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 婚約者であるヨハン殿下がやらかした星渡り祭の夜会からこっち、私はホウエン公爵家の町屋敷に滞在させて頂いている。


 迫力あるイケオジの国王陛下が、疲れた顔をしながら私とヨハン殿下との婚約解消を確約して下さり、一先ず祖父と叔父たちと共に王宮から箱舟に乗り、深夜、ひっそりとホウエン公爵邸に辿り着いた。ホウエン公爵と前公爵は王宮に残り、国王陛下と密談中である。


 ヨハン殿下は、暫く第三王子宮で謹慎させるらしい。

 私は体調不良と言う名目で建国祭に出席しなかったけどヨハン殿下の参加も見送られたと言う話。

 どうやら公務への顔出しはNGになったとか。



 祖父と叔父は王宮からの帰りの船の中で、騒動の元凶である父に対して、「ベオルフが事故死しないかな。」と、怖い対策案を呟いていたので、私は聞かなかったことにした。

 結局は、叔父をマカダミア侯爵にして、父を領地で病気療養させる所に落ち着いた。

 兄に関しては、祖父の元で鍛え直して、メンテナンスが無理なら放逐しようかと思案していた。叔父夫婦には、未だ後継が生れて居ないので、それもあるので様子見だそうな。


 「アレとアレは、どうするべきか。」


 そう祖父と叔父が、義母のジョアンナと義妹のジャンヌへの処置に悩んだ。


 ジャンヌは、マカダミア侯爵家から除籍出来るけども、父と婚姻しているジョアンナは、前当主の祖父や当主になる叔父でも離婚させることが出来ない。そもそもユリウス教徒で、離婚はまずありえないしね。


 そう言う訳で、ジョアンナには、実の娘であるジャンヌの迂闊な行動を監督出来なかった責任を取らせ、母娘共々領地へと祖父が連れていく事にした。


 類いまれなる美貌の母娘登場で、マカダミア侯爵領が、騒がしく成らねば良いけども。




 その後、王太子殿下からジョアンナの領地行きに「待った」が掛かるなど、この時は予想もしていなかった。

 序にジャンヌも、ヨハン殿下と星渡り祭の夜会で、閨を共にしたことが判明した。その為、懐妊しているかいないかが判明する迄、町屋敷で軟禁させられることとなった。どうやらジャンヌは、ヨハン殿下に初めてを捧げたそうだ。

 私は、てっきりジャンヌと兄が男女の仲になっていると思っていたので、意外な気がした。





 


 祖父の本音としては、王太子主催の夜会を騒がせた責任を取り、爵位と領地の一部返還などを考えて居たらしいのだが、今、そんなことをしたら私の価値まで下がってしまうと、国王陛下から却下されてしまった。


 でも既に星渡り祭の一件で、碌でも無い噂が出回っているだろうし、婚約を解消した私の価値など駄々下がりだろう。


 しかもヨハン殿下がエスコートした女性が、マカダミア侯爵家に養女として入った義妹のジャンヌなのだから、噂雀たちの囀る声は、嘸かし姦しいことになりそう。いえ、既になってるわね。‥‥‥‥‥きっと。





 でも何はともあれ、これで私が殺される理由が消えた。


 父たちが領地へと旅立つまで、私はのんびりと護衛騎士となったジジとホウエン公爵邸のサロンでティータイムを愉しんでいるのだけど、こんなに長閑でいいのかしら?



 「ねぇ、ジジ。今回、なぜヨハン殿下との婚約が、こんなにスムーズに解消が出来たのかしら?回帰前は私の味方なんて居なかったのに。」

 「己惚れて良いなら、僕がリアの近くに居たからかな。あははっ。冗談だよ、冗談。」

 「それが大きいかもとジジに言おうとしたのに。もう。」

 「まあ、一番は、前当主のウィレム卿が、執事長や侍女長を直接に雇っていたからだろうね。回帰前は、屋敷内にリアの味方が居なかったのだろう?」


 「そうね。回帰前は、父とジョアンナが再婚して直ぐに、昔からいた執事長と侍女長を解任して、ジョアンナの知り会いであるエト・ワーグナーを執事長に据えたモノ。私宛の手紙や招待状が届かなくなっていたし。私の専属侍女のロザリーも一方的に生家へ帰されたわ。大体父は再婚する前から、嫌っていたお母様の葬儀を終えて直ぐ、フローラル王国からお母様に付いて来てくれいた侍女たちや騎士たちを送り返したもの。最悪でしょ?死後も母を嫌悪するなんて。今回は勇気を出してお祖父さまへと頼み、ラダリア王国に残ることを希望してくれた彼らをお祖父さまが所有していた王都アムスの別邸で、個人的に雇ってくれたから心強かったわ。」


