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野良猫と甘えん坊


「正直、声が昔からイヤで。変じゃない? ものすごく高い」

 美桜ちゃんは喉に触れながら言う。

「え? そんなの僕のほうが高いよ……変かな……」

 イチゴくんはアイスのスプーンを口に入れたままうつ向いた。

「そうだよ、どっちの声が高いかって言われたら、100%イチゴくんだよ」

 レッキさんは結構飲んでいるが冷静に言った。

「でもイチゴくんは中学生だし、私は高校生だよ」

 美桜ちゃんが慌てて訂正する。

「そうか……一人称が私なのかっ……萌える……」

 いい加減ツッコミさえ面倒になったゆっきーはメンバーに無視され始めた。

 レッキさんは焼酎を一口飲み

「つばさ、実年齢公開してないだろ。正直、声は今も昔も変わらないよ。むしろ俺は声でつばさだって納得した」

 レッキさんの言葉に他の三人も頷く。

 むしろそこまで化粧されたら、本当に誰だか分からなかった! とも。

 美桜ちゃんは「そうかな」と自信なさげにほほ笑んだ。

 よく考えたら姿を表にほとんど出さなくて済むEスポーツは実力さえあれば性別も何も関係ない新しいジャンルなのかも知れない。



「今日は本当にありがとう」

 美桜ちゃんは三人に手を振った。

「また大会でようね、約束だよ!」

 とイチゴくんは自転車に跨って去っていった。

「次もメイド服でお願いします。ていうかはお店どこ? 指名する。オムライスに名前書いてくれる? チェキある?」

 と暗闇で眼鏡を光らせたゆっきーはレッキさんが「また連絡するわー」と引きずって行った。

 見えなくなるまで手を振って……美桜ちゃんは後ろに立っていた俺の横に、チョンと来た。

「すいませんでした、話の8割が分からなかったですよね」

 と頭を下げた。イヤ、面白かったよ、みんな面白い人たちだねと俺たちも歩き始めた。

「最初はひとりでプレイしてた私を誘ってくれたのは、レッキさんで。奥さんがプロゲーマーなんです」

「ええ?! レッキさん結婚してるの?!」

 俺は叫んだ。

「学生結婚されてて、素敵なご夫婦なんですよ。奥様は、うーん……とっても強い方です!」

 美桜ちゃんは言葉を選んで言った。レッキさんの大人ぶりは奥様(たぶん恐妻)がいらっしゃるからの余裕なのか。若いのにしっかりしてるなーと思ったんだ。

「ゆっきーは、オタクですけど、医学部に通ってるんですよ。大学ではあんなこと一言も言わないと思います。研究者なのかな? 私が見ても全く分からないような本を読んでるし、ゲームの分析力もすごいんですから!」

 あまりの衝撃に歩いてた足を止めてしまった。

 ただの変態ロリコンじゃない……だと……? 人が見掛けに寄らなさ過ぎて訳が分からない。

「イチゴくんは不登校だったんですけど、大会で優勝してから保健室登校始めたみたいで。今は普通に行ってるみたいです。それも含めて……すごく気になってたんですよね、チームのこと」

 美桜ちゃんは、だから今日は本当に良かったです……本当に……と何度も小さい声で言った。そして俺のほうをクルリと見て

「私、中に入ってバタバタできましたかね?」

 とほほ笑んだ。俺は

「凄かったよ、知ってる美桜ちゃんの中では一番暴れてた」

「中に入ってみるのって……大事ですね」

「中に入るのは必要だよ」

 俺たちが盛り上がって話している横を、カップルがすり抜けていく。


 ……ん?


 俺たちが立ってる場所は煌びやかな照明とデロンとカーテンが掛かって奥が見えなくてご休憩4800円で宿泊9800円……なるほどふーんカラオケにしてはお高いですね……ってよく見るとラブホの入り口だった!!

