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全然違う!!


 紗季子が誘われた大会は、わりと大規模なものだった。

 このゲームは年に二回ドームを貸し切って開くような大会がある。紗季子が誘われたのは、その前哨戦のような大会だった。

 今回イチゴくんが学校行事で出られないので、その代理として誘われたようだ。

というか、間違いなくクレープ食べてた時に紗季子が落ち込んでいた姿を見たから、田上から声をかけたんだろう。その優しさとカッコよさを俺は素直にすげえと思った。

 だって正直、あの四人と比べたら紗季子の実力はかなり劣る。

 でもきっと、田上が頼んだんだろうな……。正直本当に嬉しい、頑張って欲しい。

 紗季子を入れた練習が始まり、俺はレッキさんの配信を覗くことにした。

 基本的にリーダーはレッキさんで、動きのポイントを教えるようだ。

 戦略担当はゆっきーさんで全体マップの見方から、困った時の効果的な動きについて数回見ただけで的確にアドバイスしてて……この人すごいわ。ふたなりメイド喫茶とか言う人だと思えない。ゲームの理解度が違う。

 そしてウイングこと田上は、基本的に何も言わないけれど、サポート役に回っていた。紗季子がしそうなミスを事前に察知してヘルプに入ってデスを減らす。

 そうとう広い視界がないと難しいと思うけど、田上凄いな。

 練習は途中から非公開になったが、一回見ただけでこのチームが勝てていた理由が分かった。


「すごい大変……ゲームだと思って舐めてた……指にタコができた……」

 オムライスをもしゃー……と口に運びながら紗季子は呟いた。

「レッキさん所で練習見たけど、すごいな、あれは」

 俺はタブレットに絵を書きながら答えた。今日も紗季子は俺が作業してる店に勝手に突入してきてダラダラ話す。

「分かってるのに動けないし、一瞬判断遅いだけでデスになる。大丈夫かな……」

 大会まで三週間で、練習時間は限られている。紗季子は不安そうにオレンジジュースをカランと回した。

「でもさあ……」

 俺が紗季子を見て話しかけると、紗季子は窓の外をガン見して、すぐに机の下に顔を隠した。


 ん?


 よく見ると瀬戸がコロッケ屋に来ていた女の子と一緒に歩いている。

 うーん……瀬戸は興味なさそうだけど……うーん、女の子はめっちゃ笑顔だなー、なんだろうなあの二人、うーん……どうなんだろ。

 おえっ!!!

 横から制服の襟を掴まれた。目だけ動かしてみると鞄で顔を隠しながら紗季子が俺を睨んでいる。

「誰あれ」

「紗季子さん、苦しいです、俺もよく知らないんです」

「驚いてないね、見たの何度目?」

「二度目でございます」

 命の危機を感じるので敬語を使わせて頂いています。

「へえええ~~~~~~」

 紗季子は吐き捨てるように言って俺の襟をポイと離した。痛いです、暴力です。俺は紗季子が頼んでいたモンブランを横から勝手に食べた。いつもならすさまじい勢いで怒るのにカバンに隠れて二人を睨んだまま紗季子は何も言わない。じゃあ全部食べようモグモグ。

「……愚痴ってる暇あったら練習する」

 紗季子はカバンを抱えて店から出て行った。

 前の道を走っていくその表情は、野球で一番燃えていた頃の紗季子で、これは大丈夫なのでは? と俺はモンブランを食べ尽くした。



「田上、体調が悪いのか」

「すいません、ちょっと……」

 五時間目の授業中、机に突っ伏していた田上に先生が声をかけた。

 田上はここ数日暇さえあれば机に突っ伏して寝ている。そして今日はついにフラフラと保健室に消えていった。再開された授業を聞きながら思うけど……あれはゲームの練習が夜遅くまであるからだ。

 レッキさんのTwitterを見てると、かなり遅い時間に「練習おつかれー」とか書き込みがある。ちなみに田上は「大会に出ます。応援よろしく」とツイートしたきり、一度も呟いてない。なるほどシンプル。ゆっきーさんは毎日ユーチューブに動画をアップしていて、その内容は『勝ちたいならこう動け』的なもので、俺が見ても勉強になるので、チャンネル登録してしまったほどだ。まあたまに「メイドになりきりプレイしま~す!」とか混じってるけどね。


「すっごい大変らしいじゃん、紗季子。めっちゃ頑張って練習してるよ」

 江崎が荷物を片付けながら言った。

「だってあのチームに入れて貰えたんだぜ、頑張るだろ、普通に」

 俺も鞄を持った。お茶する? と聞いてきたが、断って保健室に行くことにした。

 だって田上の鞄がまだぶら下がったままだから。

 絶対まだ保健室で寝てるだろ。俺は田上の鞄を持って江崎に手を振った。

 

 保健室に入ると保健の石井先生がいない。というか、誰もいない。

 夕日が思いっきり入り、カーテンとベッドをオレンジ色に染めている。

 どこか窓が開いているのか、そよそよと気持ちよさそうにカーテンが揺れている。

 完全にカーテンが閉じているベッドがあるから、あそこで寝てるんだろ。

 俺はカーテンの外から

「おーい、田上。授業終わったぞ」

 と声をかけた。何の返答もない。うーん、深く寝てるのかな。

「おーい」

 ともう少し大きな声を出してみるが、返答なし。これは完全に寝てる。

 夕日に照らされて何となく寝てる人のシルエットが見える。少しだけ声を張って「田上―、授業終わったー」と声を掛けると「うーー……」と小さな声と共に体が動いた。これで起きただろ……と前のベッドに座って待ったが……聞こえてきたのはすやすやと寝息。もう一回寝てるんかーい。

「田上―!」

 俺は大声を出した。モゾリと動いた瞬間、カーテンと床の間に何か落ちてきた。

 それは蛇のように黒い……あれはズボンのベルト。そしてパサリと制服のズボン……?!

 てことは、田上は下半身パンツっ……?!

「あら、まだ田上くん寝てるの。ほら起きてーー」

 そこに戻ってきた保健医の石井先生がカーテンを無造作に掴んで、ザーーーっと開いた。

「あのっ……!!」

 俺が止めるより早くカーテンが開いて、そこには布団を抱えるように生足が出ていた。それは俺みたいにゴツい足じゃなくて細くて綺麗で、夕日が当たってオレンジ色に艶やかな太ももと……少し布が……!!

「っ……!!」

 俺はジャッ!! とカーテンを閉めた。

「んー……」

 カーテンの奥で田上が起きた声がする。

「田上くんー、授業終わったわよ、帰りなさいー」

 保険医は俺が再びカーテンを閉めたことなど気にせず、声をかけた。

「はーい……起きました……んーーーーーー!」

 田上が伸びをしてるシルエットが見える。そしてカーテンと床の間に手が伸びてきて、ズボンを取った。トスンとカーテンの隙間から降りてくる生足。その足の指先。そしてズボンを履く動作がシルエットで見えていて、カチャン……とベルトを締める音……。

心臓がバクバク言ってるのが分かる。落ち着け俺の心臓、こんなにバクバクしたら田上に聞こえちまう。震える声を落ち着かせて何とか声を出す。

「田上、鞄持ってきた。置いとくからな」

 俺はそれだけ言って保健室を飛び出した。顔が熱い。こんなの田上の前に出れやしない。

 廊下を早足で歩く。体中が心臓になったみたいに痛い。

 俺は胸元の服を掴んだ。

 分かってたけど、分かってたけど、田上は女の子なんだな。

 女なんて見慣れてるとか思ってたけど、全然違う。好きな女の子の……は、全然違う!!

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