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4話

「こりゃあ……閉まっとるな……」


 そう里見はコンクリートで閉まった窓を見て、言った。

 圭吾は絶望の顔でそれを見る。

 これはそこらの教室の窓ではない。

 里見が正体を明かした後、「説明は後……!」ということで圭吾は気絶している杏子を背負いながら、三人で入口の窓のある教室に戻ってきたのだった。しかしすべての窓がコンクリートで閉じて閉まっている。


「まさか」と圭吾は窓に近づこうとする「閉じ込められた……?」

「駄目!」


 それを里見が遮る。刀を窓の方向に向けていた。

 相変わらず不健康な目をしていたが、引きこもっている時とは比べものにならないような権幕だった。そんな里見に圭吾は頼もしさを覚える。


「その、何で窓に向かって刀を向けてるん?」

「こんな短時間でコンクリートで埋められるわけない……おそらく時空不定形の超粘菌めたしょごすが擬態しとる……せやけどこの刀を警戒してか、動きは今んとこないようや……」

「その刀って……」

「ちょっと家の倉庫から拝借してきた。古のものであった今川義元、それらと戦った織田信長、無貌の神の化身であった太閤猿王、その三名により改造された邪刀、宗三左文字……」

「おお!」

「のレプリカ……」

「……」

「もともと奉仕種族を使役するための刀やったようや……レプリカでもかなり切れ味……」


 話しながらも里見は警戒を解かない。


「里見さん。自力で脱引きこもり出来たんやね……せやったらここに来たこと自体が無駄だったんやな……」


 強く学校に行かないよう止めていれば文雄も死なずに済んだだろう。

 圭吾は自身の愚かさを呪いたくなった。


「……ここには来んといてほしかったけど……引きこもりは脱したわけやない……家に圭吾君がいないてみんなが言うから……祭りの話してたんを思い出して……恐怖を静める薬を使って追ってきた……この薬は後一時間ほどしかもたん……それまでに家に戻らんと……」

「家に戻ったら大丈夫なん?追ってきたりは」

「家なら大丈夫……家は安全」

 

 圭吾はかつて入口であった窓を見る。それはどう見てもただのコンクリートにしか見えなかった。


「めたしょごすって何?」

「説明すると長くなるから……取りあえずは凄く端折るけど、実験によって生み出された何にでも化ける巨大な不定形の粘菌やと思っといてくれたらええ……本当は違うけど」

「文雄の首も化けてたのなら、まだ生きて居るかも」

「めたしょごすは化けるためにはそいつを食って吸収せねばならん……私もこの校舎入ったことあんにゃけど……一緒にいた奴はみんな食われた……みんな……多分深きものが封印しとったはずなんやけど、文雄君とやらが解いてしまったんやろう……」


 圭吾は理科室にあった大げさに壊れた機械を思い出した。


「そのコンクリート切りつければ切れたりせんの?」

「切れん。刃こぼれは避けたいので試すのは避けたい……移動する時は有機物になる必要があるはずやからそこを狙わんと……蟹の殻や恐竜の皮膚程度なら切れるはず……ちょっと教室の入口の方向も見張っといてくれん?後ろからくるかも……」


 その声に答えるかのように、足音が廊下から聞こえて来た。

 一歩、一歩踏みしめるように、確実に近づいてくる。

里見は視線をコンクリートを見たまま横目で廊下の方向を見た。

 圭吾は震える手を強く握りしめ、足音の方向に懐中電灯を当ててを睨む。

 廊下から人型の影が教室に入ってきた。そして里見の方を指さして言った。


「そいつがめたしょごすや!」


 その影は浴衣を着ており、狐のお面をした女だった。



 ◇ ◇ ◇



 赤い浴衣に、狐のお面。

 その女の姿をしたものの言葉に驚き、圭吾は里見の方向に思わず振り返ってしまう。

 

「馬鹿……食わんと化けれへんゆうたやろ!そいつはお面被って着物着ていいるだけや……!」


 里見は叫んだ。

 着物の女の形は泡立ちながら、姿を変え始めた。赤黒い粘性を持った液体のように溶けていく。そして圭吾を包むように空中に広がっていた。

 圭吾が目を見開きながら振り向くが、もう遅い。

 その瞬間、圭吾の目には世界がスローモーションに見えた。その液体の内側はヤツメウナギのような、細かい歯が円形にびっしりと生えていた。

 その中心。そこが最も黒い。

 ああ、そうだ。そここそが地獄の入口なのだ。そここそが深淵なのだ。

 圭吾は恐怖のためか動けない。その黒き底が、かすかに笑ったような気がした。


「テ・ケ・リリ……」


 圭吾は背を向けて逃げようとした。

 瞬間

 圭吾を前に突き飛ばす足があった。

 里見ではない。

 メタショゴスでもない。

 ましてや文雄でもない。

 では誰か。

 圭吾は倒れながら、上体を捻り、誰に突き飛ばされたのか見ようとした。

 視界の端、確かに圭吾は見る。巨大な粘菌、ショゴスが、少女を包み込むのを。

 赤黒いものに包まれながら、少女……つまり杏子の顔は恐怖の表情に染まっている。しかし、圭吾と目が会うと、安心させようとしてか、引きつった笑みを浮かべた。

 

