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秘密で一緒に


「1番ケチャップ、2番マヨネーズ、3番いり卵、4番裂けるチーズ……これ何番まであるんだ?」

 俺は手書きされたメモを読みあげながら、江崎に聞いた。

「50番まで」

 江崎は平然と答えた。

「マジ?」

「100行きたいけど、準備組から反対された」

「そりゃ無理だろ!」

 俺は叫んだ。

 江崎は100まであったほうが楽しいのになあ~とリストを見た。

 とりあえず俺の仕事はこれを看板にするデザインを考えることだけど、素材がネットに溢れる現代で良かった……。

「ネットで写真拾えば良い?」

 俺の前の席でつばさが聞く。

「頼む……」

 俺はため息をついてタブレットにフォルダを作って作業を開始した。


 10月のなかばになり、11月にある文化祭という名の「チキチキお金儲けしようぜ大会」の準備が始まった。うちの高校は外部の客をバンバン呼んでお金を儲けるタイプの文化祭を毎年している。私立ならではの派手さで俺も楽しみにしてる。しかし50枚の写真のマスクを抜いて看板作って……。デザインは俺ひとりなのでわりと大変だ。でも今年はつばさも一緒だし、楽しいのでは……

「著作権ありそうなのはアウトなんだよな?」

 作業しないでつばさの後ろ姿をぼんやり見ていたら、パッと振り向いたので俺は

「?! おう?!」

 と変な声を上げてしまった。つばさは目を細めて

「50枚もあるんだろ」

 と俺を睨んだ。でも口元はニンマリしていて……俺は「ごめん、集中する」とタブレットに向かった。制服着てない時は手を繋いでくるのに、学校でこの距離感……正直隠れて付き合ってるみたいで嬉しいです!

 

 写真のマスクをどんどん抜きながらストック。でも一番最初にキメちゃいたいのはお店のロゴだ。全部で使うし、看板は巨大サイズだから特注するはず。

「全種類制覇せよ! トッピングカレーでBINGO!……でいいのか?」

 俺は紙に店の名前を走り書きする。

 どうやら今年はノーマルカレーを準備。そこに50種類のトッピングを内容明かさず並べて客に当てさせるらしい。

 俺はトッピングの内容は関わってなくて、今はじめて見たんだけど

「10番から20番のジャムシリーズがキツイ」

「うん……」

 俺が呟くと、前の席のつばさも頷いた。

「イチゴジャムから、杏子に、ブルーベリー……ピーナッツ……ここに32番のキムチとか入って見ろよ……」

 なんだそれカレーかよ……。想像するだけで気持ち悪い。

 でも全部当てたら江崎の単独ライブにご招待らしく、たぶん色んな所から客が殺到するんだろうな。毎回倍率がすごいらしいし。

正直江崎がいるうちのクラスは無双が決定してるので、あまり食べたく無さそうなものをチョイスしてる所もある。去年もルーレットドリンクにして、ヤバいもの混ぜまくったけど、景品の江崎とツーショット目当てに完全勝利した。

今年はそれを上回るライブご招待だから、去年の500以上出るかも。

 食べ物廃棄厳禁で、超ミニサイズで準備して教室内で食べきりとはいえ、かなりの量を作ることになる。まあ俺はランスの縁日で慣れてはいるけど、正直縁日よりうちの学校の文化祭のが客が多いと思う。


「明日、凛さんが持ってくるの?」


 マスクを抜いていると俺の視界にグイグイと江崎が入ってくる。

 俺は手でそれを追い払いながら「そうだと思うよ」と答えた。

 去年もうちの店の備品を貸したし、今年も大なべを貸してほしいと言われて凛ねえに頼んだ。

 江崎に店を知られたくないので「凛ねえは飲食系の店長」くらいしか伝えてないけど、今年も飲食店にしたのは凛ねえを呼び出したかったからでは……? と俺は思っている。

「凛さんに会いたいなー。元気?」

 江崎はチョークを持って黒板に必要な仕事一覧を書きながら俺に聞いた。

 実の姉に会いたいと言われる弟の気持ちを考えてほしい所だけど、まあモテる男は全ての女に声をかけるものだろうと思っておく。

「別に普通」

 と適当に答えた。それ以外にどう答えろと……?

