彼の名は御道家継
素人が書く文ゆえ所々描写が不鮮明な所があります。温かい目でご覧ください・・・。
ある寒い冬の日の朝。高校生になってはや1年が終わろうとしている。昨日の晩に降り積もった雪を踏み分けながら学校へと向かう。サクサクという音を聞きながら雪の上を歩くのたまには悪くないものだ。道路はかなり凍結していて、タイヤチェーンでもない限り下手にスピードを出すと横転しかねない程だ。しかし、そんなことを考えてる僕の横を何食わぬ顔で自転車で通り抜ける少年が1人。彼の名前も知らなければなぜこんな日も自転車で登校しているのかがわからない。今日は自転車は危ないからこうして早い時間に歩いて登校しているというのに・・・。っといつもの十字路まで来た。ここを左に曲がってまっすぐ歩けばもう南隆盛高校だ。人の名前だとか、略した時になんせいって読むから南西高校とか色々言われてる。自転車少年は減速もせずに角を曲がろうとしている。いくら人が少ない朝といえどもさすがに無謀すぎる。するとすぐにその少年は盛大に横転し道端に投げ出されてしまった。言わんこっちゃ無いすぐに助けに行こう。
「君、大丈夫?すごい勢いで転んでたけど・・・。」なるべく動揺してない振りをしたが多分隠しきれていない。すると少年はむくりと起き上がり、「ああ、ありがとう。少し考え事をしていたただけだ。」と身体についた雪を払っている。
「いや、さっき思いっきり転んでたよね?というかこんな日に自転車に乗っちゃダメだよ。」
盛大に転んだはずなのに傷一つついていない。何でだろう初めて話すはずなのに全く緊張しない。よく緊張する僕が初対面の人と話すことがこんなにスムーズにいくなんて明日は雪でも降るのだろうか、いやもう雪は降ってるか。
「俺は大丈夫だから。もう行くけどいいか?」と自転車にまたがる自転車少年。
「そうだ。名前を聞いてなかったね。もしかしたら何かの縁で長い付き合いになるかもしれないから、教えてもらってもいいかな?」
名前も聞いてしまった。初対面は基本的に話を合わせて徐々に仲良くなっていき、その過程で名前を知ることが多かったのだが、今回はその大事な過程をすっ飛ばしてしまった。
「ああ名前か。名前は御道家継。お前は?」
「僕かい?僕は黒橋護。皆からはまもるって呼ばれてるよ。」
「ふーん。でも俺は断然黒橋だな。当分会うことは無いと思うけどよろしくな。あとそろそろ急がないと早く家を出た意味がないんじゃないか?」とそのまま自転車で去ってしまった。
時計を確認するといつもよりも早く家を出たにも関わらず時計はもう本来の登校時間を指している。僕は慌てて走り出した。これが御道君と初めて出会った日の朝だった。
四月。暖かいような寒いようなよくわからないような中での始業式。さっさと終わらせて家に帰りたいのだがクラス替えというよくわからない行事がある。別にどこに誰がいようとこちらは構わないし、勉強するかどうかは個人の努力次第だ。まあ俺は努力という言葉があまり好きではない。個人によって努力の仕方は違うし、努力しなくても生きていける奴もいればしても出来ない奴はいる。それすべてを平等に否定できるその言葉が努力であり一番人が縛られる言葉だと十六年生きてきて思った。とにかく俺は早く帰りたいのだからさっさとHRを始めてくれ。ひとまず座席を確認するために座席表を確認すると、どこか身を覚えがある名前が一つ。
「黒橋護。今年はあいつが同じクラスなのか。」
以前転んだ俺に声を掛けてくれた一人の少年。まああれは姉さん達が、最近俺がだらしないことをネタに叱責してきたことについて思い悩んでいたせいだ。・・・最近は師範代の仕事をサボっているのもあるが大体母さんはどこに行ったんだ。家を空けて2ヶ月は経つというのに一向に連絡が無い。確かに今は学校と道場を掛け持ち出来ているけど俺が教えることにもいつかは限界がある。そもそも人とあまり関わりを持ちたくないから帰宅部に入ったのだし、別に今は道場を継ぎたいわけではない。というかもう一つ「仕事」があるのにこのままでは俺の肉体と精神が崩壊してしまうだろう。いかん、いつもの癖で考え込んでしまった。ひとまず座席に着くか。ふうとため息をつきながら椅子に座ると、どこかで聞いたような声が聞こえる。
「あ、御道君おはよう。」
その爽やかな声で話しかけてくれたのは紛れもない黒橋護だった。そういえば何故俺はこいつの隣なんだろう。
「やだなあ。御道君、このクラスはほとんどサ行もタ行もいないからこうして隣になれたんじゃないか。やっぱりあの時名前を聞いておいて正解だったね。」
いや待て、サ行もタ行も少ない?少なからず1人は佐藤さんか田中さんはいるだろう。だから俺と黒橋が隣になる確率はそう高くないはずなんだが。てか今こいつ人の心を読んだのか?
