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魔法使いは帰宅部!まほきた!  作者: おこげっと
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お茶会と混合獣と

どうも、最近あらすじ的なものを付けようかと思いましたが、ネタバレに繋がりそうなので無しとさせて頂きます。やっぱこう・・・どうなるんだろうって気持ちで小説みたいじゃん?(当社比)まあそんなこんなでもう5話です。お楽しみください。

 あれは何時だったろうか。先生に聞いたことがあった。

「先生、僕は何の為に生まれたんでしょうね!」当時5歳だった俺は好奇心旺盛で、若干大人びたような質問をした。思えばあの時先生が濁してくれたら絶望しなかったのに。

「え?実験道具になるためだよ?」一切悪びれることも無くに口にした。幼い時の記憶は無く、気がつけば俺は先生の工房にいた。どこから来たのか何故先生が俺を引き取ることになったのかはわからないが、そこからは生きた心地がしなかった。忘れようとしても先生の顔を見るたびに思い出す。普段はあまり会話をせず、無限とも言えるほどの書物が保管された書庫で本を読みふけることしかすることがなかった。いやまあ、5歳児が哲学書読めてることもすごかったが、今にして思えばそれが悪手だった。並外れた知識が結びつける答えは身の危険。だが周には頼る人間はいなかった。そして俺は7歳のときに実験体になった。混合獣(キメラ)としての人生が始まってしまったのだ。

 

 GWの中程。休みにも関わらず今日も華菓子屋は賑わっている。そんな昼過ぎの華菓子屋に二組の男女が座る場所を探していた。

「ここでいいだろ?長話するつもりも無いし、椅子も4つだ。」御道は答えを聞くまでも無く座る。

「そうね。随分と久しぶりに来た気がするけど相変わらずどこぞのフードコートみたいな所ね。」鈴女は辺りを見回しながら座る。普段はあまり来ないらしく客の流れを眺めている。

「おいおい。今回の首謀者さんが呑気に座ってていいのか?お前がこの前の礼がしたいって言うかこうして来てやったのに。」

「そ・・・そうだったわ。早速スイーツを買いに行かないと。麗虎ちゃんと黒橋君は何がいい?」鈴女は立ち上がりながら二人に聞く。

「俺は聞かねーのかよ。まあ付いて行くからいいか。こいつだけだと何か起きそうだしな。」御道も立ちあ上がる。

「姉さん付き添って貰うのは私も賛成です。姉さん私はモンブランをお願いするわ。」微笑みながら答える。

「じゃあ僕は、クッキーをお願いしようかな。それなら皆で分けられるしね。」

「OKOK、ほら行くぞ。」御道は足早にレジへと向かう。

「あ!ちょっと待ちなさいよ!私が支払いするんだからね!」鈴女も慌てて追いかける。

「ふふっ。姉さんったら完璧に御道君にペースを持っていかれてるわね。」そう呟くと持ってきていた小説を読み始めた。沈黙が続く。思えば御道君や鈴女ちゃんがよく喋るせいで僕はこういう時に切り出せる話題を持っていない。気まずい沈黙が続く中この状態をどう打破すべきか考えていた。そもそも読書の邪魔をしたら不味いか・・・などと良くない詮索を巡らせている。結局耐え切れずに話を切り出す。

「あの、白鳥さん・・・。」緊張しているせいか少し声がくぐもっている。

「姉さんは鈴女ちゃん呼びなのに私はさん付けでしかも苗字なのね。」いつもの落ち着いた調子の声が聞こえたことがかえって僕の胸を刺す。

「あ、ごめんね。鈴女ちゃんは何かこう・・・呼びやすいんだけど。麗虎ちゃんって呼びにくいんだ。」弁明するが感覚的なものなので理由になっていない。

「もしかして緊張してますか?私はこんな静かな感じですがもっとラフに話してくれても大丈夫ですよ。」

「そうか、じゃあまず。この間は助けてくれてありがとう。」ペコリと頭を下げる。

「そんな、当然なことをしたまでですし。黒橋君や姉さんに怪我でもあったら大変でしたからね。」

「あれは本当にびっくりしたね!でも麗虎ちゃんも鈴女ちゃんもすごいよね。あんな怪物に物怖じせずに立ち向かえるなんて僕にはとても・・・。」肩を落とす。

「それを言うなら御道君にですよ、彼がいなかったら姉さんは今頃・・・感謝してもしきれません。それに私は後ろから鉄パイプを投げてただけですし・・・。」辛そうに目を背ける。こんなおしとやかな麗虎ちゃんだが服には暴風という文字がプリントされたTシャツを着ている。

