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次の約束と共に


「あの、玲子さんの連絡先ってうかがってもよいですか?」

「いいよ!」


 俺は今日のために準備したスマホを取り出した。

 前に使っていたものだが、電池が持たない以外は普通に使えるので、格安回線を契約してきた。

 女の子っぽいアイコンに悩み、七々夏のを見たらケーキバイキングの写真だったので却下して、凛ねえのを見たら何十年も片思いしてる先生のタバコの空き箱で、気持ちが重すぎて却下した。

 俺にはそれ以外の女の知り合いがいなくて江崎のスマホ覗き込んだら、めっちゃ目が大きくなる写真アプリの女子たちが出てきて更に分からなくなった。

 もう猫でいい……。


「ふりふり~~っと。あ、猫ちゃんですね! 可愛い」

 美桜ちゃんは俺のアイコンをみてニッコリほほ笑んだ。

 そういえば美桜ちゃんの家には猫が居た。正解だ!

 交換で出てきた美桜ちゃんの名前は当然「田上つばさ」で、クラスLINEで見慣れたゲームのアイコンだった。

「あ、すいません本名なんですけど」

 美桜ちゃんが恐縮する。いや見慣れてます。言えないけどね。

「……このゲーム好きなの?」

 学校で無視された質問を玲子の状態で聞いてみることにした。すると

「美桜、誘えばいいじゃん」

 と、注文を終えた美登利ちゃんが後ろから声をかけてきた。

「玲子さん、このゲームするんですか?!」

 美桜ちゃんが目を輝かせる。

「ゲーム機は持ってるけど、あんまり上手じゃないかな……」

 シューティングゲームの一種なんだけど、ジャイロ操作が難しくてやってるけど超下手くそだ。

「もしよかったら、今度のフェス一緒にどうですか」

 美桜ちゃんがあまりに嬉しそうに言うので、俺は「いいよ」と頷いた。

 ラインに連絡しますね! と美桜ちゃんは嬉しそうに微笑んだ。


 

 グッズ販売のみ午前中で、イベント開始は昼過ぎなので、俺たちは先にパスタ屋にきていた。

 美桜ちゃんは頼んだカフェオレにポチャン、ポチャンと砂糖を追加している。

 ……追加しすぎじゃないか? 三つくらい角砂糖を入れてくるくると回している。

 俺があまりにガン見していたのが気になったのか

「あ、女の子になってから甘いものが美味しくて……いちばんおいしく感じるのが角砂糖なんですよね。なんならガリガリかじりたいくらいで……」

「味覚も変わったんだ」

「あ! お仕事の時は『私の味覚は変わったんだ』って意識しながらクリームとか作ってるので、大丈夫ですよ」

 美桜ちゃんは俺に向かってガッツポーズをした。

「美桜ちゃんは料理好きだよね」

「家でも夕ご飯は全部美桜が作ってくれるの。おいしいんだよー!」

 美登利ちゃんが口にトマトソースをつけたまま言う。こういう顔が見られるとちゃんと小学生って感じがして悪くない。大人っぽい顔を先にみてしまったから逆に新鮮だ。

 でも家で食事を作るのは全て美桜ちゃんの仕事なのか?

 あのおばあちゃんは同居してないってことかな。そんなのすごく大変なんじゃ……。

 俺は最近ほぼ毎日バイトに入ってるので、帰る前に凛ねえに残り物でご飯作ってもらってそれを夕食にしてるけど、たまに凛ねえも七々夏もいなくて自分で食事を準備することになる。

 でもさ、食事作るのって面倒じゃない?

 作ろうかなー、凛ねえが肉を焼けって言ってたな~って冷蔵庫の中を覗いて閉じて、コンビニ行って焼きそば買ってきちゃう。全然作る気にならない。

「食事作るの……大変じゃない?」

 そう聞くと

「食べてくれる人がいると楽しいですよ。それにこの前みたいに商店街で買って帰ることも増えました!」

 コロッケ最高でした! と美桜ちゃんは言う。

 そう、この前少し気になってたんだけど、美登利ちゃんと二人なのにコロッケを渡しすぎた気がする。

 コロッケ屋のおばちゃんも俺が女の子と居る知るとサービスしすぎて、10個くらい詰め込んでたけど、大丈夫だったかな。

「あの、多すぎなかったかな、コロッケ。すごい量持たせた気がするんだけど…」

「あ、いえ、全然、えっと、大丈夫です」

 美桜ちゃんは笑顔を作っているように見えた。

 ん? やっぱり多かったかな? と思ったら俺の横に座った美登利ちゃんがツンツンと肩を叩き小声で

「(次の日に持ち越しましたけど、めっちゃ嬉しそうに食べてましたよ。ただ太っちゃう~って嘆いてましたけど)」

 と教えてくれた。そっか、良かった。

 というか、美桜ちゃんはもっと太るべきだ。

 触れるたびに思うけど、痩せすぎている。

 商店街にはもっとおいしいお店が沢山あるから、許されるなら、またあんな風に二人で歩きたい。そう思ってチラリと美桜ちゃんのほうを見たら目があった。

「また今度……」

 と俺が言うと

「はい……ぜひ……」

 と美桜ちゃんも消え入るような声で言う。そこに美登利ちゃんが

「美登利も揚げたてコロッケ食べたいなー」

 とニヤニヤしながら顔を突っ込んでくる。

「お店にもきてね」

 美桜ちゃんは美登利ちゃんにしがみついた。



「あつ……」

 俺は駅から出てすぐにコンビニで水を買った。

 土曜の夜の電車は無駄に混んでいて、疲れてしまった。

 美桜ちゃんと連絡用のスマホにメッセージが届いている。もう家に帰ったみたいだ。

 美登利ちゃん曰く「ここからならタクシーのが楽に帰れる」と言って、二人はタクシーに乗って帰った。都内の真ん中は地下鉄こそ走ってるけど、抜け穴みたいな場所は結構多い。

 あの場所から確かにタクシーのほうが近いだろうな、と俺はもう一度水を飲んだ。

 メインスマホを開いてソーシャルネットワークを見ると江崎が打ち上げの様子を写メしていた。

「おつかれじゃん」

 俺はその写真をファボった。

 正直イベントは楽しかった。なんたって友達の江崎が、何万人もいる客の前で歌ってるのを見るんだ。なんか「えーー」というのが素直な反応だが、ちゃんと色んな所に手をふったり、先輩をたててボケたり、ちゃんとアイドルしてた。

 正直江崎は「俺はユーチューバーがしたいわけじゃなくて、歌を作ってご飯食べられる人生チョイス出来るのが、ユーチューバーぽい」らしく、アイドルに興味は無さそうだが、アイツは頭がいいから。

 美登利ちゃんも

「俺が俺が! って感じじゃないんですけど、一番有名な蘭上さんに信頼されてるのが江崎さんなんですよ。ほら、デビュー曲も江崎さんの曲なんです」

 と嬉しそうに動画見せてきた。

 まあそういう所は上手いよな。

 てか美桜ちゃんも江崎のことはよく知ってるはずだけど……横目で見たら苦笑してた。

 わかる!! 

 なんか、知り合いがアイドルしてるのって苦笑しかないよな。

 美登利ちゃんからお礼のラインが入り、俺はスタンプを返した。

 その直後に美桜ちゃんからもラインが入った。

『明日バイトが終わったらお茶しませんか? 駅の向こうに美味しい紅茶のお店があるんです』

 うおおおおおお……

『いこう!』

 俺は即返した。

 めっちゃ楽しみだ……!!


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