9.能力開放がされると
まぁ、落ち着け俺。
一服しよう。
「・・・ふぅ。」
落ち着くために煙草を1本吸い終える。
で、だ。
取り敢えずこの“開放状態:1(眷)”ってのはなんだ?
さっき色々文章出てきてたが、(眷)は眷属の眷だろう。
で、開放条件を満たしたってのは?
まさかエロいことすりゃ順次開放されてくのか・・・?
昨日から今日に掛けて行った特別なことなんて、それ位しか心当たりが無いのだが・・・。
んな馬鹿な。
・・・まぁ、いいか。
考えても分かんないことは後回しだ。
今すぐどうこうなる訳でも無し。
生活が落ち着いたら考えよう。
もしくは必要に迫られたら・・・だな、うん。
先ずは生活基盤を作らんとな。
ラノベあるあるの様に宿屋を拠点にするか、家を買うか・・・。
いや、いきなり最初の街で家を買うってのもなぁ。
あ、あれば借家って手もあるか。
取り敢えず冒険者ギルドに行って色々聞いたり調べたりしてみるか。
と、思考がそこまで至ったところで、立ち上がり、進路を一路冒険者ギルドへ。
記憶を頼りに冒険者ギルドへ向かうと、中に入った瞬間直ぐに声を掛けられた。
「あ、お待ちしてましたコウさんっ!!」
朝からギルドにいる冒険者の数もそれなりにいて喧騒もある中、ここまで届いた声の主は顔をやや青くした涙目のミリアルテ嬢である。
俺の姿を発見するや否や、カウンターの向こうで勢いよく立ち上がり、声を上げていた。
周囲の視線が俺に集まる。
あんな様子だと放って置く訳にも行かないので、ミリアルテ嬢のいるカウンターに歩み寄り声を掛けてみる。
「あ、おはようさんです。 どうしたの?」
「あの、突然なのですが・・・また、奥に来て頂いてよろしいでしょうか?」
「・・・また?」
「・・・はい」
「「・・・・・・」」
しばし見詰め合う俺とミリアルテ嬢。
なんか周りからもちょっと見られてる。
「オレ、昨日の昼間にアイツが奥に呼ばれてんの見たぜ」
「じゃぁアイツ二日続けて呼び出しなのか?」
「なにしたのよ」
「わかんねーけど、結構な時間出てこなかったみたいだぞ?」
「ふーん」
「連日呼び出しとか、そうそうねーよな?」
「でもミリアルテちゃんの顔見ると、何かやっちゃったんじゃないの?」
「連日の“裏行き”は、なんにしても可哀想にな・・・」
裏行きってなんだ?
あれ? 周りの反応が駄目なヤツを見る目になっている様な?
俺まだ一回も依頼受けてないのに! デビュー前から変なレッテル貼られそうなんですが。
「あー・・・うん。 奥、行こうか」
「その・・・すみません」
「うん・・・」
ミリアルテ嬢に先導されて、とぼとぼとギルド長の部屋へ向かうことになった。
部屋の前に着くと、ミリアルテ嬢が扉をノックする。
「ギルド長、コウさんがいらしたのでお連れしました」
「ご苦労様。 中に入って貰ってください」
「はい。 では、コウさんどうぞ」
促され入室する。
中に入ると、今日は既に応接セットに座って何か飲んでるオルナタさんが居た。
「おはようございます、コウくん。 先ずは座って紅茶はいかがですか?」
「おはようございます。 じゃあ、折角なんで頂きます」
「はい。 少し待って下さいね」
言いながらオルナタさんは自身の対面の席の前に伏せてあった二組のティーカップを反転させ、
そこに紅茶を注ぐ。
「どうぞ、お掛けになって?」
「失礼しまーす」
「失礼します」
一言断ってから、オルナタさんの向かいにミリアルテ嬢と並んで腰掛ける。
「朝からごめんなさいね。 1つ問題が起きてしまって・・・どうぞ」
「あ、いただきます・・・あつ、あ・・・うま。 問題・・ですか?」
淹れて貰った紅茶に口を付け、問い返す。
紅茶はアールグレイに似た風味と味で俺好みだった。
「ええ・・・ミリアルテさん」
片手を頬に添え、困り顔のオルナタさんがミリアルテ嬢に話を振る。
美人がやると絵になる仕草だなー。
