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魔法使いは帰宅部!まほきた!  作者: おこげっと
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黒橋の覚悟

 ベランダの窓が轟音を伴い割れた。それに合わせて二つの落下物。九道と鈴女が5階から砂浜に向けて落下していく。落下していく九道の姿には引力に抗う術あらずといった風貌を醸し出している。

 腹部に深々と刺さった包丁に冨美との激闘の様が見て取れた。鈴女もスマホの画面を凝視したまま硬直している。

「黒橋!俺は九道を助ける。お前は鈴女を助けてやってくれ。」

「う、うん!」

「しっかり掴まってろよぉ!」

 普段の倍近いスピードを出し、落下する二人に迫る。

 御道は九道の腕を取り、着地寸前のところで引き留めることが出来た。鈴女はというと、中空で受け身を取り、華麗な着地を決めた。

「お前ら、麗虎はどうなった?」

「・・・すまん。守り切れなかった。俺は無力だった。」

 腹部に刺さった包丁を引き抜き、辺りに鮮血を撒き散らしながら九道は言った。明らかに立てる状態で無いと一目でわかるのに立ち上がり、先ほどまでいた部屋を見つめている。

「もう終わりみたいね。麗虎ちゃんにも多分限界が来てたんだわ。私と麗虎ちゃんはここで終わりね。」

 鈴女はスマホの電源を切り、諦観に満ちた表情を浮かべながら話した。

「何の話だ?お前は麗虎の姉なんだろ?なら今すぐ助けに」

「その必要は無いわ。どうせ向こうから来るだろうし。九道、麗虎ちゃんからあいつを引き剥がせる?」

「先ほどは不意打ちにしてやられたが、ここなら問題はなかろう。なんなら成仏までさせてやる。」

 八角棒をブンと振り回し、笑みを作るがその陰には痛みに必死に耐えていると容易に想像できる、そんな不安定な状態だった。常人なら恐らく立てないであろう状況に九道は立っている。

 幾度の奇襲を躱しつつ苛立ちを覚えているだけの御道は自分の思考がひどく子供じみていると感じてしまった。そして、この戦いに自分が含まれていないことに言いようのない疎外感を感じた。そして小さく渦巻いていた感情が今この場で溢れ出した。

「何で俺抜きなんだよ!ここに無傷の俺がいるじゃねえかよ!何でお前らは俺を頼らねえんだよ!拒むわけでもなければ構う様子もない。俺が今回の事件に巻き込んだからか!?俺が加害者だって言いたいのかよ!」

 違うそうじゃない。自分を客観的に見ただけでもわかる幼稚さ。拒んでいるじゃない。気を遣っているだけなんだ。構ってないんじゃない。考えている余裕が無いんだ。

 出来ることは自分でしてきた、生まれた時から自分の理解が及ばない範囲で勝手に話を進められ、それを受け止めることでしか活路を見いだせない人生。自分の力が一番と信じてきた、確立した個が生み出した最善の策。

ただ、今回は、俺の力は必要が無いだけ。霊を浄化させることが出来る九道、取り憑かれた麗虎を一番よく知っている鈴女。

 そう、今回俺は必要ない。非力でも、無知でも何でもない。ただ今回は運が悪かったただそれだけ。そう割り切るしかなかった。

 二人のひどく冷めた目が俺を見据える。俺も元々は「個」だった。魔法を習いいずれ魔術師になるために独立した「個」を築く必要があった。しかし、気が付けは科学では解明できない謎の熱病に浮かされ、心体は流され浮足立ったまま話を進めここに立っている。

 俺は元々集団で生きる人間じゃなかった。そしてここに居る誰もが、本来は集団で生きる人物じゃ無かった。いや違う。本当の俺はこうじゃなかった?「本当」の俺は何処にいる?

 御道は膝から崩れ落ちた。思考はとめどなく暴走し、堂々巡りの思考を続けている。体の芯は凍り付き、滲み出てきた冷や汗により寒気すら感じている。脳が何かしらの拒絶反応を起こし、頭痛が御道の全身を師支配した。立つことすらままならない御道は、頭を押さえ地にうずくまるしかできない。

「来たわよ。あいつ。」

 5階から悠然とこちらを見下ろし降りて来る人物。髪は色素が抜け落ちたように白く、瞳は冷たい青に染まっている。肌は病的なまでに白く、どこから持ってきたのかわからない純白の着流しは、さながら雪女と表現するに相応しい。砂浜に着地したと同時に辺りに冷気を撒き散らす。湿った空気の水分を凍らせ地に落とし、砂浜に白く雪化粧をする。外見はあくまで麗虎、しかし中身は悪霊。ニタリと笑く口元は自らの勝利を確信している様だった。言葉は何も発さない。ただ彼女を見た人間をこの世から消し去りたいのだろう。

「来るわよ。どうする?」小声で鈴女が尋ねる。自分の妹の変貌ぶりに驚くどころか、かえって冷静になっているように見えた。まるで、すべて知っていたかのように。

「僕が囮をするよ。二人はその隙にあいつから麗虎ちゃんを引き剥がすんだ。」

「無茶よ!」「血迷ったか黒橋。」

 二人の声が同時に響き渡った。

「大丈夫。それよりも二人は成功するためにどうすればいいかだけ考えてて。」

 後ろでうずくまっている御道を一瞥すると、黒橋は一歩前に立つと冨美を見つめる。決して揺れ動くことに無い背中に恐れはなく、果たすべき義務を背負った覚悟に二人は安心感を感じた。

 「ごめんね、御道君。僕守られるだけは嫌なんだ。今度は僕が君を守るよ。」

 広げた掌を握りしめ、黒橋は強く意を決した。




 

まほきたを読んで頂きありがとうございました!小出し感半端なくてスンマセン。

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