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ep17 ファンファーレ




 3人の側近とその取り巻き一団から、ヨハン殿下にエスコートされていたジャンヌは、出迎えられて恭しく挨拶を受ける。


 その最中ジャンヌは、2人の有り得ない光景に息を飲む人々を無視して、キョロキョロと煌びやかな会場内を見回して居た。



 (もしかしてジャンヌは、私を探して居るのかしら?)



 ジジの機転のお陰で、祖父と友人だった前ホウエン公爵の招きがあり、「ホウエン公爵邸へと来訪し、共に王宮へ行く」旨を執事長から、父ベオルフへと伝言して貰った。きっと義妹のジャンヌは、ヨハン殿下が自分を迎えに来る姿を見せ、私に勝ち誇りたかったのだろう。


 どういう訳かジャンヌは、私が嫌な顔をするのを見ると、優越感が得られるようだし。


 確かに回帰前は、突然、町屋敷へヨハン殿下が訪れ私が慌ててお出迎えに玄関ホールへ駆け付けると、「お前如きをボクが迎えに来るわけないだろう。ジャンヌ行こうか。」と侮辱され、あまりにも屈辱的だったので、私は必死で歯を食いしばって我慢して表情を変えないように耐えていた。失敗してジャンヌを喜ばせてしまったけどね。


 今回は、独りで耐えなくても、傍にジジが居てくれる。パーティ会場には、王族以外は帯剣した護衛騎士は連れて行けないので、ジジは公爵令息として共に入場してくれたのだ。それにホウエン公爵さまたちも。




 「何か言われたとしても気にしなくて宜しくてよ。オレリア嬢。」

 「色々と聞いてるから、私たちに任せてくれたまえ。」



 ホウエン公爵夫人とホウエン公爵さまは、登城前に、そう言って励ましてくれた。



 主催者である王太子殿下は、未だいらしていないので、希少な青水晶や黄水晶などを使った調度品で飾り付けられた会場内は、リラックスムードで談笑する声がガヤガヤと騒がしい。




 天上の星々の川が見え始めるのを合図に、地上の川に浮かべられた船に明かりが灯される。


 それが王宮での星渡り祭の始まりとなる。





 幾人もの知人たちが、好奇溢れる眼で挨拶に訪れるのを上手い具合に、ホウエン公爵夫妻が引き受けて下さる。



 「あら、可愛らしいお嬢様ね。オレリア様、私たちにも紹介して下さるかしら?」


 決して大きくはない涼やかな声で、ホウエン公爵夫人が野次馬根性で訪れた令嬢を牽制するように、私へと話し掛けて下さる。そのお陰で、ヨハン殿下とジャンヌたちの話をせずに済むので、とても有難い。まあ、興味津々で私に突撃して来る令嬢たちは、10歳の時に婚約者候補として集められた侯爵令嬢の面々だけども。


 そして周囲を囲んでいる紳士淑女の皆様は、耳を澄ませて、このインパクトのあるヨハン殿下のセレモニーの状況を知ろうとしていた。


 まあ普通はしませんよね。


 婚約者の義理の妹をエスコートして、王家主催のパーティーに入場するなんて。(名目だけとは言え王太子殿下主催の夜会なのだから。)



 ヨハン殿下にエスコートされ入場してきたジャンヌは、確かに飛び抜けて美しかった。



 ほっそりとした可憐なジャンヌは、ヨハン殿下の瞳に合わせたシャンパンゴールドの薄い生地を重ねたシフォンドレスを着ていた。


 抜けるような白い肌が際立つデコルテを見せ、折れそうな細いウエストからは、フワフワとした薄いシフォンの布地が、ジャンヌが動く度、華麗に揺れる。


 蜂蜜色の金髪を編み込み、耳元や項に垂らした髪は、彼女の白雪の滑らかな肌を飾る繊細な金の飾りに見えた。


 ジャンヌの輝くエメラルドの瞳と引き合うような王家のオレンジと呼ばれるインペリアルトパーズの首飾りが、華奢な首筋と純白の胸元を飾っていた。


 キラキラとしたクリアクリスタルのシャンデリアの灯りに照らされ、浮かび上がる清楚で儚げな妖精。


 恐らくジャンヌは、この会場で一番愛らしく美しい令嬢だろう。


 嫌、一番は女性らしい肉体を持つ蠱惑的な美女、義母のジョアンナかしら?


