ep9 嬢ちゃんの飼い犬
※注※
書いてるところまでアップしたので、今後はスローペースになります。
正月休み的な?
では、良いお年を。2025年12月31日
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オレが所属する《何でも屋シャロイック》が取り扱って居るのは主に情報。
王宮内のコトは、ラダリア王国にある二大公爵家の1つデミル公爵家が管轄している。
他国との国境周辺の各辺境伯近辺関係の動向などの地方を観察し、各領主の自治権を犯さないように監視するのを、もう1つのホウエン公爵家が密かに担っている。
いつの時代も戦が始まる前は、先ず、国境近辺がざわつくのだ。
その変化を素早く知り、中央に知らせる為にオレたちが居る。
そんなオレが嬢ちゃん、ミレイユ・ポワロ伯爵令嬢と知り合ったのは、シャロイックの商会長であるヴィドック男爵から王都に居る間の子守を頼まれたからだった。
《何でも屋シャロイック》は、ホウエン公爵家の家門のカロン侯爵が、密かに作らせた荷受け商会を建前にした組織なのだ。運河交通水路の要を持つ東部地方のポワロ伯爵領をシャロイックの拠点していた。
そしてシャロイック商会創設者カロン侯爵とポワロ伯爵は、騎士学校の同期生にして同じ寄宿舎で相部屋だった友達同士で仲が良い。その縁もあってポワロ伯爵領に本拠地を作った。
カロン侯爵から本拠地を任されている若いヴィドック男爵は、観察力と洞察力が高い。その為、ポワロ伯爵は、問題が起きたりすると気軽に商会長であるヴィドック男爵を呼び出し、相談していた。(因みにヴィドック男爵は、カロン侯爵の叔父の子息いとこにあたる。)それを見ていた嬢ちゃんが、幼き或る日、父親のバロン伯爵に訊ねた。
「お父様は、当主で一番偉いのに何故、ヴィドック男爵のお話は、素直に訊いているの?」
「それは、ヴィーが私より、賢くて何でも知っているからだよ。それに的確なアドバイスをしてくれるしね。ミミに困った事があったらヴィーに相談すると良いよ。きっとミミにも判り易く教えてくれるだろう。彼はとってもいい子だからね。賢いミミと気が合うはずだよ。今度、紹介しようね。」
「はい、とっても楽しみです!」
斯くして嬢ちゃんは、何かある度に「ヴィー!」と呼び、飼い犬の如くヴィドック男爵は、彼女の前に参上し、乞われる儘にお手をした。
(6歳の嬢ちゃんが、父から飼い犬『ヴィー』をプレゼントされた。と言う幻がオレには視えた。)
嬢ちゃんからヴィドック男爵に頼まれたお仕事。
始めは、喧嘩した姉との仲直りをする為のアドバイス。
次は、母親の目を欺き、スイーツを時間外に手に入れる方法のアドバイス。
友人の浮気性の婚約者を破局させずに懲らしめるアドバイス。(とは言っても9歳前後の少年少女なので可愛らしい話だったが。)
手を荒らさずに小舟の操舵をする方法のアドバイス。
夫婦喧嘩から、ちょっとした領都での騒ぎの解決まで、何でも屋シャロイックの商会長ヴィドック男爵は、領地で呼ばれる侭に嬢ちゃんの世話を焼いていた。(敢えて犬に取ってこいをさせたくて、嬢ちゃんは領都を散策し、揉め事に突進しているようにも思える。嬢ちゃんが楽し気に領地での話をするのを聴いてオレはそう思った。)
商会長はロリっ、おっと、此処から先は言えねぇーや。
取り敢えず、嬢ちゃんの飼い犬が、オレの上司みたいなもんだし。
10歳で王宮のお茶会に参加する迄は、殆ど領地暮しだった嬢ちゃんだったが、その日、王都で同じ年頃の友人が出来た。
早速ヴィドックの若造に報告してやったら、心配だから嬢ちゃんのご友人を調べてくれと、職務命令?職権乱用だろ!?
