7.金を手に入れると
結果、台座のスリットから出てきた紙にはこんな風に印字されていた。
『名前:コウ・アサギリ
種族:異世界人(人族?)
性別:男
【能力値】
Lv :89
体 力 :A+
魔力保有量:S
筋 力 :S
耐久力 :S
器 用 :A
敏 捷 :A
魔 力 :A
運 ;D
【適正】
戦士 :S
家庭教師 :C
商 人 :B
魔法使い :A
【スキル】
算 術 :B
錬金術 :C
料 理 :A
医 術 :C
魔 法 :S
ハチケンシ:EX
【称号/加護】
称 号 :異邦人、破の守護竜の友、竜と大精霊の飲み仲間
加 護 :空間と守護の大精霊の加護、破の守護竜の加護 』
・・・レベルと体力が微妙に上がってる。
これ以上要らないんだけど・・・。
「な、なんですかこれ・・・異世界人・・?」
「ふええぇ・・・レベル89!? Aランクのファナさんとディアさんでも50無いのに・・・!」
「いや、だから見せたくなかったって言うか・・・ねぇ?」
・・・その後色々と質問攻めにあった。
取り敢えずサクッと異世界人のことや今までのことなんかを2人に説明する。
・・・ステータスに関連することだし、話しても大丈夫だろ。
会話しながらも2人は俺の登録処理を進めてくれていた。
「はぁー・・・このご時勢にこんなステータスの人間がいるとは思いませんでした。
しかも、この称号と加護・・・大精霊と破の守護竜」
「あー、あの2人って有名なんですか?」
「有名ですよ! スペンス様は神殿に大きな像だってありますし、デトル・ガルディ様は大きな災厄を払って下さる伝承と共に、王城には大きな像が。 民間には子ども達に人気の絵本まであるんですから!」
「あの2人がねぇ・・・」
2人の像は理解できるが、デトの絵本か・・・ちょっと読んでみたいな。
それにさっきの言い方だと、過去には俺くらいのレベルの人もいたのかな?
「これは確かに、おいそれと見せたりは出来ないですわね・・・」
「ですよねー・・・」
「ちなみにですが、先程コウくんが念話をしていたお相手は?」
「ああ、やっぱりバレてましたか。 デト・・・デトル・ガルディですよ」
「ああ、やはり・・・」
「デトル・ガルディ様と念話!?」
「彼の方はなんと?」
「さっきの誓約魔法の提案と、それが同意されなかった場合は『我が何とかしよう』って言ってただけですよ」
別の国に連れてってくれるつもりだったのかな?
「「・・・・・・・・・」」
2人の顔が強張ってフリーズした。
「どうしました?」
「いえ・・・、なんでもありません」
それから10分程であろうか。
ぎこちなく書類仕事や部屋の隅の機械を弄っていた2人の動きが止まった。
「あ、出来ました! これがコウさんの冒険者証になります!」
と、ミリアルテ嬢が機械から出てきた物を見せてくれる。
それは鉄の札だった。
札のサイズは100円ライターサイズの厚さ2mm程度の薄いもの。
短い辺の片側に紐かなんかを通す輪が付いてる。
表面には、登録したギルドの地名と個人名。
裏面には、通常スキルや適正のある職業が書かれるとのことで、俺の場合は、適正職の欄に戦士と魔法使い。 スキルの欄には魔法と書かれることになった。
「おお、これが・・・」
「はい、これでコウさんも冒険者ですね!」
と、極上の笑顔で言ってくれ、札を手渡してくれるミリアルテ嬢。
天使か。 天使だな。 お持ち帰りしたい。
無論そんな考えはおくびにも出さずに礼を言う。
「ありがとう」
「いえいえ。 あ、冒険者という職業についての説明ですが――」
ここで聞いた説明はほぼ予想通りだったので割愛。
ランクはGから始まりSSまで(長いな)。
ただ、現代の最高ランクは世界に4人だけいるSランク。
SSはいないらしい。
一般にはDランクで一人前で、Cランクならベテラン扱いだそうだ。
そうそう、ランクによって札の材質もやはり変化するらしい。
低いGランクから順に
木→黒曜石→鉄→銅→銀→金→プラチナ→ミスリル→アダマンタイト、だそうだ。
で、俺は鉄だから下から三番目のEランクからスタートになる。
最下級にする訳にもいかず、一人前として扱うには経験が足りないのでこの処置とのこと。
ちなみに事情を知ったミリアルテ嬢が今後は担当になってくれるとのこと。
やったね。
