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1.トンネルを抜けたら

処女作です。

いきあたりばったりで辻褄合わないこととか、分かりづらいこととか散見すると思いますが、優しくしやって下さい。

拙作ですが、暇つぶしになれば幸いです。



みなさんコンニチワ。

俺は朝霧あさぎり こう、33歳。

脱オタしきれないまま大人になった社会人です。

好きなものは美人と美少女(二次三次問わず)、酒と煙草にサブカルチャー。

あとは自転車でどっか行くことです。

嫌いなものはトイレの使用後に水を流さない人とセロリ。

あとクレーマーと性格ブスです。


・・・俺は誰に対して自己紹介をしているのだろうか。

直面した現実に理解が追いつかないから逃避をしていたようだ。



「うううううううおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああ!!!!!!!!」



俺氏、人生最高速で自転車を立ち漕ぎしながら森を爆走中である。

岩場も木の根も何のその。 色んなものを踏み(轢き?)ながら勢いで走り抜きますとも!

だって今ワタクシはとても必死ですから!

何で森の中?何で森を走り続けてもチャリ壊れないの?俺、めっちゃ速くね?

そもそも何なのこの状況!?等と考えたいことはそこそこにある。

が、今優先すべきはそう、命である。


以前に、



『トンネルを抜けたら、そこは別世界だった。』




などという表現を見たことがある。

その表現を読んだ時は、実際に目の当たりにしたならばどれだけ心躍るものなのかと想像したことも。

トンネルを抜けた先で目の前に広がるのは一面の銀世界か、はたまた目にも鮮やかな一面の紅葉か、等と。


が、しかしだ。


が!しかし!だ!!





「ああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」




いくらなんでも




「ちょ・・・っ!まっ!!ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいおあっ!たっ!・・・ひぃぃ!!!!!」




自転車に乗ってトンネルを抜けた先に広がる景色が、大きく開いたドラゴンの口である等と想像したことはなかった。

それもドラゴンののどチンコが観察できる特等席(要するに舌の上)である。

自転車通勤の俺は仕事が終わって、帰り道にあるスーパーで買物して、あとは坂下ってトンネル抜けたら家まで10分とかからず帰れる予定だったんですけども!!

しかもその口に比例するサイズだけあって、ドラゴン本体は40mくらいあるんじゃなかろうか。



「GRRRRRRRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!」


「おおおお俺なんか食っても美味くねええぞおおおおおおおおおおお!!!!」



口を閉じようとしたドラゴンの口内から抜け出し、そのまま逃げたら飛んで追って来たあの黒いドラゴン。

いやまぁ、突然目の前や周りに歯と喉と舌が現れて「これ口の中じゃねーの!?」と分かったんで、慌てて逃げ出して振り返って見たらドラゴン(にしか見えない生物)だったんだけども。

いくら食い損ねたからって人間1人に対してしつこすぎだろ。

もう1時間位は逃げてるんじゃなかろうか。 わからんけど。 そんくらい経ってる気はする。

そろそろ俺の体力限界です。



「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



そうこうしている内に、森の切れ目が見えて来た。

この先は草原の様だ。 これでさっきよりは走りやすくなったが、体力はやはり限界近い。

このままでは逃げ切れそうにも無い。

そんなことを考えながら森の切れ目まで到達すると、唐突にドラゴンの羽ばたく音が弱くなった様に感じた。



「ああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ・・・・・・あ?」



不思議に思い、一旦止まって後ろを確認してみると、少し離れたところでホバリングしてやがる姿が見える。

そう、ホバリング。 なんでか追ってくるのをやめたらしい。



「GRRRRRRRRRRRR・・・・・・・」


「・・・・・あれ? 追ってこない?? 助かった・・・のか?」


『おい、そこの人族』


「ううおおおおおぅいっ!?」



突然低く渋い声が大音量で響いてきた。 スゲー耳が痛い。



『聴こえておるのだろう? ならば返事位したらどうだ?』



大音声パートⅡである。

やっぱりあのドラゴンか?アイツが喋ってんのか?

この辺他に何もいなさそうだし、ジンゾクって人族か? だったら俺のことだよな。

もう体力限界だし、どうせ喰われるんなら、と。

言いたいこと言ってやろうと息を吸い込んで



『おい! 人族っ!! 聴こ』


「るっせぇよ(巻き舌)!!!!!!クソドラゴン!!!!!!!

 テメェの声がデカ過ぎて耳がイカれそうになって苦しんでたんだよっ!!!!!

