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ep10 実録ジョアンナ23年間

※注※

R15


ジョアンナの幼い頃、シチュエーション的な性的虐待の表現になって居ます。苦手な方は、このエピソードを読み飛ばして下さい。




 娘のジャンヌが、「近頃やっとヨハン殿下と2人きりで過ごせるようになった。」と嬉しそうにアタクシに話した。


 去年のデビュタントで、オレリアと大広間の中央で踊る第三王子のヨハン殿下に娘が興味を示し、夫からの後押しで娘は、第三王子宮に行儀見習いとして上がった。これで娘がヨハン殿下と親しく成ったら、エトの望みに一歩、近付くのかしら。


 あの方が生きて居れば、アタクシでなく、娘のジャンヌへ期待するのでしょうね。


 アタクシと違いジャンヌは、あの方が愛したエトとの娘だから。 それに気付いてしまうがアタクシが、悔しくて悲しい。



 それでもお高く留まった継子のオレリアが、この噂で悔しがる様を想像すると、アタクシは胸がすく思いで、わずかばかり満たされそうになる。









 あの方、オズワルド・ワーグナー侯爵さまとアタシの出会いは、未だ唯のジョアンナと呼ばれていた6歳の頃だった。


 行儀見習いとして、引き取られたあの方の館には、幾人かのアタシと似た年齢の少女たちが暮らして居た。そして、ある夜、あの方に寝室に呼ばれ、アタシは父に売られた事を教えられた。父の商売の認可をワーグナー侯爵領で得る代わりに、アタシは父に差し出されたのだ。あの方の説明で、父から「あの方には何一つ逆らうな。」と何度もしつこく言い聞かされていた理由を知った。


