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魔法使いは帰宅部!まほきた!  作者: おこげっと
33/35

崩壊

お待たせしました。

「そういえば私と麗虎ちゃんはどうして彼の世界に入ることが出来たんですか?あと忍者って、私普通の女の子なんですけど。」

「4階建てのビルひとっ飛びで越えられるくせに、よく言うね。」

「そんなの、山師さんの娘さんだって出来るんですよ。私は彼女から教えて貰いましたし。」

「彼女は特別だから仕方ないとして。まあいいや、話を戻そう。彼は向こうの世界で終わりを迎えた後に、1週間の間だけ空白の時間が出来るんだ。巻き戻し、始まりに帰ってるんだよね。そしてその巻き戻しを終えたらまた、終わりに向かってまた2年を繰り返すんだ。でもね、その巻き戻しの1週間の間に、彼の世界に潜り込むことが出来たら、向こうの世界が都合よく侵入者を取り込んでくれるんだよ。僕が彼を8年研究してわかったのはこの辺かな。」

聞けば聞くほど私は今回の任務についての情報を持っていなかったことがよくわかった。職員の面々と話していてわかったが私は本当に1年半の時を向こうの世界で過ごしていたらしい。私がもう25歳になっている。なんて俄かに信じがたい話だ。どうしよう、まだ運命的な出会いが無いまま、私は30代に向けての折り返し地点を通過してしまった。ん?出会い?

「室長!!1年半の間に誰か良さそうな人来ました?」

「良さそうとは?僕の部下は一人増えたけどそれ以外は音沙汰ないね。」

「室長の周りの変化とかはどうでもいいんです!カッコイイ人来ました!?」

「さあ、僕は基本ここから出ないからね。食事は運ばれてくるし、シャワーもトイレもベッドもあるここは天国だよ鈴女ちゃん。」

「もういいです、私はイケm、ここの環境がどう変化したのか確認してきます。」

 鈴女は踵を返すとすぐに歩き始めた。

「帰った来たばかりなのに大変だね~。今日はもう休んだら?」

「私は元気なので大丈夫です!」

 鈴女はそのまま部屋を後にした。

「元気だね~。あとで疲労が来ないといいけど。ふわあ~僕も眠いし一旦寝るかー。」

 井垣は机の隣に備え付けてあるベッドに横になるとすぐに寝息を立ててしまった。


 目を覚ますとそこには誰もいなかった。病院に担ぎ込まれたことも憶えているし、九道君と顔を合わせたのも憶えている。同じ病室の隣のベッドでお互いの傷を舐め合うような他愛ない話もした。そこから眠くなって、気が付けばこれだ。他にも2、3人病人がいたはずなのに、今はもぬけの殻だ。外はやけに暗い曇り空が僕の不安を募らせる。どうしてこんなに静かなんだ。

 焦る気持ちを抑えつつ僕は起き上がり、立ち上がろうとする。約2週間にわたる入院生活によって僕の体は鈍り、簡単に起き上がることは出来なくなっていた。それだけじゃない。僕の左足は動かなくなっていた。何とかベッドからは脱出できたものの、力の入らない右足、動かすことすらできない左足によって僕は這って進むことしかできない。まだ癒えきっていない傷の痛みと久しぶりに動かす関節が悲鳴を上げていた。

 途中で壁に立てかけてあった松葉杖を見つけ壁と松葉杖を頼りに何とか病院内を歩き回った。ヘトヘトになるまで歩いても人影は愚か物音ひとつしない。やっとのことで待合室の椅子に座ることが出来た僕は苦痛に悶える足を投げ出し壁に寄り掛かった。体を何か物に預けないと僕は座ることすら出来ない。

「どうして誰もいないんだ・・・。」

 急な孤独感に襲われ、僕の思考は少しずつ固まっていく。僕の脳は一つもっとも正確で非現実的な答えにたどり着いた。

「僕以外の人間がすべて消えた。」

 電気は付いている、食べかけの食事がその場に残っていることから、寸前まで人がいたことを証明していたが、人が発するであろう物音が一切聞こえない。病院の窓から外を覗いてみても車が走っている様子は無く、道路が今にも降り出しそうな雨をまだかまだかと待ち構え横たわっていた。

