122話 ほんと私は、どうしようもない。
「く・・・ここまでなのか」
レイヴェアの父、ルハイトがぼやく。いや、呟く?まぁどうでもいいか。
「全く・・・父様もよくやりますね。メシスさんも何気に怖いですし、ネルメさんもさり気なく針とか投げてきますし・・・。母様は笑顔がこわ——いえ、なんでもありません。ありませんから笑顔で睨まないで下さい母様」
くすくすと心底面白そうに話すレイヴェアの兄、ディオネスは全くの無傷。周りに居る方達はズタボロ。これが貧富の差ってやつ?王様に至ってははぁはぁ煩いし。
そして俺に至っては、まぁディオネスの一撃で沈められて壁に埋まってるんデスケドネ☆
ディオネスの掌の上でふわふわと浮かんでいるのは青い小さな球。
あれが秘宝『ランルの御霊』なんだってさー。すげーきれー。レイヴェアへ渡す結婚指輪にしてぇ〜でへへ///
と、まぁ巫山戯ているソラ君ですが、今非常に困っている訳ですよ。
埋まってるしw やべぇ、まじ体動かねぇ〜。
んで、ラスボスは無傷の上に厄災の御霊とやらを手に入れちまったわけでさ。
俺は楽観しているからいいとして・・・皆さん現在絶望中なんだよなー。
ごぉ!!
凄まじい力が私達にのしかかる。
立っていられなくなって膝をついてしまっても、その力は途切れる事無く私を押しつぶそうとする。
「っ・・・うぁ!」
びし
嫌な骨の音に顔を顰める。
隣で強がってたルイスも同じみたい。苦悶の表情であばらを押さえている。
くそっ。
危険が及ばないうちにトンズラするつもりだったのに。
なんでこんな目にっ!!
「くすくす。もっともっと強く出来ますよ?『ランルの御霊』にとっては朝飯前の顔洗い前みたいな感じでしょうか?」
ディオネスさんはそう笑ってから目線を横にずらす。
「おや・・・逃げ足は速いみたいですね」
誰に言ったのか分からなかったけど・・・あの壁に空いた人型の穴を見る限りソラのことなんだろうな。
ふと残念に思ったけど、更に力が増して地面へ崩れ落ちる。
「ああ、そうでした。ユリシアさん。私の茶番に付き合って頂き、ありがとうございました。では弓は回収させてもらいます。この弓、材質上、処女の女性を好むもので・・・なかなか経験値がたまらなかったんですよ」
「ぁ!」
ふわりとユリシアの元から真っ白な弓が浮かび、ディオネスのもとへと向かう。そして、ふっと幻想的に消えた。
「ぐ、はぁ」
「・・・っ、う」
「あ、ああ・・・っ!」
この力、それぞれの堪える悲鳴が力を倍増させているような感じだ。
もしほんとなら、なんて悪趣味っ。
「・・・そーですね。折角力が手に入ったんです。なにして遊びましょう?先ずは人を1人ずつ殺して行きましょうか。小さな子を親の前で死なない程度に痛めつけて、女性、男性はそれぞれ少しずつ削ぎ落として・・・何を、とは言いませんがね。それでそれで、何度も生き返らせてリアルにネルメさんの幻術みたいにしましょうかっ。その力もあるわけですしっ」
子供の様に無邪気に恍惚と微笑む。
ああ・・・さっきの力の増え方は強ち間違いじゃなさそうだねー。
「や、止めてディオネスちゃ——あああぁぁぁぁ!?」
「っウリューネ!? っうがぁ!」
ディオネスは実の母親の腕を踏みつける。ごりごりと音がするように。
そしてついでとばかりにルハイトさんの腕を一瞬にして削ぎ落した。
冷たい汗が流れる。
何これ・・・なにこれなにこれなにこれぇ?
どうして?実の両親をそこまで出来るのっ。
なんでディオネスさんが裏切ってまで力を欲したかは知らないけど、自分を育ててくれた両親なのに!
ティナノール家は家族愛が凄いんだってレイヴェアは言ってた!なのに、なんで!
どうしてそこまで出来るの?
私の両親は私に『愛』をくれなかった。私は、本来家を受け継ぐべき兄を蹴落としたから!女の癖に次期当主の立場となってしまったからいい目で見てもらえなかった。悲しくて、悔しくて、なんでっていつも泣いてた。
でも、傷つけたいと思った事はなかった。だって自分を生んでくれた人だってずっと思い続けてたから。
なのに、そんな私が、馬鹿みたいじゃないの。
ぽたりと何かが落ちる。
見覚えのあるそれは静かに頬を湿らせて行く。
ほんと、馬鹿みたい。
私の過去が、とってもしょうもないように思えるじゃない。こんなのを見たら。
せめて少し親孝行してやればよかったかな。
なんとなくそう思う。
だって、きっと私はここで死ぬから・・・。
「馬鹿みたい・・・」
あーあ。さっさとレイヴェアつれて帰ればよかった。ならこんな思いしなくて済んだのに。
「確かに、馬鹿みたいだなお前」
・・・ほんと、そうだね。
逃げた奴に涙拭かれる私は本当、どうしようもない。
ねぇ、ソラ。
「くっそぅ・・・まさかリアルに人型の穴を作ってしまうとはっ!不覚!」
「・・・お似合いだったけどね」