「そういえば、御道君にちゃんとお礼言えてなかったな。後でちゃんと言わないと。」

「別にいいよそんなもん。堅苦しいし、第一友達だろ?助け合うのは当然だ。」御道が買ってきたお菓子を机に置く。頼んだクッキーのほかにも、御道君が買ったであろうザッハトルテや、その場に似つかわしくない醤油煎餅がある。

「ここお菓子なら何でもありそうって位品揃え豊富よね・・・って御道のバカ!なんで私がおごるって言ってるのに御道が会計してんのよ!これじゃ意味無いじゃない!」顔を真っ赤にして怒っている。

「またこれで貸しが増えたな。」ニコニコしながら御道はザッハトルテを口にする。なぜか御道君も雷音と書かれた文字プリントTシャツを着ている。一方鈴女ちゃんだが、いつもより気合を入れておしゃれしてきたようにに見えるが、言動で全て台無しになっている。

「んじゃいきなり聞くけど、あの日のことまだ憶えているか?」御道君の声のトーンが低くなる。

「忘れる訳ないでしょ。あんなの。」鈴女が答える。

「だよな。まああんな凄惨な光景を見ておいて動じていないお前らのメンタルの強さは尊敬に値するが、あれは一夜限りの幻だ。これに懲りたら、迂闊に夜に出歩くのはやめろ。」

「けど御道君だって、夜に出歩いているじゃないか。いくら駆除する側の人だからだと言っても一人じゃ危険すぎるよ!それに友達だ何だっていって僕を遠ざけてるのは御道君じゃないか。僕もいっしょに行くよ。」僕は立ち上がって熱弁する。普段の僕から想像できないのか白鳥姉妹は固まって話を行く末を見守っている。

「だからさ。俺は今ここにいる3人に言ってるんだよ。3人とも被害者であり、俺の友達なんだ。けど俺の事情を知ってしまったってことは黙ってられない奴ばっかだ。別に黒橋だけに言ってるんじゃない。お前ら3人に忠告してるんだよ。友達である以上は危険に晒されて欲しくない。遊びじゃねえんだ。この間だって俺が間に合ってなかったら、鈴女は喰われてたかもしれないんだぞ。」その言葉に鈴女ちゃんは身体を震わせた。少なからずあの恐怖がまだ目に残っているのだろう。

「とにかくだ。お前らはこの件とは関わらなくていいし、関わったとしても命の補償はしない。なんなら俺がお前らを殺すことも視野に入るだろう。」一言一言が重く響く。

「んじゃ。俺はこの辺で、ケーキ美味かったぞ。あ、金出したの俺だったか。」御道君は席を立ち店を出て行った。

「まあ、あいつらしい答えよね。けど、考えが甘いわ!言葉で封じられるほど私達はか弱くないっての。じゃあ解散にしましょっか。黒橋君!良い休日を。」白鳥姉妹も去っていった。こうして僕ももやもやしながら家に帰っていくのだった。


 目が覚めた。今日もやってきた「俺」の時間。いつもは夜なのに今日は朝方に回ってきた。綺麗な朝日をと思ったがここは下水道。朝日なんか拝めるはずもなく、確認方法は腕に巻いている時計のみ。ひどい悪臭だ。人に見つかりにくく、近くに水場がある場所をカエルの奴は選んだのだろうが、それは大きな判断ミスだ。8時間ごとに肉体の使用権が移る俺たちではその考え方は裏目に出る。今もなお、地上に出たくて仕方ないが、公衆の面前にこの晒すわけにはいかない。よって夜が来るまでおとなしく待つか人目に付かなさそうな場所を選んで這い出すしかないが、現状この町に来てそんなに日が経っていないので地理の把握もまま無いっていない。出来ることはこの悪臭に耐えながら周囲を散策することくらいだ。この間もゴリラの奴が何か食べたのか胃が重かった。その上、腹部に2本も鉄パイプが刺さっていて抜くのも一苦労だった。あの時の痛みときたら悶絶ものだ。混合獣になって今年で15年。先生の下から離れて10年が経過していた。相変わらずゴリラやカエルの考えている事はわからないが、少なくとも俺に迷惑をかけようとはしていないらしい。が、基本は本能で動く上知能が乏しいこともあってか、意識が戻ると怪我をしていることや、縄張り争いの途中・・・なんてこともあった。最近阿原町に来たのにはもちろん理由がある。