 デビュタントの時もジャンヌは、会場の注目を攫ったものね。外見を中身が裏切っていたとしても、それを知るのは被害にあった私みたいな人くらいだし。父や兄のジャンヌたちの溺愛ぶりを見ていると「可愛いは正義だ。」とつくづく思う。




 そんなジャンヌが、漸く私を見付け出したみたい。ジャンヌを眺めていて、目が合ってしまった。

 

 面倒だわ。


 大きく見開いたエメラルドの瞳と合った瞬間、じっくりジャンヌを眺めていたことに後悔した。






 その時、遥か前方から緊張感が漂い、暫くすると王太子殿下夫妻の入場を知らせる声が朗々と響いた。



 夏の催事に良く使われる此の黄水晶の間は、開け放たれたアーチ形の窓々から広いバルコニーへと続くのがメインとなる大理石と黄水晶のフラットな床を敷き詰めた階上にある大広間だ。その為、仰々しい玉座や王族席は用意されていない。王太子殿下夫妻が進む場所は、緋糸や橙色糸と金糸で織られた鮮やかな絨毯が敷かれていた。


 思い思いに散らばって談笑していた招待客は、入場を知らせる声が響くと、ホールの中央が開け、王太子殿下夫妻の玉体を拝謁し易いように動き、私もホウエン公爵さまから声を掛けられ、2人の後を追った。


 チラリとヨハン殿下たちを見るとジャンヌをエスコートした侭、王太子殿下夫妻の立ち位置近くまで歩いて行っていた。



 回帰前は、王太子殿下夫妻が星渡り祭のパーティー開始を告げてから、遅れて入場してきた為、王太子殿下から呆れ果てられただけだった。もしかして見捨てられていたのかしら。今から思えば、あの時、王太子殿下からパートナー違いをヨハン殿下に指摘されていたら、余計のこと、私が居た堪れなくなると気遣って下さったのだと分かる。当時は羞恥心や怒りを抑え込むのにいっぱいいっぱいだったから、王太子殿下夫婦の様子を窺う余裕などなかったけど。



 今回も恐らく王太子殿下夫妻は、夜会の進行を乱さない為に(王家の威信を崩さぬため)、ヨハン殿下とジャンヌを居ない者としてスルーされるるだろう。なんで前回は、周りも見ずに、自分独りで必死に耐えていたのだろうと、己の無駄な努力に呆れてしまう。 今回、私は近くで温かな気遣いをして下さるホウエン公爵家の御家族たちや勇気付ける様に私の腕を取って下さっている叔父さま、そして傍で優しい目を向けているジジたちに囲まれて、ジャンヌと目が合い、緊張した心が解けていくのを感じた。



 



 華やかなファンファーレが王太子夫妻の入場を改めて会場内に報せて、側近や護衛騎士たちと共、拍手と歓声に出迎えられ整えられた壇上に立った。ほどなく堂々とした声で夜会の開催を王太子殿下は告げ、タイミングを計ったかのように美しい音色を楽師たちが奏で始めた。


 案の定、王太子殿下夫妻は、挨拶に訪れたヨハン殿下とジャンヌたちには、頷き1つを返して、近くに居たホウエン公爵様へ夜会参加の歓迎の意を大仰に示され、日頃側近を務めている次期ホウエン公爵夫妻とも軽く歓談をされた。此の夜会に参加しているホウエン公爵様たちを王太子殿下がご覧になっても驚かなかったのは、数日前から知らされていたのかもしれない。流石に筆頭公爵家であるデミル公爵家からの参加はなかったけれども。


 この星渡り祭の夜会は、18歳で王太子になられた翌年から始められたもので、今年で6年目になる新たな貴族イベントなのだ。


 格式ある建国祭ほど肩肘を張らずに、社交デビューを済ませた若い人達に新たな出会いの場を作ろうと、王太子殿下が主催なされたのだ。それを弟であるヨハン殿下に、こんな利用をされてしまうとは、気の毒なことだ。


 敷居の低いラフなパーティーと思い、ラダリア王国の貴族たちと気楽に親交を深めようとして参加している他国の外交官たちにとって、これは吉なのか凶なのか。国賓としてラダリア王国へ招いたお歴々の参加は、一週間後の建国祭なのだろうけども。



 ヨハン殿下たちが、婚約者を探して居る令息や令嬢、その家族たちが多く参加している此の夜会で、恋人宣言する(公言して無いけどしているようなモノ)意味をふと考える。


 ジジは、言っていた。


 私が殺された後で、ヨハン殿下とジャンヌは、正式な婚約が出来ていなかったと。


 私が居なくなったことで、国王陛下が避けていたフローラル王国の王女殿下との婚約話が、再燃していたと話していた。父と兄、ヨハン殿下ではジャンヌを王子妃にする根回しなど出来なかったのだろう。母と父の間に継子である兄が生れた祝いと言う名目で、父は副商務卿の肩書を国王陛下から賜ったけど、20年経った今でもトップには立てていない。どれだけ無能なのだかと祖父は手紙に綴っていた。


 もしかしてコレがジャンヌを新たな婚約者にすると言う根回しのつもりなのだろうか?


 まさかね?




 王太子殿下と目が合い、一瞬、申し訳なさそうな表情をさせてしまった。



 王太子殿下は、ひとしきりホウエン公爵様との歓談を終えると、専任の給仕から出されたグラスを取り、会場を見回し皆の手にもグラスがあるをの確認し、「乾杯」を告げた。それを合図に楽士たちが華やかな音楽を奏で始めた。



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