 つーか、つーかよ!!!!喋れるんなら喰ったり追ったりする前に先ず喋れや!!!!!!

 知性があるなら、それらしくしろよ!!!」


『ぬ・・・むぅ・・・』


「なんなの!!お前なんなの!!!そしてここは何処なの!!!!!

 どうやったら俺は元の場所に帰れるんですかね!?!?!?!?」



あかん、色々溢れてきてなんか涙出てきた。

正直いっぱいいっぱいなんですよ。



『あ・・・いや、すまぬ。 この位の大きさなら聴き取りやすいか・・・?』



あ、爆音スピーカーレベルから、ちょっと声の大きい人レベルにボリュームが下がった。



「・・・うん。(ずずっ)」


『お主、泣いておるのか? なにやら元の場所やら帰る等と言っておったが、それは?』


「俺、多分、別の世界の人間」



だって地球にドラゴンいねーもん。



『なんと、それは真実か?』


「だって地球にドラゴンいねーもん」



声にも出してみた。



『ふむ・・・。 なぁ、もう喰わんから近くに寄っても良いか?』



なんかあの黒いのが優しくなってる気がする。



「喰わないなら、いいぞ・・・」



俺氏33歳。 この歳で鼻声なのが情けなさ溢れる返しだ。

幼児退行もしている気がする。『もん』とか言う33歳どうよ。



『よし』



軽く頷く様に首を動かしたドラゴンが一瞬光ると3m位のサイズに縮んで降りてきた。

近くで見ると鱗の生えた黒いリ○ードンみたいだな。 あんな可愛くないし、ムキムキだけど。

その様子を眺めてたら、なぜかちょっと落ち着いてきた。

俺も自転車降りよ。 すげー疲れた。

このまま地面に座ってしまえ。



『うむ、そうだな。 話をするなら腰を落ち着けて話をした方が良いか。』


「ああ、逃げる必要の無くなったみたいだしな。」



疲れたから座り込んだだけなんだけど、そう取ってくれたか。

コレで騙まし討ちされたら一環の終わりなんだが・・・まぁ、もういいや。

その時はその時だ。


ドラゴンは俺と1mも離れていない場所に胡坐を掻いて座った。

・・・器用だな。 そして意外と足長いな。



『なぁ、おぬしは別の世界の人間と言っていたが・・・どうやってこの世界にやってきたのだ?』


「・・・わからん。 気付いたら、お前さんの口の中だった。」


『ぬ・・・そうなのか?』


「ああ。 そんで喰われそうだったから、取り敢えず逃げた。」


『・・・なるほど。 我は先ほどの場所で、異常な魔力の力場の歪みを感知してな』


「・・・?」



What’s魔力。

ドラゴン居るし喋ってるし縮むし、さっき光ったのもやっぱアレが魔法的なやつか?

お約束のファンタジー世界・・・だよな?

おっと、そのこと考える前に話を聞かねば。



『そこで怪しげな連中が時空間の歪みと思しきモノを人工的に発生させておったのでな。 それはこの世界の摂理に反するものであるが故、術者共を駆逐し、その力場と基点となるものを噛み砕いておったのよ』



ワームホールみたいなものだろうか。 そもそも力場噛み砕くとかどういうことよ?



「・・・時空間の歪み? それって・・・もしかして俺は?」


『ああ。 おそらくはその歪みがおぬしの世界に繋がれたのだろう。 そして、たまたま繋がった先で生まれたこの世界の基点と繋がる穴のようなモノに取り込まれたのではなかろうか』



そんなものあったっけか?

しかし此処にいる以上は納得しないと先に進まんか。


つまり、このドラゴンがその基点とやらを噛み砕こうとしてたから、そこから出てきた俺は口の中にいたのか。



「・・・もとの世界に帰るには?」


『すまんが、我にはどうしれば良いのかは分からぬ』


「・・・・・・・・・そ、そう・・・か」



マジか。 帰れないのか。 仕事やら家のことやら、きっと俺は失踪者として扱われて捜査の為にPCのデータの中身も丸裸にされるんだろうなぁ・・・とか、心配や心残りも多くあるが、差し当たってこれから先どうしよう。