文句はあったが、仕方なく動いた。一応(年下の甥っ子だが)名目上は、オレの上司なので。
オレリア・マカダミア侯爵令嬢。
調べたら嬢ちゃんと一緒で10歳だった。(大体、他の友人候補まで調べさせるなんて、商会長は過保護過ぎるだろ。)
ソコソコ有名だった。まあ、侯爵家なんで貴族で知らない奴は居ないだろう。
父親のベオルフ・マカダミア次期侯爵は、強いて取り柄のない昼行燈だった。しかしフローラル王国から格上の嫁モルガーナ・クロノア公爵令嬢を貰ったお陰で、高位の官職を得た「ツイている男」と専らの評判になった。
ベオルフ次期侯爵は、銀髪翠眼の色男で中々にモテるらしい。今は40歳位でオレより5つ程年上か。
オレは直接会ったことがないが、オレリア嬢の母親モルガーナ令夫人は、白金の髪に水色の瞳をした上品な貴婦人のようだ。マカダミア次期侯爵より4歳年下だった。
これはラダリア人特有の感性だと思うのだが、品が良くて完璧な所作をするモルガーナ令夫人だったが、何処か下に見ているような社交界での品評を聞かされた。どうしてもフローラル人を見下しちまう下地がオレたちにはあるのだ。ラダリア王国よりフローラル王国の方が大国であるのにな。
フローラル王国がアトラス大陸の西方では、一番新しい国だからかもしれない。
それと新たな国を建国した時、滅ぼした前王朝の血脈をフローラル国王は、王家に全く入れなかったことも大きい。
王家の血脈の断絶は、言葉にしないが、忌避されているのだ。西方にユリウス教が興ってからの歴史では、初めてのことだったのだ。
今を生きていた彼女には、関係のない事なのにな。
お嬢ちゃんのことを調べてみても、此れと言って問題の無い相手だった為、心配性のヴィドック男爵に『良』と書いて送った。
社交シーズンの春から夏の期間、王都の町屋敷で嬢ちゃんとお嬢ちゃんは、互いに交流し、仲を深めていった。2人の少女が並ぶ姿は、人懐っこいスピッツ(プロメシア王国ポメラニアン地方の犬)と聖なる猫と呼ばれているアビシニアンが寄り添っている様で微笑ましい。
お嬢ちゃんは、11歳で第三王子のヨハン殿下と婚約したと言う噂を聞いた翌年、母親のモルガーナ令夫人が事故死された。モルガーナ令夫人‥‥‥‥‥32歳の早過ぎる死だった。
そして年が移り、嬢ちゃんとオレリア嬢がデビュタントに参加した。
瘦せ細って目に力を失って居たらしいお嬢ちゃんを心配した嬢ちゃんが、王都アムスに長期で滞在し、オレリア嬢の傍にずっと居ると言い出した。それを心配した過保護なヴィドック男爵は、オレに新たな指令を出した。
「嬢ちゃんを守り、レポートを送れ」と。
いやあ、オレだって仕事が或るんですよ‥‥‥‥‥おいこらっ! ヴィドック坊ちゃん。
オレの直属の上司で在り、異母兄であるガロン侯爵からの仕事が。
前侯爵だった父が、年若い給仕メイドに手を出して生れたのがオレ。(異母兄たちは可愛がってくれるが。) 母が亡くなり庶子として14歳で父に引き取られたが、今でもオレに貴族としての自覚はない。
母が亡くなった後に知ったが、オレを身籠ってガロン領の領主館を辞して、父の紹介で王都にあるガロン侯爵邸のハウスメイドをしていた。オレは水夫見習の雑役夫として徒弟制度を使い8歳から勤め始め、5年の修業期間を終え、水夫よりも楽な金になると噂の傭兵へトラバーユした。しかし1年も経たない内に母が亡くなり、父と対面。実は庶子として戸籍に入っていたと暴露された。
序に言えば父が、母に渡していた金や宝飾品が部屋の整理をしてたら結構出て来た。
(此れだけあるなら。オレって苦労が多かった修行に出なくても良かったんじゃね?母1人子1人だと考えて仕事してたのに。)
オレは、むしゃくしゃして亡くなった母への文句を墓の前で独りごちた。
父に引き取られてからは、家庭教師を付けられ、異母兄の従者にされて、今に至る。
前ガロン侯爵夫人のことは、継母と呼ぶのが畏れ多くて、オレは奥様と呼んでいる。(何せ母は平民だったし、オレも平民として生きて来たしね。)