1つは食料の確保。混合獣と言えども生きていくのに栄養は必要だ。ただ普通の動植物だけではこの肉体のエネルギーを賄い切れない。それを克服するのがまず一つ。

2つ目はさらなる進化の可能性の模索。以前先生がおぼろげに語っていた俺の進化の可能性。必要なのは同じ人間の魂で、魂と肉体の相性が良ければ肉体は自然と魂を受け入れるらしい。仮に魂が身体に合わなかったとしても、栄養として肉体に取り込むことが出来るのだ。こうして色々な魂を取り込むことによって人を超越するのが俺の生きる意味らしい。混合獣にされたのも人を捕食しやすくするためだった。先生の考えはとても素晴らしいが倫理感がない。自分は観測者として安全な場所から見ているだけで、危険な実験の肝心な所は俺に任せる。出て行った日も新しい動物をくっつけるとか言ってたなあ。まあもう先生殺したから関係無いけど。今出来るのはこの下水道をうろつくか寝ることだけ。今日は運が悪かった。さっさと寝てあいつらに身体を明け渡そう。目を閉じるとすぐに意識が遠のいていった。


 鈴女と麗虎が家に帰る途中1本の電話が掛かってくる。掛けてきたのは御道だった。

「もしもし?私の電話番号知ってたのね。」

「この間自分で掛けたのを忘れたのか?まあいい。本題を切り出してもいいか?」

「いいわよ。どーせ禄でも無い事なんでしょ?」

「まあな。単刀直入に言うとだな。お前ら夜に出て混合獣のこと探そうと考えなかったか?別に怒りたい訳じゃないから、正直に答えてくれ。」声は軽い感じで問い詰めているという雰囲気は無かった。

「そうよ、私と麗虎ちゃんでしっかり連携が取れれば、勝てるんじゃないかと思う節があったの。この前は黒橋君を逃がすので頭が一杯だったけど万全の状態なら負ける気はしないわ。」自信満々に答える。

「まあそう言うんだろうなって思ってたよ。いいぜ。そんなに自信があるんだったらお前らの実力測らせてもらおうじゃないか。」ノリノリで御道は答える。

「ちょっと待って。さっき散々命の保障がとか言ってたくせにあっさりOKするの?」

「あれは黒橋を撒くための策略みたいなもんだ。あいつは戦闘能力を持ち合わせてない普通の人間だ。だから手を引いてもらう必要があったんだよ。」淡々と話す。

「あんたも随分エグイことするのね。まあ黒橋君はいない方が実際戦いやすいししょうがないといえばしょうがないわね。んで?混合獣退治は何時やるの?」

「来週の月曜日というか、GWの最終日だな。それまで奴に餌を与えないように魂喰らいもしっかり退治しなければならない。詳しい話は明日するよ。」

「了解よ。じゃあ明日ね。黒橋君に悟られちゃ駄目よ。」

「お前もな。案外ポロッと漏らしたりして。じゃあ切るわ。」プツッと無愛想に電話が切れる。

「勢いで受けちゃったけど・・・大丈夫よね!麗虎ちゃん!」鈴女は笑顔で麗虎に振り向く。

「私の意見も反映させてよ姉さん。私も賛成だけど、御道君とお話したかった。」不満そうに麗虎は口を尖らせる。

「じゃあ次は麗虎ちゃんが電話を掛けていいわよ!電話番号教えておこうか?」

「いや・・・そういう問題じゃなくて・・・」麗虎は照れながらもスマホを取り出し、御道の連絡先をゲットした。


 またしても「俺」の時間がやって来た。相変わらず下水道にいたが、時計を見ると深夜を指している。あれから二日経ち世間では日曜日と呼ばれる日になっていた。よし、身体も動く。ゴリラもカエルも俺に気を使っているのかあまり激しい運動はしなかったようだ。あくまで元の体の持ち主は俺というのもあるが、きっと俺の人としての悩みを本能的に察しているのだろう。聞こえていない筈の二人にありがとうと呟き、下水道から這い出す。夜の空は昼間の活気とは遠いもので誰もいない世界を照らす月を雲が隠そうとしていた。暗いのなら奇襲に持ってこいだ。早々に今夜の獲物を探すために高所に上る。いた、今日の獲物だ。殺人事件の影響などでこの町の住民は滅多に外に出ないが、今日は1人の青年が闇の世界に迷い込んでいる。体が疼く、あいつはとても美味いと。気がつくと俺は獲物に向かって走り出していた。