 

 圭吾が地面についた瞬間、感覚が戻る。

 そこからはあっというまであった。

 杏子を包み込んだ粘菌はすばよく滑るように天井に登り、教室の外に出て、闇の中へ消えていった。


「待て!」


 里見は叫んで追おうとした。

 しかし、そこで不覚にも窓に背を向けてしまう。長い期間の引きこもり生活が仇となったのか。

 その隙をショゴスは逃さなかった。

 コンクリートに化けていた粘菌は素早く刀を持っている手に絡みつくいた。


「――っ!」


 里見は体制を崩して横転し、ショゴスは彼女を教室の外へ連れて行く。

 里見は引きづられながら、叫ぶ。


「第二実験部屋や!そこならショゴスでも防げへん出口があったはず!」


 里見の声は次第に遠くなっていった。


「そこから逃げて助けを呼びに行くんや……間違っても魚類顔の奴らに頼むなよ……」


 闇の中へ吸い込まれた彼女を見届けた後、圭吾の押さえていた何かが切れた。

 落とした懐中電灯、床に落ちて壊れる。

 そして視界がブラックアウトした瞬間、猛烈な眩暈と共に、意識を失った。



 ◇◆◇◆◇



 杏子を包み込んだショゴスは天井を這って、自身が安全な場所へ移動した。

 第一理科実験室の隣の倉庫。そこでショゴスは一旦動きを止めた。

 実を言うと現段階ではショゴスは、上位存在であるメタショゴスではない。能力も不完全で、生物の模倣はする場合は、入念な観察が必要になる。

 だからショゴスは杏子を観察する。

 腹の中で、怯えて蹲っている粘液まみれの少女を。


 ショゴスは他生物のマネをして視覚を得ることが出来るが、観察としてそれを使うのは不十分だった。だから元から持っている器官を使うのだった。

 まずは、杏子の口を粘菌で塞ぐ。そして手足を拘束し、先の方から約五寸ずつ分解していく。

 少女は口をふさがれているので、叫ぶことが出来ない、舌を噛み切ることが出来ない。

 少女は体全体を拘束されているので暴れることが出来ない。

 ショゴスは不完全なので、効率というものを有しない。だから分解以外にも様々な手段をとる。臓器を調べるために、元々体に開いている穴から取り出すといいうことをした。

 例えば眼球とか、胃袋とか、子宮だとか、大腸だとか、脳みそだとか。

 もし被観察物が生命活動を停止しようとしたなら、ショゴス自身が臓器を模倣し、体内器官を補っていた。無論観察のため、模造した臓器にも、神経系は通っていた。

 やはり活動しているほうが、観察としては望ましいので、気絶や発狂をしようとすると、電気を流し、それを防ぐ。

 やがて少女はどこからが、自分でどこからショゴスなのかわからなくなる。

 つまりは大部分がすでにショゴスと入れ替わっているので、壊しても替えが効くのだった。

 ショゴスは耐久度を調べるために臓器等を壊して見る。

 頭蓋骨を万力で閉めるように押しつぶしたり、子宮に強酸を入れたり、胃に可燃性のものを入れて燃やしたり、切ったり、殴ったり、刺したり、落としたり、様々な実験をした。

 こうして半刻ほど、ショゴスはたっぷりと杏子を観察をしつくした。

 ショゴスを構成する自我というものは、吸収した生物から構成される。

 この不効率な観察方法は、そんな吸収した生物の一つによって大きく影響をうけているのかもしれない。



 ◇ ◇ ◇


 

 薄暗い闇の中、圭吾は目を覚ました。

 埃だらけの床で気絶していたため、圭吾は気分が悪く、嘔吐感が付きまとう。

 気絶する前のことを思い出す。

 歪に笑っていた杏子。

 引きずられていった里見。

 かつて入口であった窓を見ると、またもコンクリートで防がれていた。

 ズボンが冷たいな、と思って見ると失禁していた。

 全滅、という言葉が思い浮かんだ。圭吾は自分が食われるのも時間の問題であることをわかっていた。

 ふと圭吾は視界に違和感を感じた。


『薄暗い……?』


 この校舎内に光源はまったくといっていいほどないはずで、懐中電灯が壊れたのであれば、視界には黒しか存在しないはずであった。

 しかし、かろうじではあるが、薄く物の形がわかる程度には明るさがあった。

 教室の外を覗いて見ると、廊下も同じような有様であった。

 遊ばれている、と圭吾は思った。

 恐らくこの僅かな明るさの原因があの粘菌なのだとしたら、いくらでも圭吾を喰らう隙はあっただろう。

 しかしそれをしないというのは、遊ばれている以外はないだろう。

 

