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会いたかったよ、母さん

作者: 南波航助

今回初めてこのような小説を書かして頂きました。ここに足を踏み入れて頂けたことに、感謝しております。

「ここからはもう駄目だぁ、他へ行けぇ!」

二十年前の今日、十月八日。東京中を恐怖のどん底へ陥れた大規模な火災が発生した。

私が住んでいた町は東京でも田舎の方だった。しかし、火の手はここまでも訪れたのだった。

「母さん、母さん!」

一人の少年が母親に対して泣き叫んでいた。それが、私である。



 私は当時、小学三年生であった。

学校で何気なく授業をしていた。すると、いきなり大きな雄叫びが聞こえてきたのだ。

原因は分からない。

三階から見えた町はそれはそれは見るに堪えない光景だった。

人々は燃えさかる住宅をさまよっていた。

幼かった私ながらも、そのすさまじい光景を忘れることはないと心に感じていた。

先生も焦っており、何をしたらいいのか分からない様子だった。

火の手は校舎にまでさしかかった。私は多くの友達と共に校庭へと逃げ込んだ。

死ぬことはなかった。周りでは体中爛れた少年や少女が泣き叫んでいた。

私はふと気づく。母さんは・・・・・・どこだろうか。

その事件から、私と母が会うことは無かった。

友達であるみっちゃんの両親は亡くなったという。私はまだ燃えさかる家の周辺をさまよい、「母さん」と何度も叫んだ。

私は、独りぼっちになってしまったのだ。幼いながらに、現実を受け止めていた。

「母さん、母さん!」

何ど叫んでも無駄だった。

「あれ、浩二郎くんじゃない?早くこっちへおいで!」

浩二郎というのは僕の名前だ。親戚のおばちゃんが声をかけてきたのだった。

つれていかれるがままに私は引きずられていった。近くの役所へと逃げたのだ。

そこでも母さんを捜した。しかし、見つかることはなかった。

事件の事情は役員の人にも分からない様子だった。

「ぇぇん・・・・・・」

私は泣き出してしまった。おばちゃんは私を優しく抱きしめた。

それまで話したこともあまりなかった人なのに、温かかった。

 


 その後、私はそのおばちゃんの元へ引き取られることになった。

悲しい現実を受け止め、おばちゃんとその旦那さんと暮らした。

初めは遠慮がちだったが、本当の親のようにかわいがってくれた。

嬉しかった。本当に、嬉しかった。

それから、二十年の月日が経った。私はもう二十九歳。

あと一年で三十代という少し大人びた称号を得ようとしていた。

子供もいる楽しい生活を送っていた。

たまに、本当の母さんのことを思いながら・・・・・・。



「冗談はよしてくれ!この契約で納得したはずじゃなかったのか?」

「すいません、手違いが起きたようで。申し訳ありません」

私は部下を怒っていた。八つ当たりというものだった。今日、女房と喧嘩をしたのだ。

二十年前の事件の話をしているうちに、話題がずれ・・・・・・意見が食い違ってしまった。

「今日の課長、変ですよ」

「何でもないよ」

「でも・・・・・・奥さんと何かありました?」

以前から親しくしていた部下でありながら友人であった佐藤が声をかけてきた。

「大丈夫だからさぁ」

「分かりましたよ」

佐藤は怒って仕事へ戻った。誰にでもあたってしまうのが、私の悪い癖だ。

最近「自殺」「殺人」といったニュースをよく見るようになった。

あの事件のことを思うと、腹が立ってしまう。私の性格は、そんな薄汚いものだ。

今日、女房に謝るか。会社ではそう決めていても、家ではまた喧嘩を悪化させてしまう。

喧嘩し、一人になるたびに母さんを思い出してしまう。

二十年間育ててくれた義理の母ではなく、本来の母親をだ。

マザコンとかそういうのではない。本当の家族にただ、会いたいのだ。

そりゃぁ女房や子供だってそうだが、そういうのではない。

父さん、母さんに会いたいのだ。こんな歳になっても思ってしまうのは、よっぽどだろうか。この話を女房にするだけでも喧嘩になってしまう。私たちは、あっていないのかもしれない。そんなこんなで私と妻は、離婚した。ばからしいかもしれないが、女房が悪いのは事実だ。

