エピローグ
とある病院の待合室。
そこで主婦と見られる女性が座っていた。
病院内はわずかなざわめきで満ちていた。
そこに男性が紙コップを持って近づく。
恐らくその男性は、女性の夫なのだろう。
男は女にカップを渡す「いるか?」
女はそれを受け取る「大きに……」
「所で圭吾の様子やけど」
「怪我自体は大したことないって、精神面もしばらく休めば大丈夫やって医者がいってた」
「そうか、それはよかった」
「せやけど、あの街で何があったん?いきなり夜中にお義父さんだけ残して、隣町へ行こうってなって驚いたわ……」
「知らんほうがええ。それが我が一族なんや。お前もそれを知ってて俺と結婚したんやろ」
「せやけど……」
「それはそうとして圭吾のことや」
「圭吾の……本当の母親のこと?」
「ああ、いずれ話さなあかん」
「確かあんたの妹なんやっけ」
「そうや」
「名前は……」
「里見」
「そう、かなり長い間引きこもってたらしいけど」
「ああ、ちょっと前に一旦脱引きこもりして、定時制の高校行ってたけど続かんかったって」
「いくら仲良うても自分の40歳にもなる自分の母親が引きこもりなんて知ったら、圭吾ショック受けるやろな」
「ああ、せやけど、先日外に出られた。いつか彼女が自立した時、圭吾に教えてやればええ」
「来るやろか?そんな時が」
「来るさ」
◇ ◇ ◇
夜。圭吾は寝息をたてて、熟睡していた。
『夜。僕は寝息をたてて熟睡していた』
相室の皆ももまたすでにほとんど眠っているが、隠れてゲームをしている者もいた。
廊下から看護士たちの足音が聞こえる。
『僕は第二の検体。僕こそが大古の海の民が作りし、存在しない故に、存在を許された、武器であり牙』
圭吾が寝返りを打つ。その病室のベッドは古く、軋む音の大きさに、ゲームをやっていた子供が顔を顰めた。
『「僕」と圭吾の同化は既に終わっている。僕は里見という名前の人間の子宮で育てられた。そして忌まわしきハスターの眷属たる人間の元に送り込まれ、人間として生まれいでた』
ゲームをやっていた子供は、眠くなったのか欠伸をした。
『未だ顕現せずぬ我が種の名はメタショゴス。時空に跨り、無貌の神さえ騙す粘菌なり』
圭吾は呻くように寝言を言った。
「てけりり……」
夜に浮かぶ月は笑っていた。
――――どうかよき惨殺を