どうやって生きていこうか。



『それはそうと、すまなかったな』


「うん?」


『いや、我はてっきり仕留め損ねた術者の一味かと勘違いしてな』


「ああ、なるほど。 今生きてるし、話聞いたら、状況的に仕方ねーかなって」



いきなりその場に居る人間の数が口の中で増えるとか想像も出来ないだろう。



『ふむ、そう言ってくれると助かる。 して、おぬし、これからどうするのだ?』


「それな」


『ぬ?』


「これから先、ホントどうしようか・・・。 何も分からない世界だろうし、金も職も飯も無い。

 言葉も・・・いや、言葉は通じてるな?」


『おお!そういえばそうであるな! なぜ言葉がわかるのだ?』


「いや、俺に聞かれてもな・・・」



チートとかくれそうな女神様とかそれっぽいのにも会わずに、いきなりドラゴンの口の中に居たもんね。



『それもそうであるな・・・。 うむ』



なんか1人(1匹?)で納得してるぞ。



「なぁ、魔力があるってことは、ここは魔法が存在する世界ってことだよな?」


『当然である。 我が空を飛び、身体の大きさを変えられるも魔法しか無いだろう? 声も魔力で人族の言葉へと変換して出しておるではないか。』


「おるではないか、と言われてもな・・・。 俺の居た世界じゃ魔力も魔法も存在が確認されてなくて、物語とかの中だけのものだったからなぁ。」


『そんな世界があるのか!? 魔法も無しにどうやって生活しておるのだ!?』


「んー、魔法は無いけど、物作ったりなんだする技術が凄い高いんだよ。 火を熾したりする道具もあるしな。 ・・・ほら。」



言いながらポケットからライターを出して着火して見せる。

喫煙者の必需品です。



『おおっ!! 確かに魔力の反応無く火が点いたな!!! そういったものをそのサイズで作成出来るのであれば、確かに高度な技術を有した世界なのだろうなぁ。』



ドラゴンさんビックリである。 心なし楽しそうにも見える。

そしてなんか頭良さそうだな。



「まぁ、そんな感じで。 魔法って俺でも使えるようになるのかね?」


『ふむ、そうであるな・・・。 今まで魔法と縁の無い世界で生きてきたのであれば、先ずは魔力に親しまねばならんだろうな。』


「ほう、魔力に親しむ?」


『然り。 魔法は魔力を糧にしていることは解るか?』


「ああ、それくらいは想像できる。」



オタクの嗜みであるゲームやアニメ、ラノベなんかのお陰でね。



『そうか。 その魔力に関してなのだがな・・・。 基本的に魔法を行使する際には、必要量の魔力を使用者の体内から汲み上げて放出するのだ。 そして消費した分は、この世界に満ちている魔素を体内に取り入れ、それを己の魔力として変換・吸収ことで回復する。 ・・・まぁ、一部の例外もあるがな』


「なるほど。 で、魔素ってどうやって吸収するんだ?」


『身体が勝手にする。』


「は?」


『生き物に備わった基本的な機能だ。 無論、魔素の満ちた世界であるこの世界の生き物の、な?』


「あ・・・なるほど。 つまり俺は魔素を吸収できないから魔力がない?」


『端的に言えばな。 その問題をクリアする為に・・・』


「魔力に親しむってことか。 ・・・魔力ってか、魔素にか?」


『その通りだ。』 


『・・・ところでな、さっきから気にはなっていたのだが』


「ん?」


『先程までおぬしが跨っていたソレなのだが・・・』



鼻の先を俺の背後に停めてある自転車に向けながら言うドラゴン。

銀色の車体がイカス、荷台と前カゴ付の6段変速の相棒です。

カゴの中にはデカ目のリュックサックも鎮座している。



「ああ、自転車ね。 これに跨って足を置く板を交互に前に踏み込むと車輪が回って走るんだよ。」



車輪は分かるよな? 人族って呼ばれたってことは人間がいるんだろうし、まさか石器時代とか縄文時代レベルの世界じゃないよな?

・・・違っててほしいなぁ。 ファンタジーのイメージっぽく中世っぽい世界だといいなぁ。



『ほほう・・・その様な仕組みで動いておったのか。 己の足で車輪を回すとは・・・馬車や荷車などとは、随分と違うのだな』



馬車あるらしい! よかった!



『ああ、いや、そうではなくてだな。 その、ジテンシャ?とやらから魔力を感じるのだが』


「はい? 自転車から?」


『うむ』


「・・・なんで?」


『それを我が尋ねたかったのだが・・・』



デスヨネー。

・・・・・・あ!!!



