36話 美、美、美! え?フラグありですの?
「――フッ」
小さな息と共にユリシアが動く。
No.2はそれに気付きながらもが動かない。いや、動けない。
しかしユリシアの令嬢にあるまじき蹴りは防がれる。
「っ! ひ、卑怯ですわ!」
「くっくっくっ・・・氷で動きを防ぐ人に言われたくありませんね」
No.2の腕にはわさわさと蛇が巻き付いている。
ので、正確には防がれたのではなく精神的に傷付いたので攻撃を止めざるを得なかったというわけだ。
「ええいうっとおしい! お食らいなさい下衆が!」
「美しくありませんねぇ~。その言葉遣いは。少しはお友達のレイヴェアさんを見習っては?」
「っ! うるさいですわ!【その氷・・・優雅に・・・踊れ】!」
顔を真っ赤にして魔法を重ねて発動させる。
向かってくる氷を見据えてNo.2は妖艶に笑む。
ぴしぃぃ!
氷が冷気を上げて固まりを作った。
「・・・や、やりました、わ?」
それ、フラグです。
やりましたわ!
ですが油断は出来ません。
でもやったかも知れないこの嬉しさは言葉にしなければ——。
と、思ったのですが・・・何がいけなかったのでしょう?
やつはそこに居らず、居るのはただの蛇の抜け殻達だけ。
そして、私は見事に呆気とし、油断をしてしまったようです。
気付けばNo.2に後ろをとられ、足は蛇に捕われています。
「ふふ・・・愚かですね」
「——っ! あぁ!」
横からの衝撃と、蛇の噛み付きの痛さで声が漏れます。
どざざ、と床を滑り、蛇に巻き付かれます。
ああ! そこに入らないで下さい! ちょ、ま、らめぇぇぇぇぇぇ!
・・・すいません。
ただ、どうしてもこのにゅるにゅる感が・・・。
しかも蛇の牙には毒でもあったのでしょうか。
体が火照って火照って。
「あ、ららら?」
痛みは愉悦に感じ、意識が朦朧と。正確に言えばそんな感じでしょうか。
まぁ、つまりはですね。
すごく、気持ちよく感じるのですわぁ///
「あぁ・・・っん」
「くっくっく・・・美しい、美しいですよ! これこそが『美』! く、はははははは!! どうですか? どうでしょうかユリシア嬢! これが『美』だと、思いませんか!?」
くははは、と笑い声が部屋中に響き渡ります。
ちりり、と何かが胸を刺激する。
・・・これが、『美』?
何を言ってらっしゃるのかしら彼は。
こんな醜い私が美しい?
嘘、嘘、嘘、嘘、嘘、嘘、嘘。
そう、私が美しい筈がないのですわ。
私の様な愚かで、醜く、最低で、居る価値すら無いのに、美しい?
・・・違う。
こんな蛇も、こんな私も、父も、母も、姉も、先生も、王族も、空気も、植物も、生き物も、どんなものでも・・・そう、世界も。
胸の熱さがどんどん膨れ上がります。
そして・・・チャラリ。何処からか音が鳴る。
「・・・美しくなぞ、ありませんわ」
チャラチャラ・・・。
また、音が鳴る。
「・・・なに?」
ジャラ、リ。鎖が一気に張り巡らせられました。
「なっ!?」
「ああ、汚らわしい・・・汚らわしいですわ! 汚物風情が私に触れるなど! せめてあの方の肥料にでもなって失せればよろしいのに! ああ、汚い汚い汚い汚いぃぃ!」
「っ! 何故、動けるのです!?」
No.2の瞳が驚愕に開かれます。
しかし、今はそんな事、どうでもよろしいでしょう?
「あ、ははははははははははは! 汚物は汚物らしく地面を這い続ければよいのですわぁ! ああ・・・神様、神様。
私は・・・貴方に素晴らしい『美』をお教えしましょう!」
一気に凍らした蛇達を踏みつぶして恍惚な笑みで仰ぎます。
「ああ、神・・・レイヴェア様ぁ!!」