団体戦
「んで、団体戦をやることになったんだが」
大地は、一年生六人を集めて言った。
「やるからには、勝ちたい。」と大地は、真剣な眼差しで言った。
それもそのはずだ、もしも勝ったら先輩がファミレスで食いもんを奢ってくれるらしい。
「取り敢えず、1ダブと2ダブは、女子出るらしいから、そこに女子を入れるのは決まりだな。」
此方の人数が男女合わせて六人しかいないため、むこうも、女子を混ぜて来るようだ。
それで、ルールと言うか原則、女子のいる試合は俺たちも女子を出さなければならないと決まった。
「じゃあ、1ダブは、月岡で頼む、あと、月岡と組みたいやつは?」
「はーいはーいはーい」と大悟が手をあげて、騒ぐ。
「じゃあ、大悟だな。」と大地がいった
「……そいつは、シングルで出させた方がいい。出すなら甲野だ。」榊が言った。
「俺か??」と甲野は首をかしげる。
「まぁ、なんだかんだ言っても初心者だもんな甲野はぁ」と大悟が言う。
「はぁーー!!甲野より、俺が出た方が絶対1ダブル取れるからいいって!」と大悟が喚く。
「じゃあ、1ダブでるよ。宜しくな、月岡」と甲野が言う、
「わかったわ。それにしても………以外と本気なのね榊君。」と月岡は、微笑しながら榊にいった。
「金がねぇんだよ……奢ってもらえるなら奢ってもらった方がいい。」と榊は返す。
「じゃあ、ニダブは、俺と大原で出るよ」
「俺は一シンで出る。」と榊は言う。
「じゃあ、2シンでいいよ、本当なんなんだ甲野は、腹立つな」と大悟がふてくされながら言う。
本当にしつこいな。
と甲野は思う。
「3シンは、私が出るわ」と月岡は、言った。
「………いいのか??」
「私はそこら辺の男子よりは強いわよ?」と月岡は、腕を組ながら言った。
こうして、オーダーが決まった。
晩飯をかけた試合が始まる。
ーーーーーーーーーー
「宜しくね甲野君」と月岡が微笑みながら俺に顔を寄せていってきた。
「因みに俺ははじめてのダブルスだ」
「ぇ、はぁー!?まじで!えー、まぁ大丈夫か、私が組むんだし」と月岡は言う。
月岡都、大地が言うには、こいつも、榊についでかなりの実力者らしい。
学べるものは学ぶ
甲野はそう思った。
「それではー、1ダブル始めますー。」と長野さんの呑気な声が聞こえた。
俺たち二人の前に、二人の先輩が立ち並んだ。
「よろしくねぇ」と眼鏡をかけた女の先輩が手をさしのべた。
確か、この人は、 向島さん。
握手をする。
「私は、あまり強くないから狙わないでねぇ」と向島さんは、ニッコリと笑い俺に言ってきた。
「狙うなら私を狙ってね」と向島さんの相方であろう男の先輩が言いながら手をさしのべてきた。
確か、三年の光成さん。
ぎゅっと、握手をした。
「あの、何で手を離してくれないのですか?」俺は、いつまでたっても、手を中々離してくれない光成さんにいった。
「あぁ、ごめんごめん。つい、甲野くんの手が男っぽくて素敵だったから。」
光成さんは、ポッと頬をあからめると、もう片方の手で俺の手を擦ってきた。
なるほど、こういう人か。助けてくれ月岡
「向島さん、光成さんってまさか」月岡は訪ねた。
「そっち系の人よ。」真顔で向島さんがかえしてきた。
「……あ、あ、もういいですか?」と俺は手を離す。
「んふっ、じゃあ、試合しましょ。貴方のことよーーくかんさつさせてね。」と光成さんはいった。
「もてもてだなぁ」と大地が笑った。
死ね。
「ファーストゲームラブオールプレイ!」
コールと共にファーストの光成先輩が月岡に向けてサーブを打った。
「(じっくりと見せてもらうね甲野君)」と光成は思った。
サーブを月岡は、ドライブぎみに返す。向島先輩のフォア側に狙って打たれたドライブを向島先輩は、うまく対処することはできず甘めに上げてしまう。
それを、俺は、屋上での素振り通りに打つ。
スパァン!と気持ちのいい音が聞こえた。
キャッと言った声と共に向島さんが転ぶ。
シャトルは、先輩方のコートに転がっていた。
この時大地と榊は、甲野のスマッシュを見て驚いた。
殆ど完成されている。
そして、初心者とは思えない、圧倒的なスピード。
俺、速くなった?と甲野は、感じた。
「やるじゃない。」と光成先輩は言った。
1-0
次に甲野が向島さんに向かってサーブを打った。
スパンと音をならし、シャトルが向島さんの手元に届く。
向島さんは、それを打ち上げると、サイドバイサイドにならず、コート前に移動した。
!?
