rebath world
気が付いたら夏終わりかけてました。
8月21日
そろそろ家継と接触しておこう。この世界に入ると勝手に自分の存在を決めてくれるのはいいが、ある程度話を合わせないと決められた環境から抜け出せないのが玉に瑕だ。まあ、私が作ったんだけど。安全に「本」を保管しておくに重要なのは厳重な封印をするのではなく、ただ何気なく過ぎ去っていく日々の一部に溶け込ませておくこと。何処かの部屋の本棚に収納されているそれが一番自然で、しかも手間がかからない。まずこっちの世界に入ってこないといけないしね。話さえ合わせあれば取りに行くことも出来る。まあ、肝心の場所が私にもわかってないんだけどね。この世界が終わる条件。それは家継が目を覚ますことだが、当分はありえないだろう。何処かのタイミングで見切りつけてもいいんだけど、割と完成度高いから長居しちゃうのよね。おかげで私の計画全く進んで無いし。この週が終わったら一旦外に出るか。
嫌だ嫌だ嫌だ。あいつだけは、止まるな走れ、逃げるんだ。あいつに捕まったら
「別に逃げなくてもいいんじゃない?」
目の前に彼女がいる。ワープしたのか?冷静な状況判断が出来ない家継では、どのみち関係のない話だった。ただ一刻も「彼女」から逃げたいのだ。
「うるせぇ!」
慌ただしく刀を振り下ろすが、あらぬ方向の空を薙ぐ。「彼女」が避けたのではない。恐怖で家継は自然と「彼女」から狙いを逸らしたのだ。薄い笑みを浮かべながら「彼女」は笑っている。
「くっそぉぉぉぉぉ!」
家継は走る。異常なほどの汗を掻き、息が切れ、足がもつれ倒れそうになっても走り続ける。「彼女」は家継につかず離れずの速さで中空から漂うように家継を追い続けている。
ふと目の前に、一つの影が現れた。手入れされていないぼさぼさになった長髪、体中の肉という肉が痩せ、日を浴びてない肉体が異様なまでに白かった。サイズが合っていない服を着た男が立っていた。男は茫然と向かってくる家継を眺め立ち尽くしている。
以前の家継なら立ち止まって声をかけていたかもしれない。だが、今の家継の前では・・・。
「邪魔だぁ!人の道を塞いでるんじゃねえ!」
血走った両眼が影を捉えた時、家継はそれを刀で袈裟に切り裂いた。立ちすくんだ男は、理解不能といった顔つきのまま固まり、鮮血を撒き散らしながらそのまま仰向けに倒れた。
男を切り裂いたと同時だった。家継は抗えぬ睡魔に襲われた。体が鉛のように重くなり、家継はうつ伏せに倒れこんだ。つい先ほどまで抱いていた恐怖は温かい血の海にに包みこまれ、家継はそのまま起き上がることは無かった。
「4週目も『自滅か』・・・。やっぱ私が関わると結末が決まっちゃうのかなー。さすがに見飽きたわ。」
そう言い零すと「彼女」は2つの死体の横を通り過ぎ、夜の町へと消えた。
ただ歩き続けるしかない。動くたびに体が痛もうと、雨に濡れようが今は歩くしかない。所々で雷が鳴り、夏特有の夕立が僕の行く手を阻むかのように降り続ける。
歩き続けて20分。ようやく僕の家が見えてきた。家に帰ってくるのすら久しぶりになのに今は帰宅を懐かしむ気にはなれない。気力を振り絞って歩き、玄関のドアノブを握る。
恐る恐るドアを開ける。電気がついていない。靴を脱ぎフラフラと壁を伝いリビングのソファを目指して歩を進める。やっとの思いで帰ってきた家。そこには誰もいなかった。いや、最初からいないと分かっていたんだ。道行く人は誰もおらず、不気味なまでの静けさ。これを経験するのは初めてではない。
ソファに腰を下ろす。もう動きたくない。動かなくていい。迎えはきっと向こうからやってくるから。
僕はそっと目を閉じた。
暗闇が世界を覆う。僕の世界がまた一つ終わった。今度はどんな僕になろうか。時間はたくさんある。
ここは僕の世界。僕で始まり、僕で終わる世界。僕だけの理想郷。
気が付くと僕は部屋の中で立っていた。御道君は窓の外で暮れる夕日を、椅子に座り、机に肘をつきただぼうっ眺めていた。満足そうな顔をして外を眺めている御道君を見ると過去の出来事を思い出し、僕は罪悪感に包まれる。
「ごめんね御道君。僕はまた君を・・・。」
そう、御道君がこうなってしまったのは僕が原因だ。僕があの時声を掛けなければ良かったのに。君に魔術の存在を教えなければ良かったのに。
「普天に来てくれ。」
「え?」
僕の思考を断ち切るように御道君は言う。
「そこに俺がいる。」
「待って、御道君!何故君がそれを知ってるんだい!?」
僕が声を発したと同時に外は完全な宵闇に包まれてしまった。一歩前へ踏み出そうとすると何かに引っ張られるように僕は御道君から遠ざかっていった。
僕は彼の世界から追い出されてしまった。
大きな締めは次の話に載せます。