「あ!!!」


『ど、どうしたのだ?』


「そうだよ!自転車だよ! 何で壊れてねーんだ? あんだけ無茶に走り回ってたのに!!」



立ち上がって自転車に駆け寄って観察してみる。

・・・奇跡的に?パンクもしてなけりゃホイールもフレームも、どこも歪みも傷も無い。

カゴに入れてあった荷物も無事らしい。

そういや、さっき瓶酒も買ったから、中で割れて漏れてないだろうな・・・。

そう思いつつリュックサックの底が濡れてないか確認する為に手をやってみた。


カツン。


・・・カツン?

何だ今の硬い感触。

謎の感触の正体を確認すべく、そのままリュック持ち上げて見てビビッた。

入れ歯(上だけ)がカゴん中に入ってた。

・・・なんで入れ歯?



「いや誰のだよ。 直に触っちゃったじゃん。」



俺の歯は全部自前です。


一回触っちゃったし、と割り切って摘み上げてみる。

後で手を消毒せねば。



『おお!その手にあるものから魔力を感じるぞ』


「は? この入れ歯から??」


『うむ、それもかなり濃い魔力であるな。 しかし、この魔力・・・以前にも出会ったことのある者の中に似た感じを受ける者がいた様な・・・?』


「え? これ、お前さんの知り合いの入れ歯なの?」



のっそりと近付いて来て、俺の手にある入れ歯を注視しているドラゴンに訊いてみる。

これ人間用っぽいけど。



『おそらくな。 うーむ・・・中々思い出せないということは、長いこと会っていない者のだとは思うのだが、はて』


「物忘れか?」


『たわけ。 我はまだ凡そ8000歳だ。 耄碌はしておらぬ。』


「はっせ・・・」



いや、それは耄碌しててもおかしくないだろ。



「・・・とりあえず、知り合いのなんだったら、コレ要るか?」


『要らぬわ!』


「だよなー。 俺も要らんし捨て・・・いや埋めるか。 その辺に落ちてても嫌だしな。」


『・・・そうだな。 この辺りの土であれば、その程度のもの分解できよう。』



この世界の入れ歯って分解される素材で出来てるのだろうか?

まぁ、現地人(竜)が言うんだからいいか。



「そりゃ良かった。 んじゃ、さっさと・・・」


【ちょおおおっと待てぃ、お前たち! ひとの入れ歯を勝手に土へ還そうとするでないわい】



そんな声が森の方から聴こえて来たので、そちらを振り向いてみる。

すると、ガサガサと葉を踏みながら仙人髭のじーさんが森の中から現れて近付いてくるのが見えた。

あんなとこから会話聴こえてるとか、この世界の老人は耳良すぎだろ。

ちなみにこのじーさん、手には黒くて長い(2mくらいか?)杖を持ち灰色のローブっぽいのを着ている。

杖がちょっと異色だが、村長とか似合いそうである。



【久しいのぅ】


「・・・えーっと?」



どちら様でしょうか。 はじめましてです。

先程の話しぶりからすると、この入れ歯は、あのじーさんのものなのだろうか? ならば・・・。

そう考えながら、先程『入れ歯の持ち主が知り合いかも(意訳)』とか言ってたドラゴンの顔を見てみる。

一度首を傾げていたが直ぐに思い至ったのか反応した。



『・・・おぉっ!おぬしはっ!!・・・おぬしは、おぬし・・・は』


【うむ】


『・・・女神の!!』


「は!? このじーさんが女神!?!?」



嘘だろ!?

女神って金髪巨乳の薄着の超美人とかじゃねーの!?

男女の性差が無い世界なんですかね!?

見た目男しか存在しない世界とか、さながら地獄じゃねーか。



『いや、女神の眷属の者でな。 確か・・・大精霊の内の1柱(ひとはしら)だったと思ったのだが・・・』



なるほど? 女神じゃなくて大精霊とな?