 俺たち二人で中に入るとか暴れるとか、ちょっと何を言ってるんだ状態だよ。

 美桜ちゃんも気が付いたみたいで、顔をくしゃくしゃにして噴き出した。

「ヤバい、行こ」

「はい」

 俺たちはずっと笑いながら駅まで走った。





「玲子さんの中身って小野寺春馬さんですよね」

「んんん?!」


 俺は潰し終わったジャガイモを落としそうになった。

「その反応……やっぱり。そっかあ、なるほど」

 と納得した雰囲気だったので

「ななななにを言ってるのかな?」

 誤魔化してみたけど、声が上擦っている。

 壁の裏側のベンチに座ってる美登利ちゃんがヒョイと顔を出す。

「この前お母さんとつばさとご飯に行ったんですけど、つばさ女の子の服装をしないんです。徐々に慣れてほしい……って言ってて。もうメイド服姿見られてるけどね、そこはよく分からないんですけど。それであれれ? って思ったんです。玲子さん『美桜ちゃんと圭子さんが会ってた』って言いましたよね。あれれれ? って」

 美登利ちゃんは俺をじーっと見る。

 俺はマッシャーを持ったまま動けない。


 アカーン……そうだった。


 俺が駅で見かけたのは田上と圭子さんだった。

 完全に動揺してすぐに美登利ちゃんに連絡してしまった。

 俺はマッシャーを置き、壁からススス……と顔を出して美登利ちゃんの顔色を伺う。

 美登利ちゃんは横に座りなさい、とベンチをトントンしてフウと息を吐いた。

「そうだと全部納得がいくんです。怪しいバイトを止めてくれたのも、引っ越し手伝ってくれるのも……全部」

「その通りでございます……」

 俺は横に力なく座った。ついにバレてしまった。 

 美登利ちゃんは俺の目の前に立った。怒られる?!……と思ったら、深く頭をさげた。

「いつもつばさを助けてくれて、ありがとう」そしてキュッと体をおこして「それに同じクラスなんでしょ、うれしい」と目を細めた。

 嘘をついてたのに、そんな……「こっちこそごめん、黙ってて……」と頭を下げた。

 俺は実家の喫茶店でバイトしてたら美桜ちゃんが来たことなど説明した。美登利ちゃんは頷きながら俺が買って渡したジュースを一口飲み

「一番気になるんだけど、つばさ学校で大丈夫なの?」

 と聞いてきた。それを言うなら

「田上はどうして男子校にそのまま居るの?」

 不思議だったんだ、病気になったのに転校しない理由が。

「ただ面倒なんだと思います」

 美登利ちゃんは苦笑した。そんな簡単な理由?!  俺は驚いた。

「学校ではほとんど話さないし、目立たないから大丈夫だって豪語してましたけど、どうですか?」

 目立つ目立たないで言ったら、目立たない。本当に心を許した人間としか話してないもん。

「そんなに話さないんだ! あの美桜が。へえ……小野寺さんとは、話します?」

「最近やっと会話が成り立つ感じ」

 俺は苦笑した。一緒にいても逃げられない所までは進化した気がする。



「そう、だって最近小野寺さんのこと気にしてますよ、つばさ」 



 その言葉に俺はガタンと立ち上がった。

「美登利ちゃん、カレーコロッケ食べる? 試作品なんだけど」

「え、食べたいです」

 俺は出来立てのカレーコロッケを賄賂に話を促した。

 美登利ちゃんはうーんサクサクしてて中にチーズ、めっちゃ美味しい……ひき肉多めな所がいいですね、うふ~と食べてるだけで話をしない。こらこら!

 俺の視線に気が付いたのか

「あ、たいしたことじゃないんですけど、小野寺さんの文句を家でよく聞きます。女とデレデレしてるとか、幼馴染って少女漫画か! 潰す! ……とか?」

 潰す?!?! それは……良いことなの、か、な??

「つばさ基本的に野良猫だから。ああでも玲子さんが同じクラスなんて安心。良かった。あ、カレーコロッケもう一つください」

 俺は何となく釈然としない気持ちを抱えながら、カレーコロッケを揚げた。

 でも。

 つばさの頭に黒い耳がニョコンとはえてシャー!!って言ってたら可愛いな……と思ったら何か許せた。

 顎の下に指をいれてチョンチョンしたら……つばさは一瞬で美桜ちゃんに変わって、真っ赤になるんだ。

 そんなの絶対可愛い。

 強気なつばさと可愛い美桜ちゃんが同居してるなんて、強すぎる。 


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