第1話 見知らぬ町
はじめまして。Samediです。この小説は、第二次世界大戦後、日本が分断されていたら、というIF世界の2018年が舞台です。注釈は「※」で示しています。
この小説を書くにあたり、いろいろなところから影響を受けました。一番影響を受けたのは、韓国ドラマの『愛の不時着』でしょうか。重なる部分も多いかもしれません。
「Japan Air、ロンドン・ヒースロー空港行き、21時45分発、32便はまもなく搭乗を開始いたします。ご搭乗の皆さまは、12番搭乗口までお越しください。」
私、葉山葵は今年で20歳。無類の旅行好きで、YouTubeチャンネルの登録者も30万人を超えた。そうなるととうとうヨーロッパも行きたくなる。私は今から、Japan Airの飛行機で、羽田空港からロンドンに向かう。
さて、もうすぐ搭乗が始まるから12番搭乗口まで向かおう。北日(※日本人民共和国、通称北日本)の方で竜巻が発生してるみたいだけど大丈夫かな……
そんな不安をよそに、飛行機は離陸した。そしてすぐに千葉県銚子市の上空まで辿り着いたけど、何やら雲行きが怪しい。竜巻が近づいてきているらしい。
そして次の瞬間、飛行機は竜巻に巻き込まれ、激しく揺れた。
気づいたらどこかの山中で夜が明けていた。どうやら墜落したらしいけど、私は軽傷で済んだよう。
救助隊が来ていないから、とりあえず町まで向かおう。
にしても、ソ連の写真でよく見るようなマンション(※フルシチョフカ)ばっかり。そして恐ろしいほど人がいない、向こうに見える軍人以外は。とりあえず軍人に助けを求めよう。
「おい、平日の真っ昼間から外で何やってるんだ!」
その軍人の第一声は怒鳴りから始まった。
「私、近くの山に墜落した飛行機の生存者で……」
「墜落?そんなの初耳だ。いつだ?」
「さっきです。」
「他に生存者は?」
「多分私だけです。」
「そうか。家はどこだ?」
「横浜です。」
すると軍人は目を見開いて、
「青森の横浜か?民間人がここまで来れるわけがないだろう!」
青森!?地図にはあるけど、北日当局が支配している県でしょ!?
「違います、神奈川県の横浜です!」
するとさらに驚きをもって
「は?お前、ここがどこか分かるか?日本人民共和国の釜石だぞ?南日(※日本共和国、通称南日本)の飛行機なんて上空を通れるわけがない!」
釜石!?どうやって帰ればいいの?
心中でそう思いながら、
「竜巻に巻き込まれて……」
と説明する。
「そうか……」
と軍人は考え込み、小声で
「本当は、南日の人を見つけたら射殺しないといけない。けど、同じ民族を殺すなんて、心が痛むんだ。あそこの日本家屋が俺の家だ。そこにとりあえず逃げ込め。墜落事故は専門の部隊がなんとかしてくれるだろう。」
と言う。
軍人は台所で麺を作っている。
茹でて、水で冷やして、スープを入れて、出てきたのは盛岡冷麺だった。
「腹減っただろ?」
そう言い、食べるよう勧める。
「私はどうやって帰ればいいの?」
不安げな声でそう聞く。
軍人はしばらく考えた後、
「月に1回、第4日曜日の夜に、新潟港から、朝鮮の蔚山港まで貨物船が出てる。蔚山から仁川に向かい、仁川港から長崎港まで貨物船が出ているはずだ。今日は10月29日、次の出航は11月25日だから、27日後だ。」
と言う。
「そんなに待つの!?他に方法は?」
「無いな。軍事境界線の周囲の非武装地帯には南北ともに入れないだろう?となると、比較的安全な方法はこれだけだ。」
私は少し落胆しつつも、これを呑んだ。
軍人は続けて、
「ここにいる間、家から出るな、南の体制を宣伝するな、身分を明かすな、俺の指示に従え。それと、停電は2日1回ぐらいは起こるから、停電しても慌てるな。あと、湯が欲しけりゃ沸かせ。」