「もう、どうでもいいか……どうせ死ぬんや……」


 そう言いながら、おぼつかない後取で、圭吾は廊下に向かって足を進めた。

 どうせ無理だろうと思いながらも、里見の残した『第二実験室へ』という言葉を頼りに。


 視界が少し良くなったせいか、意外にもすぐに第二実験室を見つけることが出来た。

 途中何かに襲われることはなく、体力が付きて、気絶することもなかった。

 より本格的な器具が多く、見たことはないが大学の実験室というのは、こんな感じなのだろうか。と圭吾は思った。

 しかし第二実験室も二階にあったのだが、どうも秘密の出口というものは見つからない。

 どうせ廃墟なのだからと、残っているガラス瓶などは壊して、棚をどけてみたのだが、それらしこものはなかった。

 そんな中またも気になる覚書を見つけた。


『××××年××月


 我が種族は人類より数歩先の技術をいっている。だから、人類の発明に驚くことはまずはない。

 何事にもだが例外というものは存在する。

 その一つが錬金術だった。

 錬金術師パラケレルスス。

 彼の研究結果は、我らの種からみても驚嘆すべきものがあった。

 文献によれば彼らは我々の敵として戦っていたのだという。その時の副産物が錬金術のようだ。

 そしてその錬金術を応用して、ショゴスの体内で常温核融合を起こし、無機物を有機物に変換し、栄養として吸収させることに成功した。その時に熱エネルギーが漏れ出るのだが、それを質量のない光子として還元し、冷たい暗黒物質で冷やすという方法をとる。この流れにより、かなりのエネルギーを分散することが出来た。


 ××××年×月


 今日は実験意外のことでも書こうか。

 私は生まれた時から魚類顔だと人間どもに虐げられていた。きっと私はこいつらとは別の種なのだ、もっと偉大なる種の生物なのだ、そう自分に言い聞かせることによって、理性を保っていた。

 だから大学からこの街に来た時は同じような顔が多かったので驚いた。

 そして自分が『深きもの』と呼ばれる人類とは別の種であると分かった時、狂喜した。

 いつか、いつか私を虐げていた奴らを見返すのを夢に思っている。そのためにもこの研究は必要だった。

 

 ××××年×月


 生まれたばかりのショゴスを育てるには人間の子宮が一番適していると、研究の結果分かった。

 なので高等学校から女を数人さらい、実験をすることになった。この街の警官、政治家、高等学校の理事長、校長、すべてが我らと同種なため、もみ消すのは容易だった。

 体内にいるショゴスは栄養が滞ると、その母体を内側から食べ始めるという問題があった。そのため、我々は大量の栄養を母体に送るのだが、どうもショゴスには還元率が悪い。

 解決策として、母体の胎児を栄養として吸収させるという案が出された。

 そんな馬鹿なと言う意見が多かったが、やってみると思ったよりスームーズに進んだ。

 母体に多く妊娠させるため、男性の精液を求めるよう暗示をかけた。

 その性質が遺伝するかの実験も行う。


 ××××年×月


 不思議なことに母体は自らが産み落としたショゴスに母性のようなものを持っていることがわかった。また、生み出したショゴス同士も、兄弟のような絆のようなものを持っているようだ。

 今回はそのことを元にした実験だ。

 まず母体に双子を妊娠してもらう。その片方に、ショゴスが嫌う薬を投与する。

 そして、母体の子宮にショゴスの胎児とも言うべきものを移す。

 当然ショゴスはその胎児を食べ始めるのだが、片方は食べない。

 そうして無事(?)人間の赤ん坊とショゴスが対外に出される。

 なんと驚くべきことに、ショゴスはその生まれた赤ん坊を食べようとしないのだ。さらにその赤ん坊を守そぶりさえした。まるで実際の兄弟のように。

 

 ××××年×月

 

 現在のショゴスよりさらに上の段階のものを作ろうと言う動きがある。ショゴスロードのことかと思ったが、それともまた別のものだという。

 より模倣を完璧にこなし、次元を跨いで存在する不定形の粘菌。まだ仮の段階ではあるが『次元不定形の超粘菌メタショゴス』と呼ぶようだ。

 その模倣は『無貌の神』さえも騙し、『彼方なるもの』さえも見逃しうるという。

 当然この街での我々の敵、『黄衣の王』とその眷属たちへの脅威になるだろう。

 なんと恐ろしいことに、アリゴリズムに量子コンピューターを使用し、時計人間チクタクマンの制作プロセスの一部を組み込むというのだ。そのためにはプログラムに、解くと死ぬルースチャ方程式を組み込む必要となる。あくまで一部で解くことはしないようだが。

