4.マルレットに着くと
頭いたい。
ダルい。
吐き気がする。
飲んで気を紛らわせようとした結果、二日酔いになった。
・・・いや、三日酔いか?
盗賊の一件から2日消費して、ようやく再始動した。
この世界の人間の価値観を学ばないと何とも言えないが、やはりファンタジーお約束の戦闘は避けて通れないものなんだと、この世界で生きる以上、ああいったことを受け容れる必要があるのだと自分に言い聞かせながら歩き出した。
大丈夫、俺はやれば出来る子。 部長も所長も社長もそう言ってたじゃん。
・・・まぁ、無茶振りする為に言ってたんだろうけど。
街に着くまでに体調戻さないとなぁ。
さてさて、歩き始めて更に2日目の朝である。
街が近くなってきているからか時折、馬車や馬に乗った人間と擦れ違うようになってきた。
稀に徒歩の人もいるが、少数派だ。
多分、この辺は馬車か馬が主流の交通手段なんだろうな。
たまに寄ってくる人もいて、街までの同行を申し出られることもあった。
でもなんとなく誰とも関わる気になれず、それらを断り、たまにされる挨拶を返すくらいでボッチ続行している。
ぼっちなう。 異世界でぼっちなう。 なんかのタイトルみたいだ。
そうそう、取り敢えず、身分証的な物を作るまでは自転車に乗るのを自重することにして徒歩の旅にした。
最初は三日酔いのまま自転車に乗るのがしんどいだけだったのだが、酒が抜けて少し考えてみた結果、そうした。
多分、街には門番とか居そうだし、自転車なんかに乗ってたら詰め所に連行される未来しか見えない。
俺はやれば出来る子だから無駄なマイナスイベントは回避するのだ。
途中で昼休憩を取って、更に2~3時間歩くと、ようやく城壁らしき物と人や馬車の列が見えてきた。
きっと、あの列に並んでりゃ街に入れるに違いない。
そうアタリをつけて、早速その列へと並ぶべく近寄り、その最後尾へと並んだ。
・・・1時間くらいは経っただろうか。
今でも結構な人数が並んでいるのだが、いかんせん進みが遅い。
久しぶりに人の輪に加わった感じなので気分は良いが暇だ。
さっきまでは周囲の人間観察をしていたが1時間もすれば飽きてくる。
最初は「お、あれが獣人か!? あー!エルフ!!やっぱ美男美女なんだなぁ」等と内心で思いつつ
軽く興奮していたのだが、何度も言うが飽きた。
もう城門が視界に入るのに、まだ入れないのがもどかしい。
それは周囲の人達も同じ様で、時折その手の愚痴が聴こえて来る。
周囲の観察をやめ、ぼへっと正面を見ながら列に並んでいると、後ろから肩をつつかれ話しかけられた。
「なぁ、おっちゃん1人か?」
首だけで肩越しに振り向くと、生意気そうなクソガ・・・キッズの3人組が居た。
「ああ。 お兄さんは、1人だ」
朝霧 鋼(33)自身が30歳を超えてもう若くないと知りつつも、まだ若いつもりでいる。
そして自分で自分を「おじさん」というのは良いが、他人に言われるのは受け容れづらい。
そんな微妙なお年頃メンタルが発した返しだった。
「ふーん。 俺たちは3人だぜ!」
見りゃ分かるわ。 と、言いたいのを堪え「街に入るんだし、そろそろ気持ちを切り替えて他人とコミュニケーションを取らねば」と思い、キッズたちとの会話を試みる。
3人組の編成はこうだ。
先頭におり、話しかけてきたのはザンバラ髪の赤毛に細い眉、やや釣り目がちな赤い眼をした日に焼けた肌の活発そうな10代前半と思われる小柄な少年。
その後ろに2人が横並びでいる。
向かって右側にいるのは赤毛の少年と同年代だろう短髪で青い髪にたれ目の黒眼をした、少しふっくらした体型の少年。
左にいるのは同じ青い髪を肩まで伸ばし、黒眼でたれ目をした口をへの字にしている気の強そう同じ年代の少女。
皆大きめの麻袋のような物を担いでいる。
「お前さんたちは、大きな荷物を運んできたのか?」
「おう、そうだぜ! 俺とコバとウランで、村の名物を売りに来たんだ! そんでその金で食料を買うんだぜ!」
「なるほどなー。 コバ? ウラン?」
そう元気一杯に答える赤毛少年の返事を聴きつつ、
会話の中で出てきた名前と思しき単語を口にして赤毛少年の後ろの2人に目を遣ると、青髪の少年が応えた。
「あ、ぼ、ぼくがコバです。 横に居るのが、姉のウラン・・・です。」
「ああ、なるほど。 2人の名前ね。 俺の名前はコウ、だ」
「そ」
「あ!俺はトマルっていうんだ! よろしくな!」
青髪の少年もとい、コバが姉と自分の名を教えてくれたので名乗り返すと、姉のウランからはそっけない返事を、トマル少年からは笑顔で自己紹介を頂戴した。
「なぁなぁ、コウのおっちゃんは、鎧着て剣持ってるけど、冒険者なのか?」
「いや、違うよ。 俺は冒険者になりに来たんだ。 それとお兄さんな」
「ふーん、冒険者でもないのに、随分立派な装備をしているのね?」
俺の答えにウランがいぶかしむ様に訊いて来る。
