雲行き怪しく
遅くなりました!週一とか言ってましたけど間に合ってませんね・・・。忙しかったんで許してくだせえ・・・。
討伐日の朝。GW最終日にしては曇天が広がっており雨が降りそうだ。そんな中俺は自分の家の道場に向かっていた。道場といっても山の中にあるのではなく麓にある公民館のような建物丸々が御道家が所有している道場である。別館などもあるが遠方から来る者に宿を与えるために軽く宿舎と化している。この道場の師範代をしている上に、師範である母さんが中々帰ってこないので、必然的に顔を出す回数が増えていた。うちの道場は嫌いじゃ無いんだけど雰囲気が怖いのと門下生全員が俺より年上ということもあり、あまり長居はしたくない。晩の件もあるし、今日は顔を出して少し筋トレするぐらいにしておこう。そして道場の扉を開けると・・・。そこら中にいた門下生がいっぺんにこちらを向き鼓膜が破れそうな程大きな声で。
「「「「「「「「「「おはようございます!師範代!」」」」」」」」」」
「お・・・おはよう。」師範の息子であるだけでこの対応。来るたび毎回これだから困る。
「師範代!来てくれたんですね!俺たち感無量です!」
「師範代!今日の稽古は何をするんですかい?」
「あー待て待て!順番に聞くから一旦落ち着かせてくれ!」
何十人ものマッチョメンに押しかけられ暑苦しいし息苦しい。一人一人が鍛錬バカであり、母さんが海外から連れてきた立派な門下生だ。大半が元軍人とグレーゾーンから構成されているが。母さんがいなくなる理由は世界中を回って強い奴と戦って勝つことらしいが、度が過ぎているというか・・・ロシアの軍事基地に対して試合と称して攻め込み一人で制圧したとかなんとか。他にも色々な所に神出鬼没に現れては死合をしているらしく帰ってくるたびに新しい門下生を連れてくる。最初は日本語が喋れなくても門下生の古株が気合で教えているそうだ。おかげで日本人顔負けの日本語が話せている。授業料は宿泊費込みで6万円(食費や水光熱費は含まれていない)だそうで炊事や洗濯なども自分達でしている。そんな彼らの目標は師範である母さんを倒し、師範代の地位を得ることらしいが、ここにいる門下生100人で戦っても太刀打ちできないのが現状である。決して弱い訳ではない。母さんが強すぎるのだ。毎日8時間以上の鍛錬を積み重ねて師範代になろうとしている門下生に、息子であるだけで師範代の俺がいてもいいのかと負い目を感じている。実際俺も弱い訳ではないが、かなり手加減してもらった時に運よく勝てただけでしかも6歳の時の話である。多分面倒事を押し付けたかったんだろう。よって俺は胸を張って師範代を名乗れている訳ではない。
「俺は一応軽く筋トレをしに来ただけなんだけど。」
「軽くですか・・・それなら腕立て200回から始めましょうか。」
「お前らの軽くは基準にならねえよ・・・。ひとまずお前らのメニューをこなした後に打ち合いしてくれ。」
「了解です!お前ら!まずは山登り10往復だ!」
「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」」」」門下生は全員走り出して行く姿を一番の古株であるジョージが彼らを見送っていた。
「ったく・・・。あいつらは毎日こんなこと繰り返してるのか?」
「週6日はあんな感じです。休日は自由時間ですが大抵のものはすることがないので自己鍛錬です。」
「そこまでして母さんに勝ちたいのか?てか仕事しなくても収入はあるのか?」
「収入に関しては退職金や貯蓄があります。師範殿に勝つということは我らの人生のゴールみたいなものなので是が非でも勝ちたいのですが・・・銃で撃っても刀で弾かれてしまうような方に我々が勝てるのか・・・実は不安であったりもしています。それに師範殿は帰ってきて年数回。しかも帰ってきたとしても全く相手にされないこともあるのです・・・。」拳を固く握りしめて涙を流している。
「確かに母さんは自由奔放だからな。今もどこにいるかわからんし帰ってくるたびに門下生を連れてくる。お前らは寂しくないのか?俺からしたら振り回されているようにしか見えないぞ。」
