128話 ほらほら。やっと、始まるよ。
「さて次は貴方達を・・・っ!?」
アリサから剣を向き去り、笑顔で振り向いたディオネスが目を見開いて後ずさる。
なんなんだ?
兎に角、俺は後ろを確認して——前に向き直った。
「・・・へ?」
二度見。
「・・・?」
ついでにもいっちょ。
「・・・」
・・・誰だ?この、男は。
「くすくすくす・・・遂にいかれちゃったかクレイトおーじ。僕だよ僕。オレオレ詐欺の僕だよー。あはは、なんだそれ。僕は僕であってー俺じゃない。そう!謎の液体Xとでも呼んでくれ! 液体じゃねーし、謎でもないから、そんな事言う君の頭を不信に思って下さる方達もいることなんでー、お?あおぞら君が死んでるー?なにうけるんだけど。流石ソラ。色んな意味で期待通りで、僕は君の知り合いでとても鼻が高くて落ちそうだー。既にもげそうだー。慰謝料ついでに君の遺産は全て僕が貰おう。安心して逝ってくれあおぞら君。あ、お墓は作って上げるよー。君の友達がね、でも僕は知り合いだから見てるだけー。それだと文句言っちゃうかな?それはやだなー。だってあおぞら君って一応僕の知り合いだしー。元の世界じゃ優先順位一番上だったしねー。じゃ、助けて上げよっかなー」
「お、お前は・・・?」
なんだこの凄くこの場に合わない男は。
異質。その一言に尽きる。外見は・・・少し長めの黒髪が目立つくらいで、それ以外は特に何もない。ぱっと見た限り、見えない瞳を抜いてもそれなりに整った顔をしていそうだ。ただ、出している威圧感がおかしい。
それに、この男はまるで俺達を高見から見下ろしているように、俺達を全く見ない。
「お?君が一番に聞くとは・・・空気読まないなー相変わらず。なに?もしかしてそれって愛の力だったりするのかなー?うわ、御免被る。やだやだ、きもっ」
貼付けた様な笑みでわざとらしく体を腕で包む。
俺の顔は引き攣るばかりだ。
既に頬がぴくぴくと痙攣してるしな。
「貴方は、敵ですか?」
ディオネスが今までの笑みが嘘のように鋭い目つきで男を見る。というか、笑みが崩れてしまった感じ。保つのに失敗したみたいだ。
男は黒の長い前髪を払って、輝く瞳でディオネスを嘲笑う。
「どう思いますか? ——兄さん」
「「「「え?」」」」
その場の全員が呆然と呟いた。
俺?呆気にとられ過ぎて何も言えなかったが?
というか、兄さん?
ティナノール家にディオネスとレクヴィオ以外に男がいたか?
いや、居ないみたいだな。目が合ったウリューネ様が怪訝な顔で首を横に振ったからな。
さり気なく自分のお腹を見てるのは・・・「知らない間に生んじゃった?」とか思ってるんだろうな。ありませんって。
「——く、っはは。なるほど、なるほどですよ」
ディオネスが何か分かったようで、吹き出す。
「その、蒼と碧の瞳。この世界において最も高貴な色を表し、二つを瞳に兼ね揃えた存在など伝説に等しい色。現在、その瞳を持っている者はたった二人しかいない。つまり貴方はレイヴェア・・・は女性ですから、レクヴィオ、でしょうか?」
全員に衝撃が走る。
確かに蒼と碧の瞳の持ち主はこの世でたった二人しかいないだろう。
だが、レクヴィオ? この姿は彼の成長した姿だとでも言うのか?
いや、違う。レクヴィオだというのなら、なんなんだ?このずっと感じる違和感はっ。
「へぇー。そう見るんだ。でも残念、惜しいよ兄さん。流石の兄さんも惜しいね。や、もしかしてその可能性は考えているけど説明出来ないのかな?そっかー、だよねだよねー。えーと、僕は・・・いや、僕達は——」
瞬間。男の姿が2つにブレた。
「僕らはレイヴェアでもあり」
「レクヴィオでもある」
「レクは僕の」
「レイは僕の」
「「半身で」」
「そして僕らは」
「生まれる前からの」
「「2人で1人の存在なんだ」」
レイヴェアと、レクヴィオ。
その2人が手を合わせてそこにいた。
・・・うぇ、今のぶれ方。酔った。
レイヴェアさんからレクヴィオが出たという感じが、違和感の正体かっ。ちくしょう・・・俺のレイヴェアさんがぁぁ。
「黙ってろあほ王子」
「駄目ですよレク。ほんとのことを言っちゃあ」
彼らは正常運転しているようです。