依頼の受け方は担当の斡旋か、依頼票が貼り出されるボードから自分で選んで受注する。
依頼にはランク制限があったり違約金なんかの話もあったが、現状問題はなさそうだ。
「――さて、説明も終わったところで、この後はどうされるおつもりで?」
「普通に冒険者するつもりですが?」
「いえ、そうではなく、拠点などは・・・?」
「ああ、そうだった! 金貨の買取お願いします。 デトに貰ったそれ以外に手持ち無いんですよ!」
手持ちが無きゃ飯の食えなきゃ宿にも泊まれねぇ。
街の中まで入って野宿をするつもりは毛頭ない。
「あ、そうでしたね。 ミリアルテさん?」
「はい。 お預かりした金貨はこちらにあります!」
と、受付で預けた金貨をトレイごとオルナタさんの前へ。
「デトル様からの贈り物であれば本物でしょうけれども、ここまで状態の良い古代金貨は滅多にお目にかかれませんわね・・・」
金貨をつまみ上げ、しげしげと眺めるオルナタさん。 魔力が動いているから、鑑定でもしてるんだろう。
「はい、全て良質の本物ですね。 ええと、古代帝国金貨が1枚に、神王国のものが2枚、ロッシーニとカプラ王朝のものが1枚ずつで・・・合計で金貨2182枚での買取になりますが、よろしいでしょうか? あ、内訳も聞かれますか?」
2182枚!? すげーな。
働くのやめようかな・・・。
「あ、はい。 それでいいです。 内訳は結構です。」
「額が少々大きくなりますので、一部を大金貨にさせて頂いても?」
「ああ、むしろお願いします」
「ではその様に・・・ミリアルテさん」
「はい! 用意して参ります!」
ミリアルテ嬢はそう言って退室して行った。
「コウくん・・・」
「はい?」
「エルフはお嫌いですか・・・?」
「え・・・?」
どういう意味だろうか。
誘われているのだろうか。 え?ホントに? いけちゃう??
これはまさかの一晩の・・・!?
「先程から、コウくんの私を見る目がその・・・」
あ、いやらしかったですかね? ごめんなさい。
「その?」
「とても好意的では無い様な気がしまして・・・」
「・・・ああ、そりゃね? 誓約魔法の最中にあんな顔する人を警戒するなってのは・・・ね?」
「お気づきでしたか」
「たまたま目に入っただけなんですけどね」
「『故意である無しに関わらず』の言葉が無ければ、このステータスが開示された紙を、たまたま置き忘れたり、落としてしまったり出来たのですけどね・・・でも、お話を伺って、ステータスを見てその気は無くなりました」
そう苦笑しながら答えるオルナタさん。
「だって死にたくはありませんもの」と、最後にのたまった。
そんな物騒なヤツに見えるかね?俺
会話が途切れたところで、丁度ミリアルテ嬢が戻ってきた
「お待たせしました!」
「いえ、ご苦労様」
「いえいえ! ではコウさん、ご確認をお願いします」
言いながらトレイの上に硬貨を並べて積み上げていく。
トレイの上には大金貨が20枚、金貨が82枚載った。
そうそう、貨幣についてだが、大まかにこうなっているらしい。
白金貨→大金貨100枚分→金貨10000枚分
大金貨→金 貨100枚分
金 貨→大銀貨10枚分
大銀貨→銀 貨10枚分
銀 貨→大銅貨10枚分
大銅貨→銅 貨10枚分
日本円に直すと・・・
銅 貨10円
大銅貨100円
銀 貨1000円
大銀貨10000円 1万円
金 貨100000円 10万円
大金貨10000000円 1千万円
白金貨1000000000円 10億円
ぐらいみたいだ。
大金貨も白金貨も額がでか過ぎて庶民の俺には使い道がわかりません。
つまり俺は働かずして億万長者になった訳だ。
「はい、確かに」
「ありがとうございます。 あ、この袋はおまけですから、良かったら使ってください」
そう言って皮袋を2つ頂いた。
大金貨と金貨に分けて入れて、大金貨の皮袋は鞄の中に、金貨の皮袋は腰に下げておく。
元から下げていたデトから貰った方の金貨袋も鞄にインした。
「じゃあ、俺はこれで」
と言いながら立ち上がる。
「あ、わたし、出口まで送りますね」
「お、すまないね。 ありがとう」
「いえいえ! わたしも戻るついでですから」
「じゃ、お邪魔しましたー」
「失礼します、ギルド長」
オルナタさんにはそう声を掛けて退室する。
