道中
「じゃ~ね~一刀ぉ~~」
昔から変わらず真夏の太陽のように笑って手をブンブンと振りながら江東の虎、孫堅、真名を水蓮はすでに高く上がった太陽の陽射しの中を帰っていった。
それを見送った一刀はフラフラと歩きながら自室にたどり着くとボソッと呟く。
「あぁ・・・・。ようやく帰った・・・・・」
その顔は見るからに疲れがたまっており、目の周りには猫熊のように隈が黒々と浮かんでいる一刀は空になった酒瓶が部屋中に転がる中に糸が切れた操り人形のように倒れ込む
ここ数日連続でおこなわれた昼夜関係なしの宴会に強制参加させられた一刀は酒を日ごろから水のように飲む二人にずっと付き合わされて寝不足と二日酔いに一気に体力を削り取られてすでに瀕死だった。
そこに二人がいたことで一刀と遊べなかったことで元気いっぱい、欲求不満な子供たちが襲い掛かり、一刀の滞在予定最終日が終わるころにはいつもは一刀から愉悦を得る女仙人でさえ心配するほどげっそりとしていた。
それでも組織の長が長々と休みを取り続けるわけにもいかず、帰らないわけにはいかない一刀は北斗の背に担がれる形で洛陽までの道を移動しているとぞろぞろと街道を行軍してくる千人ほどの一団が見えたのだ。
どんどんその一団は近づいてきて、先頭を進んでいた男が一刀に気が付き手を振った。
男は一刀に近づいてきてグッタリとした一刀の様子を見ると、やっぱりかと言うように笑った。
「おぉ大将。探しましたぜ」
「よ、よぉ・・・・。なんでこんなとこにいんだ・・・・?」
一刀は理由を考えようとしたが二日酔いと極度の疲れですでに白旗を上げている脳みそは全く働かず、かえってぶり返した頭痛に頭を押さえる。
「孫の嬢ちゃんが大将に会いに行ったって噂を聞いたんでさぁ。どうせ大将が二日酔いになって帰って来ると思って一万ほどを十程に軍を分けて街道を進んできたんだよ」
一団の先頭の男は北斗の手綱を持って引っ張ろうとしたが、それが気に入らなかったのか、北斗はズイっと男の先に進んで洛陽の方に足を進め始める。
北斗の行動に笑いながら男は二十人ほどを連絡要員としてほかの隊に向かわせて、先を行く北斗の後ろに従うように男たち全員が並んで行進を始めた。
北斗が先を行く一隊に次々と合流していく分かれていた隊の一つを率いていた少女が北斗の横まで来ると、その背中に揺られ見事に真っ青な顔色をした一刀に苦笑するしかなかった。
「やはり孫堅に付き合って飲んでいたようだな」
「面目ない・・・。うっ・・・・・」
「水でも飲んで寝ているんだな。お前の体調がよくなるまでは私が全軍の指揮を執るから安心しろ。おいっ、誰かこの二日酔いの大将様を馬車にでも放り込んでおけ」
数人の兵がその声に反応してやってきて、ゆっくりと一刀を別の馬に乗せ変えて、後方の馬車に連れて行った。
「まったく、あの二人と一緒に飲めばどうなる筈か分かっているはずだろう。お前もそう思わんか北斗?」
少女の呆れた声にまったくだとブルルと鼻を鳴らして北斗が答える。
「こんど雪辱を果たしにいくついでに苦情でも言っておくとしよう。こんな私たちみたいな荒くれ者たちを拾ってくれるお人よしを酒で使い物にできなくされるのは勘弁だからな」
空は青く澄み渡り、そろそろ夏も終わりを感じるどこか涼しげな風を肌に感じながら少女は馬を進めていた。