「関係ないわ」と月岡は、言うと、スマッシュを、空いたコートに打つ。
光成は、それを打ち上げた。
いいスマッシュだったが、返されてしまった。
コートの中央に上げられたシャトルを甲野は、見ながらフットワークで、中央に移動する。
ドン!
甲野と月岡は、コートの中央で仲良くぶつかってしまった。
「いってぇ、悪い。月岡」
「いたたた。………早く手をどけて」
「あぁ?あー、お約束か、悪い」
「………人の胸さわっといて、それだけなの?」
「ん?嬉しかったぜ」
ドすっ!月岡は、甲野に軽いチョップをプレゼントした。
「じょ、冗談だ。悪い悪い。さぁ気を取り直していこーぜ。」
「………別に怒るほどでもないけどさ、甲野くんだし……」
「何かいったか?」
「なにも!」
光成は、ニヤリと笑う。
月岡都は、上手い。バドミントンが
試合は月岡の、ショットで崩して、それを、甲野が決めるといったパターンにはいた。
本来ミックスは、女性がコートの前にたち、男性が後ろに立ち、試合をするのだが。月岡と甲野は、上手い具合にバランスがとれていた。
月岡は。普通に上手いし、甲野を狙うと言っても甲野には、黄金のレシーブがある。
結果的に穴のないダブルスが完成していたのであった。
しかし、光成は、この事はすでに読んでいた。
ガシャン!とラケットが、強く重なるおとが響いた。
12-13
試合は、光成先輩が負けてはいる。
しかし、せっさだ。
「あいつらぁ、これで、六回目だぞ。衝突…、流石に多くねぇか?息が会わなすぎんのかな」
「……流石に違う。」榊はいった。
「あの男、コートの真ん中に狙ってる。狙ってるだけじゃない、いかにも、二人が手を出しそうな所を狙って打ってる。」
「サーブレシーブも、微妙なところに返すことで二人のお見合いを増やしてる。小技が上手いな。」
「よく見られているな」
「故意に衝突させてるってことか?流石に違うだろ。そんな技術もったやついるわけ………」
「衝突は、副産物だろ。狙ってるのは、二人のローテーションが崩れるコースだ。崩れたら、前の女の先輩に打たせて点をとる。あのダブルスにたいして一番理想的なせめかたをわかってる。」
「(甲野、早く気づけ。俺の計画を裏切るな)」
榊は、呟いた。
「……月岡、今のは俺のたまだろ。」
「はぁ?まぁ。そうかもしれないわね。でも、取れた?」
「……!悪い」
大丈夫ー、と月岡は笑って見せた。
月岡は、やるべきことをやっている、フォローにも回るしラリーのコースも無理なところに打たない。
ただ、合わしてくれてるかというとそうではない。練習試合だからか、そこまで、熱を注いでいないのかもしれない。
それで構わないが、俺は初心者だ。微妙な球のとるとらないはよくわからない。
今は月岡の動きをよく見て合わせる。
こいつの方が上手いんだから。
「悪い、月岡、すぐに合わすから」
試合はつづく
パン、パン、とラリーは続くが、光成は違和感に気づく。
向こうのダブルスの息があってきている。
先ほどまでの甲野くんは、基本の動きを忠実にやるだけの男だった、だけど今は、月岡ちゃんの動きを予測して動いている。
さっきまでは、月岡ちゃんの動きが正しいのに、月岡ちゃんのフォローをも、気にせず甲野くんが突っ込んでくるから、そこが狙い目だったのに、それが消えた。
光成は、頬に汗が伝わるのを感じた。
15-20
「(何なのよ、あいつらまるで、長年組んできたみたいじゃない!)」
光成は、二人をにらんだ。
元々戦力的に相手二人側に分があったのは確かだが、前半は、二人の穴を狙った試合展開で互角の試合をしていた。
しかしその穴が後半に移りすぐに消えてしまう。
隙がなくなってしまった。
そうなると、向こうに月岡と、全国レベルのレシーブを持つ男がいるダブルスが有利になってくる。
その結果がこの点差だ
15-20
「ごめんなさい、光成さん。月岡ちゃんのヘアピンを何度も真ん中に上げちゃって。」と向島が光成に謝ってくる。
それは、今は仕方ないことである。
大事なのは、現状をどう乗りきるか?である。
取り敢えず、甲野くんに上げて、打ってきたスマッシュを強く返すしかないわね
甲野のレシーブは驚異だが、スマッシュの方は、かなり速い方ではあるがコースがまだ安定していない。そこを狙う。
そう決めた光成は、サーブを打った。
それを、月岡が向島の方へ上げる。向島は、クリアをバッグ側に返すと前に走り、トップアンドバッグの形になった。
もちろんミックスだから基本である。
上がったシャトルを月岡は、カットでネット前に返す。
向島は、それを甲野のいるフォア側に返す。
月岡がこの違和感に気づいた。
やや甘めのたまを甲野に返したと言うのに、光成先輩は、全く動こうとしない、いや、すでに返す体制に入っている。
これは、狙ってる。
甲野上げて!と言おうとしたときには、甲野は、降り下ろしていた。
遅かった、
月岡は、そう感じた瞬間それが間違いだと気づいた。
シャトルは、斜めに落ちたのではなく、高く飛んだのだ。
クリアだ。
光成は、驚いた。あのチャンスボールをクリアめ返した?
