2.この草原を進むと①
2話目です。
本を書ける人って本当に凄いですね。
さて、いざ旅立ってはみたものの街までだいぶかかる。
にしても、マント付けて自転車って正直どうなの?と思わなくも無いが、これが俺スタイル!と思うことにした。
デトとスペじいの話では、この草原から街までの距離は普通の馬車で7日ほどのものらしい。
その話を聞いた時には「ふーん」って思ったのだが、そもそも馬車の速度ってどんくらいなんだ?
謎である。
周りの景色を物珍しいから眺めつつ、時折方角なんかの確認をしながら自転車漕いで早2日。
ぶっちゃけ飽きてきた。
飯はつまみと水、あとは自生している植物で変わらないし、景色も草原と森ばっか。
たまに動物や魔物も見掛けるが、殆んど近寄ってこない。 俺も寄らない。
だって戦いたくないし、実戦ってやっぱり怖いもの。
そんなんは冒険者になってからでよろしい。
そうこう考えながら進んで更に1日。
やっっと道に出た。
草原の中に現れた横幅5mくらいの土の道。
これが街道ってやつっぽい。
街道に出る前に周囲を確認。
相変わらず自然以外何も見えないので自転車でGOする。
道に出たので、無論ギアは7から下げておく。
しかし、道に出たってだけでテンション上がるし嬉しいもんだ。
嬉しいついでにちょっと休憩。
座って休んで、飯を食う。 太陽が真上近いし、昼飯に丁度良かった。
そこから更に3時間ほど進むと、進行方向の方角から悲鳴が聞こえたので様子を見に移動。
何やら馬車とそれを取り囲んでいる連中が見える。
テンプレキターーーー!!!!
と思いつつ、現場の少し手前まで移動。
まだ街道の脇には森があるので、森の中に移動して木の陰から覗いてみる。
その際に、一人旅初の魔法を発動!
姿と気配を隠す《インヴィジブル》
任意の五感をドラゴン並みに強化・機能拡張を行う《ドラゴンズ・センス》
この2つを発動。 両方とも狩りに必要だからとデトから習ったものだ。
今回の《ドラゴンズ・センス》は視覚と聴覚の強化を行った。
この世界の魔法は、脳裏に魔法を描いて、それを意識することで使用する。
この世界では派手な詠唱などは無いようで、教えてくれた2人の魔法発動も作用する瞬間の魔力光?以外地味だった。
即ち俺の初めての一人立ち魔法発動の記念すべき瞬間も地味に終わった。
若干の寂しさを感じつつも改めて様子を視る。
横倒しの白い幌馬車に、殺された様で動かない馬。 その周辺から馬車の持ち主なのか、囲まれている男女の悲鳴と、それを囲んでいる連中の怒鳴り声や笑い声なんかが聴こえてくる。
強化した視覚で数えてみると、囲んでいる連中は15人のグループと3人のグループに分かれていて、3人組の方は馬車の持ち主?を背にしているから、護衛かなんかだろう。
守られている人達は、ここから見える範囲では4人。
おっさん×1、熟女×1、少女×2だ。 家族だろうか?
聴こえてくる会話はこうだ。
「観念しなぁっ! これだけの人数相手にその護衛の数じゃあ、どうしようもねぇだろ!!」
やはり人数が多い方が見た目も言動も賊っぽい。
殆んどの奴等がニヤついてる。
「・・・くっ!」
「不味いな・・・確かに人数が多い。 せめて半数ならなんとかなったかも知れんが・・・!」
呻く男は剣を構えて、アニメで見る様な軽装の鎧を身に着けている。 剣士っぽい。
小声で悔しそうに現状を語るのは、槍と盾を持った全身鎧の男。
もう一人、杖を持ってフードを被った奴も傍にいるが何も言わない。
これが護衛側のメンツである。
「さぁあ!! 金と荷物、それから女を寄越せ!!! そうしたら残りの奴等の命は考えてやる!!」
「そら、どうすんだぁ!? お頭は気が短ぇぞおぅ?」
「そうだそうだ! さっさと諦めて全部寄越しなぁ!!!」
「「「ヒャーーッハッハッハッハ!!!」」」
賊の中でも一番えらそうなデカい斧を持った小汚い髭面の大男が再度要求をすると、それに追随するように別の2人がニヤつきながら煽る。
それを聞いたその他の賊も声を揃えて大笑いで勝利確定を信じている感じだ。
それを聞いていた護衛対象と思しきおっさんが反応した。
「お、おおお前たち! 私たちはテンプラー商会の者だぞ! きき貴族にも伝手があるんだ!
