休日
一刀も人間である以上、常に訓練や戦いを続けられるわけもなく、今日は天水近くにある知り合いが経営している孤児院で休日を過ごしていた。
ここには一刀が拾ってきた孤児も多数過ごしており、庭の方から兵士になろうとする子供たちが木製の模造武器を振るって打ち合っている音が聞こえてくる。
そのうちにドタドタと近づいてきた足音に苦笑しながら瞑っていた目をゆっくりと開いて入ってきた男の子を見る。
「オッチャン!!」
「どうした?」
「また恋と霞がみんなを気絶させちゃった」
「またか・・・・・」
苦笑いをしながら一刀はゆっくりと立ち上がり庭に出る。
「あ、一刀起きたん?」
「一刀も一緒にあそぶ・・・・・」
気絶した子供たちが周りに転がった中心で長めの棒を持って対峙していた二人が歩いてきた一刀に気が付き、構えを解いて駆け寄ってくる。
一刀は子供たちを回収しようとしたのだががっちりと二人に掴まれて動けなかったために、自分を呼んだ男の子に知り合いを呼んでもらい回収してもらった。
「おやおや。アンタは何年たっても変わらないねぇ」
両方からとんでもない力で引っ張られて貼り付け状態の一刀を庭に出て来た若い女性が可笑しそうに笑う。
「お前が言うなよ・・・・。お前は百年前から全然変わらないんだからさ・・・・」
「それもそうだねぇ」
女は気絶している子供たちを拾って中に運び込むと観戦できるように縁側に座り込む。
「ほら恋、霞。一刀が遊んでくれるそうだから遊んでもらいなぁ」
「ちょ、この二人はさすがに辛いって!!」
一刀がそう叫ぶが掴んでいる二人は顔を見合わせうなづきあうとそのまま引きずっていき、その手に落ちている棒を持たせる。
そのまま二人は自分用の棒を拾うと喜々として構える。
「やれやれ・・・・・」
一刀も諦めたように棒の先を持ち上げて二人を見やる。
それと同時に二人は一気に加速して一刀に肉迫した。
「今日こそ一本取ったるで!!」
「負けない・・・・・」
空気を切り裂きながら両方から挟み込むように向かって来る二本の棒をしゃがんで避けてそのまま地面を転がり、まず何故か関西弁で喋る少女の肩を狙って立ち上がりざまに棒を振るう。
それを読んでいた少女は棒でそれを受け止めて押し返そうとするが、下から跳ね上がってきた一刀の蹴りが少女の棒を弾き飛ばした。
「しもたっ!?」
「どいて霞・・・・・・」
棒を弾き飛ばされた少女が一瞬硬直するが、その声に即座に反応して横っ飛びするとグワッと棒が一刀の胸をめがけて伸びてきた。
「くっ!?」
それを苦しげにぎりぎりで弾くと一旦距離をとる。
「ってぇ・・・・・・。相変わらずだな恋・・・・・」
「・・・・・・・」コクっ
棒を弾いただけで痺れた腕をほぐしながら苦笑いをする。
一刀の戦い方は自分のわずかな才能を何百年も伸ばし続けてようやく一流を凌駕することが出来た凡人の物。
しかし少女の戦い方は最高の天賦の才に任せた戦い方で、まだ荒くその才能をすべて生かすことはできていないが、それでも十分強い。
もう一人の少女もすでに常人の域を超えており、彼女も優れた才能を垣間見せることがある。
もうこの二人と江東の虎の長女は一刀も手加減が難しくなってきているのだ。
腕のしびれが取れてきた一刀は恋の膂力に対抗するために少しだけ氣を腕に纏わせる。
再度打ち込んできた少女の棒を今度は真正面から受け止めて、一気に押し込む。
氣を纏ったことによって力が格段と上がっているのだ。
この世界では何故か優れた武力を持つ将には女性が多く、研究した結果、彼女たちは氣を無意識に体に纏っていることが分かった。
これを修練すれば氣弾として飛ばしたり、氣を体内に打ち込んで治療したりとかなりの応用が利くのだが、実は誰もが持っている力だった。
自身の剣術に限界を感じていた一刀は何十年も山に籠ってそれを習得してなお、それを激しい動きの中でも扱えるようになるまで修練を続けた一刀は凡人ながら天下無双の実力者となっていたのだ。
天賦の才を持つ恋であっても、何百年の年月の中研鑽され続けた一刀の剣術は破れず、勝っていた膂力も互角になった今、恋は簡単に棒を弾き飛ばされてしまった。
「ふぅ・・・・・。だいぶ強くなってて手加減が難しくなってきたな」
「こうまであっさりと負けるんはくやしいわ」
「・・・・・・・」ムスッ
あからさまに不機嫌な二人に一刀はから笑いをして井戸に向かう。
地面を転がった時に付着した土を払ってから手を洗って孤児院の中に入ると、ちょうど昼飯の時間だったらしく大きな部屋に何十人も座れるように配置された何台もの机の上には大皿に山盛りになった料理が所狭しと並んでいた。
「相変わらずすごいな・・・・・・」
「仙術は便利だからねぇ。何十人分も私が働かなくとも作れるんだから楽だよねぇ」
「さて、俺もいただきますか」
一刀が椅子に座ってその横に座った女性と喋っていると、子供たちがワイワイと騒ぎながら入ってきた。
その中にあの少女たちの姿もあり、彼女たちは一刀の隣が片側しか空いていないことに同時に気が付くと周りで席に座ろうとしていた子供たちを弾き飛ばしながら空いている席に殺到する。
そして同時にその席を掴んだ二人は椅子を思いっきり自分の方に引っ張りながら互いに火花を散らす。
「霞・・・・・・。恋の方が早かった・・・・・」
「なにゆうてんねん。うちの方が早かったやろ?」
「恋のほうが早い」
「うちやっ!!」
「恋っ!!」
普段は自己主張しない恋も引く様子が無いので一刀は立ち上がる。
「二人ともそこに座りたかったんだろ?俺が退くから仲良くしてくれ」
「そ、そういう訳やないんやけど」
「・・・・・・・・・」
「アンタは時々わざとやってんじゃないかって思うよぉ」
三人から呆れたような目線を向けられた一刀はいたたまれなくなって彼女たちから遠く離れた席に座って黙々と食べ始めた。
その日は恋は鬼気迫る表情で料理を食い漁り、霞も一刀が孤児院の倉庫に隠している秘蔵の酒を勝手に持ち出して飲んだ。
荒れに荒れた二人が夜一刀の布団にもぐりこみ、両腕をギリギリと音がしたような錯覚を感じる程締め付けていたために寝れず、目の下にできた隈を笑われたのは言うまでもない。