つまり女神は存在するし、しわしわじーさんでは無いということだな。



「変なところで言葉区切るなよ。 勘違いして絶望しかけたじゃねーか」


『ぬ?おぬしが早合点しただけであろうに・・・』


【ふぁっはっは。 随分と変わり者の人間が来たものじゃのう。 どれ、とりあえずわしの入れ歯を返してくれんかな?】


「ああ、うん。 どうぞ」


【うむ。 ありがとうな・・・(もごもご)】



言いながらじーさん大精霊に入れ歯を摘んで渡すと、そのまま口に入れてはめた。

洗わないのか。



【よし、バッチリじゃ!】


「・・・で? なんでその入れ歯が俺の自転車のカゴに入ってたの?」


【ふむ、それはじゃな・・・と、その前に自己紹介をしておこうかの。 わしは“空間と守護の大精霊”、名はスペンスという】


『おお、そうだ。 我も未だ名乗っておらなんだな。 我は“破の守護竜”デトル・ガルディ 』


「俺は朝霧 鋼。 異世界人?だ。 あ、アサギリがファミリーネームで、名前がコウな」


【コウというのか。 今回は災難じゃったなぁ・・・】


「ああ、うん・・・。」



改めて考えるとスゲー凹んで来る。

目の前のことを考えて、元の世界のこととか戻れないとか、色々考えるの意識的に後回しにしてたけど、

第三者にしみじみ言われると考えさせられるな・・・。



【さて、わしは女神様より、名が示す通りに空間と守護を司る任を与えられておる。

 常においてわしは世界には出ず、この世界の少し外側におってな。 

 この世界の外側に守護の魔法による結界を張り巡らせておるのじゃ】



オゾン層か?



【今回わしはその結界の一部に異常を感知してな。 

 その原因となる場所に赴き、そこで別の世界へと繋がる穴を発見したのじゃ。

 こりゃいかん!と思うてな、その別の世界から此方の世界に紛れ込むものがでぬよう、

 別の世界の側から穴を塞ぐべくおぬしのおった世界に行ったのじゃが・・・】


「・・・間に合わずに俺がその穴?に入ってしまった、と?」


【・・・その通りじゃ。 わしがそちらの世界に出るのとすれ違いざまに、おぬしが穴に入ってしまってなぁ。

 これは不味い。 この人間がこちらの世界に迷い込んだら死んでしまうやも知れぬと思い、

 わしの力を込めた入れ歯をおぬしの自転車のかごに放り込んだのじゃよ】


「そっか、自転車が壊れなかったり、荷物が無事だったのはそのお陰だったってことか・・・。

 助かったよ、お陰でドラゴンに食われずにこうして生きていられたわ。 ありがとう」


【なんのなんの。 おぬしは被害者なのじゃから、気にせんでくれ。 しかし、ドラゴンに、のぅ?】



見た目通り、いい人っぽいな大精霊のじーさん。 なんで投げ入れたもののチョイスが入れ歯なのかは、非常に謎だが。

そんなじーさんは、そう呟きながら方眉を上げて俺の横のドラゴンを見やる。



『ぬ・・・あれは状況的にも仕方なかったのだ! 異世界より人族が来るなど予想できるか!