そしてそのまま裏手からギルド前までミリアルテ嬢に送って貰い、彼女にも別れを告げて、俺は街へと戻った。
ギルドを出ると、既に日が傾きかけていた。
しかし腹減った。
街の入場列に並ぶ前に軽く食ったきりだったから大分腹減った。
金も入ったし、どこか食堂にでも行ってみようか。
あと、金が入ったとはいえ物価も確認もしておかないとな。
考えながら通りを歩いていると、横道から美味そうな肉の焼ける匂いが漂ってきた。
匂いのする方を見てみると横道の奥に、軒下に皿の上でナイフとフォークが交差する絵の描かれた木の看板が下がっている建物が見えた。
「食堂・・・だよな? 行ってみるか」
目当ての看板の建物に着いた。
建物はこじんまりとした3階建てで、やや古そうなのに清潔感を感じる店だ。
どんあ料理を出すかや値段は表にメニューなんかが出てないから、入ってみなきゃ分からんか。
よしGOだ。
「いらっしゃいませー!」
店に入ると直ぐに中から元気な声が聴こえてきた。
待っていると少女が小走りに寄ってきた。
長い赤毛をポニーテールにした活発そうな茶色い瞳の少女だ。
特別美人って訳でもないが、愛嬌のあるタイプだ。
「お一人様ですか?」
「ああ、うん」
「では、あちらのカウンターの好きなところに座ってくださーい!」
そう言ってカウンターを指し示して少女は去っていった。
俺はカウンターまで行き、空いていた右端の席に着く。
端っこ好きなんだよ。 電車もバスも端の席に座りたい派なんだよ。
なんか落ち着くじゃん?
席に着くと先程の少女が戻ってきて水をくれる。
「お水どうぞ! あと、こちらメニューです!」
「ありがと」
「注文が決まったら呼んでくださいね!」
「はーい」
メニューを受け取り、水を飲みながら目を通す。
メニュー表はほぼA4サイズの薄めの木の板で、両面にメニューが焼印されている。
ふむ・・・一番安い定食で大銅貨1枚か。
・・・え!?100円で定食食えんの!?
一番高い定食は大銅貨5枚・・・高いのか安いのか分からん。
飲み物は果実水が銅貨3枚で、エールが大銅貨1枚。 ワインが大銅貨2枚か。
あ、主食はやっぱパンなのか。
黒パンが1つ銅貨1枚で、白パンは1つで銅貨5枚と書いてある。
黒パンとはやはり例の硬い黒パンなのだろうか。
お? 1つだけ高いメニューがある。
このグレートボアの厚切りステーキってのだけ銀貨1枚だ。
それでも1000円だもんな。
気分は肉だし、これにするか。
「すみませーん!」
手を上げて先程の少女を呼ぶ。
「はーい! ちょっと待っててくださーい!」
いい子なので言われたとおりに水飲みながらステイすること少々。
「お待たせしました! お決まりですか?」
「ああ、このグレートボアの厚切りステーキっていうのと、白パンを・・・白パンのサイズってどれくらい?」
「うちの白パンは、これくらいですよ!」
と、少女が手で表現してくれたのは、コンビニのカレーパンサイズだった。
「なるほど。 じゃぁ、白パン2つと、エール1杯で」
「かしこまりましたー! エールは直ぐに持ってきますね!」
笑顔で告げる少女を見送ると、直ぐに戻ってきた。
「はい、エールです!」
テーブルに載せられたのは、小型の樽に取っ手の付いた様な容器になみなみと注がれたエールだ。
サイズは正に中ジョッキって感じ。
「パンとステーキは一緒に出すので、少し待ってて下さい」
「了解」
早速エールに口を付けてみる。
これは・・・ぬるっ!!!!
そして美味くねぇ・・・。
冷えても無けりゃ雑味も凄い。
・・・そういや凍らせる魔法もあったっけ。
対象を持ってるジョッキ?の樽部分にして魔法を使用。
「《フリージング》」
俺もあのフードを見習って魔法名を唱えてみる。
だって一度やってみたかったんだもの。
そしてそのまま待つこと3分。
カップラーメンの如きタイムで冷えたエールが出来たので改めて口を付ける。
「かぁーっ! コレだよ! やっぱエールやビールは冷えてないとなぁ!」
冷やすだけで大分味の印象が変わって飲みやすくなった。
そのまま半分ほど飲んで一息吐くと、カウンター越しに声を掛けられた。
「お客さん、魔法使いなのかい?」
カウンター越しに話しかけてきたのは、短めの髪をオールバックにしたこれまたごつい男だった。
カウンター越しってことは、料理人かマスターかね?