そして前の席に座っているつばさに「イチゴジャムの写真は著作権ヤバそう……」と話しかけた。つばさはクリンと振り向いて

「こっちは?」

 とスマホの画面を見せた。

 そこにイチゴジャムの写真は無くて『お腹空いたから、かえりにプリン食べて帰ろう? 固いプリンの店見つけた』とメモ帳に書いてあった。そして俺の方を見て

「これは、どう?」

 といたずらっ子のような顔で目を細めてほほ笑んだ。

 俺は顔がカッと熱くなり、掌でパタパタ風を送りながら

「それは名案だわ」

 と答えた。こういう二人だけの秘密みたいなの、めちゃくちゃドキドキする。

「あのさあ」

 気が付いたら江崎が俺の横に移動してきてて、俺は漫画のようにビクッとしてしまった。何?! と聞いて画面に戻る。つばさも振り向いた身体を戻した。

「凛さんの働いてる店って、チェーン店? 全国どこでもある?」

 ? なんで江崎がそんなこと気にするのか分からないが、うちはチェーン店などではない。違うけど? と写真をトリミングしながら答えた。

「ふーん……」

 江崎はそれだけ言って、今日は帰る! 明日よろしくな! と言って消えていった。

 江崎が去った教室で、前の席のつばさがスススと振り向いた。

「いっちゃう?」

「行っちゃいますか」

 俺たちはタブレットの電源を落として教室を出た。作業は明日にして~レッツプリン~!



「レンジで何分?」

 俺は切った玉ねぎを皿に並べた。

「かけた?」

 つばさはオリーブオイルを持ち上げた。かけてない。俺はそれを受け取って玉ねぎに少しかけた。そしてつばさの顔を見ると、んーんと首を振った。もっと? 俺はドババとかけた。つばさはオッケーと頷いて

「レンジで500w5分」

 とラップを渡してきた。そんなに長く回すんだ! というか、カレーを作る時に玉ねぎは延々と炒めるものだと思ってたけど、電子レンジでいけるんだな。

 つばさ=美桜ちゃんはお菓子作りが好きだから、今日の試作作りはめっちゃ楽しそうにしている。いつも通り口数は少ないけれど、きびきび動いてて、嬉しそうにしてるのが分かる。

 次は肉なんだけど……家庭科室の包丁、全く切れなくね?

 俺は渡された肉をギリギリと刻んでいた。俺だってランスでスパゲッティ茹でるくらいはしている男だぜ!

「貸して」

 つばさがいつの間にか水に付けていた砥石を出して、包丁を研ぎ始めた。

 それは丁寧に、静かに、正確な音で。

 丁寧にはかったように均等に並ぶ指先、メトロノームのように正確な速度で動かされる包丁。

 俺と数人のクラスメイトはその繊細な動きを静かに見守った。

 姿勢もピシッ……としてて、キレイなんだ、動作が。

 ピーッと電子レンジが鳴った音で我に返った。

「簡単にしかしてないけど」

 と俺に洗って渡した。半信半疑でその包丁で切ってみたら信じられないくらいスパッと肉が切れた。

「やっば」

 俺はつばさの顔を見た。……が、つばさは砥石を横から見たまま

「これへこんでる。砥石の面なおししないと」

 と呟いていた。どこの料理人……?

 俺の視線に気が付いたのか

「バイト先の先輩に習ったんだ。楽しいよ」

 と他の包丁も砥ぎ始めた。教えてくれてるのは、きっとケーキ店リボンのパティシエさんだろう。店の台所の調理道具は、どれもピカピカに磨かれていた。

 料理道具を美しく保つことが大切なのは、素人の俺にも分かる。

 つばさはもう、料理人さんなんだな。俺は包丁を研ぐ姿を見ながら思った。

 ていうか、昨日プリン食べた時も、目の前の席に座ると思ってたら、普通の横の席に座ってきて、普通男子高校生が2人でプリン食べる時に横に並ぶか?! って思ったけど、笑顔が可愛くてどうでも良くなったし……、可愛くてカッコいいなんて、つばさはズルい。


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