「露骨に顔に出てるよ。もしかして御道君あんまり人とお話しないの?」
「・・・まあな。帰宅部だしそもそも日中本読んでるような奴と絡みたいやつなんかいるのか?お互いに干渉し合わないのが一番なんだよ。」
「じゃあもしかして僕は随分と軽率なことをしちゃったかな・・・ごめんね。」
「いや、そこであやまるなよ。別にお前に話しかけられて悪い気はしなかったからさ。お互い名前を知ってるし、もう友達みたいなもんだろ?」
「そうだね!実は僕も帰宅部なんだ!今日いっしょに帰らない?」
「別にいいけどお前の家ってどの辺なの?」
「僕の家は阿原町だよ。」
「自転車で15分か・・・。じゃあ俺が黒橋を送ることになるな。」
「それでもいいよ。一緒に帰る人が欲しかったんだよね。」「ほいほい。とりあえずHR終わったら校門で待っててくれ。すぐ行くよ。」
HRが終わり下校時間となった。交流関係が広がったことにより女子のグループがさらに大きくなった気がする。少し待つと御道君がやってきた。
「悪い悪い。面倒な奴に絡まれて撒くのに手間取っちまった。」
「面倒な奴?」
「去年同じクラスだったんだが、入学初日から俺と勝負しろだとか言い始めて追いかけ回して来るんだよ。まだ一度も受けたことは無いけどな。」
「でも読書してるって言ってたから結構余裕があるんじゃない?」
「あいつにも物事に優先順位があるみたいでな。一に飯、二に友達、三に俺との勝負って感じだな。だから勝負つっても三日に一回位しか声掛けてこないし、大概は放課後だな。」
「面白ね。ご飯と友達が優先なのに頑なに勝負を挑むなんて。」「ほんと、どっちなんだよって言いたいところだが下手に何か言ってやる気になられても困るから俺からは何もを言わないでおく。そうだ、黒橋。最近周りで噂になってる事とかあるか?ざっくり言うと夜に出歩くなとかなんだけど。」
「そういえば父さんもそんなこと言ってた気がするな。それがどうかしたの?」
「まあ俺もニュースとかで見た程度なんだけどさ。最近物騒じゃん?通り魔とか猟奇殺人事件とか。犯人もまだ捕まってないって話だし。だから黒橋も気をつけた方がいいんじゃないかと思ってさ。」
「アハハ!御道君も面白ね。人と接するのが苦手なはずなのにお節介焼きで。勝負を挑むって子とも話してみたいな。」
「やめとけやめとけ!あんなのと仲良くなっても碌なことが無いぞ。振り回されるのがオチだ。」
「詳しく知らないのにそういう決め付けはよく無いと思うけどなあ。あ、僕の家ここだから。じゃあね!御道君また明日!」
表札に黒橋と書かれたその家は、どこの誰が見ても平凡な二階建ての家。黒橋は家の中に入っていった。「また明日か・・・。明日があるってのはいい事なのかもしれないな。」御道は自分の帰路を辿っていった。
夜の阿原町。一人の男性が歩いている。最初は歩調が安定していたものの、徐々に足取りが速くなる。その姿はまるで獲物を見つけた獣のようだった。獲物は前を歩いている女性。今にも喰らいつかんとばかりに飛び掛る。だがその行為も無駄に終わった。そこにいたはずの女性の姿は今はもうどこにも無く変わりに少し前に一人の少年が立っていた。
「はあ・・・。毎日毎日どこからともなくフラフラと、いい加減見回り無しで安眠したいもんだ。」と、腰に挿した脇差を引き抜いた。以前は人であった抜け殻に今は穢れた魂が宿り、獣のように闘争心を剥き出して少年の前に立ちはだかっている。
「一応あんたが殺される相手だがら名前ぐらいは名乗っておくか。御道家継!お前の未練を断ち切りに来た。さあ、安心して天国にでも行ってくれ。天国はもう善人でいっぱいだがな。恨むなら自分の行いを恨め。」
言い終わる頃にはもう怪物はこちらに走り出していた。人の物とは思えない程の鋭利に伸びた爪でこちらを切り裂こうとしてくる。爪と刃が交わり大きな金属音を反響させる。いくら数年間ほぼ毎日戦ってきたからといえども簡単にはいかない。いくつもの人を喰らい魂を吸収すれば自然と敵も強くなる。今回のそれがいい例だ。しか
も今回に限って言えば体格が良すぎる。力の入れ方を知っているのか。迫りあったまま動けやしない。「ぐっ・・・さすがに最近サボってたせいか強く感じるな・・・。うおっと!?」
考えている間にもこちらを蹴り飛ばそうとしてきた。慌てて後ろに跳躍する。何か武術でもやっていたのか、隙だらけに見えて隙が無い。知能は無いはずだからきっと身体に染みついているのだろう。何度斬りつけても爪で弾かれてしまう。
普通に打ち合うだけじゃ、時間がかかる上に向こうの方が有利か・・・。あれを使うしかないな。ただでさえ最近寝不足だから温存したかったが、背に腹は替えられん。」
一度納刀し、大きく息を吸う。心を落ち着かせ、もう一度刀を握る。そして引き抜くと同時に、呪文を詠唱する。
「抜刀魔力付与!炎!」すると、抜き放った刀身は炎に包まれ赤く揺らめく。それを見た人の形をした獣は一歩身を引いた。
「行くぞ!これ俺も結構熱いからなあ!」
そう言って駆け出した御道は獣を袈裟に切り裂く。爪で守ろうとしてもその爪ももう焼け焦げて使い物にならない。容赦なく二撃目を当てると、そのまま焼け焦げて灰になってしまった。
「あー!熱かった!まだ細かい火力調整ができてないせいで諸刃の剣みたいになってるな。こいつらには火が一番有効だけどなんか火はうまく扱えないんだよな。おっと忘れないうちに・・・解除」そうつぶやくと刀身を燃していた炎は少しずつ消えていった。「『仕事』も終わったしさっさと帰って寝るか。俺には明日があるからな。」彼の名は御道家継。刀を振り回し、魔法も使えるハイブリットな魔法使いである。
「やべ!もう2時じゃねえか!明日起きられるかな・・・。」そう言い放つと御道は家に帰っていくのであった・・・自転車で。続く
まほきた!を読んで頂きありがとうございました!続きは近いうちに投稿出来たらなと思います。