 もし完成すれば我々の手に余るものが出来るのではないか。私はそれが恐ろしい。


 1997年4月


 成功した、とだけ書いておこう。

 人類が生まれる以前、我らが先祖が作ったメタショゴスは、『月に吠えるもの』を騙し、現在の見えない衛星となったのだそうだ。

 そのことをふまえ、完成したメタショゴスは『検体2号』と呼ぶことにした。実験もそこそこにして、敵の懐に潜ませる予定だという。


 1997年8月


 検体3号を作るよう上から命令が来た。しかし、やはり危険なのではないだろうか。今度私自身が掛け合ってみよう。


 1997年9月


 畜生!馬鹿にしやがって!

 私がただに人間だっただと!?

 優秀だったから、同種と偽って、この街へ連れてきた、と同僚が言っていた。ただの魚のような顔をした人間なのだと。

 信じていたものが裏切られた。

 だが今更神への信仰は取り消せない。検体3号を作るしかないのだ。


 1998年1月


 失敗した。

 私は悪くない。多くの深きものと人間が死んだ。だが私は悪くない。

 だが検体3号は不完全だ。いずれメタショゴスになりうる力はあるが、今ははただのショゴスだ。大勢でかかれば封印できるだろう。

 いくら私が人間だったからといって、神たちの信仰を怠ったことはない。だからこの暴走事件は私が原因ではない。

 だが私は一足先にこの世からおさらばさせてもらおう。いくらなんでもあれに食われるのは嫌だ。

 しかし心残りと言えばやはり深きものに生まれたかった。多くの時をへて、深きものの科学の発展する様を見たかった。

 そして一目見たかった。大古の地、ルルイエを!

 だが今更言っても仕方のないことだ。では行くとしよう。

 ふんぐるい! むぐるうなふ! くとぅるう! るるいえ! うがふなぐる! ふたぐん!

 ふんぐるい! むぐるうなふ! でいごん! るるいえ! うがふなぐる! ふたぐん!

 いあ!いあ! くとぅるう!

 いあ!いあ! でいごん!』



 ◇ ◇ ◇


 どれくらいの時間が経っただろうか。

 紙に落ちた汗が乾いて、染みを作っていた。

 圭吾にとって覚書の大部分は難しかったり、感じがわからなかったりで、ほとんど理解できなかったのだが、おぞましきことが書かれているということだけはわかった。

 

『錬金術やチクタクマンのアリゴリズム……そんなものが使われていたのか……』


 だが結局、この危機を脱する手段は書かれていなかった。ショゴスが嫌う薬なるものがあるみたいだが、どう見ても薬品の類は残っていない。

 圭吾ははその場にへたり込む。これでわずかな希望はすべて経たれた。

 あとはもう出来ることと言えば、自ら命を絶つぐらいだが、中学生の圭吾にそのような勇気はなかった。

 だから圭吾は目をつむる。

 ただ、待つ。

 怪物が自分を食い殺す様を。

 心のの底。深海のように深い場所から声が聞こえた。

 

                                       『だから?』


「僕は」


                                       『どうする?』


「生きるのを」


                                       『生きるのを?』


「諦めた」




 ◇ ◇ ◇



 圭吾が目を瞑っていると、実験室の扉を開く音がした。


「圭吾君……おるか……?何とか逃げて来た……あいつ分裂した後の自分の操作はまだ苦手らしい……」


 それは里見の声だった。疲労しきっており、声が弱弱しくか細い。血が滴り落ちる音がする。

 圭吾は、どうせメタショゴスが化けているんだろ、と思って動かない。来るべき時が来たと、目を開かない。

 足音が圭吾の前で止まる。

 圭吾は目を開く。

 そこには里見の姿をしたものがいた。

 右腕から先がなく、血が滴り落ちていた。もう一本の手で刀を持っていた。

 里見の姿をした者が一歩前に出た。

 圭吾は腕で自分の顔を塞ぐ。

 次の瞬間圭吾は里見の姿をしたものに抱きしめられていた。

 温かい。

 冷え切った体が、暖かくなるのを感じた。


「ごめん……ごめんな……一人にして」


 どこからどう聞いても里見の声だった。しかし、本物の里見であれば、無用心にショゴスかもしれないものを抱きしめるだろうか、という疑問が圭吾の頭に浮かぶ。

 それでも暖くて、柔らかかった。

 すべての疑問を投げてしまっても、甘えたくなるほどに、縋りつきたくなるほどに。

 否、どうせ死ぬのなら、いっそ本物だと思っていたほうがいいのかもしれない。

 だから

 だから圭吾も抱きしめ返した。家族を抱きしめるかのように。


「あ……あと十秒ほどで薬が切れる気がする……その時はけったいなこと言ったり、するかもしれんが、よろしゅうな……」

「うん……」

「7……6……5……4……」

 

