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ep18 覚悟の行方




 王太子殿下夫妻は、集って来た方々へと優雅に歓迎の言葉を掛け、にこやかに歓待している。


 ヨハン殿下と父や兄にギロリと睨まれたのだけど、ホウエン公爵夫妻は挨拶に来られた知人たちと和やかに歓談しながら、そんな視線から私を守って下さっている。此処まで私を守って下さるなんてジジとジジのお祖父さまから、どんな頼まれ方をしたのか気になる処。



 私も時折り挨拶に訪れる侯爵家や伯爵家の知り会いたちと、微笑みながら飲み物を片手に言葉を交わす。


 親しくしている同世代の令嬢たちは、チラリとヨハン殿下とジャンヌの方を見て、もの言いたげな視線を私に寄こすので、私は肩を竦めてみせる。



 『なに?アレ?』

 『さあ?』



 そう目と目で語り合える親しい令嬢たちを王宮での夜会に余り参加して居なかった叔父様とジジを紹介する。取り敢えず共通の知人から紹介を受けてから、身分が上の者から声を掛け、互いに直接挨拶を交わすことが出来る。心配したミレイユ・ポワロ伯爵令嬢も近くに来てくれた。



 敢えて、婚約者であるヨハン殿下の話題をスルーしてくれる彼女たちの気配りが、逆に申し訳なくて居た堪れない。




 軈て曲調が変わり、王太子殿下夫妻が中央に出て、大輪の花が咲くように踊り始め、優美なステップを踏み、華やかに着飾った紳士淑女たちをダンスへと誘う。


 王太子殿下夫妻に続くように、当然、ヨハン殿下とジャンヌたちも仲良くファーストダンスを踊っている。




 これで回帰前と同じに、ヨハン殿下とジャンヌの仲を皆に知らしめることとなる。


 それまでヒソヒソとした噂話であったのが、公然の秘密として二人の関係が語られるようになるのだ。と言うコトは、私の悪評が出回り始める頃か。


 但し、前回と違い、父や義母のジョアンナたちの意を受けた執事長や侍女長へと変えられていない為、好き勝手な嘘を使用人経由で広めることが出来ないはず。まあ、今回ジャンヌは第三王子宮に出入りしているから、そちらから私の悪評を流布しそうだけども。




 さて、王妃殿下へヨハン殿下との婚約解消を直訴する為の私の確認作業も終わったし、そろそろ黄水晶の間のパーティーをお暇しよう。


 そう考えて、私はホウエン公爵夫妻の元へ行き、会場から辞することを告げると、ホウエン公爵が「共に来るように。」と笑顔で仰った。私が「はい」以外の返事なんて言えるわけもない。去り際にホールを見渡すと、王太子殿下と義母のジョアンナが踊っていた。(マジか!)息が止まりそうになる程、私が驚いたのは言うまでもない。




 それはさておき、相変わらず迷路のような王宮内をホウエン公爵の背中を追って、私、叔父様、ジジとで、テクテクと付いて行く。

 アレ?

 この区画って、国王陛下の私的エリアだよね。


 通路や扉の前に立つ王宮騎士の騎士服が、セルリアンブルーから近衛の力強いオレンジ色に変化し、緊張で手に汗が滲む。白いレースのイブニンググローブを着けていて良かった。


 重厚な扉を開けさせ、ホウエン公爵は私たちを誘い、見事な調度品や絵画が飾られている陛下達が寛いでいた居間へと入る。

 驚いたことに祖父のウィレムとジジの祖父ベルンハルト、ホウエン前公爵も居た。



 「意外に来るのが遅かったな。ハンネス(ホウエン公爵)。」

 「お待たせしました。崇高なる王、、、」

 「堅苦しいことは、やめろやめろ。ハンネス。オレリアたちも良く来た。其処に座ると良い。」



 がっしりとした豪奢なソファーに国王陛下が寛いで座り、斜め向かいに置かれたゆったりとした長椅子に祖父ウィレムとホウエン前公爵が暢気に座って、クリスタルグラスで赤ワインを傾けていた。

 そして陛下から臣下の礼のキャンセルが入ってしまった。


 ホウエン公爵は苦笑しながら、叔父と私を祖父の近くに置かれたソファーへと招き、私の隣にジジを座らせ、陛下の前に置かれたソファーへと腰を降ろした。



 「こんな所で寛いでるくらいなら王太子殿下を助けて遣れば良いモノを。陛下もお人が悪い。」

 「フッ。多少のアクシデントに対処するのも次期国王への試練だよ。余は、この事態を止めなかった色ボケ侯爵の対処をウィレムと話し合っていたのだ。」

 「誠に申し訳ない。丁度、次期侯爵に据える心算のアントニーも着た事だしな。それにしてもオレリアには、辛かっただろう。よく耐えた。」

 「うむ。愚息のヨハンがすまぬ。オレリア。」

 「い、いえ。こうなる予感がありましたので。それにホウエン公爵様たちやアントニー叔父様が、側で守って下さったので心強かったです。」



 緊張マックスで飛び跳ねる鼓動。

 カラカラに乾いた口を私は何とか開いてみた。


 50前とは思えぬ若々しいライオンのような国王陛下。

 赤味がかった金髪は垂れ耳のように左右の頬に掛っている。


 人を従わせるような威厳があるのに、インペリアルトパーズのオレンジ色の瞳が、何だかほっこりさせる愛嬌も兼ね備え、完全無欠の食えない美壮年だったりする。





 「だからワシは、第三王子殿下と孫のオレリアとの婚約は反対だったのだ。フローラル人嫌いの殿下にオレリアは無理だと。相性も合わぬだろうしな。全く陛下は、年寄りの言うことを聞かぬから。」