呆気に囚われた光成は、あわてて体を動かし追い付き、苦しくもシャトルを返した。
そしてネット前を見る。
そこには、ラケットをすでにあげた男が立っていた。
甲野だ。
ゾッと光成は、悪寒を受けた。
何故すでにそこにいる?
何故さっきクリアをうった?
全て、この子はこの点をとれるポイントまで、読んでいたのだ。
パァン!プッシュが放たれた。
21-15
試合が終わった。
光成は、甲野を見た。
狙われてたのは私の方だった。
「完敗よ」と光成は、てを差し出した。甲野は、それを少し改まったあと、握手した。
「最後のクリア、何でクリアを打ったの?」と光成が言うと、月岡もそうよ、なんで?といった。
「先輩のフォームが何処かおかしかったんですよ、深く腰を落としてるし、クリアだってあるかもしれないのに完全に、俺がスマッシュを叩き返す時の感じがしたから、ですかね?、」
「……完敗ね。」
ーーーーーーー
「よくやったぞぉ!甲野ー」と大地がハイタッチをしてきた。
それを返す俺。
「まずは一勝ね」と月岡が言った。
そうだ、最初は俺のせいでうまくいかないかなって思ってたけど、息が合うようになってからは、負けるとは思えなくなった。
いやむしろ、どうやって勝つかが頭に浮かんできた…。
自分の試合を回想している甲野を榊は、じっと見ていた。
「そろそろだな」と呟く。
「じゃあ、月岡の活躍のお陰で無事1ダブルスを取れたわけだし、次の2ダブルスもその調子で行こーぜぇ」と大悟が言った。
「確かにそうだな」と甲野は、呟く
「じゃあ、大原さん行こーぜ!」と大地は、2回りほど小さい大原さんの肩をぽんと叩くと言った。
「……うん。」大原さんは、何処か緊張しているようだ。
「大丈夫だ、後ろには頼もしい経験者がいるから」気休めかもしれないが俺は大原さんに言ってみる。
「そうだよね」とニコッと大原さんは俺に笑顔を向けた。
「大地頼んだぞ」と榊はいった。
ーーーーーーーーー
「あーー大地かぁ」とコート上の女の先輩が言った。
彼女の名前は羽原。初心者からはじめて、今三年目だ。
「まぁ、何とかなるだろ」と同じくコート上の長野さんが言った。
「嘗めないで下さいね」と大地は笑っていった。
「嘗めねぇさ」と長野さんは言う。
「それじゃあ、第二ダブルスを始めます。」
お互いに握手をして、シャトルを拾い。試合が始まった。
「長野さんと、羽原さんかぁきついなぁ、こりゃ。」と大悟が空気を読まず言った。
「長野さん、県でベスト16以上はいくらしいからね。とても、中学から始めたと思えないよ。」と月岡は、言った。
「羽原さんも、確かセンスがあるとか聞いたぜ」
「青さんと組んでるからね。あ、青さんは、この団体戦出ないのかな?」と月岡は、疑問に思ったのか、青さんを見る。
青さんは、にこにこっとコート上で行われている試合を眺めている。
試合は、大原さんを完全に狙われたプレーで録に点をとれなく、15-1まで進んだ。
「強いなぁ先輩方ぁ」と大地が能天気に言う。
「ごめんね大地君。」
「な、なくなよぉ!大丈夫だぜぇ、俺が勝たせてやるぜ」
「うん!」
「…………はぁーー。打つぜ大地」と長野さんがシャトルを構えている。
「すんませんね、どうぞぉ」
大地は、考えていた。勝たせてやると大口を叩いたものの球は全部大原さんの方へいっちまう。
どうしようか?大地は、ボーッと考えていた時にシャトルが大地の方へビュンと飛んできた。
あわてて大地はレシーブするが、ふわふわと浮いたシャトルは、コートの外に落ちていった。
「……これは、ダブルスだぜ?お前の方にも球は飛んで来るのに随分と余裕だな。決めた今からお前の方しかうたないことにしますわ」と長野さんは、少し微笑を含めて言った。
「……あざす。」とその言葉の真意を理解した大地は少し微笑を込めながら言った。