 3……2……1……


「ゼロ……」


 その言葉と同時に里見の姿をしたもの……いや、里見の抱きしめる力が強くなった。


「ぐっ」圭吾は呻き後を吐く。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい助けられなくてごめんなさい見捨ててごめんなさい

 逃げてごめんなさいごめんなさい悪い子でごめんなさい良い子じゃなくてごめんなさい

 もっと強く注意しなくてごめんなさい刀を勝手に持ち出してごめんなさい

 圭吾君を危ない目に会わせてごめんなさい死んでなくてごめんなさいなんとなくごめんなさい

 臭くてごめんなさい私が私でごめんなさいあなたがと私が違うのがごめんなさい

 好き嫌いが多くてごめんなさい失敗してごめんなさい成功してごめんなさい

 朝起きてごめんなさい夜寝ていてごめんなさい怖がっていてごめんなさい

 引きこもっていてごめんなさい迷惑をかけてごめんなさい愛してなくてごめんなさい

 愛しててごめんなさい嫌いでごめんなさい好きでごめんなさいうるさくてごめんなさい

 口下手でごめんなさい悪口言ってごめんなさいケンカしてごめんなさい切ったりしてごめんなさい

 薬に頼っててごめんなさいすりつぶしたりしてごめんなさい食べちゃってごめんなさい

 文雄君を死なせてごめんなさい杏子ちゃんを死なせてごめんなさい……」


 そこまでいっきにいって息が続かなかったのか、里見は咳き込んだ。

 そのまま過呼吸に陥ったかのように、荒い息となる。

 圭吾は昔過呼吸の人の対処法としては、紙袋を使うのは間違いである聞いたことがあったので、取りあえず里見の背中を撫でた。

 次第に彼女の息は収まっていく。

 圭吾は『許す』という言葉について考える。

 当然圭吾には彼女を許す権利なんてものはない。

 だが里見にはそれが必要に見えた。

 例え嘘でも圭吾が許すと言ってやれば、彼女の心が少しでも晴れるのではないだろうか、そう思ったのだった。

 だが


「僕も……ごめんなさい……」


 圭吾の口から出てきたのは謝罪の言葉であった。


「勝手に廃墟に入ったりして……文雄を結果的に死なせてしまって……杏子ちゃんを死なせてしまって……ごめんなさい……里見さんを危険な目に会わせて……生きるのを諦めてごめんなさい……」


 圭吾の瞳から涙がこぼれ出る。今日何度も流した涙だが、それでもなお枯れることはなかった。枯れるはずはなかった。

 

 里見は抱きしめるのを一旦止める。

 そして二人は目を合わした。

 長い髪の気の間から見える、彼女の漆黒の目は相変わらず不健康そうだった。焦点が定まっておらず、瞳が揺れていた。

 その瞳から様々な感情が伺える。

 恐怖。罪の意識。悲しみ。わずかな希望。狂気。そして慈愛。

 里見の震える口から言葉が漏れ出た。


「許す……」


 彼女の瞳から涙がこぼれ出る。


「許す……許します!私にはそんな権利はないけど、今は私が許す……十字架を背負うことを止めたりはせん……でも無事家に帰るまでは私が許す!」


 溶けていく。

 圭吾の心が融解していく。

 例えそれが元気づけるだけのための言葉でも。

 例えそれがその場だけの言葉でも。

 圭吾はどこか救われたような気がした。

 そんなはずはないのに。帰ればばばきっと呪詛に悩まされるのに。

 それでも圭吾は言う。

 例え……目の前の女性が粘液が化けていた姿だとしても。


「僕は生きるのを諦めた。そのほかにも様々なものを諦めた。でも今は諦めない!きっと生きて帰ると誓う!」


 里見はそんな圭吾に顔を近づける。そして彼の唇に自分の唇を合わした。


 

