはずじゃなかったのに……」

 俺が言うと、つばさはツイと俺の手に触れた。そして裏通りに入り、手を握った。

「帰ろうぜ」

 と俺の方を見た。まあ、少しでも二人になれたらそれで嬉しい。

 俺たちは満月が照らす明るい夜道を、二人で手を繋いで歩き始めた。昨日ふった雨が地面に大きな水たまりを残している。つばさが右側を、俺が左側を。でも手は離さないまま、ゆっくりと歩いた。 俺たちの繋いだ手のシルエットが水たまりに落ちて、夜が広がる。

 ほわ……とつばさはマフラーをずらして白い息を吐いた。そして

「クリスマス、ごめんな」

 と言った。ああ、いいよ。俺は答えた。

 もう12月が見えてきたが、つばさから「クリスマス周辺は会えない」と謝られた。

 つばさ=美桜ちゃんはケーキ店でバイトしているので、12月は目が回るほど忙しいはずだ。冷凍できるケーキの制作はもう始まっていると思う。

「12月はコロッケ屋のバイトも時給がいいからさ。お互い働いて年末とか、年明けに会おうぜ」

 俺は少しずれたつばさのマフラーを後ろから直した。

 その手をつばさが掴む。

「……あのさ。前に言った付き合ってほしい場所……あれ、冬休みに一緒に行ってくれないか」

 俺はつばさの冷たい手を、温めるように、ゆっくりと握り返した。

「……わかった、いつでもいいよ」

「ありがとう」

 月夜の下、つばさは目を細めてほほ笑んだ。

 月明りはつばさの丸い頬をなだらかに、まるで大理石が内側から輝くように美しく見せる。風でふわりと動き出したマフラーは赤く、俺はそれを追った。

 きっともうその時がくる。


 その時までは、そう思っていたんだ。

 

「……え? 今なんて?」

 俺は久しぶりに入ったランスでバイト中、信じられないことを聞いた。

 リボンからケーキを納品に来ていた野乃ちゃん嬉しそうに言った。

「うちの学校の中途入学試験に美桜ちゃんが来てたんです。来年は一緒に製菓甲子園出られそうで、めっちゃ嬉しいんですよー!」


 中途入学?


 つばさ、まさか、うちの学校をやめて、転校するのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