始まりと今宵
3話です。色々詰め込みすぎたせいで、切る場所がわからなくなったので、いい感じの所で切りました。モヤモヤしならが次回をお待ちください。
あれは俺が高校に入る前の冬のことだった。もうじき来るであろう俺の誕生日の前に父さんが聞いてきた。
「誕生日には何が欲しいんだ?」どの父親も一度はするであろう台詞。ん~そうだな。お小遣いは一般の家庭の数倍は貰ってるし、娯楽に飢えている訳でもない。というか魔導書を解読したり、剣術練習を毎日やってるだけで俺の日々は過ぎ去っていくのだから、遊んでいる余裕などほぼ無い。そのせいかこれといった友人にも恵まれないままこうして中学生の卒業を迎えようとしていた。親友?これでもない。人との付き合いなどこれぽっちも楽しくない。お互いのことを気にせずにひたすら自分を押し通すだけ。他人にそれをされると自分は傷つくのに、自分は自分を守るので精一杯だ。だから俺が今最も欲しいものと言えば、
「生きる意味が欲しい。具体的に言うなら、危機的状況にさらされてもいい。人が認識してない範囲で何か人の役に立ちたい。」俺はつくづくバカだと思う。こんな曖昧なもの通るはずが無い。そもそも具体的と言っているのに全く具体性が無い。やめだやめだ、こんなのすぐにでも訂正して・・・。
「そうか、家継は生きる意味が欲しいのか。じゃあ父さんの仕事を手伝ってくれないか?」
父さんの仕事?そういえば父さんは基本夜は家にいないことが多い。それとそれが俺の生きる意味に繋がるのか。いいさ。このさいどんな事でも引き受けてみるべきだ。こんな生きてるか死んでるかもわからないような毎日を送るくらいならいっそ。
「いいぜ、受けるよ。俺の退屈に開放されて、生きる意味繋がるなら何だってやってやるよ。」
「そうか、さすがは俺の息子だな。じゃあ明日の夜にいっしょに出かけようか。そこに俺の真実がある。」
次の日の夜。寒空が広がる真冬。月を隠す雲は何処にもなく満月に近い月が静かな町を照らしていた。そんな中、父さんは普段のローブ1枚で前を進んでいる。
「寒くないのかよ・・・。俺は厚着してまで父さんに着いて来たのに。風も結構あるしもっと着てくるべきだったか。」愚痴をこぼしながら父さんに着いて行く。移動はすべて阿原町にある家屋の屋根をひたすらつたっていくという荒業だった。というか魔法使いなんだから空でも飛んで移動したらいいじゃねえか。こんなのご近所に見られたら通報もんだぞ。そんな事を考えていると、父さんが急に止まり、今までに無いくらい真剣な面持ちでこう言い放つ。
「いたぞ・・・魂喰らいだ。」肌の色は焦げ茶色に近く、体格は成人男性より少し小柄、前に突き出た腹が、異様に生理的嫌悪感を与える。長く発達した爪を垂らしながらふらふらと町を彷徨っていた。
「やつらは人々の中核をなす頭部や心臓を喰らうことで自身の肉体の一部とする。知能は無いが本能で行動する上に人としてのリミッターが外れているから力がとても強いのが特徴だ。今までは俺がやつらを密かに倒していたから阿原町は平和であり続けることが出来た。今度はその使命をお前が背負ってみないか?お前の新しい生きる意味は、人々を守ることだ。ただし、途中で逃げることは出来ないし、負けることも許されない。どうだ?やってみないか?」色々聞きたいことはあるがひとまずそんな危険な奴がうろついているのを黙って見過ごせない。それに、もう答えは決まっている。
「あいつを見てもこの意思は変わらない。ゾンビだろうがなんだろうが、俺の生きる意味に繋がるならなんだってやるさ。」ただ淡々とそう伝える。
「よしよし。それでこそ男ってもんだ。どれ後に続く後輩に手本を見せてやろう。」父さんはそのまま魂喰らいの前に降り立つ。そして突っ込んでくる魂喰らいを気にも留めず魔法を詠唱し始める。