突然家を出て行ったのだ。理由は簡単、あなたが好きではないって。せいせいした。

しかし、どことなく寂しかった。私は仕事にも力が入らず、リストラされた。

今は、フリーターのプー太郎だ。

家も売り、どこも雇ってはくれずアルバイトをただするそんな人生を費やすハメになった。

自殺することはなかった。

神様、母さん、父さんにもらった命を捨てること等できなかったのだ。

私は・・・・・・どうすればいいのか。そんなことを思っているうちに、四十を過ぎていた。髪の毛は伸び、髭は汚いほど生えていた。そんなある日、一通の手紙が送られてきた。

「ようやく見つけました。明日、故郷へ帰ってきて下さい。詳しい話はそちらで話します。

母より」

まさかな、私は信じなかった。

こんなろくでもない人生を送っている者に、母親と会わせられる権利などないと思ったのだ。次の日、私は行かなかった。手紙は何度かきた。

全てを無視してしまった。それから、一年の月日があっという間に過ぎたのだった。

いつものように、こきたないマンションで、私は暮らしていた。

ドンドンドン、ドンドンドン!「おい、開けろ!浩二郎!早く開けろ!」

「誰だ、あんた!」

「俺かぁ?俺はお前の母さんの弟の昌広だ!」

思いがけない名前だった。昌広おじちゃんが何故ここに。

そんなことより、早く開けなくちゃ。私はかぎを開けた。

「てめぇ、来い!」

おじちゃんというよりおじいちゃんであった昌広さんに引っ張られ、車に乗った。

目には涙が流れている。車を走らせた。

「どうしたんですかぁ?」

私はおそるおそる聞いた。

「馬鹿野郎、お前の母さんがなぁ・・・・・・俺の姉貴が

・・・・・・もう死にそうなんだよ」

「え?」

意味が分からなかった。

「お前、一年前から手紙貰ってただろ?昨日知ったんだが・・・・・・姉貴はなぁ、お前に会いたくて会いたくて・・・・・・ようやく見つけたんだよ」

「そんな・・・・・・」

「うそじゃねぇぇぇ、病気にかかっちまって・・・・・・手紙のこと、昨日姉貴が教えてくれたんだぁ、お前、何で来なかった!」

「嘘かと思って・・・・・・」

「ふざけんじゃねえぞ!馬鹿野郎!姉貴はなぁ、今日でもう持たないらしいんだ。間に合うかどうか・・・・・・」

「何で?三十年も経ってから・・・・・・」

「しらねえのかぁ?あの事件の時、ほとんどの人は舟で町を離れたんだ。後になってお前を捜しても見つからなかった。諦めかけてたとき、親戚のばあさんがお前を預かったって聞いてなぁ。電話しても、手紙出しても、ちっとも返事が来ねぇ・・・・・・てめぇふざけやがって」

おじさんは僕を殴った。涙をかみしめながら、車を走らせながら。

「そんな・・・・・・まさか・・・・・・」

私は自分がしてきたことを後悔した。自分は親不孝ものだ・・・・・・。

二時間の間だ、沈黙が続いた。私とおじさんは泣きながら、言葉を交わすことは無かった。

「着いたぞ!」

走って病室へと向かった。

母は、死んでいた。悲しい悲しい顔をしながら。

「ぅぅぅ・・・・・・くそっ!!!」

おじさんは病室を駆けだし、泣き叫んだ。何が起きているのか、今分かった。

母は、死んでいるのだ。病室の横には私への手紙が書かれてあった。

「あなたの母です。今までごめんね。あなたに会いたいの。電話しても駄目でした。もしかすると、このまま会えないのかな。故郷で待ってるから、早くいらっしゃい。おいしいご飯、作ってあげるから」

涙が止まらなかった。私は、何をやっているのだろうか。

「母さん、母さん、ここにいるよ!ここにいるよ!ずっと、会いたかったよ」

私は母の冷たくなった手を握った。涙が止まらない。こんなに涙って、でるものなんだ。

私は、最低な息子だ。



 それからというもの、私は職場復帰を果たした。二十%にもみたない可能性を信じ、再就職したのだ。今も必死に働いている。母のことを、思いながら。

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