魔法使いは落雷と共に
8話です。前回少し遅かったので頑張って書きました。褒めて褒めて!とまあ冗談はさておき御道はどうなってしまうのでしょうか。続きをご覧ください。
「6発目~♪」怪物は楽しそうに御道の頭を掴んでは放し腹部に拳を叩き込む。3発目の時点で気絶をしたのか御道は悲鳴すらあげない。
「何だよ面白くねえなあ。痛がるなり叫ぶなりしねえとこっちも殴りがいねえじゃんか。一回起こしてみるか」怪物は雨水が溜まったバケツに御道の頭を突っ込んだ。暫くすると身悶えし始めたがとても弱弱しく抵抗できている素振りではない。そして怪物も一向にやめる気配はない。
「アッヒャヒャッヒャ!いい様だぜ!ガキの癖に夜遊びなんかしてんじゃねえよバーカ!」
麗虎も呆然と立ち尽くすしかなかった。攻撃を受けた恐怖と先程まで話していた友人が理不尽な暴力によって死の淵に追いやられている様を見せつけられているからだ。目を逸らし逃げ出すことも出来ただろう。姉や九道に助けを求めても良かっただろう。だが、自分の行動を一度看破されたことにより麗虎の脳内には逃げるという選択肢は無く、ただ涙を流すしかなかった。
「動けるんなら起きてるわな。おら!続きいくぞ!7発目ぇ!」怪物はまたしても意味もない暴力を再開した。7発、8発とリズムよく御道の腹部に拳を叩き込む度に赤色の飛沫が御道の口から溢れ出す。時々骨が折れるような音が聞こえる。
「ごめんなさい・・・私が・・・私と話をしていたばかりに・・・こんな事に・・・。」丁度怪物が10発目を殴り終えたときに九道と鈴女はやって来た。
「見つけた!って嘘でしょ・・・?」鈴女が手で口を覆いその場にへたり込む。
「くっ!遅かったか!嫌な予感がしていたが、まさか御道がこんな事になるとはな。」
もう御道は動かなくなり、その事を確認した怪物は御道を投げ捨てた。
「おおっと、またしても俺に殴られるためにお人形さんが来てくれたのかな?ってよく見たらこの間餓鬼じゃねえか!お前には散々な目に合わされたからただでは殺さねえぞ?」怪物はゆっくりと近づいてくる。
(明らかに前と雰囲気が違う上に御道が為す術もなく負けるはずがない。つーことは相当やばい状況だな。こいつらだけでも無事に帰したいが・・・)戦う算段を考えている時だった。ふと怪物の動きが止まる。よく見ると御道が起き上がり、怪物の背中に刀を突き刺していた。しかし皮膚を何とか貫通しただけで致命傷には至っていない。最後の力を振り絞っての一撃だったらしく。またしても御道は崩れ落ちた。
「惨めだね。まあそのなまくらで俺の皮膚を貫通できたその力は褒めてやるよ。だが刀が悪かったなあ。」
怪物は刀を引き抜こうとしたが刀が予想以上に深く刺さりかつ背中の真ん中に刺さっているため刀を折った。剣先が皮膚内部に残る。
「馬鹿力ってやつか。まあいいさ、これ以上肉体の中に入る訳ねえし。オラ!労いの一撃だ!」そう言うと御道の頭を思いきり踏みつけた。頭が潰れ、血液が芸術的な赤い模様を描いた。徐々に3人の顔が青ざめていく。5月に似合わず空では雷が鳴っている。
「さあて前座は終わりだ。お前たちもいい声聞かせろよお!アヒャヒャヒャヒャ!」突如怪物の真後ろに雷が落ちた。怪物が振り向くと御道だったものに落雷が落ちたようで、御道の死体が燃えている。
「あーあー。とことんまで運の無い奴だなあ。大人しく家でお寝んねしてりゃ良かったのに。」
「それはお前だよ。お前は満足して逃げ帰るべきだった。」この場にいる誰もが聞き憶えのある声がする。声のする方を見るととある住居の屋根の上にローブを身に着け大きなケースを持った御道が立っていた。
「「御道!」」御道君!」「バカな!」それぞれの反応を示す中で、御道は続ける。
「やれやれ・・・。黙って殴らせておけば調子に乗って。もう少し頭が回る混合獣なら観察で済ませても良かったが、ただの殺人鬼となれば生かしては置けないな。」
「何故だ何故だ!?何故貴様は「生きている」!?」怪物は動揺している。
「何故って・・・お前さっき自分で言っていたじゃないか。「お人形さん」って。」