「確かに師範殿の考えていることはわかりませんが、それ以前に師範殿にお声をかけて頂いたこと。国や言葉が違えど、ただ師範殿を倒すという目標1つで集まった同志との鍛錬の毎日が何にも代え難い物になっているのです。」日本人顔負けの流暢な日本語で熱意を語るジョージ。こちらが目を逸らしたくなるほどの熱い視線は、自分の考えの甘さを悔いる程だ。
「そうか。それよりも、あいつらを追わなくていいのか?一番の古株のお前が行かなくて誰があいつらを仕切るんだ。」
「そうでした!師範代は着いて来ないのですか?」
「俺は顔出しに来ただけだし、自主トレしたらすぐに戻るわ。多分お前らが山1往復しない間にいなくなってるよ。」
「そうでしたか。では私も行って参ります。」ジョージもこの場を去った。
「母さんはどこにいるんだろうな。最近全く連絡ないし、父さんも電話くらいすればいいのに。」
俺はしばらくの間考えに耽っていた。
一方その頃。御道邸高次の部屋。大量の本や箱が詰め込まれた本棚が乱雑に並ぶ部屋の中心に高次がいる。
「ふーむ。色そのものは変える必要は無いが、足りないのは派手さだろうな。装備を増やしてもいいと思うが重量がなあ。コストも考えると数を増やしてもいいかもしれないな。けど数を増やすを置く場所が・・・。」何か考え事をしているのかブツブツと独り言を言っている。
「いやーいつ見てもこのフォルムは最高だ・・・。人類が生み出した英知の中でも最高級だ・・・。じいさんのお下がりも組み立ててもいいが部屋が狭くなってきたな。いっそ家継の部屋と入れ替えても・・・。」
そんな小さな目論見を看破せんと勢い良く高次の部屋の扉が開け放たれた。扉の前には右手に掃除機を持った。莉子が立っていた。
「父さん!あれだけお部屋を片づけてと言ったのに、むしろ散らかっているじゃない!」ダンと叩きつけられた掃除機の衝撃で棚にあった美少女フィギュアが本棚から落ちてくる。
「あー!俺の貴重な天矢ちゃんのフィギュアを!娘と言えどそれは許されんぞ!」美少女フィギュアを抱き抱えて隠している。
「じゃあ日頃から片づけて置けばいいのです!天矢ちゃんフィギュアってこれおじいちゃんの家にあったやつじゃない!私も欲しい!」
「わかった、わかった。それあげるから今回は見逃してくれ。次はちゃんと片づけて置くから。」
「やったー!けど次来るまでにちゃんと掃除をしておいてくださいね。」左脇にフィギュア右脇に掃除機を抱えて莉子は出て行ってしまった。
「我ながらかわいい娘を育てたものだ。さーて!続きをサクッと作っちゃおう!」続きを作ろうとしたその時またしても扉が開き莉子がドスドスと入ってきた。
「さあ父さん。掃除をするから出て行って。片付いていないのは大目に見るから。」高次は摘み出されてしまった。
「前言撤回だ・・・。」
こうして高次の部屋は綺麗に片づけられたのであった。
討伐日夜。今日はそんなに天気が良くないせいもあってか月は雲に覆い隠されており重々しい雰囲気が広がっている。天気予報では強い雨が降る可能性もあるらしく、ポツポツと雨が降り注いでいる。
「傘持ってくるべきだったかな。濡れたら風邪ひいちゃうかもしれないね。」麗虎が滑り台の上で退屈そうに集合の時間を待っていた。
「降り出す前に片づければいいのよ。実際今回は4人いるわけだし、戦力的にはこちらが有利よ。」滑り台の下では鈴女がもたれかかって雨を避けている。
「だといいけど。お、御道君たち来たみたいだよ。」麗虎が指をさす方向に二人組の少年が歩いてくる。一人は法衣を纏いもう一人は半袖半ズボンで帯刀をしている。
「早かったな。時間通りで良かったのに。」
「姉さん張り切っちゃって。昨日の夜も寝かせてくれなかったのよ。」麗虎は鈴女の昨夜状況を嬉しそうに語る。
「ちょっ!麗虎ちゃんそれは内緒でしょ!それに、いっしょに昼寝はしたから大丈夫よ!」
「いっしょにね。姉さんは小さいときから一人で何かするの嫌がってたものね。お父様に怒られて私といっしょに倉に入れられそうになった時はさすがにこまったけど。」ここぞとばかりに恥ずかしい過去をばらされ、徐々に顔が赤くなっていく鈴女。
「もー!恥ずかしいから言わないでよ!行くわよゴミ道!極道!」鈴女は恥ずかしさのあまり走り去ってしまった。
「「その呼び方やめろ!」」麗虎はお腹を抱えて笑っている。
鈴女を追いかけてから混合獣を探し始めて1時間が経としていた。しかし混合獣どころか魂喰らいも見つからない。