 歪みを作った者共の一味だと思って食い殺そうとしてしまっただけだ』



おう、開き直ったか。 まぁ、予想も出来ないだろうし、さっきも言ったが仕方ねーわな。



「まぁ、仕方ねーさ。 それに今生きてるんだから、結果オーライってことで」


『おお! 本人もこう言っておるのだ! コウ、おぬしはイイヤツだな!』


【ふむ、本人がそう言うのであれば、女神様には特段報告はしないでおくとするかのぅ】



ドラゴンも大精霊も女神様が元締めなのか。

聞くほど分からなくなりそうだし、不用意に突っ込んでもいいこと無いだろうからスルーしよ。



【さて、話を戻すが・・・そうそう、話を戻すが、入れ歯のことじゃったの。 

 その入れ歯自体、わしの魔力で出来ておってな。 それに触れて、その影響下にあるものと周囲を守護するのじゃよ。】


「魔力で出来た入れ歯? あれ?さっき力を込めたとか」


【左様。 元々何の特別な効果も持たぬ魔力の塊じゃったからなぁ。 

 そこに守護の力を込めて、入れ歯を構成する魔力自体も守護の魔力になる様にして投げ入れたのじゃ。

 丁度、魔力を込めやすく、投げやすいものが他になくてなぁ、ふぁっはっは】


「なるほど? つまり、あの入れ歯が自転車に触れてたから、その自転車に乗ってた俺も影響下に入って守護された、と」


【その通りじゃ】


「・・・ちなみに、塞いだ穴を開け直して俺を元の世界に送り返すとかは出来る?」


【・・・すまんのぅ。 一度塞いでしまうと無理じゃ。 

 それをするにはまったく同じ位置で穴を開けねばならぬのじゃが、一度塞ぐと跡も残らんからなぁ】



マジか・・・。

ちょっと期待してたんだが、無理だったか・・・。



『ふむ、ではコウはこの世界で生きていくこととなるのだな?』


「まぁ、そうせざる得ないってことになるわなぁ・・・」


『で、あれば色々と教えておいた方が良いだろうな』


【ふむ、それもそうじゃな。 元の世界との違いも多くあるじゃろうし、このまま難儀させるのも忍びない】


『うむ、その通りであるな』



あー、結構凹んでるだけに色々と気遣ってくれる気持ちがありがたい。

凹んで考えても帰れないなら、これからのことを考えないと、だよな。

パチンコで負けた時に、あん時あの台で打たなければ、と思うのと一緒か。 ・・・違うか。



『では先ず、この世界についてだが・・・』



と、このドラゴン、デトル・ガルディからこの世界についての色々なことを教わった。

大精霊スペンスじーさんも、合間で色々な補足や注釈をしてくれた。

一日じゃ憶えきれなかったから、憶えて生活に慣れるまで、約1年ほどドラゴンの巣で世話になった。

巣は俺が転移?してきた森の更に奥にあるデカい岩山の頂上近くの洞窟に存在した。

そこに滞在してる間に魔法やら獲物の取り方なんかも教わって、森まで狩りにも連れてってもらった。

森と巣の往復には竜の背に乗せてもらったが、慣れると空飛ぶの超気持ちいい!

狩りでは生物を捌くのは全然慣れなかったけど、必要だからと必至こいて覚えた。

飯は魔物の肉や自生している植物なんかで、ほとんど2人(1人+1匹?)が用意してくれたが、意外にも美味かった(俺が狩った量なんて微々たるものだった)。 

たまに変な色した珍味な肉塊もあったが、たまにだから許容した。

だがアレ等については、食べる時に2人が俺を凝視していた気もするので元来食用なのか謎である。

なんかこう「食った・・・! お、平気そうだぞ?」とかって言ってたような・・・。

まぁ、毒ならあんな何度も食わせていないだろう、多分。

ちなみにトイレと風呂は川である。

で、教わったその内容をザックリまとめると


世界の名前は“ルメア・ディフェリタ”

魔法や魔物なんかが存在する、所謂ファンタジー世界である。

生き物も多種多様で、人間、エルフ、ドワーフ、魔族、獣人、魔物等々、多岐に渡り、それぞれの国や文化があるらしい。

文明の発達具合は、魔法があることを加味しても、中世ぐらい。

まさに王道ファンタジーの異世界転移物だ。

どうせなら十代の頃に来たかった。 等と思う余裕も出来た。


ちなみにステータスもレベルもある世界で、女神にこそ会えなかったが、そこそこの力は手に入れることが出来た。

異世界人は、この世界(ルメア・ディフェリタ)のルールとは違うルールで生まれて生きてきたから、適応の仕方がちょっと違うらしい。 具体的には成長具合とか。


ちなみに俺のステータスはというと・・・

『名前:コウ・アサギリ

 種族:異世界人(人族?)

 性別:男


 【能力値】

 Lv   :87

 体 力  :A   

 魔力保有量:S

 筋 力  :S   

 耐久力  :S

 器 用  :A

 敏 捷  :A

 魔 力  :A

  運   ;D


 【適正】

 戦士   :S

 家庭教師 :C

 商 人  :B

 魔法使い :A


 【スキル】

 算 術  :B

 錬金術  :C

 料 理  :A

 医 術  :C

 魔 法  :S

 ハチケンシ:EXユニーク



 【称号/加護】 

 称 号  :異邦人、破の守護竜の友、竜と大精霊の飲み仲間

 加 護  :空間と守護の大精霊の加護、破の守護竜の加護 』



となっている。

ステータスを確認する際は、念じると目の前に半透明の板が現れ、それを視ることで確認できる。

他者へ見せるかどうかは、本人の意思で他者の視界に映すことをON/OFF出来るらしい。


で、種族は読んだまんまで、ふーんて感じ。

人族?って表示は、この世界の人間とは厳密には異なるからかね?

運が低めなのはこの世界に来ている時点でお察し。 

その後に2人に会えたし、最低ではないから良いかな。

ああ、最低値はGらしい。

ちなみにこの世界の人間の成人男性の平均能力値はレベルが一般人なら5~10で、所謂冒険者はピンキリ。

だが高くても50前後らしい。

俺のレベルは高いのは、この世界に来た直後、森の中を逃げ回っている時に色んな魔物を轢き殺していたからとのこと。 

しかもあの森、未開拓地で大きさに関係なく、強い魔物しか棲んでいないらしい。

聞いてスゲー微妙な気分になった。 ホント入れ歯がなかったらどうなっていたことか・・・。

まぁ、そんなもんでレベルと能力値は高くとも実戦経験は保護者付きの狩り以外ゼロな俺。

まるで素人童貞のようだ。


称号については生活してたら生えて来た。

加護は2人が厚意でくれたもんだ。


この称号の“異邦人”ってのが良い仕事してて、詳しいことは分からなかったが、“世界の壁を通過する際に異邦(異世界)の影響を可能な限り持ち越さないよう、最適化を図られた者”って意味合いがあるらしく、まんまその最適化ってのを知らない内に受けて言語能力を得たらしい。