「バカな!そんなはずはないあれはどう考えても人を殴った時と同じ感覚・・・。」まだ理解が出来ていないらしく、両手を凝視している。
「進化の代償ってやつだな。もういいか?真っ当な方法以外で人を超えたやつがこんなところで野放しにされている訳にはいかない。お前にはここで死んでもらうぞ。」
「うるせえ餓鬼が!もう一度同じ目に合わせてやる!」
「九道!鈴女!こいつを前から攻撃しろ!麗虎こっちに来い!」
「「了解!」」九道と鈴女は混合獣に突っ込んで行った。麗虎も御道のいる場所まで来たが、呆然としている。
「どうしたんだ?怖いのか?」優しい調子で御道は聞く。
「怖いです。強がっていましたが、私は前では戦えません・・・。また御道君を死なせてしまうかもしれないと考えると足が動きません。」麗虎が震える。
「誰も前に出て戦って欲しいなんて思ってないぞ。見ろあの鈴女の楽しそうな顔を。時々ピースしてるぞ。」7人に影分身をした鈴女が混合獣を翻弄しながら、九道が的確に八角棒による一撃を加えている。
「な?誰にでも得意不得意はある。だからお前が出来ることを最大限やろうぜ?」御道は笑顔で答えた。
「わかりました。私も戦います。けど・・・混合獣は私たちの行動の先が見えているみたいですよ?今は姉さんが翻弄していますが、決定打に欠けるというか・・・。かと言って大きな一撃を当てようにも私の槍は当たらないと思います。」背中に背負っている槍を見ながら不安な顔つきになる。
「その辺に関しては俺に対策があるから任せろ。お前は武器の扱いが得意なんだよな?」
「そうですね。初めて見る武器でも時間あれば使い方くらいは把握できます。」
「じゃあ大丈夫だな。お前には今回これを使ってもらう。俺が合図をしたら攻撃してくれ。」御道はケースから一本のスナイパーライフルを取り出す。
「これは・・・扱いとしては火縄銃に近いみたいですね。けど弾がありませんよ。」
「弾はお前の魔力だ。ちょっと後ろ向いてみろ。」麗虎が後ろを見ると御道が背中に手を当てる。すると、麗虎は背中から腕にかけて熱を感じるようになった。
「この感覚は、物を投げる時と同じ感覚・・・。」
「ようし。うまくいったみたいだな。あとはスナイパーライフルを持って俺の合図があったら引き金を引くだけだ。俺もあいつらを手伝ってくるわ。」御道は屋根から飛び降り、喧騒の中へと身を投じる。
「私・・・やります!」麗虎は覚悟を決めた。
ー数分後。現状は硬直状態に陥っていた。御道が刀で切りつけ、九道が殴り、鈴女で注意を惹く。連携が取れているように見えるが徐々に綻び始める。、時間が経つに連れて鈴女が出せる分身の数は減り、九道の攻撃に重みが無くなってきた。それに最初は優勢に見えていたが、敵は恐るべき回復力を持っており。九道一撃が通っても、、その回復力で強引に傷を癒されてしまう。
「どうすんだよ。これだとジリ貧だぞ?」九道が痺れを切らし始めた。鈴女も疲労により分身の数が3人にまでに減ってしまっている。
「あと少しってところだな。」御道は非常に落ち着ていそう答える。上空ではまだ雷が鳴っている。
「俺を倒そうとするその根性は認めるが、何故お前らは逃げない?人を超えた大いなる存在だぞ?お前ら旧人類が勝てるとでも思っているのか?」混合獣が問いかける。
「ああそうさ。現にお前は逃げるまで時間があったはずなのに逃げることをしなかった。それはお前のその大いなる力による驕りだ。そんな奴に人を超えたとか言われても説得力がまるでない。だからお前にはこの世界には必要ない。」
「フン。現に俺を追い詰めてすらいねえじゃねえか。致命傷の一つでも与えてみろよ。」
「お望み通り。お前には朝日もう朝日を拝ませない。」御道は刀を握った右手を高く上げる。麗虎がスナイパーライフルを構え直し、混合獣に狙いを定める。(餓鬼だと侮っていたがこいつら中々やるからな。特に目の前の餓鬼は他の奴よりも異質だ。だからこいつから目を離さない方がいいな。)混合獣は御道を凝視し、他の者は気にも留めない。お互いに動かない時間が続きあたりは静寂に包まれる。永遠に続くと思われたその時間は動き出した御道によって切り裂かれた。御道が右手を振り下ろすと同時に呪文を叫ぶ。