「おかしいな。人の目が多い分見つかりやすいはずなんだけど。一回分かれて探すべきか?」九道が痺れを切らして、こんな提案をしてきた。
「そうね。二人一組で探すのはどうかしら?」鈴女が提案に乗る。
「わかった。じゃあじゃんけんで勝った方と負けた方でチーム分けするか。」
「え1?ここって普通男と女で分けるもんじゃないの?」
「お?鈴女様はじゃんけんの自信が無いのですか~?天才忍者様の末裔ならじゃんけんに勝つくらい容易いのでは~?」今までに見たこと無い程に悪い顔をした御道が挑発する。
「ふ・・・ふん!私にかかれば御道に勝つくらい容易い容易い!見ててね麗虎ちゃん!私絶対勝つわ!」鈴女の目に闘志が宿った。じゃんけん後・・・。
「なんで麗虎ちゃんが負けるのよ~。私が勝った意味って何よ~。」泣きながら麗虎の胸をポカポカ叩いている。
「おいおい。時間無いんだから早く行くぞ。挑発に乗ったお前が悪い。」九道が鈴女を引っ張って連れて行く。
「いや~!この極道~!ゴミ道私の麗虎ちゃんに手を出したらただじゃ済まさないから!」
「うるさいお姉さんだこと。あんなのと毎日いるのか。」
「そうですね。ちょっと頼りないところがかわいらしいでしょ?」
「一理あるな。そういえばお前らって姉妹だけど年の差無いよな?」
「私と姉さんは双子ですね。少しだけ姉さんの方が早く生まれただけで、お父様も私の方が先に生まれれば良かったと言ってますね。」
「そうかもしれないが。あいつはあいつでお姉さんしようと頑張っているからな。ちょっと背伸びしてる感じが見ていて面白い。それにお前の方が背が高いのも重なってますますあいつがお前の妹にしか見えないな。」
「姉さんは忍術は出来るものおっちょこちょいで動作がぎこちないことが多いんですよね。それに比べては忍術が一切使えないのでこの肩と身体能力をを生かし、お互いの短所を埋め合わせて頑張ってるわけなんです。」
「ということはお前は本来は前で戦うタイプなのか?」
「武器に関しては人通り使えます。この前は姉さんが意地を張ったせいで姉さんが前でしたが。」
「あいつの強情も考え物だな。ところで全然見つからないんだが。」気が付けばまた1時間が経とうとしている。
「お喋りしてたのもそうですが、人影も無いみたいですしもしかしたら今日はいない日かもしれません。」
「だといいけどなあ。それはそれで無駄足だから嫌だけど。」
「一回姉さん達と合流した方がいいかもしれませんね。」
「そうだn」言い終わる前に御道の体がすごい勢いで前に吹き飛ぶ。反転はできたものの塀に激突してしまう。
「御道君!」金切り声に近い麗虎の声が響く。慌てて向き直るとそこには以前見た混合獣がいた。しかし見た目が大きく変化しており。九道によって砕かれたという腕は再生し丸太のように太くなっていた。そして混合獣は麗虎に話しかける。
「この前の嬢ちゃんじゃねえか。あの時のお礼を返しに来たぜ。」混合獣は手を伸ばすが麗虎は素早く距離を取る。が、先を読んでいたらしくすぐに間合いを詰められ頭を掴まれる。人の数倍もの握力で麗虎の頭に圧力がかかる。
「ぐっ・・・あぁ・・・」麗虎はうめくことしかできない。
「頭。潰すには惜しいよなあああ。けど掴まないと逃げちゃうしなあああ。やっぱ潰すかあ!」さらに頭にかかる力は強くなる。
「放しやがれ!」頭から血を流した御道が麗虎を掴む混合獣の腕をを刀で切りつける。それでも鉱物のように固い混合獣の皮膚に傷をつけることはできない。
「固てえ。金属か何かかよ!」すぐさまもう一度切りかかろうとするが腕を掴まれて、地面に叩きつけられる。
「ゴフッ・・・」血を吐き、起き上がることができない。
「何だよ弱えなあ。ちょーと進化しただけでこの様とかまるで歯ごたえが無いな。」
「男の方が耐えられそうだし、お前はもういいわ。」麗虎を掴んでいた手の力は弱まり麗虎は解放された。
「さああて。10発は耐えてくれよお!じゃないと殴りがいが無いからなあ!アヒャヒャヒャヒャ!」
化け物の声がこだまする。異変に気が付いた九道達は間に合うのか?
続く
7話を読んで頂きあいがとうございました!気が付いたら7話も投稿していますね。これからも頑張って書くので楽しみにお待ちください!ではまた次回お会いしましょう!