団体戦2
榊と長野さんの試合は、レベルの高い立ち上がりから始まった。
どちらも、高レベルなラリーを繰り広げ、一発いっ発が高いレベルの応酬だ。
しかし、榊は、レベルが高いなんてもんじゃない。
それを、甲野は、この試合で感じることになるのだ。
「どうした?」
スコアボードには、6-4
長野さんがリードしている。
小技で崩し、得点に絡ませるスタンダードながらも、難しい配給をする長野さん。
それが、榊にきいているのか、今現在榊は負けている。
「おいおい、こんなもんかよ」と大悟がいった。
確かに、これまでの四点は、スマッシュでもぎ取った物だ。フットワークで制したわけでないし、小技で決めたわけでもない。
「負けんなよ」と甲野は、呟く
その声が榊に届いたのか、榊は甲野をじっと見ると、「お前は俺が負けると思っているのか?」と返す。
「ほぉ」と青さんが笑う。
「……思うのなら。すぐに忘れろ。忘れさせてやる」榊は言うと、足の根本に巻いていたサポーターをはずしコートに戻った。
「まさか、重りとか言わないよな?」
「………重りだ。」と榊は返す。
「まじで?」と長野さんは、口をパカパカと開けている。
「……嘗めてた訳じゃない。取り外すのを忘れてたんだ。」榊はそう言うとコートで再び構える。
長野さんは、サーブを打った。そのサーブを飛び付きプッシュで返す。
まるで、飛んだ様に飛び付き叩いた。
「巻き返しだ。」
榊は、サーブを打った。ショートサーブだ。
それを長野は、手前に返す。それを榊はクロスに返した。
決して長野さんの打つ球が浮いている訳じゃない。榊の移動が神がかっているのだ。
榊はロングサーブを打った。
長野は、それをドロップで返した。クリアをそう簡単に打つわけにはいかないからである。
そのドロップに榊は追い付くと、綺麗なヘアピンを返す、ネットをシャトルが転がり床に落ちる。
落ちるすんでのところで長野は、何とか返すが、それをプッシュで返される。
榊はサーブを打った
長野は、低めのロブを打った。
榊は横にとびそれをプッシュする。
「………ははは」と長野は笑った。
まるで、鳥だ。翼が生えているみたいだ。
速い、移動が速い。
とてつもなく、フットワークは、全然長野の上をいっている。
そして、跳躍からのショット。
まるで、その動きは空の王とも言える動きだ。
15-6
とどんどん点差が離れていき、長野は、諦めてはいないが、どうしたらよいのかわからなくなっていた。
だが。長野は決して諦めない、奢りたくないからだ。
パァン!
15-7
点がとれないわけじゃない。
長野はそう言い聞かせ、足を動かす。
19-9
そのポイントの時に奇跡が起きた。榊のスマッシュを長野が、なんとか返したのだ。
ふわふわと返されたシャトルは宙に浮いている。
榊は、そのシャトルを見ると、両足に力をいれる。
体をバネのように使い、少し反りながら、シャトルを空中で叩く状態を作る。
この時、甲野は、思った。まるで、鷹だと。
空中の滞空時間が異常に長い。そして、シャトルと自分の腕の位置を調節した榊は、振り下ろす。
まるで、巨人が剣を振り下ろすような迫力がそのとき榊にはあった。
パァン!
シャトルの羽が舞った、恐らく、この部活でシャトルの行方を追えたのはこうのだけだろう。
滝のように落ちたシャトルは、コートに突き刺さると飛ぶように跳ねた。
「アウト?」と大悟は言った。
「見えなかった…」と大原さんは言った。
「いや、インだ。」と長野さんが言った。コートにシャトルのコルクのあとが生々しく付いていた。
ーーーーーー
試合はその後すんなり終わり、榊の勝ちになった。
「まるで、天使みたい」と、青さんが言った。
確かに飛んでいる姿は、それに近いものを感じさせる。