「チャージ、水、スピア、ショット!」詠唱が終わると父さんの杖先から水で出来た槍が射出された。詠唱速度も速く、短い詠唱ながらも驚異的なスピードで槍が魂喰らいに向かって突き進んでいく。急に現れた槍に反応できなかったのか、それとも知能が無いせいか、魂喰らいは避けることもなく上半身を吹き飛ばされ、そのまま地に伏せてしまった。
「まあこんな感じだ。一見簡単に見えるけどまだ簡単な魔法しか使えないお前には厳しいかもな。まあ母さんの剣術もあるし、うまく使い分けながら戦えばいいと思うぞ。」簡単に言ってくれる。何十年も長く生きているのに、15になろうとする少年に近いことをやれと。おもしろい。そうこうしている間に魂喰らいは灰と化して風に飛ばされていた。
「こいつらって毎日湧くの?さすがに毎日湧かれると俺はさすがに持たないんだけど。」
「日によってまちまちだが、毎日って訳じゃない。特に毎週日曜日は必ず現れないのが統計的にわかっている。」
「やけに、人間味のある奴らだな・・・。まあ要領は大体わかったし、今日はもう帰って寝たいんだけど。」時計を見たら午前の3時を指していた。
「そうかもうこんな時間か。あんまり長居しても仕方ないし帰るか。今日は記念に飛んで帰ろう。」父さんは箒に跨る。こんな一面もあるのが父さんを尊敬できるところだ。
「じゃあな。俺は飛ぶけどお前は走って帰って来い。」父さんは飛んで行ってしまった。こんな一面も父さんのかわいいとこ・・・。
「あっ!てめえ!俺を置いて帰るじゃねえええ!未来のなんたらとか色々持ち上げといてこういう扱いはないだろおおお!頼む!俺を乗せて帰ってくれええええ!」後ろから叫びながら家継が着いて来る。
「・・・ったく。夜中の3時だって話してただろうに。一体誰に似てあんな大声を出せるんだか・・・。うるせえ!俺は飛んで帰るとは言ったが、乗せて帰るとは言ってねえぞ!ご近所さんに失礼だろうが!」父さんも負けじと声を張り上げながら飛び去ってしまった。こうして俺の魂喰らい退治の日々は幕を開けた。
勝負から二週間が経過した。あれから白鳥姉妹に動きは無い。俺は相変わらず授業の大半を寝て過ごすような日々を送っていた。そしていつも通りの昼休みの時間になった。黒橋が俺に声を掛けてくる。
「御道君!今日もお昼いっしょに食べよう!」ここ最近一緒に帰ってるからか黒橋との距離が近くなった気がする。いまでは帰りに「華菓子屋」でお菓子を買い食いするのが日課になっている。「華菓子屋」とは、南隆盛高校前を通る道路を西に進んだ所にある中規模なお菓子屋さんだ。和洋折衷をお菓子で実現しているのが特徴で、和菓子に洋菓子なんでもござれと言ってよい程ラインナップが充実している。味の良さや、飲食スペースの確保、スーイツバイキングなども実施しているので色々な層から人気を集めている。そのため連日完売に近い状態になるくらいに繁盛している。よって甘いものに目が無い俺や黒橋には楽園のような場所であった。ちなみに俺はザッハトルテが好きで、黒橋は豆大福が好きである。またしても思考が逸れてしまった。それに俺は今日先生にある用事がある。
「すまんな黒橋。今日は先生に用事があるから、先に食べていてくれ。多分すぐに戻ってこれるだろうし。」
「わかったよ。それにしても先生に用事だなんて珍しいね。」
「俺にも先生を頼ることもあるってことだ。んじゃまた後でな。」御道は教室をから出て行った。それを見計らったように白鳥姉妹が入って来る。普段では考えられない来客に、クラスは多少ざわつく。彼女達は無言のまま僕の席の前に立ち僕をじっと見つめてくる。あの戦い?を見ていたのだから多少の因縁はあるかもしれないが、出来れば暴力とかは勘弁して欲しい。沈黙に耐えかねて僕から切り出す。
「どうかしたの?」なるべく平常心を保ちながら聞いてみる。
「あなたが黒橋君ね。」鈴女ちゃんが聞いてくる。
「そうだけど。僕は叩いても何もでないよ。」素っ気なく返事をする。
「そう・・・あなたにお願いしたいことがあるの。」まるで提案したことに罪悪感を感じているかのように目を逸らす。
