9.母なるもんすたー
「うぼぉああ!」
膝まずく子に声をかけようとした華子の腹部に何かが飛んできた
急な衝撃に耐えられず変な声を上げながら倒れる
「ぐへっ。」
受け身もとれず背中を地面に叩き付けた
痛みに呻いているとお腹から声が聞こえた
「母サマっ!」
〔〖母〗、お腹にいる子は間違いなくわたしをそう呼んだ〕
華子はずきりと痛む胸のこらえることのできない感情に涙を流した
お腹に抱き着いた子もしゃくりあげながら泣いていて
その手はぷるぷると震えながらもぎゅっと華子のお腹に巻き付いて離れようとはしない
わなわなと震える手で探るようにお腹の子の頭をなでる
まるで何かを取り戻すように
子供は一瞬びくっと身体を硬直させた
それが華子の手だとわかるとまるで猫のように額を擦り付けた
「母サマ、やっと会えタ。」
お腹の子供は泣きながらも笑顔を華子に向ける
それは心からの安堵の表情だった
まだ混乱する華子のもとに他の2人が近づいてきた
「あの、これは…いったい?」
先ほど華子に懇願していた子供が声をかけた
お腹の子供のみに意識をもっていかれていた華子はハッとした上体を起こす
お腹の子供を優しく抱き上げて膝の上に座らせた
「さっきは怖がらせてすまなかったな。なだめるだけのつもりだったがこんな身体だ、怖がるのも無理はない。」
意思疎通がとれることに彼は安堵した表情を見せた
一緒にいた子供が華子に懐いていることから警戒を解いたのだろう
「さて、君たちはなぜここに?というかここはどこなんだ?」
華子の突然の質問に彼は困惑した
「えっと…ここはあなたの住処で、あなたは街の聖域を守る人?とは違う、ですか?」
彼の発言に華子も首をかしげる
「わたしは気づいたらここにいたし、街とやらはまったくわからんぞ。」
2人の間にはてなが飛び交う
「どうやらお互いに現状が読み込めていないようだな。先ほどの炎のこともあるし、この子が私を母と呼ぶ理由も気になる。君たちのことを聞かせてもらえるだろうか。見たところ3人ともまだ子供だろう?保護者さんはいないのか?」
華子の問に彼は答える
「ぼくはアンチャ、です。この子はフェミニであなたに座ってる子はティニー、です。
ぼくらはセパレトていう街の外れで3人で暮らしてた、です。最初は管理者さんがいたですけどある日、出かけたまま帰ってきてない、です。」
アンチャと名乗る子はゆっくりと話し始めた
その顔はだんだんと恐怖に染まっていく
「ぼくらは街の偉い人に生贄に選ばれた、です。大きな魔方陣の部屋に連れていかれて、偉い人がティニーに魔法を撃って、気づいたらここに居て…」
生贄と聞いた瞬間華子の顔が曇る
アンチャの身体の震えが次第に増していく
すかさず華子はアンチャの身体を抱きとめた
「すまない、辛いことを思い出させてしまったな。もう大丈夫だ。ここにはわたしたち以外にはいないし、先ほどの魔法とやらも消えた。もう大丈夫だ、心配いらないよ。」
右手でティニーを抱えたまま左手でアンチャを抱き寄せ背中をさする
「わたしの胸でよければいくらでも貸そう。落ち着くまでこうしているといい。」
華子の言葉にアンチャは大声をあげて泣き出した
今までの恐怖をすべて吐き出すように…
ティニーは2人の顔をおろおろと眺める
フェミニと呼ばれた子もアンチャの背中に駆け寄り服の裾を掴んでいた
〔この子左手と左目がないじゃないか、こっちのティニーくんとやらは動物のような体に複数の縫合後、フェミニちゃんとやらに関しても耳が長くとがっている。それに何よりみんなやせ細っているではないか。わたしの身体の変化といいここは龍のよく見ていた異世界とやらか?〕
華子は3人を見比べ現状の整理をした
