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まだ見ぬ地  作者: Samedi
3/3

第3話 山本の思い

あの南日の女が転がり込んできてから初めての週末だ。正直いつバレるか不安だが、射殺したら確実に30年前のあの戦争が繰り返されるだろう。

俺自身はまだ生まれてなかったが、父から何度も話は聞いた。


さて、週末はいつもリョウと将棋をしている。

するとリョウが、

「ヒロ、まだ葵ちゃんと仲良くできないのかよー、同棲してから何日目?」

と聞いた。

同棲?あり得ない。

「同棲じゃないだろ。匿ってるだけ。匿ってる南日人と仲良くする義理などないな。」

「とか言って、新潟港まで送り届けるんだろ?」

「うるさいな、さっさと次の手を指せよ。」


新潟までの列車で確実に検問がある。俺が同行しないと、あの女は確実に保安局送りだろう。それに、朝鮮もどうせ不法入国状態。単独行動はさせられないから、俺は朝鮮研修という名目で朝鮮でも同行する。それが一番あの女にとって安全だろう。決して、リョウが言うような他意はない。


けど、確実に俺はあの女のために動くようになってるかもしれない。なぜだ?戦争を防ぐためだけが理由ではない気がしてきた。けど、それが何かはよくわからない。だからこそ、俺はあの女にぶっきらぼうに接するしかなさそうだ。




22年前、戦争からの復興途上の札幌で私たち夫婦の間に子供が生まれた。名前は「浩」。生まれた時はもう、政府高官から書記長まで、多くの人が祝ってくれた。

特権階級として、札幌に住むことができている以上、子を優秀に育て、私の跡を継がせることが国への最大の恩返しだろう。その一心で育ててきた。


浩は18歳になり、日本軍への入隊が決まった。最近、都市部では南日当局主導統一志向の若者が汚れた思想を流布しているらしい。浩をそのような汚れた思想に飲み込まれないようにするために、私は軍の司令部に差金を入れて、浩を釜石に配属させた。


便りによると、4年間で浩はメキメキと頭角を現し、大尉に昇格したようだ。大変誇らしい。一方で結婚の話は全然出てこない。今度、言わないといけないな。




山本の家の電話に着信が入る。山本が出ると、どうやら山本の父からのようだった。北日本の電話はスピーカーフォンらしいからすぐ分かる。

曰く、来週、釜石のこの家に来るらしい。私はどこへ隠れようか。


「リョウ、悪いが親父が来てる間、葉山をお前の家で匿っておいてくれるか?」

つまり私はリョウの家で隠れるということらしい。

「葉山、悪いな。親父がバリバリの共産主義者だから南日とは相容れないだろう。おそらくリョウの家も釜石の奥の方にあるから安全だろう。」


11月9日金曜日の夜、私はリョウの車に乗り、リョウの家についた。リョウの家も立派な日本家屋だ。21世紀ではほとんど見かけない。

「あの鍵付きのケースの中にはこっちのドラマのDVDケースが入ってるけど、中には南日ドラマのDVDが入ってるから自由に見ていいよ!けど、見る時はヘッドホンに繋いで、カーテンを閉めてな?」


