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久しぶりの出会い

「春馬、今日バイトないんだろ、カフェ寄ろうぜ」

「いいけど、奢り?」

「この子が奢ってくれるよ」


 昼下がりの学校。窓を背にぼんやりしていた俺に、江崎がスマホ画面を見せてきた。そこには女の子が笑顔でピースしている写真があった。ツインテールに真っ黒で大きい目、ちょっと日焼けした肌が健康的で……誰?

「俺、知らない人と飯食べるの面倒なんだけど」

 正直緊張するし、それなら喫茶店行って凛ねえの作ったチャーハン食べたい。

 実は大阪にいたおばあちゃんが特別養護老人ホームに入れることになり、お母さんが帰って来た。だから俺はお役御免なんだけど……美桜ちゃんがいるから週に一度くらいに減らした。その代わり『普通の春馬』としてコロッケ屋でたまにバイトしてる。正直コロッケ屋のがキツイんだけど! まあ美桜ちゃん一家が買いに来るのが嬉しくて続けてしまいそうだ……。

「この子さ、同じ事務所のユーチューバーなんだけど、春馬のこと知ってるみたいだぜ」

 江崎が言うので写真をもう一度見てみたが……

「いやこんな可愛い子知らないな」

 可愛い子と言った瞬間に、目の前でスマホいじっていた田上が俺と江崎のほうをツイと見て

「見せて」

 と言った。

「お、田上も興味ある? この子知ってる?」

「ゲーム配信みたことある」

「そうそう、ゲームとか映画の感想チャンネルとかやってる」

 ふーん、田上ゲーム配信とか見るんだ。そういえばゲーム好きだったなあ……。

「じゃ、17時にモフモフオムライスに集合」

 江崎は笑顔で相手にラインを送りながら、俺に言った。

 めんどくさいけど、凛ねえに結局チケットも渡さなかったし、たまには行ってやるか。



「やっぱり!」

「?!」


 学校から出ようとすると、校門に女の子が立っていた。

 そして俺を指さして「春馬じゃん!」と叫ぶ。

 真っ黒な髪の毛をツインテールに縛っていて、オレンジ色のメッシュした髪の毛? が混ざっている。アイメイクもバッチリしててまつ毛も植えてるのでは?? いやいや……こんな子知らないってば。

「紗季子だよ、藤原紗季子ふじわらさきこ

「ええーーー!!」

 俺は校門で叫んでしまった。周りにいた生徒たちが一斉に俺を見る。ごめん、ごめん……と紗季子の服を引っ張って自転車置き場に誘導する。

 改めてみると……

「紗季子、お前…………女みたいやん」

「ケツバットしたろ、ケツを出せ」

 紗季子は口を左側だけ持ち上げて上から俺を見下ろした。その表情されたら誰だかわかるんだよ! こんな化粧してツインテールしてインチキ制服みたいな服装したら、誰だか分からない。だって紗季子は小学校からの幼馴染だけど、低学年から中学までずっと野球をしていた野球ガールのはずだ。

「学校早く終わったから来ちゃった。ご飯いくんでしょ、いこ!」

 紗季子は短いスカートで自転車に跨る。

 でもなんていうか……どこにいった色気。

「頭にデッドボールでも当ったのか……大変だな人格に問題が……」

 俺はツインテールに挟まれているオレンジ色の髪の毛を引っ張った。これ抜けるの?

 小学校一年生からの知り合いなので、女と言う意識がない。

「抜ける抜ける!! 春馬これ高いんだからやめろよ!!」

「いや、むしろ抜くべき。なんだこれ、学校で先生に怒られるだろ」

「根本で混ぜてあるだけで、学校は普通の黒髪で行ってるよ! 家で着替えてきたの!!」

「えー……普通の制服で来いよ……」

 俺はポケットから自転車の鍵を出しながら言った。

「ういっす、学校来たの? やっぱ知り合いだ」

 江崎が自転車置き場にきた。

 知り合いも何も……と説明すると

「あー! だから野球の企画、一人でホームラン連発してたんだ」

「それ見たわ!」

 俺は手を叩いた。そうだ、この前江崎が出た企画の動画見たけど、事務所対抗野球大会してた。いつも動画でフザけてる江崎がちゃんと野球のユニフォーム着てそれがカッコイイってネットで見たわ。あの時場外ホームラン打ってたのが紗季子か。

「これこれ!」

 と江崎が動画の再生をはじめた。1-2で負けてた5回の裏、フォアボールを狙うピッチャーの球を強引に打ちにいって場外に……って

「紗季子これ、本気だしすぎて髪の毛グチャグチャじゃん。せっかく女装してんのに」

「女装じゃないよ、元からレディー!!」

 俺はもう笑いが止まらない。こんな50キロも出てないボール玉叩いて場外ホームラン。

 コメントもそこが一番入っていて、この動画で紗季子は人気急上昇中って、それでいいの?