「ああ。 一応ね。 えーと?」
「俺はディック。 この店の料理人兼店主だ。」
「お、店長か。」
「で、冷えエールってのはそんなに美味いのかい?」
「そりゃもう別物だよ! 味見してみるかい?」
「いいのか?」
「ああ、勿論。 この美味さは是非知って貰いたい」
そしてメニューに増やして欲しい。
そんなことを思いながらカウンター越しにジョッキを手渡す。
そして店長が冷えたエールを口にするのを見守った。
「こ、これは・・・! ・・・・・・プハッ、美味い!!」
なんということでしょう。
一口飲んだ店長は残りもそのまま飲み干してしまいやがりました。
「おい!? 全部飲むなよ!!」
「あ!!すまねぇ・・・」
「ったく・・・」
「いや、本当に冷やしただけで別物だな! こんなに変わるとは思ってもみなかった!」
「そりゃ良かった・・・が、俺のエールは?」
「も、勿論タダでもう一杯出させて貰うぜ」
「あ、なら今持ってるそのジョッキに注いで来てもらえる?」
「このジョッキに?」
「ああ、まだ俺の魔法が効いてるからさ。 ソレに注げばまた冷えたエールになるんだよ」
「なるほど・・・確かにコレ自体が冷たいな」
手にしたジョッキをしげしげと眺めながら下がっていく店長。
戻って来た時にはジョッキになみなみとエールが注がれていた。
「はいよ、お待ち!」
「ありがとさん。 料理のほうもよろしく」
「ああ、もう直ぐ焼き上がるから待っててくれ」
「あいよー」
そう答えて受け取ったエールをテーブルに置き3分待つ。
・・・よし! 飲み頃だ!
「・・・プハーッ!」
再度3分の1ほどを一気に飲む俺。
その様子をカウンター越しに物欲しそうに見る店長。
男にそんな目をされても無駄だ。
もうやらんぞ。
そんな目は出来ることならミリアルテ嬢にベッド上でして頂きたい。
程なくして料理が運ばれてきた。
出してくれるのは店長だ。
少女は他の接客で忙しいらしい。
「はいよ! グレートボアの厚切りステーキと白パン2つお待ち!」
「おおー! これは美味そうだ」
鉄板の上でジュウジュウと音を立てている5cm以上ありそうな分厚い肉の塊。
これは確かに焼くのに時間かかるわな。
木皿に乗せられた白パンの方も焼き立ての良い匂いと湯気がいい感じだ。
「いただきます」
と、手を合わせて、料理と一緒に渡されたナイフとフォークで肉を切り分ける。
すると溢れてきた肉汁が鉄板に滴り、ジュワッと音を立てて食欲を刺激する匂いを強くする。
そのまま1口ぱくっといった。
「美味い!」
脳内では「テーテレッテレー♪」という音と共に背後でランプが点灯しそうなくらい美味い。
ボアだからてっきりもっと獣臭さがあるのかと思いきや、全然そんなこと無かった。
むしろ下手な牛より美味いんじゃなかろうか?
味付けもシンプルな塩胡椒と何かのスパイスのみ。
ちょっと多いような気もしていたが、気付けば夢中になって半分ほどを一気に食べてしまっていた様だ。
一旦フォークとナイフを置き、エールを呷る。
「店長、美味いわコレ」
「だろう? 肉自体も高くていい肉なんだが、それに加えてウチ自慢の調合スパイスで味付けしてあるからな」
店長ドヤ顔である。
しかしこれならドヤ顔するのも頷けてしまう。
白パンはそのままでも麦の香りもよく、モチッとしてて美味かったが、ステーキの肉汁に付けて食べたら更に美味かった。
夢中になって、そのまま一気に全部平らげてしまう俺だった。
「ふぅー・・・、ごちそうさん。 美味かったよ」
「おう、ありがとよ」
今は食べ終わり、エールを飲みつつ食休み中。
「なぁ、店長」
「なんだ?」
「・・・この街の娼館ってどこにある?」
食欲が満たされたんだ。 次は当然・・・なぁ?
お読みいただいて、ありがとうございました。