「一体どんなことをお願いするの?とても深刻そうな顔を顔をしてるけど。」鈴女がうなずく。
「実は・・・黒橋君に作戦の囮になって欲しいの!」鈴女ちゃんが思い切り頭を下げる。
「・・・え?・・・ええええ!?」こうして拒否するまもなく囮係になり、状況を理解できないまま作戦の旨を説明されるのであった。
職員室。昼休みに先生に質問をしに来る殊勝な生徒もいれば、叱責を食らう生徒もいる。そして御道も・・・。
「せんせーい。永田先生いますかー?6組の御道ですけどー。」気の抜けた声が職員室に響く。何人かの先生は訝しげな顔をしたが、すぐに先生が来たことで特に気にする様子も無かった。
「はいはい、御道君。私を先生とを呼んでくれたことには感動すら覚えるけど今度から呼ぶときはもっとちゃんと呼んでね・・・。」永田先生は眼鏡をかけていて、決して小柄ではないのだが如何せん御道の方が大きいせいで私服でいれば友人と思われてもおかしくないほど童顔だ。それに新人ということもあり、気弱な性格ゆえに生徒には先生と呼ばれず、下の名前である陽太と呼ばれている。なので、先生と呼んでくれる御道は先生とはかなり親しい存在だったのだ。
「まあまあ堅苦しいのは無しにして・・・。先生は第二図書室の鍵って持ってますか?あるならしばらく貸して欲しいんですけど。」
「第二図書室か。鍵自体は僕が管理しているけど、どうして必要なのかな?あそこは本と机と椅子しかないけど。」第二図書室は別館の5階にある中規模の特別教室だが、教室までの距離が遠く、授業で使うことがほぼ無いので、今では本置き場になっている。
「実は第一図書室の本をほとんど読んでしまったもんで、面白い本が無いか探そうかなって。先生もわかるでしょ?こういう気持ち。」
「私も国語の先生の端くれだしね。わかった。貸すのはいいけど明日まで待ってくれないかな?こっちも色々あって忙しいんだ。」
「わかりました。じゃあ明日絶対貸してくださいね!男に二言は無いですよ?」御道は嬉しそうに戻っていった。
「御道君・・・。僕を先生呼びしてくれる上に男扱いまでしてくれるなんて・・・先生はもう涙が止まらないよ・・・。」永田先生は昼休みのほとんどを泣いて過ごすのだった・・・。
学校が終わり下校時間になった。いつも通り「華菓子屋」でお菓子を買い食いしたが、いつもより黒橋の態度が素っ気ない。具合でも悪いのかと尋ねたら。迷っていることがあるらしい。人のプライベートにはあまり口出ししたくないので、何も言わずに帰ることにした。
その日の夜中。「仕事」のために夜中の12時前に起きた。この時間まで仮眠を取ってから見回りに行くようにしているが、頭が回らないことが多いから寝ないでいることも少なくない。今日も頭がぼんやりとしている中で電話が鳴る。こんな時間に誰だ。非常識にも程があるぞ。
「はい。御道ですけど、こんな時間に誰ですか?」なるべく不機嫌そうに聞こえるように答えた。
「私よ!白鳥鈴女!早速だけどあなたの黒橋君を預かったわ!返して欲しかったら学校北の森の中にある廃工場まで来なさい!来なかったらどうなるかわかってるでしょうね?」自信満々にそう答える鈴女。
「おい・・・夜出歩くなって親に言われなかったのか?悪いこと言わないから今すぐ帰るべきだ。」
「うるさい!お父様は負けっぱなしで帰ってくるなとおっしゃったから。あなたを倒すまでは帰ることは出来ないわ!それに麗虎ちゃんや黒橋君にもきょうりょ・・・いやなんでもない。要はただでは帰ることは出来ない状況なの!そんなに家に帰したいならさっさと来て負けたらいいじゃない!」こいつ・・・前回ので全く懲りてないな。あいつらが出てくる前に鈴女に灸をすえるか。俺は足早に家を出た。
廃工場。椅子に黒橋が縛られている。両端には白鳥姉妹が立っていた。
「ごめんね黒橋君。こんな時間にこんな場所に連れ出しちゃって。あとでちゃんとお詫びをするからもうしばらく我慢してね。」いつもの鈴女ちゃんとは違った態度を見せる。