異母兄で現ガロン侯爵は40過ぎて居るのに、現在も独身。他は異母姉二人だし、オレは庶子なので跡を継ぐことは出来ない。 此の侭、異母兄が未婚だと、父の弟の息子を養子に迎える予定だと話していた。養子にするのは父の上の弟の子息で、下の弟のヴィドック男爵とは違う甥っ子。
異母兄は、明るい栗色の髪に澄み切った空色の瞳で、それなりに淑女受けしそうな整った顔立ちをしている。今でもポツポツと婚姻の話が持ち込まれるらしいが、スッキリ綺麗な笑顔で躱していた。もしかして、オレと同じ理由で独身主義なのかもな。
あの時、お嬢ちゃんには、ブラックなことはしないと断言しちまったけど、異母兄と一緒にホウエン公爵家の裏方の仕事をしてるから、妻子を持つ気になれない。
グレーって言って言葉を濁したのは、本当の話をお嬢ちゃんにする訳にも、いかないからな。
まっ、汚い大人って言うことで、勘弁して貰おう。
一応上司になるヴィドック男爵から任されている嬢ちゃんからの頼みで、お嬢ちゃんの依頼を受けて、三ヶ月が過ぎた。
「外で義母のマカダミア侯爵夫人が浮気しているかどうかの素行調査をして欲しい。」
との依頼だった。
追加で、どんな雰囲気の人と会っていたかも知りたいと持って回った言い方で頼んで来た。
マカダミア侯爵と再婚する前から、華やかな噂を振りまいていた美貌の女性だったので、男としてジョアンナのことに興味があったことをお子ちゃまな二人には内緒にしておこう。
オレを見た瞬間、息を飲んで、身体を緊張させたお嬢ちゃんの水色の瞳は、サッと怯えの色で陰った。 直ぐ様、表情を取り繕ったが、オレがお道化るまで、微かに小さな手が震えていた。
その時感じた違和感をオレは飲み込むべきじゃ無かったと、改めてお嬢ちゃんと会ってから反省した。
言っては何だが、オレも父と母の息子なので、そこそこの顔立ちをしていると自負している。若干、年は食っているが、未だ大丈夫な筈だ。
初対面で、息を飲んで恐れられるような、ご面相はしていない!‥‥‥‥‥つもりだ。
「真顔が怖い。」
みたいなことをそういや初対面でお嬢ちゃんには、言われちまったが。
オレみたいな雰囲気って言ったら、傭兵崩れじゃなく、裏の人間で真っ黒な奴じゃないか。
そんな奴とマカダミア侯爵夫人とが、会う予定だとお嬢ちゃんは考えて居る訳か。
フム。
こりゃ、オレだけの手に負えないな。
兄に相談するか。
シトロン男爵邸のこともあるしな。
侯爵様の後妻の気楽な浮気調査だったはずが、妙な塩梅になってきたぞ。
やっぱり、嬢ちゃんが絡むとロクなことがない。全く、ヴィドック男爵
め。
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※設定メモ※
アトラス大陸の西方の国々は、神聖ロベリア教皇国を除き、オベリスク帝国が支配し、その後、皇帝の弟が、カナーン王国を建国し独立した。その後、辺境伯と任じられていた領主や地方長官(王族)に任じられていた領主たちも独立し、皇帝を選ぶ7人の選帝侯が誕生した。それが公国となり、時代が下るとプロメシア王国のように独立国として王が立った。他に12の属領国もある。
聖歴397年
ラダリア王国は、言語が違うカナーン王国から独立した国である。
前カナーン王国時代、ラダリア家は、ラダリア辺境伯の一族だった。
現王家ドナ=ラダリアは、デミル公爵家、デミル=ラダリア家の分家だった。
そして、ホウエン公爵家は、ドナ=ラダリア家の分家である。
カナーン王国の辺境伯から独立し、ロベリア教皇から戴冠の義で国王と承認され、ラダリア王国の国王になった時、現王家は家名から「ドナ」を外し、2大公爵家は、それぞれ国名のラダリアを外した。
ラダリア王国は、小国なのに諸外国より侯爵家が多い。婚姻外交で諸外国の王女や公女を娶った王子たちに侯爵位を叙爵していたからだ。
海軍と陸軍を率いる軍務卿は、代々王族が就く。
領地を持たない男爵や子爵の下位貴族(武官や文官)が居る。