「数分前にはまだ人がいたのかな?」

 ありえない。でもそうとしか考えられない。嘘だろ?僕は誰もいない世界に放り出されてしまった。

 こんな不自由な体で僕は何を考え何をして生きていけばいいのか。御道君は?九道君は?帰宅部は?それどころか皆消えてしまったなんて。

「そんなの嘘だぁぁぁぁ!」

 守りたいものがあった。それは今はもう何処にも無くて何処にもいない。この虚無感は何だ。心に大きな穴が開いたような感覚。

 僕はフラフラと歩き始めた。目的地は決まっている。

「家に帰るんだ・・・。とにかく家に・・・もしかしたら僕の家族はいるかもしれない。僕の家族が家で待ってっるかもしれない・・・。」

 いないかもしれない可能性の方が高いのは知ってる。ただ今は何かをしないと孤独と不安で押し潰されてしまう。ただそれだけが理由だった。

 ついに降り出した雨はまるで僕の代わりに泣いている様だった。


 一匹、また一匹。魂喰らいにカドゥに、ゾンビの様に腐敗した人。倒して。斃して。(たお)して。幾ら屍の山を築き、魔法で焼いても湧いて出てくる。途中で数えることはやめたが、数百は優に超えているだろう。死体を燃やす臭いにももう慣れた。目覚めた時から続く頭痛と、いつまでたっても明けない夜は、終わらない俺の苛立ちを徐々に大きくしていた。

「いい加減邪魔なんだよ!」

 横に一閃した刀が3体の魂喰らいを同時に切り裂く。魂喰らいはうめき声を上げながら地に伏せていく。その様を見ながら左手に握っている杖で動かなくなった死体をを燃やす。この幾度となく繰り返された行為にマンネリを憶える。

 何だったのか。つい数か月前までは、嬉々として魂喰らいと戦っていたはずなのに、今ではこいつらの顔を見るのも嫌になってくる。別に俺いなくても何も起きねーし。そもそも人がいないんだから「進化の可能性」も何も無いだろ。守りたいものがとか言ってた気がするけど、それももうないんだし。俺何でこいつらと戦ってんだろ。

 考えれば考える程心が落ち込んでいく。黒橋に偉そうに言ってた癖に、帰宅部なんてものを作ったせいで浮かれて勝手に背負う物増やして。俺が欲しかったものってこんな窮屈なものだったのか?

 違う。俺は強さが欲しい訳でも、仲間が欲しいわけでもない。俺は自由が欲しかったんだ。

 生まれて来た時から決まっていた人生のレール。親のどちらかを継ぐことしか許されていない俺に、自由に選択する権利が欲しかった。俺を変えたくて小さいながらあがいた。

 その結果がこれか。何もかもが中途半端に、自分の中で自身になる事柄が一切ない。

「また俺はやり直すしかないのか!自分を確定する何かを求めて!」

「え・・・?」

 泣きながら無意識に叫んだ俺の口から出た言葉。これが何を意味するのか。やり直し?俺が?何を?どうして?俺は一体?わからない。わからない。わからない。

「あら、案外早く行きついたのね。異分子が増えると自覚が早くなるのかしらね、家継。」

 揺らめく炎の向こう側に見える少女のシルエット。俺はあいつの声を聞いたことがある。俺はあいつを知っている。俺のすべてがあいつを拒否する。

「お前・・・何でここに・・・?」

「私もあなたの世界に潜り込んだのよ。あなたは自分でこの世界を作ったと思ってるけど、自己領域(テリトリー)を作る魔術を教えたのは誰だったかしらね?」

 切り揃えられた前髪、魔術師が着用するローブ、鈴女を数センチ伸ばした背丈。全てを見透かしているような緑の双眸。俺はここでもあの目からは逃げられないのか。

「さあ、家継もう一度始まりに帰りましょう?」

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 誰かの叫び声が聞こえる。けど、この声には聞き憶えがある。僕が最も良く知っている声。そこら中から火の手が上がり、何かが燃える匂いと血の匂いが充満している。ここは本当に阿原町なのか?その辺に人らしき死体が転がっているのに、誰も、何も言わない。とにかく誰かいないか探そう。


まほきたを読んで頂きありがとうございました!物語もいよいよ終盤です。何とか1年以内に終わらせるぞ・・・。

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