132話 『これが僕達の始まりの・・・あれだよ』
短い過去編。。。
『神凪蒼夜は詰まらない存在でした』
『神凪蒼夜は愚かな人間でした』
『『そして、哀れな存在でした』』
『彼について少し語りましょう』
彼はただひたすらに、つまらないを貫く人間でした。
あれもつまらない、これもつまらない、それもつまらない、どれもつまらない、あれらもつまらない、それらもつまらない、かれこれすべてがつまらない、ついでに僕もつまらない、おまけに世界もつまらない。
「もう少し楽しもうとは思わねぇの?」
彼の(自称)親友はそんな彼にいつも呆れるのです。
ですが、彼はなにも心が無い人間ではありませんでした。
自分を育て、更には無性の愛を注いでくれた両親には言葉では表せない感謝の思いがありましたし、人の嫌がることもきちんと分かっていました(実行は躊躇せず)。
むしろ分かり過ぎてしまうくらいに彼は感情に敏感でした。
だからこそ彼は思うのです。
人の思いに一々反応するには人生が窮屈だと。
そんなことを考えているからかいつもまにか達観した人となったのです。
彼は臆病故に、自分の意見が誰かの思いを変えてしまうことを恐れたのです。
結果、彼は自分の思いを口に出来なくなり、感謝の思いさえも言えなくなったのです。
ほどほどに厳しく、たまに冗談をいい、慈愛を忘れない家族が好きでした。
素顔を隠して接していると分かりながらも気を使う(自称)親友も好きでした。
特に波乱もない平穏な時間が好きでした。
そんなつまらないなりにも楽しんだ人生でした。
『彼はただの平凡な、少し達観しただけの少年でした』
『ですが彼の人生がそれで終わることはなかったのです』
『彼の愛した家族は死にました』
『彼がもっとも願う、平穏とはかけ離れた死に方でした』
『彼の危ういところで保たれていた自我はそこで歪みました』
『彼は理不尽に殺された家族を目の前にしても泣くことはありませんでした』
『彼の達観した性格が、もう手遅れだと理解していたからです』
『ただ呆然と、彼は後悔するのでした』
『『僕がもっと感情の言える人間なら、感謝の思いを言い逃すことはなかったのにっ。大好きだった。大好きだった。なのにどうして死んでるの。どうしてそんな苦しそうな表情で冷たいの。ねぇ。僕はなにも出来なかった。僕を恨んでる?そうだよね、そう。僕は何も伝えることも出来なかった。だからこんなに苦しいんだ。僕は貴方達の望んだ子でいられた?そんなわけないよね。だって僕は何も伝えられてない。もう、伝えられないんだから』』
『『大好きな人達が報われない、こんな窮屈な世界、大嫌いだ』』
『これが彼の始まりであり、』
『僕らの始まり』
『彼にとってこの世界は窮屈過ぎるのです』
『だから解き放たれたかったのです』
『そしてチャンスを掴んだ彼は必死です』
『例え新しい家族を手にかけたとしても、彼はそのチャンスを離さないでしょう』
『そして』
『『彼の呪縛もまた、彼を離さないでしょう』』
『僕は兄様が大好きです』
『僕は兄様が大好きです』
『どうか』
『殺さないで』
『それが、彼でもあり、僕でもある、僕らの願い』
『(自称)親友は言います』
『「ああ、どうかこの愚かで駄目駄目でドMな変態の俺を、どうかぶって下さい」と』
「言ってない!言ってないからぁぁぁ!!」