こ、こんなことをして、タタタダじゃ済まんぞ!? 討伐い、依頼を出してやる!!!」
「ヒッヒッヒ、そりゃ怖ぇなぁオイ。 た、だ、し、だ。 討伐依頼が出るのは、手前ぇ等が生きて帰れたらの話だろ? なぁ!?」
「街に戻ったら、す、直ぐにだ!!」
「あーあー、それじゃぁ全部頂いた後に誰も生かしておけねぇなぁ?」
「そうですねぇ、お頭!」
「やっぱり早いとこ皆殺しにしちまいやしょうぜ!」
言いながら賊共の様子が剣呑さを帯びてくる。
「ひ、ひいいいいいい・・・」
「な、なんで支店長は余計なことを言うんですかぁ・・・!」
「だから付いて来るの嫌だったんですよぅ!」
残りの女性陣は悲鳴を上げたり、おっさんを非難したりしながら半泣きだ。
確かにあのおっさん、賊を無駄に挑発してどうすんだろな・・・。
あんなんが支店長の商会とか大丈夫なのだろうか?
そんな会話を聴いていると、杖持ちフードが1歩前へ出た。
「おい・・・!」
「・・・半分の人数なら、どうにかできるのね?」
全身鎧男が進み出たフードに声を掛けるも、フードはそう尋ね返して杖を構えた。
フードは女だったか。 存外綺麗な声をしてる。
「求むは紅蓮の炎、我が前の敵を打ち倒せ・・・! 《ファイヤーボール》!!」
そう叫んだフードの声と共に、奴が構えた杖の先に魔方陣が顕れ、そこからバスケットボール大の火の玉が高速で飛び出た!
・・・え??あれ?なんで詠唱とかしてんの???俺の魔法と違くね????
ともかく、それは正面に固まっていた賊2人にぶち当たって賊2人をまとめて吹っ飛ばす。
その2人の周囲に居た奴等にも炎が飛び火した。
「「ぎゃああああああああああああっ!!!!」」
「「「ひ、火ぃ!? 熱ぃ、いてぇ!!!」」」
賊共阿鼻叫喚である。 その隙にもフードは追い討ちに余念が無い。
「求むは紅蓮の炎、我が前の敵を打ち倒せ・・・! 《ファイヤーボール》!!
願うは激しき風!我が敵を打ち据えろ! 《エア・インパクト》・・!」
「がぁああ!!」
「んげふっ!」
「「「ぎゃぁああああああああああああ!!!」」」
更に賊に被害が出た。 1、2の3の・・・合計で9人倒した。
フードすげぇ。 フード一人で楽勝じゃん。
と、そう思っていたら突然フードが膝を突いた。
「・・・うっ。 ごめんなさい、魔力が・・・」
「いや、良くやってくれた! これだけやってくれれば十分だ!!」
「デクスター!」
「ああ、守りは任せろ!! 行け!イスタ!!」
膝を突くフードの声に応えて剣士が前に出る。
鎧男は守りに回るらしい。
「はぁあああっ! せいっ!」
気合と共に剣を二振り。 1人を斬り倒し、1人の腕を斬り落として後退させた。
おお、なかなかに強い感じだ。
「んぎいいいいいいいい!!」
「て、手前ぇ等ぁ・・・。 よくもやってくれたなぁ!?」
それまで半ば呆然としてた賊の頭が声を荒げて剣士の前まで進み出てきた。
「はっ! 賊相手に遠慮なんかするわけないだろ! お前も俺が」
「命を助けるのもやめだ!! ぶっ殺してやる!!!」
頭が手にしていた斧が怒気に応える様に赤黒いオーラを帯びた。
それが勢いよく剣士目掛けて縦に振るわれる。
ぶおんっ! ぐしゃ。
賊の頭が振るった斧の一振りで剣士が頭から潰された。
剣で防ごうとしたが、剣も真っ二つ。
は???? 剣士君死んじゃった?????