この辺の言い訳は一応、デトの巣に居る時に相談しておおまかに考えてある。
「あー、俺は辺境のど田舎の山で狩りをしててな。 周りに魔物が多い場所だったから装備を整えて無いと簡単に死んじゃうんだよ」
「あー! 狩人だったのか! おっちゃんの住んでたとこは、どんな魔物が出るんだ?」
「そうだなぁ・・・、狼にリス、熊にデカい蜂、それからデカいウサギに蛙、飛ぶ魚に人食い植物・・・うーん、色々だな。 ・・・あとお兄さんな?」
「そ、そんなにいっぱいの魔物が住んでる場所があったんですね・・・」
「大きな蜂・・・いやだわ」
「すげー! おっちゃ」
「お兄さんな?」
「・・・兄ちゃん、色んな魔物狩ってたんだな!」
よし、呼び名の訂正成功。 今話した魔物は、山や森で出た魔物の中の一部だ。
亜竜なんかも居たのだが、亜竜の希少度や扱われ方が分からないので、ソレ系は伏せてみた。
テンプレだと騒がれるもんね。
そんなことを考えながら三者三様の反応を聴いた。
「まぁな。 狩らなきゃ増えて大変だし、飯も食えないからな」
「まー、田舎だとそうだよな。 俺たちの村でも狩りしないと飯のおかず減るからなー」
「ひもじいのは嫌だもんね・・・」
「こうしてわたしたちが街に来て、買って帰る分には限りがあるしね」
「なぁなぁ、狩りのコツ教えてくれよ!」
「コツねぇ・・・」
そう言われ、俺が狩りをする際にデトとスペじいから聞いたコツ的なものや注意点なんかで簡単なものを三人組に話して聞かせてみた。
そんな風に暫く雑談をしている内に、列はだいぶ消化されていたようだ。
「よし、次!」
と、門番っぽいやつの声が聴こえてきた。
「お? 俺たちの番ももう直ぐ来そうだな」
「そうみたいですね」
「・・・そろそろ静かにしてないと怒られそうね」
くっちゃべってると怒られるのか。
「お・・・兄ちゃんの話、面白かったぞ!」
「そうかい。 俺も知らない場所の話が聞けてよかったよ」
そう、トマルたちとの会話の中で、この世界の人間の生活ぶりや常識みたいなものの確認が少なからず出来たのは嬉しい誤算だった。
「よし、次!」
もう俺の番らしいので、トマルたちに別れを告げる。
「お、呼ばれたから行くわ。 じゃあ、元気でな、三人とも」
「おう!兄ちゃん、またな!」
「コウさんもお元気で」
「さよなら。 聞いた狩りの話、村でもしてみるわ」
そんな声を背に受けて、俺は門の傍の受付所の様な場所へと案内された。
建物の中に入ると、中にあったカウンターで愛想の良い衛兵から声を掛けられる。
「マルレットの街へようこそ。 マルレットはじめてですか?」
「ああ。 はじめてだ」
人間の街自体初めてです!とは言わない。
「そうですか。 身分を証明できるものは、何かありますか? ・・・冒険者証でもいいですよ?」
「いや、持っていない。 冒険者ではないから、冒険者証も持ってないよ」
「そうなんですか? では、身分証の無い方ですと街へ入るのにかかるお金が、通常の銀貨3枚ではなく、8枚かかってしまうのですが・・・」
やっぱそういうルールなのね。
前半を不思議そうに、後半を申し訳なさそうに言われた。
冒険者証の件は、さっきのトマルたち同様、格好で冒険者に見えたんだな。
まぁ、街に入る際の関税的なものは問題ない。 この辺はオタクとしては予想の範囲内だ。
「それでいい。 身分証は冒険者になれば作れるのか?」
「ええ。 冒険者でもいいですし、商人でも、他の職業でも作れますよ。 ただ、ギルドがある職業で登録して頂かないと所属証が発行されないのでご注意を」
「ふむ」
ギルドのある職業とない職業があるんか・・・。
まぁ、とりあえず目指すは冒険者だし、問題ないだろ。
「了解した」
「では、ギルドの所属証が出来たら、今から発行する仮許可証を持って、5日以内にもう一度ここに来て下さい。
そうしたら差額の銀貨5枚はお返し出来ますので」
「わかった。 そうするよ」
「では先に銀貨8枚をお出しください。
「はいはい・・・あ、金貨でお釣り出る?」
「はい、大丈夫ですよ」
「そりゃ良かった・・・はい」
俺は鞄の中から1つの財布用皮袋を取り出し、中から金貨を1枚出して爽やか衛兵くんに手渡した。
「はい、ありがとうございます。 では確認させて頂きますね・・・」
「どうぞどうぞ」
「この国のデザインでは無いようですが・・・これをどちらで?」
「旅に出て街に行くって言ったら友達が選別にくれたんだ」
「良いご友人ですね・・・うーん、ちょっと貨幣に詳しいものに訊きに言ってもよろしいですか?」
「ああ、持ち逃げしないならいいよ」
「ありがとうございます、では少しお待ちください」
そう言って1人出て行った爽やかくんは、15分ほどすると10人で帰ってきた。
そして俺は・・・
・・・なぜか衛兵の詰め所まで丁重なエスコートを受けることとなった。
お読みいただいてありがとうございました。