九話 雇用
「…きろ」
「んぅ…」
「おい!起きろ!」
「うう…」
「起きろって…言っているだろうがぁ!」
「うぐぅっ!?」
「ようやく起きたか…」
ということでおはようございますみなさん。
みんなの辻占彼方です。
「ソウさん…?どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたも…お前が飯も食わずに寝ているようだったし…」
そう。ここは牢屋の中だ。それにしてもいつの間に寝たんだろうか?
寝るまでの記憶が一切ない。
まさに異世界である(?)
「それにだな、お前に興味をも「ぎゅぅぅぅぅ」った…」
おっと、お腹が鳴ってしまった。
しょうがないだろう?異世界に来てから何も食っていんだから。
「…主人には言い訳してやるからすぐに飯を食べろ!客の前で腹を慣らされてはたまらんからな。」
「へ?お客って、僕目当ての?」
「ああ、そうだ。若い女だったが、帯刀していたのでただのお嬢様ってわけじゃなさそうだったが。ほら、はやく飯を腹に入れろ!」
鉄のプレートのようなものの上に乗っていたのは冷めたスープ、堅そうなパンだけであった。
「…いたただきます。」
俺が何か言ったのを見てソウさんは怪訝そうに首をかしげたが、その視線はあるところで止まった。
「…お前、その左腕…」
ん?なんのことだ?と思って見てみたが…
「?左腕がどうかしたんですか?」
なんらおかしくはなかった。
「いや、なんでもないんだ。食いおわったか?じゃあついてこい。」
といってソウさんは足早に牢屋の外に出た。そして俺はそれにあわててついていった。
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牢屋が両脇に続いている石畳の通路の行き止まりの扉を開けると、床は木製へと変わった。
その木の通路を少し進んだところに階段があり、俺たちはそれを登って行った。
「…わかっていると思うがくれぐれも粗相のないようにな。」
と、ソウさんのどこか中性的な声で注意される。
「わかりました…」
コンコン、とソウさんが立派な木製のドアを叩くと、中から入ってこい、と声がかかった。
「失礼します。」
「し、失礼します」
といってソウさんに続けて部屋の中に入る。
中は学校の校長室のようになっていて、奴隷商人が扉側に、そして向かい側には二〇歳前後と思われる赤い髪、赤い眼をもったえらく美人さんが座っていた。
眼はツリ目で、それが彼女の纏っている雰囲気を鋭くさせている。
また、座っている姿勢もきれいなことから、よっぽどのお嬢様、あるいは武道の嗜みがある人なのだろう。
「こちらが商品になります。黒眼黒髪と珍しい色を持っておりますが、何分才能が全くないものでしてお安く提供できます。30金貨でお譲りいたしましょう。」
ちなみに後から聞いた話によると大体奴隷の相場は五十金貨ほどで、そこから才能、容姿を評価して値段をつけるものらしい。また、この世界に生まれたからにはスキルをなにか一つでも持っており(稀に持たないで生まれる人もいる)俺みたいに安い奴隷は滅多にいないんだとか。
「…本当に三十枚でいいのか?」
「は、よろしいですとも。」
女性はしばらく悩んでいたようだが…
「…買おう。」
た
よっしゃあああ!俺のなけなしの幸運が火を噴いたぜ!
前の世界から女運だけは全くなかったからな…
これはいい風向きだ。
「それではこの契約書にサインを…はい…はい。これであなた様はこの奴隷の主人となりました。」
「了解だ。このまま連れて帰ってもいいのか?」
「はい結構でございます。」
おお!本当に引き取ってくれるんだな!
ん…?待てよ?奴隷ってことはこっぴどく扱われるんじゃあ…
「よかったな、これから大変だと思うががんばれよ。」
と、ソウさんが小声で言ってくれる。
ツンデレだなぁ…
まぁ、どうにかなるだろうさ。
「おい、行くぞ。」
「はい。」
そして今度は女剣士の背中を追い、重厚な木の扉を抜けた。
「ありがとうございました。今後ともご贔屓に…」
という声を背中に受け、俺たちは商館を後にした。
できればもうお世話になりたくないものだ…
愛想を尽かされないようにしないと…
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街の中を歩いて、一つの食堂らしき場所に入る。ちょうどお昼時らしく、店内はごった返していた。
「この定食を二つ頼む。」
と、なんとかテーブルに座れたである。
「さて、早速自己紹介させてもらう。私の名前はアイゼス・シーリア。呼ぶ時はアイゼスとでも呼んでくれ。あと一つ確認してもらいたいのが私はお前を奴隷だからといって虐げたりしない。その代わりに相応な働きをしてもらうが。こちらについてはこれぐらいだ。スキルはそちらが話し終わった後にはなそう。ステータスを名前から言っていってくれ。」
「わかりました。【ステータス】」
と言って俺はステータスを呼び出す。
すると…
【ステータスは現在封印された状態です。本日の宵に解放されます。】
とでた。
なんじゃこりゃ?
「あの…実は…」
とありのままを話す。
「そうか…まぁ夜になればわかるんだろう?じゃあ夜に教えてくれ。戦力の把握は早めに済ませておきたい。だがよかったぞ、全くの無能というわけではなさそうだ!」
「そうなんですかね?あっ、俺の名前は辻占彼方と言います。呼ぶ時はカナタとでも呼んでください。」
「了解だ。カナタ…おっと、料理が来たようだ。先に食べてしまおう。」
と言うと、食事を食べ始めた。メニューは鶏肉のようなものを焼いたものに牢屋で食べたのよりおいしそうなパン、それにクリームシチューのようなものだった。
結構おいしかったとだけ言っておく。
「それでは私の身の上のことを話させてもらおう。と言っても家を追い出されて、餞別の金は五十金貨とこの剣、それに今着ているものだけだったというだけなのだがな…」
「?じゃあなんで奴隷なんて買ったんです?」
「…実は戦闘経験はあるもののなまじいい容姿なもので下種な男どもがよってきてな…それを徹底的に痛めつけんたんだ。そこがギルドの中だということも忘れて…そいつらはかろうじて生きていたんだが私の名前が悪いように広がってしまってな…誰もパーティーを組んでくれんのだ。」
「それはなんというか…ご愁傷様です。」
「まぁそんな私が相方で悪いが君には私と二人でクエストを受けてもらう。といっても今日は色々疲れたしな…明日冒険者ギルドの登録に行くとしよう。」
がたっとアイゼスが椅子を下げて立ち上がる。
揺れた。
…なにがってあれですよあれ、コップの中の水と男のロマンがですよ。
「どうした?呆けてないでいくぞ?」
「あぁ、すいません。」
アイゼスにやられた男たち…運が無かったな…
俺も気をつけないと…
そう思いながらアイゼスの背中を追って街へと繰り出した。
ようやく次で冒険者ギルドです!
主人公のステータスも明らかになる予定です。
あとアイゼスが最初のヒロインです。
ここまで結構かかりましたね…
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