「雷撃!」途端にそらから轟雷が降り注ぎ、混合獣の体を直撃する。
「グアアア!(何故だ?俺には未来視があるはず・・・何故見えなかったんだ!クソッ体が動かん。)」思いもよらぬ方向からの攻撃により電撃を受けてしまった混合獣は体が痺れて動けなくなってしまった。そして御道の合図を確認した麗虎がスナイパーライフルの引き金を引く。麗虎の全魔力を結集した魔力弾は鋼鉄かと思われた混合獣の首元を貫き、頭部と胴部を分離してしまった。こうして混合獣は膝から崩れ落ちた。
「やったのか?」九道が尋ねる。
「まだ死んでないように聞こえるからやめろ。」
「いやだって一瞬で終わっちゃったし。俺も色々ありすぎて頭の中が混乱しているというか。」九道が頭を掻きながら混合獣に近づく。生きているかどうか確認するために足で小突く。反応は無い。
「よし死んでるな。なあ御道あの落雷もお前の魔法なのか?」
「そうだな。けど俺は落雷を発生させたんじゃなくて、落雷を誘導したんだ。落雷そのものを発生させるんなら魔術師にならないとできないだろうな。」
「お前はお前で大変そうだな。お、白鳥妹が来たみたいだぜ。」振り向くと麗虎に抱き着く鈴女の姿があった。鈴女は嬉しさのあまりに涙を流している。
「ったく。仲いいんだか、良すぎるんだか。」九道がため息をつく。しかし、少しすると疲れからか麗虎が倒れてしまった。慌てて鈴女が揺り起こそうとする。
「魔力切れだな。始めてにしては上出来だが、出力調整の仕方を教えて無いからこうなるわな。」
「ちょっと!?これ大丈夫なの!?」
「一日寝たら治るけど明日は学校には行けないな。」
「駄目じゃない!麗虎ちゃんが休むなら私も休む!」
「馬鹿言ってないで帰るぞ。麗虎は俺が運ぶから。」御道は麗子をお姫様抱っこした。
「よ。似合ってるぞ王子様。」九道が冷やかす。
「おめーもくだらないこと言ってないでさっさと帰った帰った。」
「あいあい。じゃあまた明日な。」
「鈴女も前を歩け。俺は、お前の家完璧に憶えた訳じゃ無いからな。」
「わかってるわよ。付いてきなさい。」鈴女が先導し、その後ろを御道が付いて行く。そしてその後ろでは頭部のない混合獣が起き上がり、御道に飛び掛かろうとしていた。しかし、その野望も夢に終わる。
「大爆発。」そう御道が呟くと、混合獣の肉体に入りこんだ刀身が赤く煌めき、爆発した。それにより、混合獣は再起不能まで粉々に吹き飛んでしまった。こうして、御道達の混合獣退治は幕を閉じた。
白鳥家前。御道は麗虎のお世話係の人に麗虎を預け終わったところであった。鈴女が頭を下げる。
「今日はありがとう。麗虎ちゃんを守ってくれて。頭の怪我の方も軽症で済みそうだし。」
「礼を言うのはこっちの方だ。俺一人じゃあいつには勝てなかった。お前らには感謝しても足りないくらいだ。」
「そうでしょそうでしょ?もっと褒めてもいいのよ!」鈴女が胸を張る。
「はいはいすごいすごい。んじゃ俺も帰るわ。お前も無茶しないようにしろよ。かわいい妹のためにもな。」
「な、何よそれ!あと適当に流すなゴミ道!」鈴女は怒りながら腕をブンブン振り回していた。
御道は後ろ振り向かずに手を振りながら曲がり角に消えていった。
家継の部屋。ドアを開け中に入ると同時にベッドに倒れこむ。疲労困憊だ。一日に3つも魔法を行使するものではない。人形そのものは父さんから貰ったものだからいいが、操作していたのは紛れもない俺だ。操作時間が普段より長かったこともあいまったりした結果俺自身も魔力切れを起こしている。
「明日は休みだな。まあ皆勤なんて別に必要ないが、黒橋を相手する奴がいないじゃないか。しゃーねー明日のことは明日考えよう。」御道は目を閉じた。いつも以上に早く、深い眠りへと落ちていった。
続く
8話を読んで頂きありがとうございました!ちょっとした区切りが付きましたね~。私はの場合ネタがあるけど書く時間が無いので気長に待っていただけたらなと。次回は黒橋寄りのお話があるかもしれません。というわけでまた次回でお会いしましょう!