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ep7 女探偵ミレイユ




 私は、ミレイユの語るシトロン男爵の話を聴いた。

 家門に連ならない下位貴族の情報まで、知っているなんてミレイユは、凄いと感心しながら。





 現在のシトロン男爵は3代目。


 初代シトロンは、東の辺境伯の臣下で、プロメシア王国とのいざこざを解決し、開戦に至らなかった働きにより、叙爵された。

 彼はシトロン男爵に叙爵された後も、東の辺境伯の元で仕えていたが、2代目は不出来で、任を解かれ、シトロン領の領主として税収のみで暮らし始めた。


 「他家の話だから真相は分からないけど。」


 そうミレイユは前置きした。


  二代目のシトロン男爵は、辺境伯騎士団の武器を横流し、それがバレて追放された。本来は処罰する案件だが、被害も軽微で、先代に恩義を感じていた辺境伯は追放のみ留めた。但し、辺境伯領への立入禁止になったが。


 シトロン男爵領は、さして大きくない領地だった為、少ない税収でシトロン男爵家は困窮し始めた。そこで娘たちを商家などに身売り婚をさせた。(身売り婚とは、持参金を持たさず、反対に結納金を娘の婚家から貰う結婚。)正妻でなく妾でも良いと二代目のシトロン男爵は、豪語したと言う。


 運良くか運悪くか、辺境伯が二代目のシトロン男爵の処分を秘して黙したこともあり、8人居た娘を嫁に出し、ギリギリ没落を免れた。


 そんな経済状態の中、3代目シトロン男爵が、王都の外れとは言え、町屋敷を借りれたことが不思議だとミレイユは首を傾げた。


 3代目シトロン男爵の8姉妹は、皆、平民の嫁に為り、2人居た弟は、7歳で祝福の儀を終えた後、貴族籍を抜け職人や商家へ弟子入りして行ったらしい。




  (三代目と言うならシトロン男爵家は新興貴族ね。)



 私は、自分の考え方がラダリア王国的であることに気が付き、苦笑した。




 ラダリア王国は小国であるが、南の大国フローラル王国より、歴史のある国なのだ。

 そのことが、ラダリア王国民のアイデンティティとなって居る。

 フローラル王国は、ラダリア王国の同盟国である。が、歴史を重んじるラダリア王国民は、微妙な敵愾心をフローラル王国民に抱いていた。



 回帰した今回、母から私は、そう教わったのだ。




 「フローラル人である私ほどでないけれど、(わたくし)の血を受け継ぐオレリアは、気を付けるのですよ。余り派手に着飾っては駄目。質の高いモノをシックにね。そして感情を露わにせず、控えめな淑女として動きなさい。それがオレリアの身を守ることに繋がるわ。」



 婚姻外交をしているラダリア王家だが、歴史の浅いフローラル王家の血を決して直接受け入れようとはしない。フローラル王国を建国した初代国王は、前王朝の血を全く王家に受け入れなかったと言うのが理由だとか。王族の断絶の歴史は受け入れがたいものがあるそうだ。




 (嫌われ者の血はお母様譲りなのね。)







 閑話休題







 現在のシトロン男爵家は、当主のシラス・ド・シトロン。40歳中半

 (ラダリア王国では家名に、男爵~子爵には『ド』、伯爵以上には『フォン』、王家には『ファン』が入る。)


 子供が2男6女で8人。

 嫁が現在5人目で、母親がそれぞれ違うらしい。



 「嫁が次々と早逝するなんてシトロン家って売られた姉妹たちに呪われていると思うわ。リアは、どう思うのかしら?」

 「最期の看取りは、修道士様が為されるから、呪いなど在れば、神殿の神官様や聖女様を呼んで、社交界で大騒動になって居る筈よ?教会側も王家側も呪いに関しては神経質ですもの。」

 「確かにそうね。そんな話は聞かないモノね。」



 呪いと言うデリケートな言葉を口にしたミレイユは、ピンクブロンドの髪を揺らして、肩を竦めた。



 息子たちや2人の娘たちは、親交のあるサバロ伯爵の伝手を頼り、王宮勤めをしているとドレイクの報告にあった。


 どうもミレイユは、娘たちに身売り婚をさせたシトロン男爵家を嫌っている様で、ドレイクの報告書を読みながら穿った解釈を付け、私に説明をする。まあ、現当主である3代目のシトロン男爵も上の娘たちに、身売り婚をさせているから、余計嫌っているのかしら?