〔わたしは病院であの(・・)子を助けようとして事故にあった。気づいた時にはこんな姿で知らない場所だ。お腹の子供たちも龍も父さん達もどうなったのかわからない。ここが異世界だと仮定すれば、戻ることさえできれば捨て元通りになるのだろうか。〕
華子が思考を巡らせているとアンチャの泣き声が落ち着いてきた
「ご、ごめん、なさい。」
〔いい子じゃないか。今は、わたしのことよりもこの子達をなんとかしなければな。〕
「謝らなくていいぞ。こんな身体だが役に立ったのなら何よりだ。」
「うん、ありがとう。」
「そっちの自然な話し方のほうがいいな。かしこまる必要はないぞ。」
「う、うん。わかった。」
「よしよし、素直なことはいいことだ。」
華子はアンチャの頭をなでるとアンチャは気恥ずかしそうにはにかんだ
「母サマ、自分も!」
右手に抱えたティニーが華子にねだる
華子は胡坐をかき、そこにティニーを座らせて頭をなでる
対面にアンチャとフェミニを座らせて質問する
「さて、いくつか確認したいのだが…」
「う、うん。ぼくが分かることなら。」
「ここはどこかわかるか?」
「ううん、知らない。」
ティニーとフェミニも首を横に振る
「では、街とやらはどこに…っと、さっき魔方陣とやらで飛ばされたといっていたか。」
「う、うん。だから街がどこにあるかは分からない。」
ティニーとフェミニも首を縦に振る
「そうか…。では次だ。これは話したくなければ話さないでくれていい。君たちが…君たちが生贄になった理由はわかるか?」
「それは…。」
アンチャは口を濁らせた
華子自身も残酷なことを聞いていると自覚している
だが、魔法といい生贄といいこの世界の状況が分からないのだ
「それは…、ぼくたちができそこないだから…。」
アンチャの言葉にティニーとフェミニも顔を曇らせる
「3人に約束しよう。どんな理由であろうとわたしは君たちを避けたりしない。だから聞かせてほしい。君たちに何があったのかを。」
華子の真剣な眼差しに3人は顔を見合わせ頷いた
ティニーは華子の膝から降りアンチャの横へ座る
「ぼくたちは禁忌と呼ばれている存在。呪われたスキルを持っているからみんなとは一緒に入れない存在。フェミニはエルフとダークエルフの子でスキル名は〈魔力圧迫〉。本来受け継ぐ魔力どころか一般的な魔力量を持てないスキル。ティニーは、キメラっていう作られた獣人。スキル名は〈ワン〉。使える能力が一つだけしかなくなるスキル。そしてぼくのスキル名は〈減衰の命〉。ただ命が減っていくスキル。左手と左目はこのスキルの効果でなくなっちゃった。ぼくたちはもともと住んでいたところには居られなくなったから誰も来ないとこで暮らしてたんだ。最初は管理者さんっていう人がぼくたちを家に招待してくれて面倒を見てくれていたけど、帰ってこなくなっちゃから3人で暮らしてた。そうしたら、生贄だぁって言われてここに飛ばされたんだ。」
「…スキルというのはそんなに重要なのか?」
「スキルっていうのは気が付いた時にはみんな持っていて、普通は生活や他のみんなの役に立つものなんだけど、たまにぼくたちみたいなハズレみたいのがある。スキルは神様がくれるものだから、ハズレスキルを持ってるぼくたちみたいなのは神様にも嫌われたってこと…。」
「神とやらは何もわかっていないようだな。」
華子は3人を抱き寄せた
「全ての子はそこに産まれたことが奇跡だ。祝福を受けるべき存在だ。君たちは禁忌などではない。わたしがそれを証明しよう!」
華子の周りに黄金の光の粒が集まり始める
「お願いだ。どうか、わたしの家族になってくれないか。」
・スキル顕現を確認
〈骨肉之親〉