しかし、称号は異邦人なのに種族が異世界人とは、これ如何に。


あ、自転車とリュックサック・・・もう鞄でいいか。

自転車には2人が加護をくれたお陰で、朽ちず壊れず、殺傷能力のある謎自転車になってしまった。

どうやら、じーさんの加護には、その対象の“状態を一定に保ち続けて壊れない様、現状を守護する”というものがあり、それのお陰で錆びない、壊れない、タイヤも減らない、パンクもしない自転車となった。 例の556番も要らない仕様だ。

残念なことに生き物には使えないらしく、俺は生身の人間ボディのままである。

デトルの加護は単純に名が示す通りに“破の力”。 つまり破壊。 

上手く言えないが、自転車で走ってる最中は星を得た髭ダンディな配管工に近い状態になるものらしい。

試しに岩に突っ込んでみたら岩が真っ二つに割れた。 正直ちびりそうだった。

「普段から使えねーじゃん! 人も物も簡単に壊し過ぎちゃうじゃねーか!」

って言ったら、変成魔法?とかいうのでギアに7段目を造って、そこまで上げると“破の力”が作用するようにしてくれた。 


そして鞄はスペンスじーさんのお陰で憧れのアイテムボックスになった。

空間と守護の大精霊だけに、空間を司る力でちょいちょいと改造してくれた。

どんな大きさのものでも入る優れモノ。

し か も ちゃんと持ち主認証?みたいのまでしてくれたからありがたい。

ちなみに鞄には“破の力”はない。 鞄にそんなもんどうせいっちゅー話ではあるんだが・・・。

あ、“破の力”は無いが、“歯の力”はあった。

あの入れ歯に触れていたせいで、鞄の中身が変質した。

自転車の加護と似たような作用で、“現状を維持する”に近いのだが、鞄に入れていた酒瓶、割る用の水(これも瓶)、つまみ(チータラ、さきいか、ビーフジャーキー)、予備の煙草とライター、スマホが使っても使っても無限に中身やバッテリーが無くならないものになった。 これは単純にスゲー嬉しい誤算だった。