「姉さん。あやまるなら黒橋君をこんな作戦をに巻き込んだことにでしょ?色々作戦を考えても姉さんの『わからない!』で一蹴されちゃったんだから。」麗虎ちゃんは冷たく言う。
「こら!麗虎ちゃん!そんなこと言ったら私の面目丸潰れじゃないの!」鈴女ちゃんが頬を赤らめて言う。
「そもそもアイツ来るのかしら。電話の感じからすると、来なかっても文句言えないのよね・・・。」
「御道君は普段からずっと『夜出歩くな』って言ってるからね。けど御道君は優しいからきっと来てくれるよ。」僕は優しい笑顔を浮かべながら鈴女ちゃんに語りかける。
「そうね・・・あいつなら」鈴女が話してる途中にズドーン!という轟音ともに工場の扉が蹴破られる。そこに立っていたのは御道ではなく一人の男性だった。風貌としては魂喰らいなのだが、黒橋達がその存在を知るはずがなく、ただ立ちすくんでいるだけだった。
「麗虎ちゃん!黒橋君を連れて逃げて!ここは私が時間を稼ぐわ!」鈴女が異形の前に立ちはだかる。
「ひとまず黒橋君を避難させるからそれまで持ちこたえて!」麗虎は黒橋の縄を切り奥へと避難させる。
鈴女は懐からクナイを二、三本出し、相手に投擲する。避ける素振りも見せないが、刺さっているにも関わらず、効いているような感覚もない。
「普通刺さったら痛がるはずなのに・・・。人じゃないわねあいつ。」魂喰らいは下卑な笑い声を上げながら突進してくる。両手をだらりと下げ目の焦点が合っていないことから間合いが掴めない。
「いいわ。そっちがその気なら!」腰に帯刀していた忍刀を引き抜く。本来なら銃刀法違反だが、夜であることから咎める者はいない。袈裟に切り裂こうとしたが、相手の爪を振るかぶるスピードの方が速かったため、防御に回るしかなかった。一撃はかなり重いものの、注意していれば避けられたが、如何せん決定打に欠けることからジリ貧になっている。本来、白鳥姉妹は連携が得意とするので、麗虎がおらず一人初めて対峙する異形の前に焦りを感じていた。
「この!」以前御道にやったときのような回し蹴り。
しかし、今回もあっさりと足首を掴まれてしまい。壁に向かって放り投げられてしまう。受身を取り、ぎりぎりで壁との衝突を免れたが、すでに魂喰らいの爪は目の前に迫っている。これも寸で回避。だがバランスを崩し立てない。両腕をつかまれ上を取られてしまう。もう駄目だ。軽い気持ちで夜に出歩いた結果こんなことになってしまうなんて。二人は逃げられたのかな、私はこの後どうなるのかな・・・。現実から目を逸らし、目を閉じる。あきらめに満ちたその思考により、徐々に肉体の力が抜けていく。魂喰らいの吐息が顔に当たる。
「ごめん、御道。私、やっぱりあなたの言いつけを守るべきだった・・・。これは当然の報いよ・・・。」
「お前にしては随分と弱気だな。」どこかで聞いたことのあるその声。
「うるさいわね・・・大体あんたがさっさと来ないのが・・・。」目を見開き周囲を見渡す。
「そのままじっとしてろよ!」御道が魂喰らいに蹴りを入れる。その凄まじい蹴りは異形を吹き飛ばし、壁にめり込ませる。
「立てるか!?取り敢えずこっちに来い!」御道が鈴女の手を引く。
「助けに来てくれたの?」振るえ混じりの涙声で聞く。
「バーカ。お前が勝負しろって言ったんだろ?だからこうして来てやったんだよ。」
「しょ・・・勝負はもういいから。あの変なのを倒して!」もう泣きそうになっている。
「ハイハイ。まあそこで見て置けよ。これが夜の俺の姿って奴だからさ。」御道は嬉しそうに、腰から脇差を引き抜き、魂喰らいに向かって走って行った。続く。
3話を読んで頂きありがとうございました!アクセスを確認していると何人の方が見ていてくれて、とても励みになっています。やりたいことが多すぎて書くのが難しいですが、ゆっくり上げていくのでお付き合いください。また次回でお会いしましょう!