「ふんっ! 残りは魔力切れの女と盾役か」
「イスターーーーッ!!!」
「「「き、きゃああああああああああああああああああ!!!!」」」
「そ、その斧! ままままさかお前が“豪斧のイワン”か!?」
「そういやぁ、名乗ってなかったか? おうよ、俺様が“豪斧のイワン”様よぉ!」
「ひいぃ!? なななんでA級賞金首がこんなところに!?」
「そりゃお前ぇ、この森の中にアジトがあるからよ。
さぁ、覚悟しやがれ。 男はぶっ殺して、女は楽しんだ後に奴隷行きだぁ!」
鎧男の剣士の名を叫ぶ声に女性陣とおっさんの悲鳴。 それを聞きながら歩み寄る賊の頭。
さて、いつまでも出歯亀してないで、とっとと助けに行けよ。
ハナから俺が行ってたら剣士君も死ななかったんじゃねぇの?
って思うじゃん? 俺も思うんだけどさ・・・。
恐くて動けない。
身じろぎ1つ出来ない。
離れた場所から見ているだけの癖に無理。
初めて遭遇した異世界の人間達。 テンプレ通りに助けようとも思ったさ。
でも駄目だ。 殺し合いなんか創作物の中でしか知らない。
したことあるのは街の喧嘩が精々だ。
死体も見たことはあるが、病死の死体だけ。
あんな風に焼かれたり潰されたり、斬られたりして死んでる死体なんか知らない。
食料を狩るのと全然違う。 そもそも狩りじゃ人型の魔物も動物居なかったし。
なんであんな風に人間同士で殺し合いが普通に出来んの?
正直異世界舐めてた。
狩りは出来たし、アニメや漫画で観てた戦闘シーンくらいこなせると思ってた。
こんなに生臭いもんだと思ってなかった。
だが、このままだとあの連中が賊の頭に皆殺しにされる。
正直助ける義理は無いし、ぶっちゃけもう賊と護衛は人殺し同士に思えるんだが、それでも、だ。
それでも、あそこには商会の人間達もいる。 あの人達だって人を殺したことが無いとは限らんが、それでも、だ。
このままやり過ごしたり、見てみぬ振りをしたら一生後悔しそうな気がする。
のっけから俺にはハード過ぎる展開ではあるが、ここで踏み出さないと異世界じゃ生きていけない気もする。
ホント、ラノベやアニメの主人公みたいにここで躊躇い無く突っ込んでく勇気が欲しい。
「ぐあああああああああああああああっ!!!?」
そう悶々と悩んでいる内に聴こえてきた悲鳴に意識を戻される。
向こうを視て見ると、賊の頭に鎧男が盾ごと腕を斬り飛ばされたらしい。
動ける他の賊共も、頭の後ろに集まって寄せてきている。
今行かないと間に合わないだろう。
覚悟決めろ俺。 この世界じゃ多分、これくらいはこなせないと生きていけない。
今ここで行動を起こせ!!
何とか立ち上がり、自転車を鞄にしまう。
しまう?・・吸い込ませる? こんなことが出来るのはスペじいに感謝だ。
「ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!」
鞄を背負い、身体が動くこと確認して気合を入れる為に叫び声を上げると、《インヴィジブル》の魔法効果を解除。
俺はそのまま全力で走り出した。
もちろん、誰も居ないほうへ向かって。
ではなく、今争ってる連中の方向へ向かって全速力で。
お読みいただき、ありがとうございました。