 「はあぁ。余もヨハンの愚かさには、溜息しかでんわ。」

 「まあ、ワシの息子(マカダミア侯爵)の愚かさも手の施しようが無いから、陛下のみを責めれぬが。」



 国王陛下と祖父のウィレムが溜息吐きつつ、今後の事を話してくれた。


 一先ず、私とヨハン殿下の婚約は解消される。



 私的なパーティーでのただの浮気なら大目に見られるが、王太子殿下主催の公の場で、ヨハン殿下がジャンヌをエスコートし、ファーストダンスを踊ってしまったことが許されないことなのだ。公的な場では、婚約者をパートナーにするのが慣習的に当たり前なこと。王国法に記載されてはいないけど、通常は有り得ない行為なのだ。


 本来なら、父であるベオルフ・フォン・マカダミア侯爵が、家名を貶められたと王家に猛抗議する事案だった。


 だがしかし、


 妻であるジョアンナと一緒になって、不貞行為を父が後押ししている状態なので、嘲笑されるが何も起きないはずだった。あくまで回帰前なら。


 でも今回は、ホウエン公爵家が動き、陛下も動き、そして前当主の祖父ウィレムも動いた。


 どうやらジジが前回と違い教会に残らず、騎士になったことで、婚姻が可能になった為、公爵と祖父の行動が大きく変化した模様。


 前公爵であるベルンハルト様へジジが、私と婚約したいと頼み込んだことが、ヨハン殿下との婚約解消へ進めた要因だ。




 「ギリギリまでヨハンを信じていたのだがな。」



 そうボヤく陛下の話によると、2週間前位からヨハン殿下と側近たちが星渡り祭の夜会で、ジャンヌをエスコートする相談をしていたそうだ。その報告を受けた時、陛下は、「はっ?」と応え、間の抜けた顔になったそうだ。


 陛下は、ヨハン殿下のことを末っ子の王子で甘やかしていたと、自覚はしていた。


 第一王子は、王太子にする為、第二王子はスペアとして、2人とも幼い頃から厳しい教育を受けさせていたが、第三王子は比較的自由に過ごさせていた。成長して能力が有れば、王弟として王宮で兄たちの補佐を、無ければ臣籍降下させ爵位を与え、王領の一部の領主に封じれば良いと考えて居た。


 そして教育係と乳母の質が悪かったのも否めない。 オレリアとの婚約が9歳で決まった後に、そのことに陛下は気が付いた。


 陛下は、婚約者の私に対して冷淡な態度を取るヨハン殿下を諫めた。すると「オレリア嬢の血は劣っているから仕方ない。」と口答えされ、ギョっと驚かれた陛下は、教育係たちの調査を始められた。(本来信頼出来る者からの紹介で選ぶ。)本来なら王族や一部の高位貴族での教育で、一般に流布されているモノとは違う国史を学ぶのだが、ヨハン殿下の教育係たちは、親オベリスク帝国派で反フローラル王国派に属していた家門の人だった為に、中々にエキセントリックな教育を施して居たらしい。



 陛下は、反省し13歳で第三王子宮に引っ越したヨハン殿下の動向を成長を期待し、見守っていたそうだ。


 一応王族も騎士学校へ入るし。(但し一般学生とは違い変則的で特殊だけども。)鍛え直されることを期待していた様だ。


 だが夏季休暇を過ごすヨハン殿下に異変が起きた。行儀見習いに入っていたマカダミア侯爵家の養女との距離が近くなったと、陛下に報告が入ったのだ。それを受けて陛下は、侍従経由で養父のマカダミア侯爵に注意をさせて安心していた。


 それが2週間前に、ヨハンと側近たちの企みを知った。


 当初は、オレリアが養女であるジャンヌを虐げたことによる断罪をし、婚約破棄を夜会で行う予定だったらしいのだが、それはジャンヌが推し止めたそうだ。折角のパーティーだからヨハンにエスコートされ、ファーストダンスを踊り、楽しく過ごしたいとお願いされていたと、陛下は苦々しく語った。


 まあ断罪劇の後、楽しくパーティーで踊るのは難しいかもと、私は小さく言ちる。


 それに回帰前と違って、未だジャンヌに同情的な噂は、出回っていないしね。


 巻き戻った今回、私への手紙や招待状は、義母のジョアンナに渡らず、執事長から直接私に届くように成って居るから、私の友人や知人との集まりへ下手に参加することも無いから、ジャンヌは高位貴族との交流もないし。


 王都の社交界では、義母のジョアンナが元は平民だと知られているから、マカダミア侯爵夫人になった今でも高位の貴婦人からの誘いは殆どない。せめて父が真っ当に社交を熟してれば良かったのだろうけど、態度は不遜だし会話も楽しくないと言うことで、儀礼的な招待しかない。兄も社交は苦手。

 もしかしなくてもマカダミア家って、貴族として終わってる?


 精々、ヨハン殿下と側近たちで開く第三王子宮の私的な集まりに招かれるくらいだった。まあ、そこで私の悪い噂を流していた様だけど、どちらかと言うと婚約者である私を招いて居ない事から、ヨハン殿下やジャンヌたちの方が白い目で見られていた様だと、友人のミレイユは悪戯っぽい笑顔で教えてくれていた。



 それは兎も角として。



 陛下の期待も虚しく、ヨハン殿下のサプライズショーは実行された。


 その対応策で、私を心配してホウエン前公爵の招きに応じ王都迄来てくれていた祖父たちを呼び出し、話し合っていた所だったそうだ。


 私は、今夜のことを盾に覚悟を決めて、王妃殿下へヨハン殿下との婚約解消を願い出るつもりだったのに、アッサリと婚約が解消されることになった。


 アレ?

 私の覚悟の行方は?


※  ※  ※



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