まぁ、お陰で称号の飲み仲間が生えて来た訳だが・・・。


ああ、スキルについては、算術は算数やら数学やら勉強してたからで、錬金術はどうやら科学知識のことらしい。

医術は病気のことや民間療法やら傷の手当や応急措置の仕方なんかを知ってるかららしく、本職の医療関係者からすれば鼻で笑うレベルでも、この世界ではCらしい。

魔法は2人に教わってたらなんか変な感じになった。 あんま人前で使うなよって言われた。

ハチケンシってのは謎。 いつの間にか在って3人で色々と試したり考えたりしたのだが全く分からなかったので放置。

無くても困るものでもあんめぇ。


適正は能力値やスキルの関係でこうなっているとのこと。

今後の生活なんかでも変動があるらしい。

現状ではごりごりの前衛脳筋に向いていそうだ。



さて、長くなったがこんな感じ。

じーさんはお役目上、時折ふらっといなくなることもあったが、それでも今日までで気付いたら1年近く3人で生活してきた。

しかし、それも今日で終わる。

そう、俺は人の街で生活することとなるのだ。

その為に今俺は、初めて3人で会った草原までデトとスペじい(この半年でそう呼ぶ様になった)の2人と共に来ている。



『・・・本当に、人間の街に行くのか?』


「ああ、今日まで世話になったな。 出会いこそアレだったけど、スゲー感謝してるよ」


【ふぉっふぉ、わしらも人の子とここまで長く関わることはなかったでな、十分楽しませてもらったよ】


『我もだな。 人と暮らすのは初めてのことだったが、なかなかに良いものだった! おぬしの世界の話は不思議なものばかりで、とても心躍るものであったぞ』


【異世界の酒や食べ物も美味かったしのぅ】


『うむ!』


「はは、そう言ってくれるとありがたい。 俺も楽しかったよ。

 また、いつか3人で酒飲めるといいな。」



こんな称号もあるし、と笑いながら告げる。



【そうじゃな、いつの日にか、またそうしたいのぅ】


『なに、今生の別れと言う訳ではないのだ! そんな機会も来るであろうよ』


「そうだな。 その日を楽しみにしてるよ。 その為にも、ちゃんと生活の基盤を作んないと、だな!」


『うむ、冒険者になるのだったか?』


「まぁ、一応ね。 街に行って、他にやりたいことや出来ることがあればそっちにするかもしれないけどな」


【それがよいじゃろう。 冒険者とは危険が伴うものであるからのぅ】



まぁ、やっぱ憧れはあるんですけどね。

ステータス高いみたいだし、無双とかしてみたいじゃん?

美女の危機とか救ってロマンスとかしてみたいじゃん?


「そうする。 ・・・さて、名残惜しいけどそろそろ行くよ。 この半年、本当に世話になった。

 ありがとう。」


【ふぉっほっほ。 よいよい、気にするでない。 むしろ、此方の世界に来る前に止めてやれんですまなかったの・・・】


「いいさ、今はこれからの生活も楽しみだしな」


『街の方角は分かるか? 忘れ物は無いか? ああ、なんならやはり我が街まで――』


「大丈夫だって! お前は俺の母ちゃんか!」


『ぬぅ・・・』


【お前さんが人間の街まで飛んで行きおったら、大混乱じゃろ。 竜が攻めてきた!とな】



やはりこの世界では竜は畏怖される存在らしく、他の生物との関わりは余り無いようだ。

あっても崇められるか敵対しているか、はたまた同じ女神の眷属である者同士がたまに会う程度か。

むしろこの半年の生活が異常らしい。



「スペじいの言うとおり。 それと街の方角はバッチリ、さっきお前の背中に乗って飛んでる時に見たよ。 人間の街で“マルレット”って言うんだろ? 持ち物は全部鞄の中だ。

 金だって装備だって、デトがくれたから問題ないよ。」



そう、デトがドラゴンの習性である財宝の収集をしたものの中から、ちょっと古めかしい感じもするが、この世界で身に着けてて違和感が無いものと金を分けてくれたのである。

なんだかんだで世話焼きでイイヤツなのだ。

そんな俺の装備はというと、

右腰に金属の剣×1、左腰には同じく金属のナイフ×2、同じっぽい金属の胸当て、肩当て、篭手。

それにガン○ムでいうスカートみたいなヤツ、あと膝から下の鎧とブーツが一体なヤツ(この辺名前分からん)。 あと指輪が1つ。

その上から茶色いフード付きマントである。 

お財布は鞄の中ですよ? 無くしたら嫌だから、もらった金はいくつかの皮袋に分けて入れてある。

折角なので同じ色味のくすんだ銀色の金属で揃えてみた。 たまに反射で不思議な色に見えるのがお気に入り。

デトのコレクションの中では余り珍しい素材では無いらしく、気前良くくれた。

指輪だけはコレクションではなく、デトとスペじいが作ってくれたものである。

なんでも指輪に魔力を通すことで、予め魔力の波長を登録した相手と念輪が出来る魔道具だそうだ。

見た目も鎧と同じ金属で少し太めになっていて、竜の爪を模した台座にアーモンド型の暗く深い色をした緑の魔石が嵌め込まれている。 指輪型ケータイ?

今の電話帳登録件数は2件です。

しかし、こんなん身に着けて動き回れるとは、レベルの恩恵サマサマである。

地球に居た頃なら10分で音を上げたね。

そんなことを考えていたらデトの元気の無い声が聞こえた。



『うむ・・・』


「そんな寂しそうにするなよ。 さっきデトが『今生の別れじゃない』って言ったんだろ?」


『そうであったな、うむ・・・』


【まぁ、お前さんの気持ちも分からんでも無いが、やはり人の子は人の営みの中で生きるのがよかろうて】


『それは・・・そうであるな』


「じゃぁ、行ってくる。 またな、二人とも!」


【ふぁっはっは。 コウよ、達者でな!】


『友よ!壮健であれ! またいつの日にか見えるまでな!』



そんな2人の笑い声と雄叫びに見送られ、俺は人間の街目指して出発した。

もちろん、自転車に乗ってギア7段にして。

だってこの地域未開拓地で強い魔物ばっか出るし。

歩いてたら死にそうで怖い。


目指すは人間の街“マルレット”!

お読みいただいてありがとうございました。

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