真実
扉を開いた私はまず一番に勇者の死体を放り投げた。
「なんだ、何が起こっている――勇者がなぜ死んでいる」
魔王は異形の体を前のめりに、立ち上がった。
私は魔王の目を見つめる。涙は部屋に入る前に拭った。
「私は……勇者を殺しました。勇者があなたを殺すことにより、教会の……私の信仰が減ることを許せなかったのです」
「契約をしましょう。あなたは少しずつならば、人の町を侵略していただいて構いません」
「代わりに何かを戴こうとは言いません。私は信仰さえ集まればいいのです」
魔王は勇者の死体を見つめ、唸る。
「なるほどな。面白い、ここまでの愉悦があるとは、仲間の女に殺された勇者、その上その目的は恣意的極まりない」
「いいだろう。契約に乗ってやる。代わりに貴様は情報を流すのだ」
こんなに上手くいくなんて、勇者の異能が私にも作用しているのかもしれない。
素晴らしい!素晴らしい!すばら――
「なんて言うわけなかろう。ゴミが」
「あえ?」
視界が暗転して、人の体が見えた。首より上がない。跳ねられたのか。可哀想に。誰が?
「…………わた、し?」
「貴様、余が勇者に負けるとでも思っていたのか? 余が人の言うことに従うと思ったのか?」
「貴様は神でもなんでもない人だろう。図に乗るな」
は、はは……ははは!
上手くいくわけ無かったんだ!なんで、こんな、なんで!
私はただ、みんなのために頑張って、認められたくて、神を信じて……私は神じゃないのに!いつから、おかしくなった!
「あ………………」
神に会った時か。
◆
死んだ後ってのはこんな感覚なんだな。結局、メディも死んだみたいだし、一体なんだったんだろうな。これは。
……なんだ?光ってる。あれは……
魂のまま全てを見届けた俺は、頭上に黒い穴を見つけた。するすると、吸い込まれるように入ると、白いぼやけた人型がいた。
「神……か」
そう、俺が遠い昔夢で見た神だ。
メディのあの中身を見抜けなかったなんて、神も間違えるんだな。勇者がいなくなってどうすんだかな。
「あー、死んだ死んだ。どうしよ」
「お遊びが過ぎたなー。んー、とりあえず魔王も適当に殺して……次の勇者が出るタイミング調整しなきゃー」
存在しない体が固まった。俺の実体のない目が見開かれた。
「……おや? おやおや? 君は……! 勇者……なんだっけ?」
「魂が残った挙句、輪廻から外れてこっちに来るなんて!」
白い人型が一瞬にして俺に近づく。顔はないが、あればどんな表情かは簡単にわかった。
とびきりの笑顔だ。
「いやー、『幸運』が『信仰』と干渉したからかな! いいねー。君は素晴らしい幸運だよ! 私を見ることが出来たんだから!」
何言ってんだ!ふざけるな!
そう怒りをぶつけたいのに、今の俺には口がない。
「あー、だけどごめんね、もう次の準備しないと、神託とか、キャラ作るの難しいんだから」
「あ、ラッキーな君! 君にも、繰り返すこの戦いを見ることを許可してあげよう!」
拒否することはできない。でも、神に出会って、そのいと尊き慈悲に触れたのだ。これ以上ない幸運だろう――
この世には、どうにもならないことがある。
理不尽など、全て気まぐれで、避けることは叶わない。
運命はいつも、あなたを見ている。