 大人の女性が嫌いなあの方の為に、アタシたちが暮らすワーグナー領地別館では、週に1度来る家庭教師以外全て男性使用人だった。




 あの方は、今まで見たこともない程、美しい男性だった。


 冬の海のような冴え冴えとした藍色の鋭い目。

 鈍く光る青灰銀色の長い髪。高い鼻筋に、整った薄い唇。それらが完璧な配置であの方を形作っている。


 アタシは、出会った瞬間、魂まであの方に魅入られた。

 今でもあの方の名を口にする事すら、畏れ多く感じる程に。



 あの方がこの世を去ってからエトは、「それは洗脳と薬のせいだ」と可哀想なモノを見るような目をして、アタシを見て皮肉気な口調で言った。



 エウロペ館と名付けられた別館に住むアタシたちは、あの方が望む少女であるようにと育てられた。


 仕草や体形が、あの方の美意識を満たせるようにと、執事や教育係たちから厳しく指導された。


 今から思えば、肉体を成長させない食事メニューを組まれていたのだと思う。


 胸が育ったり、あの方の滞在中に寝室に呼ばれなかった少女は、いつの間にかエウロペ館を去っていた。



 そうならない為に、アタシたちは館内に居る執事補佐たちや使用人たちへと媚びて、躾けられた手管で彼らを誘惑した。

 当たり前のように、館に住む少女同士の寵を競う戦いは苛烈を極めていた。




 あの方は、アタシたちの貞操など求めて居ない。


 面倒の無い性欲の処理と自分が作った薬の効能を知りたくて、アタシたちを抱くのだ。



 あの方は個人的な趣味で〔不老薬〕の研究を父の代から領地に住まわさている流浪の民の薬師たちと研究していた。

 その副産物で、媚薬や避妊薬等が出来、アタシたちに使われた。



 エトは、流浪の民の薬師の孫で、養子として引き取られ、あの方の弟子をしていた。



 眩い黄金の髪に、見惚れるエメラルドグリーンの目をした綺麗な少年だった。


 アタシが10歳の時に、館に連れて来られ、3才年上のエトは、アタシたちの観察記録をあの方に任された。


 エトが、エウロペ館に滞在し始めて、あの方も長期の滞在をするようになった。


 しばらくしてから、あの方はアタシとエトが絡み合う様子を見ることを所望されるようになった。


 それ迄あの方は、アタシを淡々とした表情で抱いていたのに、エトに抱かれている時は、熱の籠った眼差しでアタシたちを見詰め、その後、激しくアタシを抱いた。


 アタシは、その理由を薄っすらと勘づいていたが、明確に知りたく無くて、気付かないフリをしていた。


 そして、エトが望む夜の相手はアタシだけになっていたので、同じ館内で暮らして居た少女たちは、何処かへ出荷された。


 軈てアタシも胸のふくらみが大きく育ち始め、12歳になると父の薬種問屋が或る実家へ帰され、あの方の紹介で領主のラウル伯爵様との婚姻が決まった。



 ラウル伯爵邸での暮らしは最悪だった。


 前妻や前々妻の子供たちに付いている親族達から平民出身であることを見下され、夫のラウル伯爵が領主館を留守にしている間は、使用人達に命じて家庭内格差で苦しめられた。


 時折り、あの方が薬師として寄こして呉れるエトが居なければ、逃げ出していたと思う。


 そしてラウル伯爵と婚姻して一年も過ぎた頃、アタシは身籠った。 お腹の子は、エトの子だと言う確信が、アタシにはあった。




 その報せを受けたあの方から密かにエトを通じて手紙が届けられた。






 《ジョアンナ、君に私から最期の命令だ。これから君の人生は、エトの命じる儘にエトの為に使え。不要となった君を娼館に売らずにラウル伯爵の妻にしたのは、エトの希望だ。あの子が望んだから今の君が自由であるのだ。その事をくれぐれも肝に銘じよ。ーオズワルド。》




 「最期って、どういう意味よ。エト。」

 「最期は最期さ。もうオズの寿命は長くない。オズがボクには、遺言書と色々な形見分けをし終えた後だ。あの別館と幾ばくかの金、そして王都アムスで経営させていた高級娼館を呉れた。下手にワーグナー家の財産を養子のボクに残すと、ワーグナー侯爵家内で揉めて大変だからと、詫びられたよ。」


 「そうじゃない。あの方の体調が悪かったの?」

 「ああ、君が生家に戻される前辺りからかな。オズって自分の身体を使って効能を確かめるだろ?色々とガタが来てたんだよ。」

 「嘘よ。酷い!」




 こんなに焦がれているのに、あの方はアタシには、何一つ与えようとはしない。


 それこそ、初めてアタシの名前を呼んでくれたのが、こんな遺言の冒頭のみだなんて。



 父に売られて6歳で出会ってから、アタシの人生は、ただあの方の為だけに存在していたのに、最期の命令はエトの為に生きていけなんて。


 あんまりだ!


 いくらなんでもふざけるなと思いたいのに、その命令があるお陰で、あの方が居なくなると言う空虚な想いが、和らぐことに何処か安堵している自分が居た。





 

 「それで、ラウル伯爵にこの薬を飲ませろよ。その子が生まれる前後に病死するはずだ。」

 「はぁっ!?」

 「だってヨンナ(ジョアンナ)の腹の子、ボクの子なんだろ。生れてから旦那にグダグダダ言われたら面倒だろ?未亡人になったら怪しまれても、その子は貴族の子になれる。」

 「毒なの?エト‥‥‥‥‥。」

 「薬だよ。ヨンナ(ジョアンナ)だって、何かなんて知りたくないだろ?」

 「‥‥‥‥‥。」



 

 色々と言いたい事を飲み込んでアタシは首を上下に振り、エトが差し出した薬包を受け取り、サッと手の内に隠した。



 真夏の建国祭を終え、王都から夫のラウル伯爵が領主館に戻り、アタシはエトの命じた通りに、持病の緩和薬に混ぜて、夫へと飲ませた。

 夫は、食欲不振からゆっくりと体力が衰え、動悸や息切れも起き始め、軈て、ベットから起き上がれなくなった。


 ラウル伯爵家の専属医が診ても、加齢により心臓の働きが、弱っているとしか診断されなかった。アタシはエトの薬師としての腕前にゾッとした。



 その内に、娘ジャンヌが生れ、しばらくしてからあの方が亡くなったと、エトからの伝令で知らされた。



 その一報を知り、アタシは目の前が、真っ暗になった。




 お陰で、夫が意識不明になり、伏した後のラウル伯爵家内の親族達の混乱に巻き込まれずに、その光景は何処か現実感を帯びず、アタシはただ眺めているだけだった。


 夫の初婚時の第一子である嫡男たち兄妹の親族達と2番目の妻との間に出来た第三子の親族達が、財産分与で争い始め、その間に夫が亡くなった。3番目の妻であるアタシたち平民の母娘には、財産を受け取る権利が無いと、後見であるあの方が亡くなっているのを理由に、僅かな手切れ金を渡され、アタシたちはラウル伯爵邸を追い出された。



 エトは、それを予見していたかのように、アタシたち母娘を王都にある賃貸の屋敷へと招き入れて呉れた。




 「まあ、予見が出来ていたことだしね。 新たなラウル伯爵になった嫡男やその親族たちは欲深い連中だったから。2番目の妻を手に掛けたのじゃ無いかと領地で噂されて居たよ。ヨンナが無事だったのは、ラウル伯爵が再再婚する時、元平民であるヨンナには殆ど財産権を与えないと親族達と後見人のオズを交えて話し合ったからだよ。」


