33話 覚悟は決めてたよ?だって私は・・・ねぇ?
「——かふっ!?」
私は血を吐き出しながら地面を転がる。
「ふふふ。どぉしたの? まだまだ終わらないよぉ?」
歪んだ笑みで追撃するのはアリサ。
ねばねばとした歪な笑みに吐き気がするのに、どうする事も出来ない。
こんな奴に、私は負けるの?
こんな、遊び気分の奴に——!!
空中に待機させておいた刀の刃をアリサに向ける。
「——行け!」
私の声と共に刀達が動く。
アリサはいくつかは当たらずにたたき落したようだが、ほとんどの刀には擦っている。
分からないほどの一瞬、苦痛に笑みを歪めたが直ぐに笑う。
「こんなもの、で——おぅっ!?」
全ての魔力を刀に注いだ私にアリサが目を見張る。
いや、正確には先程までとは全く違うといっていいほどの速さに驚いたのだ。
「・・・身体強化ねぇ♪」
見えていない筈なのに、彼女は確かに私に笑っている。
——そんなもので、私が止められるものか
と。
ぎりりと歯ぎしりし、私は全力で彼女の背中をとった。
負けたく無い。負けたく無い。負けたく無いっ!
例え、全てを懸けてでも!!
うえ。何これ速過ぎじゃない?
なんで今こんな技を使うかなぁ。途轍もなく迷惑なのだけど。
私の最強の魔法は何も炎を操るだけじゃない。
炎を原料として自分の身体能力を上げる事も出来るのだ。
と、いっても、自分でも原理は分かってないから説明出来ないけど。てか1族全員、何気に知らないんじゃないかな?
まぁ、兎に角、炎と身体強化、その2つに特化した私の秘術。
無理に動かした体はいつか音を上げる。だから——早く、終わらせないとね〜。
既に体が痛くてさ。既に「ひぃぃぃぃ〜」とか「あぅぁ〜」とか「ぎひぁ〜」とか聞こえる訳よ。
心に。
ほらほらどんどん体だけじゃなく心まで傷ついてくんだよ?
「あぁ〜疲れたぁ♪」
「・・・っむか、つく!」
あれ、おかしいな。いや、おかしくもないかなこれは。
真剣勝負でいきなりこんな事言われちゃあねぇ?
勿論自覚してるんで怒らないでよ。
「・・・貴方は、行かせ、ない! 例え、どんな事を、してでも!」
「・・・ぷ、あはははははは! 何よそれぇ♪ 私が悪役みたいじゃない!」
間違っても無さそうだけど。
そもそもカナリーレにだって何か戦う理由があるのは分かるよ。
じゃないとここまで頑張らないもんね。
でもさでもさ、私にだって戦う理由があるわけで。
レイ達を助けたいほどに大好きなわけで。
だからといって私が要な訳じゃないわけで。
私が自ら買って出た役で。
私の役目は足止めであって。
最初から覚悟は決めてた訳で。
だからさ。
「私、あんたと違って最初から命懸けてんの。今更それに気付いたあんたに負けるつもりはないわ」
目を見開いて呆然とするカナリーレ。
その隙をついて彼女の腕を引っ張り、抱く様に体を密着させる。
「——っ何を!?」
今更暴れようがもう遅い。
にやりと清々しい笑みを浮かべて優しく言う。
「——一緒に、逝こうか?」
静寂。そして——
大きな爆発音が轟いた。
どぉぉぉぉ・・・
大きな音にぴたりと足を止める。
「・・・爆発? 既に始まってるのか?」
『みてーだな。急いだ方がいいんじゃねーの?』
「・・・無事ならいいけどな」
一瞬アリサの顔が浮かんだのは気のせいだ。
そう。きっと、気のせいなのだ。
なのに。
なんで嫌な予感が無くならない・・・っ!?
「くそっ」
振り切る様にソラは走り出した。
逃げてるんだろうけど、それでも今は。
「レイヴェア、さん!」
あの人を、助けないと。
これはもう、ただ事ではないのだから!
『もうお前の存在もただ事じゃないけどな』
「黙れっ!」
ぐすん。そりゃダメダメな人間だけどさっ。
悪役ぽかったアリサさん。
何気にかっこいい散り際で。
悪役じゃなくなるように頑張ってみれば、こうなりました(?)