見てみると本当に入っていた。JBCの朝ドラや、大河ドラマのDVDが入ってる。10年以上前のものだけど。


そして土曜日と日曜日もリョウの家で過ごし、月曜日の朝に山本の家に帰ってきた。

「ところで葵ちゃん、俺のことはリョウ呼びなのに、ヒロのことは頑なに山本呼びだよね。『ヒロ』って呼んじゃってもいいんじゃない?」

「まずお前がリョウ呼びさせてきてる気がするけどね。」

「細かいこと気にしなくていいじゃん。」

と、リョウは笑いながら言う。北日本では正直これぐらいのマインドでいた方が生きやすいのかもしれない。




11月10日土曜日の昼、親父が家に来た。

「久しぶりだな。この年で大尉に昇格したようじゃないか。おめでとう。」

「ありがとう。」

「これからも山本家の泥を塗らないように頼むよ。」

ここまではいつものパターンだ。次、親父はどう来るか。


「で、浩はまだ結婚しないのか?自由恋愛ができるのは特権階級ぐらいだからな。早くいい人を見つけなさい。」

「はい。」


結婚の話かよ。

俺は結婚しても誰も幸せにできないだろうに。




「ただいま!」

「お前の家ではないだろう。」

山本からツッコミが入る。


山本はリョウを見て、

「ありがとうな。」

と言う。

まあ、こっちは手数料として、こっちの最新のドラマの情報を喋ったけど。


「リョウの家の周り、この時期はもう紅葉は見られないかな。綺麗なんだ。それに、リョウの家の周りは春になるとたくさん桜が咲き乱れるんだ。もし統一したら3人で花見でもしような」

「ヒロ、柄にもないこと言うじゃん!」

「どうせできるわけないから言える。本音としてはしたいけど。南日の人と知り合う機会なんてないと思ってたからさ。リョウもそうだろ?」

「そうだな。統治機構は分かれても、同じ民族、なのに会えないのは悲しい。」




俺は毅然と葉山に対して接していると思ったが、リョウが、

「ヒロ、お前葵ちゃんに対して情が移ってるだろ?」

と聞いてきた。

「なんで?」

「長いこと一緒にいたらバレバレだ」

と笑いながら言う。

「恋をするのはいいけど、一生叶わぬ恋になるかもしれないぞ」

「忠告ありがとうな。」


俺が南日の女に恋……?

けど確かにふとした時に頭に浮かんでくる。

けど、敵国同士の人間。本来なら射殺しないといけない人間。そう簡単に「恋」として片付けていいのだろうか。葉山が南日へ帰ると、多分一生会えない。俺はどうしたらいい?




花見か……やっぱり、国は分かれても、同じ民族なんだと実感した。

おそらく、できることはないのだろうけど、南側へ帰ってからもふとした時に思い出す約束かもしれない。

そして、出勤する山本を見届けて、居間でくつろぐ。


「葵ちゃん、正直言ってヒロのこと気になってるだろ?」

静寂を破ったのはリョウだった。

慌てて私は

「え、なんで!?」

と聞き返す。

「なんとなく、そうかなーって思っただけ」

「そんなことないよ」

「あら、珍しく予想が外れたな」

と、リョウは笑いながら言う。

「もし好きになったとしても、軍事境界線の鉄条網が邪魔で、思うようにはいかないよなー。けど、ヒロは絶対葵ちゃんのことは忘れないと思うな。」


もう北日本に墜落して半月、だんだん北日本での生活も慣れてきたな。案外人は南側と変わらない。

だとしても、私が北日の軍人を好きになることなんてあるわけないと信じたかった。けど、やっぱりふとした時に山本のことを考えている。私が南日に帰ったらもう会えないとわかっていても。


「にしても、俺も南日で生まれたかったなー。新幹線って世界一速い列車なんだろ?それに、南日には自由な生活があるし。こっち側は制限ばっかり。今ハマってるドラマでは、日本が分断されてなくて、東京から北海道の函館まで新幹線が通ってる。そんな世界もいいな。」


そして、またいつものように夜になる。

山本が言う。

「葉山、新潟港への出発は前々日の朝5時な。」

「早いね。」

「駅まで歩いて30分かかるからな。」

リョウが重ねて、

「それに、南日みたいに検問なしで列車に乗れるわけではないしな。」

と言う。

さらに山本が

「列車もしょっちゅう遅れるし、乗り換えが本来考慮されてないダイヤだし。」

と言う。

私は車では行けないのか聞いた。

リョウが

「北日本では車に家族以外の人を同乗させることができないからな……この間は町中での移動だったから車に乗せたけど。」

と答える。

北日本社会はやっぱり移動の自由が極端に制限されているらしい。

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