 「エトが、ラウル伯爵との婚姻をあの方に勧めたのよね?」

 「まあね。あの侭ヨンナの肉体が成長したら、オズのことだから問答無用で娼館に売り飛ばしそうだったんだ。それでボクには親切なオズへ将来ヨンナに子供を産ませたいと打診したんだ。」

 「それならワーグナー領地のエウロペ館で、エドがアタシと結婚すれば良いじゃない。」

 「それじゃあ、ボクの目的には届かない。養子のボクと平民のヨンナとの子供じゃ駄目なのさ。少なくとも此の国では半分でも貴族の血が入ってないとね。」

 「エトは、何が目的なの?」

 「未だ秘密。」





 王都にある昔、貴族が所有していて手放した灰桜色した3階建ての煉瓦作りの町屋敷で、北西にあるラウル伯爵の領地から娘のジャンヌと出て来たアタシは、居間で一息入れて、エトの話を聴きながら、あの方のお墓にも参れなかったことに文句を言った。



 ワーグナー侯爵家は、あの方の甥が継ぎ、エトは、エト・ワーグナーとしての立場を得て、王都でそれなりの薬師として活躍していた。

 あたしの生家の薬種問屋とも僅かな取引相手として、付き合いがあるらしい。

 あの方が開発した胡散臭い養毛剤を降ろして居るそうだ。

 婚家のラウル伯爵家との付き合いはないので、アタシと生家の付き合いは、婚姻後途絶えている。生家は子沢山で、侯爵家のあの方からの要望があったとは言え、生活に困窮している訳でもないのに、親から売られてしまったと言う意識は消せなくて、これから先、自ら連絡を取ることはないだろう。



 取り敢えず、あの方の遺言通り、アタシはエトが望むような名のある貴族家との男性たちに、王都での社交界で食指を伸ばし、17歳から26歳と時間がかなり掛ったけど、あの当時、一番身分の高かったマカダミア侯爵との再婚話をモノにした。


 エトの話だと、夫婦仲が醒め切っていたマカダミア侯爵夫人を馬車の事故に見せて、殺害させたと言っていた。

 ホント、エトは目的の為に手段を選ばない。

 娼館経営の繋がりで、危ない事を請け負う知り合いとも縁が持てたと、エトは嬉しそうだった。



 「流石はヨンナ。ボクが選んだだけはある。中々、いい出来だよ、ヨンナ。」

 「アタシはエトに選ばれていたの?」

 「そう。あのエウロペ館で一番に目を惹き付けられた。この子は、ボクに奇跡を運んでくれると思った。ヨンナは特別だよ。」



 それを聴いてアタシの心は弾んだ。


 あの方に特別扱いをされていたエト。

 そのエトに特別だと言われたアタシ。

 相変わらず、アタシの胸の中心に居るのは、あの方だけどエトが空虚に空いた心の穴をに、嬉しい言葉で満たして呉れる。


 刹那的な充足感は、アタシに遣り甲斐を齎した。


 それにあの方の遺言は、エトに尽くせだもの。


 きっと是で間違っていないはず。







 エトの命じる侭に、夫婦仲が冷えた下位貴族の奥方たちを誘って、シトロン男爵邸の旧礼拝堂で、一時のアバンチュールを味合わせて上げた。

 色々な意味で彼女たちは、今後、アタクシの力になるとエトは満足そうに笑っていた。


 手始めは、ジャンヌと第三王子のヨハン殿下が仲良く王宮で過ごして居ると、お茶会でお話して貰おうかしら。


 余裕ある態度で澄まして居るオレリアは、噂を聴いて少しは悔しがるかしら?


 綺麗なモノだけに囲まれて、大切に育てられてきたオレリアを見ると、胸の奥からドロドロと黒く熱いモノが沸き上がってきて、彼女を滅茶苦茶に踏みにじりたくなる。



 マカダミア侯爵家の町屋敷内では、オレリアの父親と兄はアタクシたちの魅力に堕ちた。

 次は使用人たち。


 これで婚約者であるヨハン殿下が、完全にジャンヌに溺れたら、澄ましてお高く取り繕っているオレリアの顔が歪むかと思えば楽しいわ。



 エトの命令ばかりで動いて窮屈だったけど、マカダミア侯爵と結婚してからは、アタクシの楽しみとエトの目的が一致している様で、益々アタクシのヤル気が満ちて来る。



 「ヨンナは、その歪みも愛らしいよ。」



 エトは、そう言って綺麗な笑顔でアタクシに向けた。



※  ※  ※





 

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