108話 あー・・・安らかに眠ってね?
おかしい。
明らかと言えるほどにそれは常規を逸していると私は思う。
そう。それは、瞳に冷たい光を持ち、微笑む様に笑う。
手に持っているのは何故か光り輝き、異質と感じる美しい弓。
おかしい、おかし過ぎる。
なぜなら、その少女の体はもう動かないほどに痛めつけた筈だから。
何故、動く。何故、笑える。
冷や汗をかいている事に気付き、その理由の根本の内容に自嘲気味に笑う。
怯えている。
私はあのか弱い少女に恐怖していた。
その感情を受け入れた途端、沸き上がったのは歪んだ感情。
ただ、『欲しい』という欲望。
それほどまでに美しく感じた。
ついさっきまでは醜いと罵った相手の全てを。
彼女が新たに作り出した矢は頑固とした形を持たぬ矢。
氷でもなく、何かの棒でもない。
それは魔力そのもの。
魔力とは一般的に物に流し、その物を強化して使うもので、魔法を使う意外に魔力そのものとして使う事はほとんどない。
というよりも、出来ないのだ。
だから彼女のしている事はこの世界ではもの凄い発見として取り上げられる事だろう。
それほどに凄い事を平然とやってのけた。
素晴らしい。
だから、向かってくるその矢から、目が離せなかった。
どさり。
重い音が鳴り、終わったのだと分かりました。
随分と呆気なく、苦しい戦いだったと自画自賛してもいいでしょうか?
まぁ、レイヴェアさんはもっと印象的な戦いをするんでしょうが。
そういえば、最期のNo.2さんの目。
すっごく怖かったですわ。
何ですかあれって感じでしたの。
だってですわよ?
奪ってやる〜欲しい〜逃さない〜といって怨念じみたストーカー的声が聞こえたんですもの。
背筋がぶるりとしましたわ。
え?
随分と感想が軽いな、ですって?
だってNo.2さん、見蕩れてましたもの。
私が美しい=あの方とレイヴェアさんが世界
という公式が成り立ちますでしょ?
だから許して差し上げたのですわ。えっへん、なんて私は寛大な女性なのでしょう。
あ、でもですわね。
もう、駄目のようですわ。
くらぁくなる前に何やら光って、上から阿呆面の誰かさんが落ちて来たような気がしますが・・・。
きっと気のせいですわね。少し違う意味で視界が真っ暗になったのも、きっと・・・気のせいですわ。
それでは、またの機会に。御機嫌よう。
「・・・なぁ、レクヴィオ」
「何かなクレイト君二世」
「誰だよ・・・じゃなくて!さっきの扉の罠の事だよ!」
「ああ、あれ?いいんじゃない?僕は引っかかってないし」
「お前はどうでもいい。軽く調べたが、あれには仕掛けた奴に連絡が行く様になってたぞ」
「今更だね。でもそれだと色々不都合になるね」
「くっそ。余計な事してくれたぜ」
「それも今更だし。結局、何しに来たんだかな〜」
「ルイスの奴めっ」
張ってあった罠は、触った者を強制的に違う場所へと移動させる魔法。
掛かったのは言わずと知れたルイス君。
被害にあったのは勿論ユリシア嬢。
「くそぉぉ!なんで俺がこんな目にぃぃぃってあぁぁぁぁ!?ユリシアぁぁぁ!?」
「も、だめ、だめ、だめです、わ。もう・・・もう」
「目を覚ませぇぇ!」
「だまらっしゃ・・・! すぴー・・・」
「・・・このタイミングで、寝た? まじか」