「でさ、このユニフォームって、春馬が考えたって聞いたんだけど」

 俺が涙を浮かべて笑っていると紗季子が動画を一時停止した。江崎に頼まれて二つの球団の文字を作った。といってもフリーフォントを少しいじった程度なんだけど。

「私この球団ネタでウケたから、動画続けたくて、サムネとかキャラとか作れないかな」

「いいよ、書く書く」

 俺は一瞬で引き受けた。

「やったーー!」

 紗季子は助かる!とガッツポーズをした。江崎は「なんだよー、俺なんて100回くらい頼んで飯おごってやっと引き受けてくれたのにさっちゃんの依頼は受けるのかよー」と文句を言っているが、個人的に俺があの動画をもっと見たいだけだ。

 とりあえず飯行くならいこうぜ~と江崎に促されて、俺も自転車に跨った。


結局オムライス食べながら話し合って、なぜかバッティングセンターにも連れていかれた。撮影係まで強制されて、再び腹が減ってしまった。

 バット振ったのは小学校低学年以来だ。俺に野球の才能は無かった。

 時間を確認すると20時すぎ。

今日は水曜日だから遅くまでクッキー焼いてるはずだ。凛ねえの作るスペシャルチャーハンが食べたい。あるなら割れたクッキーも……。

「こんばんは」

「こん、ばん、は??」

 俺は喫茶店の入り口で固まった。今日はバイトじゃないはずの美桜ちゃんが台所で何か作業をしている。立ち込めているクッキーの焼けた匂い。

あぶない、入り口から入ったから良かったけど裏口から入るつもりだった。

春馬のままここに来るときは、お客さんじゃないと。

「遅くまでお仕事ですか」

 俺が話しかけても、美桜ちゃんはこっちを見ない。むしろ何か怒ってる……?

 次々とクッキーを型取って無言で並べてペタペタと卵を塗っていく。

 チラリと美桜ちゃんの隣にいる凛ねえのほうを見たら無言で小さく首をふられた。

 帰れってことね。

 俺はチャーハンを諦めて帰ることにした。七々夏秘蔵の冷凍チャーハンがあった気がする。

 途中で凛ねえからラインが入った。


「でれでれしてたらしいじゃん?」


 はああ??

 どうやら頼んでも無いのに美桜ちゃんがバイトに現れてクッキーを焼くのを手伝いたいと言い出したらしい。こりゃ変だと話を引き出してみると

「女子の髪の毛って、触ります?!」

 から始まって

「そもそも女の人で高校生ユーチューバーって……危機感どうなんですかね?」

 と続き

「偶然見かけたんですけどね。女の子とイチャイチャしてた小野寺さんを見かけただけなんですけどね、偶然なんですけど!」

 と偶然を連呼してたけど、学校で女の子とイチャついてたの? と凛ねえは楽しそうだ。

 駐輪場で騒いでたの見てたのか! うるさかったもんな……。あのあと数人の友達から「あれだれ?」ってラインきてた。

 俺は「会ったのは紗季子だよ」と説明した。凛ねえも紗季子のことはよく知っている。

「あー、さっちゃんね。じゃあ瀬戸くんもいるし、色恋皆無じゃない」と納得してくれた。

紗季子はコロッケの正式なバイト、瀬戸と幼馴染ゆえのアホみたいな付き合いを何年も続けている。だから本当に友達なんだけど……その前になんで俺が紗季子と会って美桜ちゃんが不機嫌になるんだ? 本当にユーチューバーが嫌い? いや動画見るって言ってた。

 はっ?! ……嫉妬?!

いやいや、玲子の中身が俺だって知らないじゃん。

 俺は美桜ちゃんの中身が田上だって知ってるけど。

はっ?! 田上が春馬である俺を好き?!

 いやいや、玲子が好きって本人が言ってたわ。

 俺はうん、無いわ……と何度も言いながら歩いて帰った。

 猛烈に悲しい。七々夏のシュークリームも食べることにしよう……。

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