 ◇ ◇ ◇



『なんで……?』


 クエッションマークが頭上に大量に浮かぶが、熱病に犯されたように脳が麻痺してそれを押しつぶしていく。

 唇の間からうねりを帯びて舌が入ってきた。

 圭吾の舌の上や下、歯茎などを里見の舌が這って進む。鼻で呼吸するのを今まで忘れ、息が詰まった。

 圭吾の脳髄に快楽物質が多く分泌され、正常な思考が出来なくなった。

 里見が圭吾のスボンのチャックに手をかけた所で、圭吾は流石におかしいと思い、里見を突き飛ばした。

 里見が床に倒れこむ。


「なななななな何?!何なん!?」


 圭吾は叫んだ。

 どう考えても今はそういう流れではない。正気の沙汰とは思えなかった。

 里見が緩慢な動作でゆっくりと立ち上がる。

 髪の毛の間から見える目は相変わらず揺れていて、血走っているが、今は狂気の成分が強い気がした。

 それは例えるのなら。

 捕食者の目。

 里見の口から、うめき声めいたものが漏れ出る。


「必要……」

「何が?」

「人間は命の危機状態になると、種を残すために性欲が高まる……」

「そうかもしれんけど何もこんな時に……」

「必要……遺伝子必要……」


 里見がタックルをしてくる。

 二人は床に倒れこんだ。里見の右腕から流れ出た血が、圭吾の顔に降りかかった。


「遺伝子遺伝子遺伝子遺伝子遺伝子遺伝子遺伝子遺伝子遺伝子!」


 里見の瞳は眼球が飛び出さんばかりに見開いている。

 そこからはなし崩しで。

 右腕がないとは思えないほどの力で。

 圭吾は服を

 脱がされ――――



 ◇ ◇ ◇


 

 何事にも終わりは来る。

 人、物、植物、物語、世界。そのすべてに平等に終わりはくる。

 例外があるとすればユゴス星の甲殻種族が『彼方なるもの』として崇拝しする『<一にして全>、<全にして一>』であるものだとか。呪われたフルートのかぼそき単調な音色の只中、餓えて齧りつづけるは、あえてその名を口にした者とておらぬ、果しなき魔王である『白痴の神』だとか。

 例外はあるものの、終わりというものは来る。

 それが勝利と言う形で終わるのか、それとも死と言う形で終わるのか。

 それこそ神とみぞ知る。ではあるが。

 滑稽にして親愛なる紳士淑女諸君。

 冒涜的にして慈愛なる悪魔方諸君。

 チクタクマンは現在時刻を記録した。

 未だ第二の検体は汝の懐にあるのだ。中指を立てて列に加わるといい。

 それでは、どうか祝福と、誹謗と、喝采を。



 ◇ ◇ ◇



 圭吾は虚ろな目で前を見ている。

 ぼやけた視界で何かが動くのを。

 行為が終わるまで圭吾は黙って動かないでいた。そんな自分をどこか遠い所から見つめている自分がいる気がした。

 だから他人事のように思おうとした。

 圭吾は生きるのを諦めないと誓ったのだ。

 ここから抜け出すのに不必要な記憶は捨てる。ショックのあまり行動できなくなる記憶などいらない。

 だから、圭吾はここ数分の記憶を自ら消去した。

 もとい、あまりのショックで記憶が飛んだということだが。

 圭吾はズボンを引き上げ、そして立ち上がり高らかに言う。


「僕は生きるのを諦めた。そのほかにも様々なものを諦めた。でも今は諦めない!きっと生きて帰ると誓う!」


 服を着直した里見が、突然大きな声を出した圭吾に驚く。

 再度圭吾は言う。


「僕は生きるのを諦めた。そのほかにも様々なものを諦めた。でも今は諦めない!きっと生きて帰ると誓う!」

「え?あ、うん」

「僕は生きるのを諦めた。そのほかにも様々なものを諦めた。でも今は諦めない!きっと生きて帰ると誓う!」

「わかったから……わかったから……ここから脱出しよう……」


 気持ちの切り替え。

 圭吾から見て里見の目は先ほどよりは動揺してないように見えた。


「それで秘密の脱出口いうのは?」と圭吾。

「それは……これや……」


 里見は立って、床の一部に刀を入れ、四角に切り裂いた。

 板をはがして、里見は鉄の四角い箱を取り出した。

 そしてその蓋を開ける。

 中には筒状のものが何本か入っていた。


「何これ?」

「ダイナマイト……これで壁を開けて脱出する……」

「何でこの場所にこれがあるって知ってたん?」

「前にここへ来た時、今度閉じ込められた時のために隠してる人がいた……その人は死んだけど」


 次の瞬間実験室のドアが蹴破られる。

 圭吾と里見はすばやく後ろを振り返った。

 そこには少女の姿をしたものがいた。

 服は杏子のものを真似て作ってある。

 だが顔は杏子とは似ても似つかなかった。

 顔の皮膚は解けるように、爛れている。唇がなく、歯がむき出しに出ていた。眼孔のなかには眼球はなく、粘菌がはみ出ていた。シャツの間から小腸が出ていた。スカートの間から管のようなものが三本垂れ出ており、そしてその先に肉細工のようなものが付いている。肉細工は引きずられていて、地面に血の跡を残した。それは二本の手と、二本の足を持っている。