 夜の阿原町。この間の出来事から夜に家を出なかったけど、やはり夜の町は不気味な程に静かだ。まるでこの町の人々は夜を避けていて早く朝になれと願っているかのように。何故僕が出歩く必要があるのかと聞かれると素直に答えられない。昨日の白鳥姉妹の話を聞いて言葉で抑えられたくないという反発意識からだった。実際御道君を裏切ることになるので、出会ってしまえば半殺し確定だが、そんなことに怯えていては御道君の友達は務まらないだろうと考えていた。あんな風に言うということは僕に何かしらの試練を与えているに違いないと思った。このまま何事も無く学校まで行って帰ってこられたらGW明けに御道君に自慢してやろう。「僕は一人でも大丈夫だった。夜なんか怖くない。」という風にね。現にもう学校前の大通りが見えてきた。あとは校門に触れて回れ右して帰るだけなんだ。よし、校門に触れられたもうここからは怖くないぞ。そんな僕を裏切るように後ろでドスリという音が響いた。振り向きたいけど振り返れない。僕は東に向かって走り出した。華菓子屋と僕の家の反対方向だが、家に向かって走ってもどうしようもないと僕の脳が直感的に判断した。走る。走る。走る。足が燃え尽きるほど。肺が焼け付きそうなほど全力で走った。しかしそれも儚い妄想に終わってしまった。走り出して直ぐに右腕を掴まれてしまう。観念して異形の姿を視界に入れた。僕は運が良いのか悪いのか。御道君が話していた怪物に遭遇してしまった。それに僕を食べようとしているのかじりじりとこちらに引き寄せようとしている。何か手は無いのか周りを見渡しても何も無い。腕時計が示す日付を見て僕は希望を失った、今日は日曜日。100%御道君は助けに来ない。僕はあきらめた。素直に御道君の忠告を聞けばよかったと。


 獲物は学校の校門の前にいる。一見するとただの一般人だがそれでいい。むしろそうでなくてはいけない。さっさと食事を済ませなければ。降り立つとすぐに逃げ始めたが、この肉体の前では逃げることは不可能だ。捕まえて少しは抵抗していたが何かに気がつくとすぐに抵抗をやめた。最初から抵抗しなければ良いものを奥から人が近づいている気がするが、こいつを見せしめに食っていたら驚いて逃げるだろう。さあ頂こう久しぶりの食事だ。


 

「うわあ・・・ああああ・・・」ポロポロと涙が零れる。死を実感しているから、友人を裏切って得た答えがあまりにも残酷で愚かだった事に対する絶望から。死を与えるものを一度は直視したが、これから自分を喰らう者など見たくは無い。目を逸らし前をみると涙で歪んでよく見えないが人影が見える。お坊さんのように法衣を見に纏い、長い棒をつきながらこちらに近づいてくる。駄目だ・・・あなたまで食べられてしまう早く逃げて・・・。声を出そうにも恐怖で声が出ない。徐々に引き寄せる力が強くなる。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だまだこんなところで死にたくない。絶望に打ちひしがれていると、お坊さんらしき人が声を発する。

「あれ?こいついつも見る奴と大分見た目が違うな。まあ浄化すれば皆同じか。」棒を異形の前に構えると棒が白く光りを放つ。

「どういう経緯かは知らんがお前。すぐに助けてやるぞ。」想像していたよりも深みのある声だが、顔を見ても同い年か近い年にしか見えない。身長はゆうに180mを越えている。青年が素早く近づき棒で異形の右腕を叩くと、恐ろしい叫び声を上げながら地面にのた打ち回る。そして僕は、謎の少年に引き寄せられる。

「まあ終わるまで見とけよ。大してすごいものでもないけどな。」謎の少年は一気に前に跳躍した。

続く。


5話を読んで頂きありがとうございました!これであらかた主要人物出したつもりなのですがまだまだ増えるかもしれません。というかまだ最後の少年の名前わからなじゃないかって?また来週お会いしましょう!

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