「何で大地を狙うんだよ」と羽原は、長野にいってきた。
「泣いてる女を狙うのは、少し先輩として人として嫌だったんだよ」と長野さんは言った。
「……そう言うとこがいいんだよな」と呟く
その後試合は殆ど大地を狙った試合に変わった。
21-13
しかし、追い付けず試合は終わった。
プレーを見て甲野は、呟く
「大地何か変じゃなかったか?フォームというか、動きと言うか」
「?何処が変なんだよ」と大悟は首をかしげる
「……何か腕の筋肉の辺り。」
「いやーぁ、負けた負けた。俺ばっかにシャトル行ってたから、辛かったわ」と大地は笑いながら言った。
「ありがとう」と大原さんは、呟く。
「何で礼を言うの?俺が下手だから狙われちまって、俺が謝る方なんだけどなー」と大地は言う。
「次は1シンだな」と榊は言った。
「相手は、長野さんか。頑張れよ榊」と大地は言った。
「…絶対落とさないでね」と月岡も言う。
長野さんと榊のしあいがはじまる
ーーーー
現二三年の中で一番最強の長野さんと、明らかなレベルの違いを見せる榊との試合は、それまでの試合と違って空気が厳粛なものに変わっていた。
シャトルも、新しいのに代えられ、新品のシャトルを叩く音が体育館に響き渡る。
「そろそろいいか」と長野さんは、試合前の一本を終える。
「………サーブどうぞ」と榊はボソッと言う。
「ありがとな、後悔するなよ」と長野さんはいった。
長野さんは、構えると、ロングサーブを打った。
パァーン と高く浮き上がったシャトルを榊は、スマッシュでお返しする。
無駄のないスムーズなフォームから発生する力をダイレクトにシャトルに伝えて、それを放つ。
放たれたシャトルは、長野のラケットを弾くとコートの外に出た。
「とんでもないスピードだな」と長野さんは言う。
「ほれ、シャトルが、もう壊れた」と長野さんは、榊に言った。
新しいシャトルを、筒から出すと榊に渡す
「……すみません。ただ、筒はコートの脇においてください。わざわざ取りに行くの面倒でしょう、また壊れるでしょうし」と榊は返す。
榊は、長野にサーブを打つ。
ショートサーブだ。それを長野は飛び付きクロスに落とす。
ネット手前に落とされたシャトルを榊は拾い上げる。
高くとんだシャトルの下に長野は入ると、ジャンプしてスマッシュを打つ。
それを榊はキャッチする。
その返されたショットを、プッシュで叩く
「返すのは゛読めてたからな゛前に出させてもらった。」長野は言う
じっと、榊は黙り混む。
1-1
「やっぱ。ショートサーブだな。と長野は呟くと、ショートサーブを榊にうつ。」
パァン
手元にきたシャトルを榊は、速いロブでコート奥に返す
長野は追い付き、コートを見る。ドロップスマッシュは、打たない。クリアだ。
パァン
榊は、素早く後ろに動くとスマッシュの体制に入る。
榊はスマッシュをうつ。が何処か検討違いの方へ飛んでいった。
「アウトだよ。今の、」と長野は榊に言う。
「普通のクリア返したらスマッシュが飛んで来て取られると、思ったからアウトに打ったんだ。」
「おもしろい」と榊は笑う。
2-1
サーブを長野さんは、打つ。
そのサーブを、榊はドライブで返す。
すぐに長野は追い付き、それをクロスの奥に返す。
榊は追い付き、これは入ってるとすぐに判断する。
スマッシュを打つ。
長野さんは、バックにもちかえ早めに振る。
がつっ。シャトルがラケットを弾く音がした。
シャトルは、コートの外に飛んで言った。
2-2
「長野さんは、スマッシュも速いしフットワークも速い。そして、綺麗に決まるヘアピンと小技で上手な試合運びをする。かなりの実力者だよ」と青さんが突然甲野の脇に立って言った
「!!びっくりさせないでください。見ただけで相当レベルが高いってのがよくわかります。」
「だけどね、榊くんは、もっと強い。たぶん次元が違うって言うくらいかも。」