 (ろくでもない父親の教育の賜物かしら?)





 「でも、そんな人の所へ何故、他国の外交官が?」

 「ふふっ。何だか事件の匂いがしますわね?リア。」




 キラキラと黄玉の瞳を輝かせ、身を乗り出し、紅茶を飲む為、テーブルの上へと差し出した私の右手をガシリと両手で掴み、高らかに宣言する。



 「やりますわよー!!」



 「何を」と問い質す隙を私に与えず、ベルを鳴らして使用人を呼び、ドレイクさんを呼び出すようにと、ミレイユは勢いよく命じた。
















 好奇心が刺激され嬉々と張り切るミレイユ。

 ((私にそんな暇は無い!)とは口に出せず、来年に迫る死へのカウントダウンを数え、ゲンナリする。)




 私は、義母のジョアンナが、薄汚い野郎共と交渉するタイミングを知りたかっただけなのだ。


 決して新たな事件(面倒ごと)の謎など、私は求めて居ない。


 そんな話は、私が17歳で襲撃される事件を無事に回避してからだ。嫌、勿論、ジョアンナたちが、何をしているかの興味は或るが。


 一応、遠回しにドレイクさんへ、傭兵崩れでブラックな集団の情報を知りたいと頼んでいるが、今一つ伝わっていない気がする。言い方が少し遠回し過ぎたかしら?




 ふと思考が、回帰前へと沈み込む。



 あの時は、木々が散乱し、舗装された表街道を迂回し、林道で私は襲撃されたのだ。 襲撃犯は10人以上いた筈だ。ジョアンナとジャンヌめ。何とも念入りなことだ。




 


 今でも、あの時のことを思い出すと、恐怖で身体が竦む。恐怖で身動き出来なくなることが、彼女たちに負けるみたいで嫌だった。だから私は、襲われた日のことを記憶の奥底へと出来るだけ沈めている。




 でも一つ懐かしい記憶が或る。

 首を絞められ、苦しみつつ死にゆく間際に、私の脳裏に過った幼馴染ジスランの笑顔。

 そのジスランの笑顔で、ホッと、救われた気がしたのを憶えている。



 今回、10歳で回帰したから、幼馴染のジスランに会えなかった。今は聖都にある聖ユリウス大聖堂に居るのかしら?回帰前は、7歳の祝福の儀で、祝福持ちであると判り、秋には王都近郊にある神学校へと行き、13歳で誓願を立て、俗世と縁を切り神職への道を歩き始めたのだ。


 もう一度ジスランに会いたかったわ。




 私が知るジスランは、白金の髪に、深い青の瞳だったのに、死にゆく前に現れたジスランの幻影は、銀髪紫眼だった。


 奥底へ沈めている記憶だけど、ジスランの笑顔が蘇ると、恐怖で荒ぶっている心が、徐々に静まっていく気がする。





 そんなことを思い出して居る私を尻目に、ミレイユは楽し気にドレイクさんが訪れるまで、勝手に推理したスパイ物語を嬉々として語るのだった。



※  ※  ※






登場人物



シラス・ド・シトロン男爵〔3代目〕40歳過ぎ、5度目の再婚

義母ジョアンナが月に2回シトロン男爵邸の旧礼拝堂に集っている。


サバロ伯爵の伝手でシトロン男爵の息子と下の娘が王宮に勤めている。




ジスラン‥‥‥‥‥オレリアの幼馴染、白金髪青眼《幻影・銀髪紫眼》

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