「おぎゃあ」


 肉細工が鳴いた。


「おぎゃあおぎゃあおぎゃあ」


 三つの肉細工が、合唱するように泣いている。

 少女の姿をしたものが進むと、スカートから垂れ出ている管が足に引っかかった。しかし気にせず進み、肉細工は踏まれることになる。

 西瓜が割れるような音と、鼠が潰れたような断末魔とともに、肉細工の内一つが静かになった。

 少女の形をしたものの口からうめき声が漏れる。


「お兄……ちゃん……痛いよ……」


 里見が刀に手をかける。


「私は強い私は強い私は強い私は強い私は強い」


 それは、自己暗示であった。

 里見は言い終わると溜息一つついた。


「3分だけならまだ動ける……それを過ぎても逃げるぐらいは出来る……家に戻れば安全や……せやから時間稼ぐさかい今のうちに壁に穴を……」


 そう言ってライターを圭吾に渡した。


「わかった!」


 圭吾は里見に背を向け、ライターの火をつける作業に取り掛かった。


「──黄衣王流、一本指し!」


 後ろで里見が何か言っていた。何かが切れる音や、爆発のような音もする。

 だが圭吾は気にしない。時間を稼ぐと言った里見を信頼しているから。

 ライターのフリント・ホイールを回す。

 だが火は付かない。

 再度試す。

 だが火は付かない。

 何度も何度も何度も試す。

 だが火は付かない。


「付け……付け……」


 そう呟きながら回すも付かない。

 手に汗がにじむ。

 だが火は付かない。

 だが火は付かない、

 だが火は付かない。

 後ろで何かが潰れる音がした。

 焦りのあまりライターを床に落とした。

 慌てて拾い上げフリント・ホイールを回す。


「付け!付けよ!!付けよおおおぉぉぉ!!!」


 祈りが通じたのか。

 願いが叶ったのか。

 暗闇の中、チムニーに光が灯る。

 圭吾は実験室の外側の端に向かって、火をつけたダイナマイトを投げた。

 一瞬の間を置いての閃光、そして爆発音。

 圭吾は腕で顔を防ぐが、瓦礫の破片がかすり、所々の皮膚に傷を作った。

 白い煙が上がり、火薬の臭いが鼻をついた。

 そして肌に風の流れを感じた時、成功したのだと確信した。


「てけりおぎゃああああぁぁぁ」


 出口が出来たことにより、獲物を取り逃す可能性を考えたのか、ショゴスは少女の形を崩し、今開いた穴に回り込む。


「圭吾君!」

「わかった!」


 その里見の一言で彼女が何を言わんとしているのかが、圭吾にわかった。

 ライターのついたままの火を、他のダイナマイトの導火線に漬ける。


「Waaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」


 地の底まで届かんばかりの方向。

 だが圭吾はそこにある無数の目や、口を真っ直ぐと見る。


「喚くな!潰れろ!粉々に砕けてくたばれ化け物!」


 叫びと共にダイナマイトを投げる。

 それをショゴスは包み込んだ。

 今度はくぐもった爆発音がした。

 ショゴスは粉々になったりはしなかった。大量の粘菌の肉厚で爆発を防いだのだった。

 だが、ショゴスは力尽きたように、その場で液体となった。


「やった……?」と圭吾。

「まだや……せやけど弱っとる。逃げるなら今のうちや……下で受け止めてあげるさかい先いくぞ……」


 里見はそう言いながら液体を飛び越え、穴から外に飛び降りた。

 圭吾もそれに習い、赤黒い液体をかわし、穴の前に立つ。

 下を見ると、里見がすでに体制を建て直し、手を広げていた。

 圭吾は一瞬の躊躇の後、そこに向かって飛び降りた。




 ◇ ◇ ◇



 一瞬の浮遊感。そして落下。

 体に大きな衝撃を受け、圭吾と里見は地面に倒れこむ。

 二人は立ち上がった。

 圭吾は辺りを見回す。

 遠くで祭りの光が瞬いているのが見える。深きものどもの祈りが、風に乗って聞こえて来た。雲が少し晴れて、月が顔を出していた。


 里見は言う「走れる?」

 圭吾は答える「走れる。里見さんは?」

「走れる」


 後ろで大きな音がした。

 振り向くとショゴスが、校舎から出ようとしていた。

 二人は同時に夜の駆けだした。

 

 二人は走った。

 挫いた足が痛んでも、自己暗示が切れて恐怖が襲ってきても走った。

 前へ、前へ。

 二人はただ最短ルートだという理由で深きものどもの祭りの真ん中を通った。

 暴走したショゴスは、道にいた深きものどもを喰らいながら追ってきた。

 粘菌は次第に大きくなり、メタショゴスへと近づいていく。

 走る二人の後ろから魚類めいた叫び声が上がった。

 だが二人の耳には入らない。

 二人は走る。

 靴が脱げても。

 何度転んでも。

 爪が割れても。

 息が切れても。

 仮に足が無くなっても、這って進んで逃げただろう。

 例え心臓が破裂しても、反射の動きで逃げただろう。

 例え脳みそがとろけても、臓物を引きずってでも。

 

