プロローグ
「お父さん、ペット飼ってもいい?」
娘がそういったのは、私が鍛冶屋の仕事から帰ってきたときだった。まん丸な目で上目遣いに尋ねる様に父性を刺激されてしまう。正直、この時点でなんでもいうことは聞いてしまうのだが、なけなしの父親魂を発揮させて渋々感を演出した。
「え、ペット? んー、まぁいいぞ。でも自分でしっかり世話するんだぞ!それが約束できないなら飼わないからな!」
「約束できるもん!」
「エサやりとか掃除とか、毎日しなくちゃいけないんだぞ?本当にできるのか?」
「できる!」
「じゃ、パパと約束だ」
指切りをしてから、娘は嬉しそうに顔をニコニコさせて口を開く。こちらまで頰が緩んでしまう。
「それじゃ、今から連れてくるね!」
どうやら件のペットを庭に置いていたらしい。
ドタドタと家の裏側まで駆けていった。「家入ってもいいって!」と壁越しから声が聞こえる。
この時点で、私は犬か猫だと想像していた。
ペット飼ってもいい?と聞かれた時はだいたい犬か猫だ。魔物もありうるかもしれないが、その時は娘には悪いが、衛兵に討伐してもらおう。命の大切さを学ぶにはいい機会かもしれない。
しかし、私の予想は斜め上どころか、三次元機動をして裏切られることになった。
「よしよし、いい子だからね」
娘が首輪をつけて引きずってきた『ソレ』は異様だった。うちの玄関にピリピリとした殺意のようなプレッシャーを振りまいて、そいつは我が家に入ってくる。
体長は馬ぐらいあるだろうか、頭には二本のツノが生えているバケモノだ。皮膚は青白く、黄金と漆黒でデザインされた高価とわかるローブを羽織り、鍛冶屋の目から見て伝説の武器と一目でわかるほどの凝った意匠の杖。
そいつは凶悪な牙を口から覗かせて、こう言った。
「は、初めまして。ラビンちゃんの父上殿」
それが私と第85代「六星の魔王」との出会いであった。