と言う。
すると、
「邪魔するなー」
と、別の軍人が入ってきた。
「あれ?ヒロ、女なんか連れ込んでたんかよ?!」
と、冷やかしっぽく言う。
軍人は
「このことを口外するな。口外したら、お前が隠れて南日のドラマを視聴してることも口外するぞ。いいな?」
「なんだよ?まあ、南日のドラマを視聴してることがバレたらまずいから、黙っておくか。」
「ありがとうな。この女は、南日の女だ。飛行機に乗ってたら近くの山に墜落したらしい。」
「マジかよ!?」
そして別の軍人は私に向かって、
「よろしくな!俺は白石亮。お前は?」
「私は葉山葵です。よろしく。」
そして白石は軍人に向かって、
「お前らは自己紹介したのか?」
すると、軍人は
「まだだ。する必要ない。」
と答える。
「相変わらず、冷たい男だな。こいつは山本浩。俺はヒロって呼んでる!」
山本は顔をしかめる。
すると白石が
「それで?葵ちゃんはどうやって南日に帰すの?」
と聞く。
山本は、
「来月の25日に新潟港から出る、蔚山港行きの貨物船に乗ってもらう。そしたら、仁川港から長崎港行きの貨物船があるはずだ。」
白石は、
「なるほどな?名案だな!けど、新潟港までの移動はどうするんだよ?葵ちゃんは身分証を持ってないだろ?列車に乗れないじゃん。」
山本は平然と、
「偽造する。この国の身分証の質なら、一つや二つぐらい簡単に作れる。あまり俺たちの立場で言いたくはないけどな。」
と言う。
白石は、
「まあ、不可能ではないな。けど、最近個人で作った偽造身分証がどんどん摘発されてるらしいから、専門の店に頼んだ方がいいだろ。俺が密かに捜査対象にマークしてる店があるから紹介する。俺らの立場からしたらまずいけどな。」
どうやら北日の軍人も比較的緩いらしい。
すると、白石が話しかける。
「にしても葵ちゃん?ヒロに見つかってよかったな?他の人だったら即射殺されてたからな。さて、情報料として、葵ちゃんには、おすすめの南日ドラマを教えてもらおうじゃないか!」
山本は、
「なんてこと聞いてるんだよ。聞かなかったふりぐらいはしておく。葉山も、無理に答えなくていいぞ?リョウには、違法の南日ドラマを視聴してるという弱みがあるからな。今視聴してるのはなんだっけ?日本が分断されなかった並行世界を描いたドラマだっけ?」
白石は焦り顔で、
「しまった……」
と言う。
そして続けて、
「そういえば今夜、各家庭に夜間検査があるらしい。葵ちゃんをどうしようか……南日製の、映画も視聴できる電視機が見つかるのとは訳が違うぞ?あれもまずいけど、南日の人間を匿っていることがバレたら粛清だぞ?」
山本は
「マジかよ……幸先が悪いな……とりあえず屋根裏に隠す。これまで夜間検査で屋根裏は検査されたことないから。」
白石は
「そうか。健闘を祈る!」
「報告ありがとうな。」
白石が帰った後、山本に
「夜間検査って何?」
と聞く。
「夜間検査は月に1回行われる、抜き打ちの検査で、違法なものやことがないか、検査される。屋根裏へのハシゴはあっちだから、ドアがノックされたら、屋根裏に登って、ハシゴを上に上げて、ハッチを閉めて息を潜めろ。」
「分かった。」
「正直屋根裏の検査は俺にとっても、されたら困るからな、屋根裏は死守する。」
「ありがとう。」
山本が言う。
「電視機といえば、電視機の電源はこまめに切れよ?爆発するから。」
電視機ってなんだろう。
「電視機って何?」
山本は驚きながら、ブラウン管のテレビを指さす。
「これだ。南日にはないのか?」
「あるけど、名前が違う。」
「なるほどな。」
そして夕方になり、ドアがノックされる。
「屋根裏に隠れろ!」
そして外から、
「山本さん、ごめんください。夜間検査です。」