なんて考えていると、横に座ったミリアルテ嬢が居住まいを正して口を開いた。
「あ、はい・・・。 コウさん、ごめんなさい!」
突如謝罪の言葉と共に勢いよくこちらに向かって頭を下げるミリアルテ嬢。
何についての謝罪なのか全く分からないので話を聞いてみる。
「えーと、何についての謝罪なのかな?」
「あ、すみません! そうですよね、いきなり謝られても分からないですよね」
「ちゃんと説明しないと、ね? コウくん、話を聞いてあげてくれる?」
「え? そりゃもちろん聞きますが・・・」
苦笑しながら宥めるオルナタさん。
ミリアルテ嬢の話はこんなものだった。
昨日のステータス開示の件から俺の担当になることになったミリアルテ嬢。
夜に家に帰ってからも今後の為と頭の整理の為、話の内容を紙に書き出してまとめていたそうな。
担当の冒険者の情報を整理し、個人ファイルのようなものを作るのは、勤勉な受付嬢は結構やっていることらしい。
今回知りえた俺の情報は今迄に類を見ないものだったらしく、その書き出した紙は通常1~2枚のところ、5枚に及んだとのこと。
俺がシンシアさん相手にハッスルしていた時にありがたいことである。
書き出し終えたミリアルテ嬢はそのまま寝て、早朝に起きてその紙を読み返していたところ、今日が休みだからとオールで飲んでいたらしい酔っ払った同僚の友人が突如訪問。
慌ててその紙を隠そうとしたところ、5枚の内の1枚であるスキルとそれに対する考察の様なものを書いていた部分を、その酔っ払いに一部見られてしまったらしい。
なんてこったい。
「・・・ちなみに、見られた内容ってどんなのだったのかな?」
「不幸中の幸いでユニークスキルの部分は見られてはいないのですが、医術や錬金術、算術などの部分を見られてしまいまして・・・」
あれ? そんくらいなら特段問題ない気がするのだが?
「その辺は見られても困るような内容じゃ無い気がするんだけど・・・?」
「いえ! 錬金術や医術の知識がある冒険者は貴重なんです! 遠征先でアイテムが尽きた時や、体調を崩したりするパーティーメンバーが出た場合に、街に帰ったりせずに対応できる訳ですから」
「そう聞くと、居れば便利なのはわかるが・・・」
「一度街に戻ることで時間がかかってしまい、期日内に依頼をこなせず、違約金等が発生する場合もあるんです。 そうなれば・・・」
「あー・・・、違約金は発生するし、治療費なんかも発生するしで泣きっ面に蜂になることもあるのか」
「酷い時は、そういった理由で借金奴隷になる方もいらっしゃいますから・・・」
「なるほどねぇ・・・」
「で、俺にどんなデメリットが生まれるのかな?」
「コウさんをしつこく勧誘する人や、利用しようとする人達が冒険者に限らず寄ってくる可能性があります」
「それは確かにデメリットだな」
確かに面倒臭そうだ。
まだ冒険者のやり方なんて知識や想像でしか知らないし、面倒事に巻き込まれたくは無いからな。
・・・ん? 待てよ? さっきの借金奴隷の話で思い出したが、昨日の《誓約魔法》のペナルティって・・・。
「それで、ですね・・・これを見てください」
言いながらミリアルテ嬢は胸元のタイを緩め、ブラウスのボタンを上からいくつか外すと、谷間を見せてきた。
「・・・ご立派なものをお持ちで」
「へ?」
「うん、素晴らしいと思うよ?」
「え・・・? あ! ちち違います! 左胸の上を見てくださいっ!」
乳違います? ああ、乳ではなく他の場所を見るのね。
顔を赤くしたミリアルテ嬢に言われ、改めて左胸の上を見ると、鎖骨の下の肌に薄っすらと赤いラインで何かの文様が描かれているのが分かった。
「これは?」
「その、奴隷紋です・・・」
「あー・・・」
これはアレか? 奴隷も眷属として扱われる的な?
そんで早朝に誓約魔法の禁に触れて奴隷紋出たミリアルテ嬢が俺の|奴隷(眷属)と認識されて
今朝の“能力開放”に至った・・・のか?