「諦めない!絶対に諦めない!」


 ショゴスが這って進んだ後には血の跡だけが残った。

 影なる粘菌の大きさは既に、家一軒分の大きさになっている。

 だが二人はそんなことは知らない。

 二人の頭にあるものは、家まで走るということだけ。

 家族を巻き込むのではないかと、先ほど圭吾は聞いた。

 だが里見は言った。大丈夫だと。

 圭吾はそれを信じた。

 階段を登り、坂を登り、路地の間を行った。

 木の間を通り、土の地面の道を進んだ。

 そして。

 そしてようやく。

 二人は遠くに自分たちの家を視界に捕えた。

 段々畑の先。圭吾の祖父は所有している土地とそうでない場所の境界線に一人の男が腕を組んで立っていた。

 その男の名は源一郎。かつての旧家の長であった。

 圭吾は知らない。彼は呪いにより自分の土地から出ることができないのだと。

 だからこうして境界に立つことしかできないのだと。


「お祖父ちゃん!」


 圭吾と里見は同時に右手を前に出した。

 源一郎は両手を前に出した。

 そして、この家の長は、二人を自分の地に引っ張り入れた。

 圭吾と里見は畑に投げ出される。

 そして里見は緊張の糸が切れたのか、その場で気絶した。

 圭吾後ろを倒れたまま振り返る。自己暗示という魔法が切れ、もうこれ以上は走ることが出来ないだろう。

 そして見た。

 祖父の大きな背中を。

 すでにショゴスはそこまで来ていた。圭吾が先ほど見た時より、ずっと大きくなっていた。

 それは恐ろしいもののはずなのに、何故だがなんとかなる気がした。

 それほどまでに

 源一郎の背中は頼もしくて。


「わしの孫らにようやってくれたな。多少こっちの非はあっても、過剰防衛ちゃうか?」


 源一郎ははっきりとした声で言った。恐ろしき冒涜的な影の粘菌を前にしても。

 恐れることなく。


「今は大丈夫やけど、いずれお前はでいごんどころか、くとぅるふよりも脅威となりうる。せやからあのお方も、力を貸してくださるやろう。ついでにでいごんにももう少し潜っておいて貰おうか」


 圭吾には見えないが、その瞳には強い意志が宿っていた。

 そいして組んでいた手をほどく。

 粘菌状の化け物に、右手を伸ばして――――

 高らかに叫ぶ。


「――――来い

 黄衣の王の名を借りて命ず。

 現れよ汝が影、汝が形

 アルデバランへの門を開け」


 言葉に答えて、源一郎の影が伸び上る。

 そして彼の影が光をおびはじめた。


「でいたる らんどる あであむ いーすーし まんぐふ」


 彼の言葉は深きものどもの呪詛めいた祈り似ているようで、まったく違うものだった。

 それは意思ある言葉であり、力であった。

 そう、巨大なる粘菌を砕くための。


「ふろくら あすたらいむ どいらしとな すたたたーく」


 それは源一郎の影を門として、どこでもないどこかからやってくる。


「らいとらる しとらいすむ あたらくしあ はでうむ」


 怪しげ風と共にそれは来る。


「どすとらいふ したのーと またりむい どわいでおう あでむす」


 すべてを侵食するかのような力を待とってそれは来る。


「彼方なるものの息子、黄衣の王。

 我らが永久にして絶対の王よ。

 力の貸与を願う

 ふんぐるい むぐるうなふ はすたー あるでばらん うがふなぐる ふたぐん!」


 影からこの世のもおでない閃光がはじける。

 断末魔とともに、ショゴスが崩れ去った。

 海の方向からダゴンのうめき声が聞こえる。

 そこから先は圭吾は何が起こったのかは知らない。

 だが、圭吾は自分が助かったのだと知った。

 消えかける意識の底で、圭吾は源一郎の言葉を聞いた。


「いあ!いあ!はすたあ!」


 と。



 ◇ ◇ ◇



 圭吾が目を覚ましたのは病院でだった。

 起き上がると、のぞき込んでいた両親が泣いて抱きしめてきた。

 だが、何があったのかは、聞いて来なかった。そして誰にも、何があったのかは話してはだめだと言っていた。お祖父ちゃんがもみ消したからと。

 ここはあの街とは別の場所の病院なのだと言った。そしてあの街は地図から名前が消えるのだとも。

 里見さんは?と聞いたら、両親は気まずそうな顔をして、

 今は会わないほうがいい、そして次会う時は彼女のことについて大事な話がある

 と、はぐらかすように言った。命は無事だとも言った。

 圭吾の傷は一週間ほどで治り、夏休みが終わるころには学校に帰れるだろう。

 こうして圭吾の短いようで長いお盆は終わりをとげたのであった。

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