華雄 夢を語る
皆が寝静まり、月が真上で光り輝いている深夜に村人たちと貸してもらった天幕の中で一緒に寝ていた少女はふと目が覚めてしまった。
どう頑張っても今日の事を思い出して眠れないのですこし散歩をすれば気が紛れて寝られるだろうと思い、周りを起こさないようにあてがわれた天幕から抜け出した。
周りでは何人かの兵士たちが一つの組を作って巡回しているために危険は無いのだがどうしても今日の事を思い出してしまい眠れない。
気が付くと少女は何百もの土が盛り上がった場所まで来ていた。
今回の襲撃の犠牲者たちが眠るそれを見て、怖くなった少女は背中を向けて一気に離れようとする。
そんな時、ある一つの墓の前にどっかりと座り込んでいる質素な着物を着た少年が目に入る。
「(あれは兄者の・・・・・)」
自分の兄の墓の前に座り込んでいる少年が気になった少女は先ほどの恐怖を少年への興味で塗りつぶしてそちらに近づいていく。
「なぁ仁紗・・・・・。俺はどうすればいいんだろうな・・・・・・・」
少女があと十歩というところでそんな呟きが聞こえてきたので、少女は慌てて近くの土盛りに隠れて少年を覗き見る。
質素な着物を着ているが、その少年は白い着物を着て軍勢を率いていた少年だった。
「どんなに強くなっても、どんなに国を動かしても、どこかで目論見とずれて崩れちまう」
少年は手に持っていた酒瓶から一口二口と飲んでから、あとの酒を関平の眠る土盛りに全部かけてしまう。
「大切なものが一つずつ、俺の手の中からどんどん零れ落ちていくんだ」
昼の様子からは考えられない、疲れ切った老人の様な雰囲気を漂わせる少年は座り込んだまま天に浮かぶ月を見上げた。
「・・・・・・・・・・っ!!」
少女はその様に驚いて墓地を飛び出していく。
まさかあんなに完璧に見えた少年があそこまで心の中で苦しんでいたとは思わなかったからだ。
「どうした?やはり驚いたか?」
少女が墓地から飛び出した瞬間、木々の中から声を掛けられた。
驚いた少女に声をかけた女将校は一刀の護衛をしていたのだろうか影で真っ暗な木々の間からゆっくりと出て来た。
「えっ・・・・・・・?」
「最初は私も驚いたさ。あの日もああやって墓の前で一人で月を眺めてたんだ。あんな軍を率いてるやつが萎れてたんだ、子供だった私はあれが本当に一刀かと疑ったぐらいだ」
「あいつはな、いつも私には見えないずっと先を見据えている。だがな」
「傷つきながらそれでも本気で世界を変えようとしている。私たちはその馬鹿みたいな片棒を担ぎたくてあいつと一緒に戦っているんだ」
「この世界を・・・・・?」
少女は女将校を見上げながら首を傾げる。
「ああ。とは言っても私には戦場で暴れるしかできないがな。だから私は戦場でより多くの敵を討って戦いを終わらせる、一刀の道を邪魔する者を切り倒す」
女将校はそう言って手を月に伸ばす。
「それが私の正義だと信じてるからな」
グッと月を掴むように手を握ると林の方に戻っていく。
「将校さんっ!!」
「華雄だ」
「華雄さん・・・・・・、私の真名を預かってもらえませんか」
「わかった。ただ私は北の民族出身だから真名を持っては無い。それでもいいか?」
「はいっ。華雄さんは私の目標で」
「強敵ですから」
「む?敵になった覚えはないのだが」
首を傾げながらも華雄は自分の斧を掲げる。
「私は真名が無いのでな。この斧に誓おう」
「私の真名は愛紗です」
「さあもう寝た方がいい。明日は近くの村まで移動になる」
そう言ってちょうど交代に来た兵士に護衛を頼み、華雄は愛紗を連れて天幕に戻った。