 「リアが回帰してから頑張って動いていた甲斐があったね。リアは、よく頑張ったよ。そして今回は、リアが町屋敷の外部への繋がりを絶たれないで本当に良かった。もしかしたら回帰前、前当主のウィレム卿だって、リアにアレコレ手を差し伸べようとしていたのかも知れないよね。まあ、屋敷内には、獅子身中の虫が巣食っていたから、ウィレム卿たちにリアの状況が判らなかったのだろうけど。」


 「ええ、恐らくね。お祖父さまが、こんなに私の事を思って下さっていた何て回帰前には分からなかったわ。お祖父さまと会うことが、幼い私には殆どなかったモノ。お母さまが死んでしまうかもしれない恐怖に耐えかねて、12歳になって、やっとお祖父さまと手紙のやり取りが出来るように成ったのよ。あんなに顔が厳めしいのに、お祖父さまの手紙は、とても優しかったの。でも、国王陛下と親しくしていたなんて今回、初めて知ったわ。本当に私って何も知らない侭で、前回は17歳で死んだのね。」





 色々な想いが浮かび、思わず顔を伏せた私に、そっとジジが手を伸ばし、隣に座っていた私の左手を柔らかく包み込み、あやすように軽く上下に揺らした。



 殺された記憶が戻ってから6年経ち、私は16歳になった。


 

 11歳でヨハン殿下との婚約が決まり、

 今回母は12歳の冬に偶々出掛けた途中で事故死した。回帰前は、同じ時期に流行病で母が亡くなった。

 そして13歳になった時、予定調和のように母の喪が明けない内から父がジョアンナと噂になり 

 結局、同じように私が14歳を迎えたソラリス祭シーズンの祝祭日に父はジョアンナと再婚した。


 その間、私は前回と違い、お祖父さまたちや使用人たちとの関係を構築していった。

 変化させることが出来た関係性もあるけれど、変えたかった大きな出来事は変わらなかった。



 母が亡くなったと報せを受けた時に包まれた徒労感と虚無感を想い出すと、未だ私の背筋がフルリと寒くなる。



 流行病のリンゴ病対策に、母の死後暫くして初期症状に効果があるとオベリスク帝国で発表されたスノードロップの根を使った薬を執事長に常備薬として取り寄せて貰ったりした。ジジから自分もそれを頼んで、前公爵様からだと言付けして、我が家の執事長へ送ったそうだ。日持ちがするモノでも無いので、執事長は春になる前に教会に寄付したそうだ。

 そうやって動いていたのに、降臨祭の準備で出かけた先で、猛スピードで走って来た馬車に横から衝突され、護岸工事をしていた運河へ馬車ごと落ちてしまった。12月の冷たい川の水で溺死ではなくショック死だったとか。母が苦しまなくて良かったと思えたのは、葬儀を終えた3年経った頃だった。



 父がジョアンナと再婚してしまってからは、何処か諦観しつつ、私は死から回避する道を探っていた。


 ジジが私の元へ訪れた日まで、私はマカダミア侯爵領へ逃げ出そうと考えて居たのだ。


 あの屈辱的な夜会に参加したく無くて。


 でもジジが。

 私を死から呼び戻して呉れたジジが、側に居ると微笑んで呉れたから、覚悟を決めることが出来たのだ。


 立ち上がってみると、ジジを中心にお祖父さま、ベルンハルト・ホウエン前公爵と奥様たちが、私の背中を優しく支えて下さっていた。


 まだまだ解決しないとならない後始末もあるけれど、やっと私は、幼い頃から嫌われているだけの婚約者から自由に慣れた。


 「油断は早いよ。」ってジジは深く青い目を真っ直ぐに私に向けて、注意を促して来るけど、でも今は──────





 「ジジ、ありがとう。」


 「うん。」





※  ※  ※






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