表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

プロローグ バー編

「部長のヤツ、許せんっ・・・! みんなの前で、怒鳴るなんて・・・」

一人の中年サラリーマンがカクテルを呑み、顔真っ赤でむにゃむにゃ愚痴を言った。

「女房も娘も最近冷たく出迎えたりと。それでも世間は俺の事を投げ出される運命・・・。はぁ、かわいそうな俺、もういっそ現実逃避して別の世界へ行きたいよ」

「へぇ、異世界に行きたいんだ。その夢、わたくしが実現しますよ」

「い・・・異世界なんて・・・誰だねお前は?」


話の途中で、中年ではあるものの、若々しいサラリーマンの男性が、緊張した面持ちで入店し、黒と名乗る男に近寄った。


「黒さん、わたくしは、決心いたしました! この世界を、おさらばしたいです・・・!」


「では、この鍵を」


黒は鍵を渡し、男にこう言った。


「念のためにもう一度言います。一度扉を開けたら二度と元の世界には戻れませんよ。これが最後の忠告です。後悔はしないでください」


と、危機感をあおっているのか分からないほどの低い声で忠告したが、彼はそう受け止めて、バーの奥にある異世界へ通じると言われている扉を鍵で開け、開けた瞬間、まばゆい光をあてながら、扉の向こうへと消えて行った。


「あの人は誰なんだ?」


「あなたと同じ悩みを持ったものです。この世界に生きることが耐えられなかったでしょう」


「扉の向こうは何だ?」


「それは私もはっきりはしていません。ただ、この先に人間界とは全く違う別世界が広がっているという噂です」


「それが、異世界ということなのか」


「聞くことによれば、そうかもしれませんよ。どうですか? あ・な・た・も」


「異世界へ通じる鍵なのか?」


「もちろんですとも。ただし、私と同行で行くことは原則として禁止です。行くか行くまいかは自分の判断で決めてください」


とっさに異世界へ通じる鍵を渡し、握りながらその世界に通じる扉の前に立った。

鍵を差し込もうとした瞬間、手の動きが止まった。あの言葉であった。


(二度と元の世界には戻れませんからね・・・)


そう、鍵を開けたら二度と戻れなくなる・・・


彼の頭の中には微笑ましくて優しい妻と娘が浮かんだ。


「どうしたんですか?」


男は鍵をカウンターに置き


「やっぱり、やめときます」


と黒に鍵を返した。その後真っ先に店の出口に向かい、会計カウンターで会計をしている際中、男は黒に向かって、


「うちには、女房と娘さんがいるから」


と言い、会計を済ますととっさに店を出て行った。


「そうですか。何か不安なことがあれば、また・・・」


「はあ、取り逃がしてしまいましたか・・・」


ふとため息をつくと、


「・・・しかし、彼は必ず戻ってきます。この鍵目当てにね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