「と、言うことなのよコウくん・・・」
「こんなことになっていようとは、ぶっちゃけ予想外ですわ」
コイツはてぇへんだ。
さっきホールで見た顔もこれで納得できた。
そりゃ顔色も悪くなるし、涙目にもなるわな。
「つか、1日以内に禁を破られるとか予想外すぎるわ・・・」
「う・・・すみません」
「や、事故だってのも分かるから責める気は無いんだけどね?」
むしろ原因は他人の部屋に無断で入ってくる酔っ払いの方だろ。
「で、どうしようか・・・?」
「とりあえず、今は誓約魔法の効果で奴隷紋は仮契約状態となっています。
ですので、この奴隷紋に触れて魔力を流していただければ契約完了ということになりますから、そうして頂けると・・・」
「いいの?」
「はい。 半端な状態の奴隷紋は維持し続ける為に体力も魔力も吸い取られ続けてしまうので・・・」
「んー・・・、分かった。 了解。 じゃぁ、失礼して」
「お願いします・・・んっ」
「・・・はい。 これでいいかな?」
魔力を流した際に出たミリアルテ嬢の声がちょっと色っぽくてどきどきした。
ちなみに不可抗力で手が一部胸にも触れてしまったが、もっちりとした肌の感触と弾力が感じられて素晴らしかったことをここに記しておく。
「・・・はい。 これでわたしはコウさんの奴隷になりました。 よろしくお願いします、ご主人様」
「ああ、うん・・・」
ミリアルテ嬢のご主人様呼び、破壊力高いな。
こうして街に着いて1日で、俺は美人の奴隷をゲットした。
若くて美人が相手なんだ。 思考が一瞬桃色になったのは大目に見て頂きたいところである。
さて、これからどうしようか。
家も宿も無いのに奴隷を得ても、正直持て余してしまう。
「俺はミリアルテ嬢を、どう扱えばいいのかな?」
「えと、できれば優しくして頂けたら・・・」
ベッドの上でかな?
「・・・コウくん? 痛めつけたり、ペットのように扱ったりはしないで欲しいって意味だと思いますよ?」
あれ?顔に出てたかしら。
「ああ、そんな趣味はないので安心して。 酷いことをするつもりもないし」
エロいことはしたいんですけどね!
「それならよかったです・・・」
ほっとした顔のミリアルテ嬢。
「で、今後ミリアルテ嬢は――」
「あ、今後わたしのことはミリィとお呼びください、ご主人様」
素敵な笑顔で愛称を推奨された。
やっぱいいわこの子。
「ああ、うん、分かった。 じゃあ、ミリィは生活はどうするつもり?」
「今後はご主人様と共に出来ればと・・・奴隷紋の制約もありますし」
同棲生活か・・・夢が膨らむぜ。
「制約?」
「はい。 奴隷は主人からの特別な命令が無い限り、長時間離れて過ごせないんです」
「ああ、そうなんだ」
「ええ。 逃亡を防ぐ為らしいのですが・・・。 ただ、用事がある場合等は“特令”を使うことで一時的に離れて過ごせる様になるんです。 そういった場合を除いて、許可無く主人から長期・長距離意離れた奴隷はその時間と距離の分と比例して衰弱して行き、やがて死にます。」
怖っ! 奴隷紋の効果怖っ!!
でもまぁ、それくらいは出来ないと留守を任せて遠征とかできないもんな。
「なるほど。 ちなみに家はどうするつもり?」
「ご主人様の家に住まわせて欲しいのですが・・・」
同棲か。 やはり同棲しかないな。 しかし・・・。
「俺、家無いよ?」
「あ・・・!」
「そうですよねぇ。 コウくん、昨日マルレットに着たばかりですしね・・・」
「そうそう。 昨日は宿的な所に泊まったしね」
「うーん・・・、それでしたら、とりあえずの間、わたしの部屋に一緒に住みませんか?」
「ミリィの部屋?」
「はい。 わたし、アパートで一人暮らしをしているんです。 広くは無いのですが、それでよろしければ」
ミリィの部屋で一緒に暮らす・・・うん、イイネ!
「・・・是非お願いします!」
「あ、はい!」
笑顔で応えるミリィ。
ゲスいご主人様でごめんね。
それにしてもこの子、悲壮感とか何もないな。 これはこれで大丈夫なのか?
「ミリィはさ、いきなり昨日出会ったヤツの奴隷になって平気なのか?」
「・・・もちろん平気じゃありませんよ? ですが・・・」
「ですが?」
「昨日見せて頂いたステータスに、『称号:破の守護竜の友』と、ありました。 加護も大精霊様と守護竜様の2つの加護を持っていらっしゃいます。 悪い人には、こんなの得られないですよね」
「それはミリアルテさんの言う通りね。 私もそう思うわ」
「はい。 ですから平気じゃなくても大丈夫なんです。 それに、昨日《誓約魔法》を受け容れた時点で、その・・・色々と覚悟はしていましたから・・・」
少し頬を染め、目を逸らしながらそう言ってくれるミリィ。
俺の奴隷って状況を受け容れ過ぎな感じは多少気になるが、こんだけ可愛けりゃもうどうでもいいや!
俺は細かいことを考えるのを放棄した。
お読みいただいて、ありがとうございました。